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第53話:トラブルメーカー
「ああっ、もう! 私だって役に立ちたいんです!」
『殲滅馬車』の中、ティアが頬を膨らませて抗議していた。 仲間になって(勝手についてきて)数日。 家事はリリが完璧にこなし、戦闘はグレンが担当し、整備はヴォルグがやる。 聖女候補生であるティアの出番は、今のところ「車輪に頭をぶつける」か「回復魔法を暴発させる」くらいしかない。
「気持ちは嬉しいが、お前は座っているだけで貢献しているぞ。……何もしないという形でな」
俺が諭すが、ティアは納得していない様子だ。 その時、馬車が水源確保のためにオアシスの近くで停車した。
「見ていてください! 皆様のために、最高に美味しい食材を見つけてきますから!」
ティアは杖を握りしめ、脱兎のごとく馬車を飛び出していった。
「……おい、大丈夫か?」
「放っておけ。この辺りは見通しの良い荒野だ。迷子になることもないだろ」
俺は悠長に構え、リリが淹れてくれたお茶を啜った。 だが、その安息はわずか十分で終了した。
「と、採れましたぁーッ!!」
遠くから、ティアの叫び声が聞こえる。 窓から覗くと、彼女が両手で抱えきれないほどの「巨大なキノコ」を持って走ってくるのが見えた。 七色に発光し、独特の甘い香りを放つ、見るからにヤバそうなキノコだ。
「……嫌な予感がする」
俺は【解析のモノクル】を起動した。
【名称】誘惑の虹茸(フェロモン・マッシュルーム) 【レア度】A 【効果】極めて強力な誘引臭を放ち、半径十キロ以内の魔獣を発情・狂暴化させて呼び寄せる。 【備考】別名『魔獣ホイホイ』。絶対に持ち歩いてはいけない。
「馬鹿野郎ッ!! それを捨てろ!!」
俺が窓を開けて怒鳴った瞬間、大地が激しく揺れた。
ズズズズズズズ……ッ!!
地鳴り。 いや、違う。これは地中から何かが這い出してくる音だ。 それも、一匹や二匹ではない。
「シャアアアアアアッ!!!」
砂柱を上げ、地面から飛び出したのは、巨大な円形の口を持つミミズのような魔獣――サンドワームだった。 しかも、通常種ではない。体長二十メートルを超える『大砂蟲(ジャイアント・サンドワーム)』の群れだ。 その数、目視できるだけで三十体以上。 キノコの甘い香りに興奮し、涎を垂らしてティア(の持っているキノコ)に殺到している。
「ひゃあああっ!? な、なんですかこいつらぁ!?」
ティアが涙目で爆走する。 だが、彼女の逃げる先は――当然、俺たちの馬車だ。
「こっちに来るなッ! ……チッ、ヴォルグ! 迎撃だ!」
「ヒャハハ! 待ってましたぁ! 新兵器のテストだぜオラァ!」
ヴォルグが操縦席で狂喜乱舞し、赤いボタンを叩いた。 ガション! と馬車の屋根が展開し、巨大な砲塔がせり上がる。
「焼き尽くせ! 『紅蓮火炎放射砲(イフリート・バーナー)』!!」
ドゴォォォォッ!!
砲塔から紅蓮の炎が噴射された。 扇状に広がった炎が、迫りくるサンドワームの先頭集団を飲み込む。 断末魔と共に、巨大な虫たちが松明のように燃え上がる。
「すげぇ火力だ! だが、数が多すぎるぞ!」
炎の壁を突き破り、後続のワームたちが突っ込んでくる。 その一匹が、大きく口を開けて馬車に食らいつこうとした瞬間。
「でりゃああああッ!!」
馬車の屋根から、赤髪の巨漢が飛び出した。 グレンだ。 彼の手には、ヴォルグによって修復・強化された大剣『岩砕き・改』が握られている。
「東方の魔物は活きがいいな! だが、俺の筋肉(エサ)には勝てねえよ!」
グレンは空中で大剣を振りかぶり、ワームの脳天目掛けて叩きつけた。
ズドォンッ!!
