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第55話:絶対強運の女王
カジノホテル『ロイヤル・フラッシュ』。 都市の中央にそびえ立つその摩天楼は、外壁すべてが金と宝石で装飾され、夜空に向かって傲慢なほどの輝きを放っていた。
その最上階、支配人室(ペントハウス)。 眼下に広がる欲望の街を見下ろす玉座に、一人の女性が足を組んで座っていた。
「……あら? 面白いネズミが紛れ込んだわね」
ワイングラスを揺らしながら呟いたのは、燃えるような真紅のドレスを纏った美女だった。 黄金の縦ロール髪。勝気な吊り目。そして全身から溢れ出る、圧倒的なまでの「自信」と「覇気」。 彼女こそがこの街の支配人にして、絶対的な勝者。 カジノの女王、リエル・バレンタインである。
「オーナー、何か?」
控えの黒服が恭しく尋ねる。
「1階のルーレットよ。……確率の『流れ』が歪んでるわ」
リエルの瞳が妖しく光る。 彼女には視えていた。運の流れが、一人の男を中心に不自然にねじ曲げられ、収束しているのが。
「連れてきなさい。……私の退屈を紛らわせてくれそうだわ」
◇
「赤の18番」
俺がチップを置く。 回転盤の球が弾かれ、吸い込まれるように赤の18番に落ちる。
「……おおおおおッ!?」
「また当たったぞ! 36倍だ!」
周囲のギャラリーがどよめく。 これで10連勝。手元のチップは当初の百倍に膨れ上がっていた。
「ちょろいもんだな」
俺はチップの山を崩しながら、小さくあくびを噛み殺した。 この街のギャンブルは、魔法によるイカサマは厳禁だが、「運」そのものの操作は禁止されていない(というか、検知できない)。 リリから吸い上げた不運を、周囲の「ハズレの目」に流し込めば、残った「当たりの目」が出る確率は必然的に跳ね上がる。
「すげぇな旦那! これなら一生遊んで暮らせるぜ!」 グレンが興奮して鼻息を荒くしている。
「あわわ……こ、怖いです……。あとで反動が来そうで……」 ティアはガクガクと震えて、俺の背中に隠れている。
「みゅ~(余裕だな)」
ラクはサングラスをかけ直して、チップの山の上でくつろいでいる。
「ジン様。……少し、目立ちすぎではありませんか?」
リリが周囲の視線を気にして、小声で忠告してくる。 彼女の懸念はもっともだ。普段の俺なら、もう少し目立たないように分散して稼ぐ。 だが、今回は「あえて」やっている。
「それでいいんだ、リリ。俺たちの目的は小銭稼ぎじゃない。この街の『情報』だ」
俺は視線を天井――遥か上層階へと向けた。
「東方への旅はまだ長い。補給、ルートの確保、そしてアルスの動向。それらを知るには、この街を牛耳っている『トップ』に接触するのが一番手っ取り早い」
だが、一介の冒険者が面会を求めたところで門前払いされるのがオチだ。 ならば、向こうから「会いたい」と思わせればいい。 この街の支配者は「絶対強運」を謳っていると聞いた。なら、自分の膝元で確率を蹂躙するイレギュラーが現れれば、興味を持たないはずがない。
「……そろそろか」
俺が呟いた、その時だった。 黒服の男たちが数人、人垣を割って現れた。
「お客様。オーナーがお呼びです」
「……ほう?」
俺はニヤリと笑った。 釣れた。 計算通りだ。
「案内しろ。女王陛下への挨拶といこうか」
◇
通された最上階の部屋は、想像を絶する豪華さだった。 床には最高級の絨毯、壁には名画、シャンデリアはダイヤモンド製。 その中心にある玉座で、リエルは俺たちを見下ろしていた。
「ようこそ、貧乏人たち。私の街へ」
第一声からしてそれか。 リエルは扇子で口元を隠し、嘲笑的な視線を向けてくる。
「1階で随分と派手に稼いでいたようね。……貴方、面白い『運』を持っているわね」
リエルが俺を指差す。
