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第40話:迫りくる影
その頃、ジンたちが留守にしている『嘆きの白亜邸』では。
「あー……暇だ」
庭の芝生の上で、巨漢の傭兵グレンは大の字になって欠伸を噛み殺していた。 主であるジンからは「留守番」を仰せつかったが、やることはない。 時折、森から迷い込んでくる魔物や、噂を聞きつけた物好きな盗賊がやってくるが、デコピン一発で沈んでしまう雑魚ばかりだ。
「どっかに骨のある奴はいねえもんかねぇ」
グレンが鼻をほじりながら呟いた、その時だった。
ドォォォォォンッ!!!
屋敷の正門付近で、凄まじい爆発音が轟いた。 地面が揺れ、黒煙が上がる。
「あん? ヴォルグの旦那が仕掛けた『ウェルカム地雷』か? また猪でも引っかかったか」
グレンはのっそりと起き上がった。 だが、すぐに異変に気づく。
ガガガガガッ!! チュドォォォン!!
爆発音が一つで終わらない。 正門から玄関へと続くアプローチに仕掛けられた、数々の迎撃トラップ――『自動追尾式火炎放射器』や『溶解液スプリンクラー』が、次々と作動しては破壊されている音だ。
「ほう……?」
グレンの目に、戦士としての光が宿る。 ただの獣や素人じゃない。罠を解除しているのではなく、強引に突破してきている。 しかも、その速度が尋常ではない。
「へっ、やっとお客様のお出ましか」
グレンは背負っていた巨大な大剣『岩砕き(ロックブレイカー)』を構え、悠然と正門の方へと歩き出した。
◇
黒煙を切り裂いて現れたのは、一人の男だった。 ボロボロのローブを纏い、顔の半分を包帯で覆っている。 だが、何よりも異様なのは、その右腕だ。 服を突き破って露出した右腕は、黒曜石のような光沢を放つ金属質の「何か」に変貌していた。
「……ここか。ここが、あいつの城か」
男――アルスは、血走った目で白亜の屋敷を睨みつけた。 ヴォルグの罠による爆炎や溶解液を浴びても、彼の歩みは止まらない。 右腕が勝手に動き、炎を切り裂き、酸を弾き飛ばしているのだ。
「邪魔だ……。あいつの臭いがするものは、全て壊す」
アルスが一歩踏み出す。 その行く手を、巨大な影が遮った。
「おっと。ここから先は通行止めだぜ、不審者さんよ」
グレンが仁王立ちで立ちはだかる。 身長二メートルを超える筋肉の城壁。その威圧感は、並の人間なら失禁して逃げ出すレベルだ。
「……退け」
「断る。俺の雇い主(もとい飯の種)の大事な家なんでな」
グレンは大剣を肩に担ぎ、ニヤリと笑った。
「お前、見たところただの強盗じゃねえな。その右腕……随分と物騒なオモチャをつけてやがる」
「……」
アルスは答えず、ゆらりと右腕を構えた。 その掌にある眼球が、ギョロリとグレンを見据える。
「俺は急いでいる。……死にたくなければ失せろ」
「ハッ! 面白い冗談だ!」
グレンが咆哮し、地面を蹴った。 その巨体からは想像もつかない速度で距離を詰め、大剣を横薙ぎに振るう。
「吹っ飛びやがれぇぇぇッ!!」
数トンの岩をも粉砕する一撃。 アルスは避けない。 ただ、無造作に右腕を突き出した。
ガギィィィィンッ!!!
金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き、火花が散る。 グレンの全力の一撃を、アルスは片手――それも、細い指先だけで受け止めていた。
「な……ッ!?」
グレンが目を見開く。 彼の大剣は、オリハルコンを混ぜた特注品だ。それを、生身(に見える)指で受け止めるなどありえない。
「邪魔だと言った」
アルスの右腕が変形する。 指先が鋭利な刃となり、大剣の刀身へと食い込んでいく。
メキ、メキメキッ……。
「嘘だろ……!? 俺の『岩砕き』が……!」
グレンの愛用する大剣に亀裂が走り、次の瞬間、飴細工のように砕け散った。 衝撃波でグレンの体が後方へと吹き飛ばされる。
「ぐぅっ……!」
グレンは受け身を取って着地したが、その手には砕けた柄だけが残されていた。 冷や汗が頬を伝う。 本能が警鐘を鳴らしていた。目の前の男は、今まで戦ってきたどの魔物よりも危険だと。
「……へっ、やるじゃねえか」
グレンは残った柄を投げ捨て、素手で構え直した。 武器を失っても、彼の闘志は衰えない。むしろ、強敵を前にして口元が歪む。
「名前を聞いといてやるよ。俺を本気にさせた礼だ」
問いかけに、男は虚ろな目で答えた。
「……アルス。元勇者、アルスだ」
「元勇者ァ? 堕ちたもんだな。ま、いいさ」
グレンの筋肉が膨張し、鋼鉄のような硬度へと変化する。 スキル【金剛皮】。物理攻撃を無効化する最強の盾だ。
「ここは俺が守る。指一本通さねえよ!」
咆哮と共に、二つの怪物が激突した。 屋敷を揺るがす衝撃音が、帰還を急ぐジンたちの耳にも届こうとしていた。
「あー……暇だ」
庭の芝生の上で、巨漢の傭兵グレンは大の字になって欠伸を噛み殺していた。 主であるジンからは「留守番」を仰せつかったが、やることはない。 時折、森から迷い込んでくる魔物や、噂を聞きつけた物好きな盗賊がやってくるが、デコピン一発で沈んでしまう雑魚ばかりだ。
「どっかに骨のある奴はいねえもんかねぇ」
グレンが鼻をほじりながら呟いた、その時だった。
ドォォォォォンッ!!!