硬い甲殻が砕け散り、緑色の体液が舞う。 ワームは悲鳴を上げる間もなく地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。
「オラオラオラァ! 次だ次!」
グレンは着地するや否や、次々と襲いかかるワームたちを薙ぎ払っていく。 ただの力押しではない。的確に急所を狙い、相手の突進力を利用してカウンターを決める。 これぞ歴戦の傭兵の動きだ。
「リリ、ティアを回収しろ!」
「はいっ!」
リリが影のように走り出し、パニックで転びそうになっていたティアの襟首を掴んで、馬車の中へと放り込んだ。 同時に、問題のキノコを奪い取り、遥か彼方へ全力投球する。
「そぉいッ!」
キノコは星になって消えた。 目標を失ったワームたちが一瞬動きを止める。 その隙を、俺たちは見逃さない。
「グレン、戻れ! ヴォルグ、全速離脱!」
「おうよ!」
グレンが馬車に飛び乗るのと同時に、鉄の履帯が唸りを上げて急加速する。 混乱する魔獣の群れを置き去りにして、『殲滅馬車』は砂煙の彼方へと消え去った。
◇
「……ぐすっ、うぅ……。ごめんなさい……」
安全圏まで逃げた後。 車内では、ティアが正座をして縮こまっていた。 服は砂まみれ、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「良かれと思ってやったのはわかる。だが、お前が動くとロクなことにならん」
俺は冷たく言い放ち、胃薬を水で流し込んだ。 本日二度目だ。
「でもぉ……私、ただ皆さんに美味しいスープを飲んでほしくて……」
「そのスープの出汁(ダシ)にされるところだったんだぞ、俺たちが」
「元気出せよ、聖女様。魔物との追いかけっこ、いい運動になったじゃねえか」
グレンがガハハと笑ってティアの背中を叩く。 デリカシーのない慰めだが、ティアは「うぅ、グレンさん優しぃ……」と泣きついている。
「……ジン様」
リリが俺の袖を引いた。 彼女は困ったように笑いながら、それでもティアを庇うような目をした。
「彼女の『悪気のない不運』……少しだけ、昔の私を見ているようです」
「……一緒にするな。お前の不運はシリアスだが、こいつのはコメディだ」
俺はため息をついた。 だがまあ、全員無事だったし、グレンやヴォルグの連携確認もできた。 実害(胃痛以外)はなかったとしておくか。
「次は勝手な行動をするな。いいな?」
「は、はい! もう二度としません! ……たぶん!」
「たぶん、じゃねえよ」
ティアの頭の上に、ラクが飛び乗って「みゅッ!(しっかりしろ!)」とポムポム叩いている。 東方への旅路はまだ始まったばかり。 このトラブルメーカーが、次は何をやらかしてくれるのか。 俺は頭痛と胃痛を同時に感じながら、窓の外の荒野を睨みつけた。
『殲滅馬車』の中、ティアが頬を膨らませて抗議していた。 仲間になって(勝手についてきて)数日。 家事はリリが完璧にこなし、戦闘はグレンが担当し、整備はヴォルグがやる。 聖女候補生であるティアの出番は、今のところ「車輪に頭をぶつける」か「回復魔法を暴発させる」くらいしかない。
「気持ちは嬉しいが、お前は座っているだけで貢献しているぞ。……何もしないという形でな」
俺が諭すが、ティアは納得していない様子だ。 その時、馬車が水源確保のためにオアシスの近くで停車した。
「見ていてください! 皆様のために、最高に美味しい食材を見つけてきますから!」
ティアは杖を握りしめ、脱兎のごとく馬車を飛び出していった。
「……おい、大丈夫か?」
「放っておけ。この辺りは見通しの良い荒野だ。迷子になることもないだろ」
俺は悠長に構え、リリが淹れてくれたお茶を啜った。 だが、その安息はわずか十分で終了した。
「と、採れましたぁーッ!!」
遠くから、ティアの叫び声が聞こえる。 窓から覗くと、彼女が両手で抱えきれないほどの「巨大なキノコ」を持って走ってくるのが見えた。 七色に発光し、独特の甘い香りを放つ、見るからにヤバそうなキノコだ。
「……嫌な予感がする」
俺は【解析のモノクル】を起動した。
【名称】誘惑の虹茸(フェロモン・マッシュルーム) 【レア度】A 【効果】極めて強力な誘引臭を放ち、半径十キロ以内の魔獣を発情・狂暴化させて呼び寄せる。 【備考】別名『魔獣ホイホイ』。絶対に持ち歩いてはいけない。
「馬鹿野郎ッ!! それを捨てろ!!」
俺が窓を開けて怒鳴った瞬間、大地が激しく揺れた。
ズズズズズズズ……ッ!!
