38 / 150
第38話:切り裂き魔事件・発生
穏やかな朝だった。 ダイニングルームには、焼きたてのパンとコーヒーの香りが漂っている。 ヴォルグ製の『衝撃吸収古竜鱗皿』の上で、リリが作った目玉焼きがプルプルと震えていた。
「ジン様、焼き加減はいかがですか?」
「完璧だ。黄身の半熟具合といい、芸術点が高い」
「えへへ……。火加減の調整、練習しましたから!」
リリが嬉しそうにエプロンの裾を摘む。 平和だ。 数日前の宗教団体の騒動が嘘のように、ここには静謐な時間が流れている。 足元ではラクが、グレンが落としたパン屑を高速回転で掃除(捕食)していた。
「おい、ラク。俺の分まで食うんじゃねえよ」
「みゅッ!(早いもの勝ちだ!)」
グレンとラクの低レベルな争いを横目に、俺は食後のコーヒーを啜りながら、配達されたばかりの新聞を広げた。 一面記事には、新支部長ミライによるギルド改革の進捗状況が載っている。順調なようだ。 だが、俺の目を引いたのは、その下の隅にある小さな記事だった。
『王都の闇に潜む影? 連続変死事件、被害者はいずれも冒険者』
見出しに眉をひそめ、本文に目を通す。 ここ数日、深夜の路地裏で冒険者が殺害される事件が相次いでいるらしい。 それだけなら治安の悪い王都では珍しくもない話だが、奇妙なのは遺体の状態だ。
『被害者の遺体は、全身の血液と体液が抜かれ、ミイラのように干からびていたという。目撃者の証言によれば、犯人は「黒い腕を持つ怪物」だったとも……』
「……干からびた遺体、か」
俺は独り言のように呟いた。 普通の殺人鬼の手口じゃない。吸血鬼(ヴァンパイア)か? いや、それにしては手口が荒っぽい。 体液だけでなく、生命力そのものを根こそぎ奪い取っているような印象を受ける。
「ジン様? 難しい顔をして、どうされたのですか?」
リリが心配そうに覗き込んでくる。 俺は新聞をテーブルに置いた。
「少し、嫌な予感がしてな」
軍師としての勘が告げている。 これは単なる魔物の仕業ではない。もっと悪質で、個人的な怨念のようなものを感じる。
その時だった。
「みゅ……?」
パン屑を巡る攻防を繰り広げていたラクが、唐突に動きを止めた。 そして、ブルブルと小刻みに震え始めたのだ。
「みゅ、みゅぅ……!」
ラクの毛が逆立ち、白い毛玉がひと回り大きく膨らむ。 怯えている? いや、警戒しているのか。 この屋敷に棲み着いていた「不運の淀み」から生まれたこいつは、負のエネルギーに対して敏感だ。そのラクがこれほど反応するということは……。
「……ただ事じゃなさそうだな」
俺は新聞記事の『黒い腕を持つ怪物』という一文を指でなぞった。 脳裏に浮かぶのは、かつて俺を追放した男の顔。 まさか、な。 奴は再起不能なまでに叩き潰したはずだ。右腕を失い、全てを失った人間に、これほどの事件を起こす力があるとは思えない。
だが、もし。 その「失った右腕」こそが、何かの引き金になっていたとしたら?
