歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第52話:狂運の聖女

 馬車の車輪に頭突きをかまして蹲っていた少女、ティアは、ラクに頭をよしよしと慰められて、ようやく復活した。 額には赤いたんこぶができている。

「うぅ……申し訳ありません。助けていただいた上に、こんな無様な姿を……」

 ティアは涙目で何度も頭を下げる。 その拍子にまたどこかに頭をぶつけそうなので、俺は彼女を馬車から少し離れた平坦な場所に誘導した。

「謝罪はいい。それより、怪我はないか? 額以外に」 

「は、はい! 私は丈夫なのが取り柄ですので! それに、回復魔法も使えますから!」

 ティアが胸を張る。 聖女候補生と言うだけあって、白魔法の心得はあるらしい。

「そうだ! お礼をさせてください! 皆様、どこかお怪我や不調はありませんか? 私の『聖女の祈り』で、たちどころに癒やしてみせます!」

 キラキラした目で提案してくる。 悪い予感がする。 俺の【確率操作】による勘が、「関わるな」と警鐘を鳴らしているのだ。こいつの周囲には、リリの「不運」とはまた違う、奇妙な確率の揺らぎが見える。

「……念のためだ」

 俺は懐から『解析のモノクル』を取り出し、装着した。 空から降ってきて、いきなり回復魔法を提案する怪しい少女。身元調査は必須だ。

 視界にウィンドウが浮かび上がる。

【名前】ティア 【職業】聖女候補生 【HP】1200/1200 【MP】5000/5000 【STR】E 【VIT】A(頑丈) 【LUK】測定不能(ERROR……数値が乱高下しています) 【称号】確率の迷子、歩く特異点

「……は?」

 俺は思わず声を漏らした。 LUK(幸運)が測定不能? リリの「マイナス限界突破」は見たことがあるが、「乱高下」というのは初めてだ。数値がプラスとマイナスの間を高速で行き来している。 それに『歩く特異点』という不穏すぎる称号。

「いや、俺たちは間に合って……」 

「おっ、マジか! そいつは助かるぜ!」

 俺が断ろうとしたのを遮り、グレンが前に出た。

「最近、馬車に揺られっぱなしで腰と肩が凝っててよぉ。一発、スカッと治してくれねえか?」 

「はい! お任せください!」

 ティアが嬉しそうに杖(どこから出した?)を構える。 グレンは「へへっ、ラッキーだ」とニヤつきながら、岩の上にドカッと座って背中を向けた。

「おいグレン、待て! そいつはやばい!」 

「心配すんなって旦那。聖女様の回復魔法だぜ? 毒になるわけがねえ」

 グレンは俺の制止を聞かず、呑気に構えている。 俺はモノクルの警告表示を見ながら、一歩下がり、リリを抱き寄せて安全圏(セーフティゾーン)を確保した。

「では、いきます! 大いなる癒やしの光よ、迷える筋肉に安らぎを! 『ハイ・ヒール』!」

 ティアが呪文を唱える。 彼女の杖から、神々しい光が溢れ出した。 魔力の色は綺麗だ。純度も高い。これなら問題な……ん?

 バチチチッ……!

 光の中に、不穏な黒いノイズが走った。 モノクルがけたたましいアラートを鳴らす。

【術式】ハイ・ヒール(上位回復) 【状態】確率変動中……エラー発生。 【判定】クリティカル(方向性:逆・暴走)

「逆……!?」

 俺が叫ぼうとした瞬間、光がグレンを包み込んだ。

「おおっ!? なんだこれ、すげぇ力が湧いてくる……っていうか、湧きすぎて……!?」

 グレンの悲鳴。 次の瞬間。

 ビチィッ!!!

 弾けるような音が響き、グレンが着ていた革鎧とシャツが、内側から弾け飛んだ。

「な、なんだぁぁぁ!?」

 そこに現れたのは、筋肉だった。 いや、ただの筋肉ではない。 風船のように異常膨張し、血管がミミズのように浮き上がった、超・過剰筋肉だ。 肩幅が倍になり、首が埋没し、腕の太さが丸太を超えて古木レベルになっている。

「うおおおお! 力が! 力が勝手にぃぃぃ!」

 グレンが自分の意思とは無関係にポージングをとる。 サイドチェスト。 大胸筋が鋼鉄のように硬化し、ぶつかり合って「カキンッ」と金属音を立てた。

「きゃあああっ!?」

 ティアが悲鳴を上げて目を覆う。 俺はモノクルの解析結果を見ながら、呆然と呟いた。

「……回復魔法の『細胞活性化』の過程が、確率の暴走で『限界突破・増殖』に書き換わったのか?」

 ありえない。 術式構成が根本から書き換わらなければ、こんな現象は起きない。 だが、現実に起きている。 ティアという少女が介在したことで、「回復する確率」が歪み、ありえない「大ハズレ(あるいは大アタリ)」を引き当てたのだ。

「た、助けてくれぇぇ! 体が熱い! 筋肉が俺を支配しようとしてるぅぅ!」

 グレンが涙ながらにモスト・マスキュラーのポーズをとる。 ヴォルグが運転席から顔を出し、「ヒャハハ! 新しい生体兵器か!?」と爆笑している。

「……どうしますか、ジン様」

 リリが冷静に尋ねてくる。 俺は頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。

「放っておけ。エネルギー切れになれば元に戻るだろ」 

「承知しました」

 数分後。 筋肉の暴走が収まり、しわくちゃになった(そして全裸に近い)グレンが、真っ白な灰のようになって地面に転がっていた。

「……ごめんなさい。ごめんなさいぃ……」

 ティアが正座して、ポロポロと涙を流している。 悪気はないのだ。それはわかる。 だが、結果としてパーティの主戦力が一つ死にかけた。

「……計算できない要素だ。置いていくぞ」

 俺は冷酷に告げ、馬車に乗ろうとした。 だが、ティアは俺の足にすがりついた。

「いやですぅぅ! 置いていかないでくださいぃ! 私、方向音痴なんです! 一人にされたら野垂れ死にます! お詫びになんでもしますからぁ!」

 泣き叫ぶ聖女候補生。 その声に、リリが困ったように眉を下げた。

「ジン様……。このままここに放置するのも、寝覚めが悪いです。それに、この得体の知れない力……野放しにしておくよりも、ジン様の目の届く範囲に置いておいた方が、安全なのではないでしょうか?」 

「……リリ、お前な」

 リリは優しい。そして、俺の扱い方をよくわかっている。 だが、確かにこの得体の知れない「確率のバグ」を野放しにするのも危険か。俺の目の届く範囲で管理したほうが、被害は最小限で済むかもしれない。

「……はぁ」

 俺は深いため息をついた。 胃が痛い。

「……計算できない要素だ」

 俺が胃のあたりをさすっていると、スッと横から水と白い粉薬が差し出された。 ここ数日の騒がしい旅路で、俺が密かに胃を痛めていることを察してくれていたらしい。

「どうぞ。胃薬をご用意しておきました」 

「ああ、助かる。……やっぱりお前が一番だ」

 リリだ。 彼女は慈愛に満ちた瞳で俺を見つめ、慣れた手付きで胃薬の袋を開けてくれた。 この安心感。この安定感。 やはり俺にはリリしかいない。

「みゅう(やれやれ)」

 ラクがティアの足元で、呆れたように鳴いた。 どうやらこの旅は、俺が想定していたよりも遥かに胃薬の消費量が増えそうだ。

 俺は飲み込んだ粉薬の苦味と共に、新たなトラブルメーカーの加入を、しぶしぶ認めるしかなかった。
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