地鳴り。 いや、違う。これは地中から何かが這い出してくる音だ。 それも、一匹や二匹ではない。
「シャアアアアアアッ!!!」
砂柱を上げ、地面から飛び出したのは、巨大な円形の口を持つミミズのような魔獣――サンドワームだった。 しかも、通常種ではない。体長二十メートルを超える『大砂蟲(ジャイアント・サンドワーム)』の群れだ。 その数、目視できるだけで三十体以上。 キノコの甘い香りに興奮し、涎を垂らしてティア(の持っているキノコ)に殺到している。
「ひゃあああっ!? な、なんですかこいつらぁ!?」
ティアが涙目で爆走する。 だが、彼女の逃げる先は――当然、俺たちの馬車だ。
「こっちに来るなッ! ……チッ、ヴォルグ! 迎撃だ!」
「ヒャハハ! 待ってましたぁ! 新兵器のテストだぜオラァ!」
ヴォルグが操縦席で狂喜乱舞し、赤いボタンを叩いた。 ガション! と馬車の屋根が展開し、巨大な砲塔がせり上がる。
「焼き尽くせ! 『紅蓮火炎放射砲(イフリート・バーナー)』!!」
ドゴォォォォッ!!
砲塔から紅蓮の炎が噴射された。 扇状に広がった炎が、迫りくるサンドワームの先頭集団を飲み込む。 断末魔と共に、巨大な虫たちが松明のように燃え上がる。
「すげぇ火力だ! だが、数が多すぎるぞ!」
炎の壁を突き破り、後続のワームたちが突っ込んでくる。 その一匹が、大きく口を開けて馬車に食らいつこうとした瞬間。
「でりゃああああッ!!」
馬車の屋根から、赤髪の巨漢が飛び出した。 グレンだ。 彼の手には、ヴォルグによって修復・強化された大剣『岩砕き・改』が握られている。
「東方の魔物は活きがいいな! だが、俺の筋肉(エサ)には勝てねえよ!」
グレンは空中で大剣を振りかぶり、ワームの脳天目掛けて叩きつけた。
ズドォンッ!!
硬い甲殻が砕け散り、緑色の体液が舞う。 ワームは悲鳴を上げる間もなく地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。
「オラオラオラァ! 次だ次!」
グレンは着地するや否や、次々と襲いかかるワームたちを薙ぎ払っていく。 ただの力押しではない。的確に急所を狙い、相手の突進力を利用してカウンターを決める。 これぞ歴戦の傭兵の動きだ。
「リリ、ティアを回収しろ!」
「はいっ!」
リリが影のように走り出し、パニックで転びそうになっていたティアの襟首を掴んで、馬車の中へと放り込んだ。 同時に、問題のキノコを奪い取り、遥か彼方へ全力投球する。
「そぉいッ!」
キノコは星になって消えた。 目標を失ったワームたちが一瞬動きを止める。 その隙を、俺たちは見逃さない。
「グレン、戻れ! ヴォルグ、全速離脱!」
「おうよ!」
グレンが馬車に飛び乗るのと同時に、鉄の履帯が唸りを上げて急加速する。 混乱する魔獣の群れを置き去りにして、『殲滅馬車』は砂煙の彼方へと消え去った。
◇
「……ぐすっ、うぅ……。ごめんなさい……」
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俺は冷たく言い放ち、胃薬を水で流し込んだ。 本日二度目だ。
「でもぉ……私、ただ皆さんに美味しいスープを飲んでほしくて……」
「そのスープの出汁(ダシ)にされるところだったんだぞ、俺たちが」
「元気出せよ、聖女様。魔物との追いかけっこ、いい運動になったじゃねえか」
グレンがガハハと笑ってティアの背中を叩く。 デリカシーのない慰めだが、ティアは「うぅ、グレンさん優しぃ……」と泣きついている。
「……ジン様」
リリが俺の袖を引いた。 彼女は困ったように笑いながら、それでもティアを庇うような目をした。
「彼女の『悪気のない不運』……少しだけ、昔の私を見ているようです」
「……一緒にするな。お前の不運はシリアスだが、こいつのはコメディだ」
俺はため息をついた。 だがまあ、全員無事だったし、グレンやヴォルグの連携確認もできた。 実害(胃痛以外)はなかったとしておくか。
「次は勝手な行動をするな。いいな?」
「は、はい! もう二度としません! ……たぶん!」
「たぶん、じゃねえよ」
ティアの頭の上に、ラクが飛び乗って「みゅッ!(しっかりしろ!)」とポムポム叩いている。 東方への旅路はまだ始まったばかり。 このトラブルメーカーが、次は何をやらかしてくれるのか。 俺は頭痛と胃痛を同時に感じながら、窓の外の荒野を睨みつけた。
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