歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第45話:東方からの予兆

 深夜。アルスの襲撃から数日が過ぎ、屋敷には平穏が戻りつつあった。 リリの頬の傷も、高価な傷薬のおかげですっかり塞がっていた。

 静寂に包まれた寝室。 リリはベッドで眠っていたが、その表情は険しかった。 脂汗が額に浮かび、呼吸が浅く、早い。

(……熱い……)

 夢を見ていた。 それは、彼女が心の奥底に封じ込めていた、幼い頃の記憶の断片。

 視界を埋め尽くすのは、紅蓮の炎。 木造の建築物が焼け落ちる音。人々の悲鳴。 そして、舞い散る花びら。 この国(王国)では見かけない、薄紅色の小さな花びらだ。

『――不吉な子だ』 『殺せ。災いを呼ぶ前に』 『穢れを祓え。火を放て』

 顔のない大人たちが、彼女を取り囲んでいる。 彼らが着ているのは、奇妙な形をした衣服。ゆったりとした袖、帯で締められた腰。 リリは祭壇のような場所に縛り付けられていた。 足元には薪が積まれ、今にも松明が投げ込まれようとしている。

(いや……助けて……)

 声が出ない。 熱い。苦しい。誰か。誰か。

『……リリ』

 不意に、炎の向こうで誰かが呼んだ気がした。 それは懐かしく、そして悲しい響きを持っていた。

「……うぅ、ぁ……」

 現実の寝室で、リリがうめき声を漏らす。 彼女の体から、無意識のうちに「不運」の波動が漏れ出していた。 本来ならジンとのパスを通じて吸収されるはずの呪いが、悪夢による精神的混乱でパスが不安定になり、処理しきれずに溢れ出しているのだ。 窓ガラスがピシピシと音を立て、枕元の水差しがカタカタと震える。

 このままでは、自身の能力で部屋を破壊しかねない。 その時。

「みゅ?」

 ベッドの足元で丸まっていた白い毛玉が、ぱちりと目を覚ました。 ラクだ。 ラクはリリの異変を察知すると、トテトテと枕元へ移動した。 苦悶の表情を浮かべるリリの顔を覗き込み、悲しげに眉(?)を寄せる。

「みゅー……(だいじょうぶ)」

 ポンッ。

 ラクが音を立てて巨大化した。 バランスボールほどの大きさになったラクは、そのフワフワの体で、リリをすっぽりと覆い被さるように包み込んだ。 重くはない。羽毛布団よりも柔らかく、温かい。 そして何より、ラクの体はリリから漏れ出す「不運」をスポンジのように吸収し、無害な熱へと変換していく。

「……ん……」

 リリの呼吸が少しずつ落ち着いていく。 悪夢の炎が遠ざかり、代わりに陽だまりのような温もりが彼女を包む。

 その様子を、部屋の入り口から見守る影があった。

「……またか」

 ジンだった。 リリの部屋から漏れる不穏な気配を感じ取り、様子を見に来たのだ。 だが、ラクが適切な処置(?)をしているのを見て、部屋には入らずに扉に寄りかかった。

(最近、うなされていることが多いな)

 アルスとの戦闘以降、リリの精神状態は安定しているように見えた。 だが、深層心理では何かが燻っている。 先ほど微かに漏れ聞こえた寝言。

『……ヤマト……』

 聞き慣れない言葉だ。人の名前か、地名か。 だが、ジンの知識の片隅に、その単語は引っかかっていた。 遥か東方。海を越えた先にあるという、神秘と独自の文化を持つ島国。 そこは『桜』と呼ばれる花が咲き乱れる国だと、古い書物で読んだことがある。

「リリのルーツ、か……」

 彼女は銀髪赤目。この国では珍しい色彩だが、東方ではどうなのだろうか。 彼女が生まれつき背負っている「マイナス999万の不運」。 それが単なる突然変異なのか、それとも人為的な何かなのか。

(アルスは撃退したが、問題の根っこはまだ残っているようだな)

 ジンは眠るリリと、それを守る毛玉を見つめ、静かに思考を巡らせた。 守るだけでは足りないかもしれない。 彼女の呪いを解く鍵は、この王都ではなく、もっと別の場所――彼女の過去にあるのかもしれない。

「……調べる必要があるな」

 ジンは決意を秘め、音もなく扉を閉めた。 東方。 次なる目的地が、霧の向こうにうっすらと浮かび上がろうとしていた。
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