「普通の人間は、運に翻弄されるものよ。でも貴方は、運を『飼い慣らして』いる。……まるで、泥水の中で宝石を拾い集めるような、汚らしくも手際の良い手つきだわ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
俺は肩をすくめつつ、懐からこっそりと『解析のモノクル』を取り出し、指の隙間から覗き込んだ。 敵地でトップと対面する以上、情報の非対称性は解消しておかねばならない。 絶対強運。それがハッタリなのか、本物なのか。
視界にウィンドウが浮かぶ。
【名前】リエル・バレンタイン 【職業】カジノ王 【HP】2500/2500 【MP】8000/8000 【STR】C 【LUK】EX(絶対強運:固定) 【スキル】黄金律、王の威圧、天運招来
「……EX、しかも『固定』か」
俺は小さく息を飲んだ。 Sランクの上、測定不能や規格外を意味するEXランク。 そして何より厄介なのが、その状態が「固定」されているという点だ。 これはつまり、俺の【確率操作】による干渉を一切受け付けない、絶対的な確定事項であることを意味している。操作できない。
「ティアの『乱高下』に続いて、今度は『固定』かよ……」
俺は頭痛を覚えた。 あの聖女候補生は数値がデタラメすぎて計算できなかったが、この女王はそもそも計算の余地すら与えてくれない。 東方への入り口に来た途端、俺の能力が通用しないイレギュラーが立て続けに現れるとは。 どうやらこの先は、今まで以上に骨が折れる旅になりそうだ。
「気に入ったわ」
リエルが立ち上がり、カツカツとヒールを鳴らして近づいてきた。 そして、俺の目の前で顔を近づけ、妖艶に微笑んだ。
「貴方、私のペットになりなさい」
「……は?」
「私の側で、その奇妙な運を使いなさい。私の『絶対強運(ヘヴンズ・ラック)』と、貴方の『悪運』が組み合わされば、世界中の富を支配できるわ。……悪い話じゃないでしょう? 最高級の餌と、首輪を与えてあげる」
自信満々の勧誘。 彼女にとって、他者は「支配するもの」か「利用するもの」でしかないのだろう。 断られることなど微塵も考えていない顔だ。
俺はちらりと横を見た。 リリが、般若のような形相で短剣の柄に手をかけている。 グレンは「ペットかぁ、飯が美味いならアリかもな」とか言っている(後で殴る)。
俺はリエルに向き直り、静かに告げた。
「断る」
「……え?」
リエルが扇子を止める。
「聞こえなかったか? お断りだと言ったんだ。俺は誰かに飼われる趣味はないし、首輪をつけるつもりもない」
「な……生意気ね! 私が誰だと思っているの!? この街の全ては私のものよ! 貴方達の命運さえも!」
リエルが柳眉を逆立てる。 周囲の空気が重くなる。彼女の感情の高ぶりに呼応して、確率場が歪み始めているのだ。シャンデリアがガタガタと揺れ、不吉な音が響く。
だが、俺は動じない。 俺は隣にいるリリの腰を抱き寄せ、リエルに見せつけるように引き寄せた。
「それに、残念だったな女王様。俺の『飼い主』……いや、運命の相手はもう決まってるんだよ」
俺はリリを見つめた。 リリは一瞬驚いたように目を見開き、次の瞬間、顔を真っ赤にして沸騰した。
「じ、ジン様ぁ……ッ!!」
殺気は霧散し、代わりにピンク色の幸せオーラが全開になる。 彼女は俺の腕に頬を擦り付け、とろけるような笑顔を浮かべた。
「はいっ! ジン様は私のものです! 誰にも渡しません! 絶対に!」
その様子を見て、リエルの顔が屈辱で染まる。
「っ……! な、なによそれ! 見せつけないでよ!」
リエルが地団駄を踏む。 どうやらこの女王様、プライドは高いが、恋愛沙汰への耐性は皆無らしい。
「交渉決裂だな。……帰るぞ」
俺たちは呆気にとられるリエルを背に、悠々と部屋を出ていった。 背後から「お、覚えてなさいよーっ!」という、テンプレ通りの負け惜しみが聞こえてきた。