屋敷の正門付近で、凄まじい爆発音が轟いた。 地面が揺れ、黒煙が上がる。
「あん? ヴォルグの旦那が仕掛けた『ウェルカム地雷』か? また猪でも引っかかったか」
グレンはのっそりと起き上がった。 だが、すぐに異変に気づく。
ガガガガガッ!! チュドォォォン!!
爆発音が一つで終わらない。 正門から玄関へと続くアプローチに仕掛けられた、数々の迎撃トラップ――『自動追尾式火炎放射器』や『溶解液スプリンクラー』が、次々と作動しては破壊されている音だ。
「ほう……?」
グレンの目に、戦士としての光が宿る。 ただの獣や素人じゃない。罠を解除しているのではなく、強引に突破してきている。 しかも、その速度が尋常ではない。
「へっ、やっとお客様のお出ましか」
グレンは背負っていた巨大な大剣『岩砕き(ロックブレイカー)』を構え、悠然と正門の方へと歩き出した。
◇
黒煙を切り裂いて現れたのは、一人の男だった。 ボロボロのローブを纏い、顔の半分を包帯で覆っている。 だが、何よりも異様なのは、その右腕だ。 服を突き破って露出した右腕は、黒曜石のような光沢を放つ金属質の「何か」に変貌していた。
「……ここか。ここが、あいつの城か」
男――アルスは、血走った目で白亜の屋敷を睨みつけた。 ヴォルグの罠による爆炎や溶解液を浴びても、彼の歩みは止まらない。 右腕が勝手に動き、炎を切り裂き、酸を弾き飛ばしているのだ。
「邪魔だ……。あいつの臭いがするものは、全て壊す」
アルスが一歩踏み出す。 その行く手を、巨大な影が遮った。
「おっと。ここから先は通行止めだぜ、不審者さんよ」
グレンが仁王立ちで立ちはだかる。 身長二メートルを超える筋肉の城壁。その威圧感は、並の人間なら失禁して逃げ出すレベルだ。
「……退け」
「断る。俺の雇い主(もとい飯の種)の大事な家なんでな」
グレンは大剣を肩に担ぎ、ニヤリと笑った。
「お前、見たところただの強盗じゃねえな。その右腕……随分と物騒なオモチャをつけてやがる」
「……」
アルスは答えず、ゆらりと右腕を構えた。 その掌にある眼球が、ギョロリとグレンを見据える。
「俺は急いでいる。……死にたくなければ失せろ」
「ハッ! 面白い冗談だ!」
グレンが咆哮し、地面を蹴った。 その巨体からは想像もつかない速度で距離を詰め、大剣を横薙ぎに振るう。
「吹っ飛びやがれぇぇぇッ!!」
数トンの岩をも粉砕する一撃。 アルスは避けない。 ただ、無造作に右腕を突き出した。
ガギィィィィンッ!!!
金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き、火花が散る。 グレンの全力の一撃を、アルスは片手――それも、細い指先だけで受け止めていた。
「な……ッ!?」
グレンが目を見開く。 彼の大剣は、オリハルコンを混ぜた特注品だ。それを、生身(に見える)指で受け止めるなどありえない。
「邪魔だと言った」
アルスの右腕が変形する。 指先が鋭利な刃となり、大剣の刀身へと食い込んでいく。
メキ、メキメキッ……。
「嘘だろ……!? 俺の『岩砕き』が……!」
グレンの愛用する大剣に亀裂が走り、次の瞬間、飴細工のように砕け散った。 衝撃波でグレンの体が後方へと吹き飛ばされる。
「ぐぅっ……!」
グレンは受け身を取って着地したが、その手には砕けた柄だけが残されていた。 冷や汗が頬を伝う。 本能が警鐘を鳴らしていた。目の前の男は、今まで戦ってきたどの魔物よりも危険だと。
「……へっ、やるじゃねえか」
グレンは残った柄を投げ捨て、素手で構え直した。 武器を失っても、彼の闘志は衰えない。むしろ、強敵を前にして口元が歪む。
「名前を聞いといてやるよ。俺を本気にさせた礼だ」
問いかけに、男は虚ろな目で答えた。
「……アルス。元勇者、アルスだ」
「元勇者ァ? 堕ちたもんだな。ま、いいさ」
グレンの筋肉が膨張し、鋼鉄のような硬度へと変化する。 スキル【金剛皮】。物理攻撃を無効化する最強の盾だ。
「ここは俺が守る。指一本通さねえよ!」
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