「リリ、出かける支度をしろ。グレン、お前は留守番だ」
俺は立ち上がった。 平和な朝食の時間は終わりだ。
「えっ? 今からですか? それに、なんで俺だけ……」
「ああ。少し、街の空気を吸いに行く。……血生臭い匂いがするんでな」
俺の言葉に、リリの表情が引き締まった。 彼女も感じ取ったのだろう。俺が抱いた微かな懸念と、忍び寄る不穏な気配を。
「承知しました。……ジン様の平穏を乱す者は、私が排除します」
リリがエプロンを外し、いつものローブを羽織る。 不満げなグレンには、「屋敷の防衛も重要な任務だ。昼寝しててもいいから、不審者が来たら叩き出せ」と言いくるめておく。
王都の闇の中で、何かが蠢いている。 それが俺たちに牙を剥く前に、正体を暴かねばならない。 俺たちはグレンを屋敷に残し、事件の現場となった裏路地へと向かった。
「ジン様、焼き加減はいかがですか?」
「完璧だ。黄身の半熟具合といい、芸術点が高い」
「えへへ……。火加減の調整、練習しましたから!」
リリが嬉しそうにエプロンの裾を摘む。 平和だ。 数日前の宗教団体の騒動が嘘のように、ここには静謐な時間が流れている。 足元ではラクが、グレンが落としたパン屑を高速回転で掃除(捕食)していた。
「おい、ラク。俺の分まで食うんじゃねえよ」
「みゅッ!(早いもの勝ちだ!)」
グレンとラクの低レベルな争いを横目に、俺は食後のコーヒーを啜りながら、配達されたばかりの新聞を広げた。 一面記事には、新支部長ミライによるギルド改革の進捗状況が載っている。順調なようだ。 だが、俺の目を引いたのは、その下の隅にある小さな記事だった。
『王都の闇に潜む影? 連続変死事件、被害者はいずれも冒険者』
見出しに眉をひそめ、本文に目を通す。 ここ数日、深夜の路地裏で冒険者が殺害される事件が相次いでいるらしい。 それだけなら治安の悪い王都では珍しくもない話だが、奇妙なのは遺体の状態だ。
『被害者の遺体は、全身の血液と体液が抜かれ、ミイラのように干からびていたという。目撃者の証言によれば、犯人は「黒い腕を持つ怪物」だったとも……』
「……干からびた遺体、か」
俺は独り言のように呟いた。 普通の殺人鬼の手口じゃない。吸血鬼(ヴァンパイア)か? いや、それにしては手口が荒っぽい。 体液だけでなく、生命力そのものを根こそぎ奪い取っているような印象を受ける。
「ジン様? 難しい顔をして、どうされたのですか?」
リリが心配そうに覗き込んでくる。 俺は新聞をテーブルに置いた。
「少し、嫌な予感がしてな」
軍師としての勘が告げている。 これは単なる魔物の仕業ではない。もっと悪質で、個人的な怨念のようなものを感じる。
その時だった。
「みゅ……?」
パン屑を巡る攻防を繰り広げていたラクが、唐突に動きを止めた。 そして、ブルブルと小刻みに震え始めたのだ。
「みゅ、みゅぅ……!」
ラクの毛が逆立ち、白い毛玉がひと回り大きく膨らむ。 怯えている? いや、警戒しているのか。 この屋敷に棲み着いていた「不運の淀み」から生まれたこいつは、負のエネルギーに対して敏感だ。そのラクがこれほど反応するということは……。
「……ただ事じゃなさそうだな」
俺は新聞記事の『黒い腕を持つ怪物』という一文を指でなぞった。 脳裏に浮かぶのは、かつて俺を追放した男の顔。 まさか、な。 奴は再起不能なまでに叩き潰したはずだ。右腕を失い、全てを失った人間に、これほどの事件を起こす力があるとは思えない。
だが、もし。 その「失った右腕」こそが、何かの引き金になっていたとしたら?
「リリ、出かける支度をしろ。グレン、お前は留守番だ」
俺は立ち上がった。 平和な朝食の時間は終わりだ。
「えっ? 今からですか? それに、なんで俺だけ……」
「ああ。少し、街の空気を吸いに行く。……血生臭い匂いがするんでな」
俺の言葉に、リリの表情が引き締まった。 彼女も感じ取ったのだろう。俺が抱いた微かな懸念と、忍び寄る不穏な気配を。
「承知しました。……ジン様の平穏を乱す者は、私が排除します」
リリがエプロンを外し、いつものローブを羽織る。 不満げなグレンには、「屋敷の防衛も重要な任務だ。昼寝しててもいいから、不審者が来たら叩き出せ」と言いくるめておく。
王都の闇の中で、何かが蠢いている。 それが俺たちに牙を剥く前に、正体を暴かねばならない。 俺たちはグレンを屋敷に残し、事件の現場となった裏路地へと向かった。
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を
タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。
だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。
雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。
血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、
“最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。