カジノの女王への宣戦布告。 どうやら、この街での滞在も一筋縄ではいかないようだ。
その最上階、支配人室(ペントハウス)。 眼下に広がる欲望の街を見下ろす玉座に、一人の女性が足を組んで座っていた。
「……あら? 面白いネズミが紛れ込んだわね」
ワイングラスを揺らしながら呟いたのは、燃えるような真紅のドレスを纏った美女だった。 黄金の縦ロール髪。勝気な吊り目。そして全身から溢れ出る、圧倒的なまでの「自信」と「覇気」。 彼女こそがこの街の支配人にして、絶対的な勝者。 カジノの女王、リエル・バレンタインである。
「オーナー、何か?」
控えの黒服が恭しく尋ねる。
「1階のルーレットよ。……確率の『流れ』が歪んでるわ」
リエルの瞳が妖しく光る。 彼女には視えていた。運の流れが、一人の男を中心に不自然にねじ曲げられ、収束しているのが。
「連れてきなさい。……私の退屈を紛らわせてくれそうだわ」
◇
「赤の18番」
俺がチップを置く。 回転盤の球が弾かれ、吸い込まれるように赤の18番に落ちる。
「……おおおおおッ!?」
「また当たったぞ! 36倍だ!」
周囲のギャラリーがどよめく。 これで10連勝。手元のチップは当初の百倍に膨れ上がっていた。
「ちょろいもんだな」
俺はチップの山を崩しながら、小さくあくびを噛み殺した。 この街のギャンブルは、魔法によるイカサマは厳禁だが、「運」そのものの操作は禁止されていない(というか、検知できない)。 リリから吸い上げた不運を、周囲の「ハズレの目」に流し込めば、残った「当たりの目」が出る確率は必然的に跳ね上がる。
「すげぇな旦那! これなら一生遊んで暮らせるぜ!」 グレンが興奮して鼻息を荒くしている。
「あわわ……こ、怖いです……。あとで反動が来そうで……」 ティアはガクガクと震えて、俺の背中に隠れている。
「みゅ~(余裕だな)」
ラクはサングラスをかけ直して、チップの山の上でくつろいでいる。
「ジン様。……少し、目立ちすぎではありませんか?」
リリが周囲の視線を気にして、小声で忠告してくる。 彼女の懸念はもっともだ。普段の俺なら、もう少し目立たないように分散して稼ぐ。 だが、今回は「あえて」やっている。
「それでいいんだ、リリ。俺たちの目的は小銭稼ぎじゃない。この街の『情報』だ」
俺は視線を天井――遥か上層階へと向けた。
「東方への旅はまだ長い。補給、ルートの確保、そしてアルスの動向。それらを知るには、この街を牛耳っている『トップ』に接触するのが一番手っ取り早い」
だが、一介の冒険者が面会を求めたところで門前払いされるのがオチだ。 ならば、向こうから「会いたい」と思わせればいい。 この街の支配者は「絶対強運」を謳っていると聞いた。なら、自分の膝元で確率を蹂躙するイレギュラーが現れれば、興味を持たないはずがない。
「……そろそろか」
俺が呟いた、その時だった。 黒服の男たちが数人、人垣を割って現れた。
「お客様。オーナーがお呼びです」
「……ほう?」
俺はニヤリと笑った。 釣れた。 計算通りだ。
「案内しろ。女王陛下への挨拶といこうか」
◇
通された最上階の部屋は、想像を絶する豪華さだった。 床には最高級の絨毯、壁には名画、シャンデリアはダイヤモンド製。 その中心にある玉座で、リエルは俺たちを見下ろしていた。
「ようこそ、貧乏人たち。私の街へ」
第一声からしてそれか。 リエルは扇子で口元を隠し、嘲笑的な視線を向けてくる。
「1階で随分と派手に稼いでいたようね。……貴方、面白い『運』を持っているわね」
リエルが俺を指差す。
「普通の人間は、運に翻弄されるものよ。でも貴方は、運を『飼い慣らして』いる。……まるで、泥水の中で宝石を拾い集めるような、汚らしくも手際の良い手つきだわ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
俺は肩をすくめつつ、懐からこっそりと『解析のモノクル』を取り出し、指の隙間から覗き込んだ。 敵地でトップと対面する以上、情報の非対称性は解消しておかねばならない。 絶対強運。それがハッタリなのか、本物なのか。
視界にウィンドウが浮かぶ。
【名前】リエル・バレンタイン 【職業】カジノ王 【HP】2500/2500 【MP】8000/8000 【STR】C 【LUK】EX(絶対強運:固定) 【スキル】黄金律、王の威圧、天運招来
「……EX、しかも『固定』か」
俺は小さく息を飲んだ。 Sランクの上、測定不能や規格外を意味するEXランク。 そして何より厄介なのが、その状態が「固定」されているという点だ。 これはつまり、俺の【確率操作】による干渉を一切受け付けない、絶対的な確定事項であることを意味している。操作できない。
「ティアの『乱高下』に続いて、今度は『固定』かよ……」
俺は頭痛を覚えた。 あの聖女候補生は数値がデタラメすぎて計算できなかったが、この女王はそもそも計算の余地すら与えてくれない。 東方への入り口に来た途端、俺の能力が通用しないイレギュラーが立て続けに現れるとは。 どうやらこの先は、今まで以上に骨が折れる旅になりそうだ。
「気に入ったわ」
リエルが立ち上がり、カツカツとヒールを鳴らして近づいてきた。 そして、俺の目の前で顔を近づけ、妖艶に微笑んだ。
「貴方、私のペットになりなさい」
「……は?」
「私の側で、その奇妙な運を使いなさい。私の『絶対強運(ヘヴンズ・ラック)』と、貴方の『悪運』が組み合わされば、世界中の富を支配できるわ。……悪い話じゃないでしょう? 最高級の餌と、首輪を与えてあげる」
自信満々の勧誘。 彼女にとって、他者は「支配するもの」か「利用するもの」でしかないのだろう。 断られることなど微塵も考えていない顔だ。
俺はちらりと横を見た。 リリが、般若のような形相で短剣の柄に手をかけている。 グレンは「ペットかぁ、飯が美味いならアリかもな」とか言っている(後で殴る)。
俺はリエルに向き直り、静かに告げた。
「断る」
「……え?」
リエルが扇子を止める。
「聞こえなかったか? お断りだと言ったんだ。俺は誰かに飼われる趣味はないし、首輪をつけるつもりもない」
「な……生意気ね! 私が誰だと思っているの!? この街の全ては私のものよ! 貴方達の命運さえも!」
リエルが柳眉を逆立てる。 周囲の空気が重くなる。彼女の感情の高ぶりに呼応して、確率場が歪み始めているのだ。シャンデリアがガタガタと揺れ、不吉な音が響く。
だが、俺は動じない。 俺は隣にいるリリの腰を抱き寄せ、リエルに見せつけるように引き寄せた。
「それに、残念だったな女王様。俺の『飼い主』……いや、運命の相手はもう決まってるんだよ」
俺はリリを見つめた。 リリは一瞬驚いたように目を見開き、次の瞬間、顔を真っ赤にして沸騰した。
「じ、ジン様ぁ……ッ!!」
殺気は霧散し、代わりにピンク色の幸せオーラが全開になる。 彼女は俺の腕に頬を擦り付け、とろけるような笑顔を浮かべた。
「はいっ! ジン様は私のものです! 誰にも渡しません! 絶対に!」
その様子を見て、リエルの顔が屈辱で染まる。
「っ……! な、なによそれ! 見せつけないでよ!」
リエルが地団駄を踏む。 どうやらこの女王様、プライドは高いが、恋愛沙汰への耐性は皆無らしい。
「交渉決裂だな。……帰るぞ」
俺たちは呆気にとられるリエルを背に、悠々と部屋を出ていった。 背後から「お、覚えてなさいよーっ!」という、テンプレ通りの負け惜しみが聞こえてきた。
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