歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第60話:魔剣の襲来・カジノ編

 リエルが部屋を出て行ってから、数分後。 俺たちがリリの切り分けてくれたデザートを堪能していると、突如としてホテル全体を揺るがす衝撃が走った。

 ドォォォォォォンッ!!!

「ぬおっ!? なんだ!?」 

 グレンが肉を喉に詰まらせかける。 窓の外、ホテルの下層階から黒煙が噴き上がっているのが見えた。

「……敵襲か」 

 俺は即座に立ち上がった。 この街でホテル『ロイヤル・フラッシュ』を攻撃するなど、自殺行為に等しい。 だが、今の俺たちには一人だけ、その「常識」が通用しない敵の心当たりがある。

「リリ!」 

「はい、気配がします。……あの、腐った執念の臭いが」

 リリが短剣を抜く。 間違いない。アルスだ。 奴がこの街まで追ってきたのだ。

「場所は?」 

「下です。……リエル様の気配のすぐ近くです!」

      ◇

 ホテルの廊下は惨状と化していた。 壁は溶解し、床は抉られ、警備兵たちが血を流して倒れている。 その奥、崩れた壁を背にして、リエルがへたり込んでいた。

「な、なんなのよ……アンタ……!」

 リエルの顔から余裕が消え、恐怖に引きつっている。 彼女の目の前に立つのは、ボロボロのローブを纏った異形の男――アルスだった。 右腕の魔剣がドロリと蠢き、リエルの喉元に切っ先を突きつけている。

「……臭うな」

 アルスが虚ろな目でリエルを見下ろす。

「お前からは、むせ返るような『幸運』の臭いがする。……俺から奪われた、あの光の臭いだ」

 アルスの歪んだ認知において、リエルの持つ【絶対強運】は、かつて自分が持っていた力の残滓のように感じられるのだろう。 あるいは単に、輝かしいものへの嫉妬か。

「返せよ。……それは俺のものだ」 

「ひっ……!」

 アルスが右腕を振り上げる。 リエルの【絶対強運】が発動し、天井のシャンデリアが落下してアルスを直撃――するはずだった。 だが、黒い刃は落下してきたシャンデリアごと、リエルの「運命」を切り裂こうとしていた。 魔剣の能力『因果喰らい』。運による回避すら無効化する、必殺の一撃。

 死ぬ。 リエルが絶望に目を閉じた、その瞬間。

 ガギィィィンッ!!!

 硬質な金属音が響き、衝撃波がリエルの髪を乱した。 痛みはない。 恐る恐る目を開けると、そこには銀色の髪をなびかせた、小柄な背中があった。

「……相変わらず、弱い者いじめがお得意のようですね」

 リリだ。 彼女は二本の短剣を交差させ、アルスの魔剣を受け止めていた。 細い腕が震え、足元の絨毯が裂ける。だが、一歩も引かない。

「リリ……またお前か!」 

「ええ。ジン様の平穏を乱すゴミは、私が掃除します」

 リリが短剣を弾き、アルスとの距離を取る。 その隙に、俺たちが追いついた。

「無事か、女王様」 

「ジ、ジン……!?」

 俺が声をかけると、リエルは涙目で俺を見上げた。腰が抜けて立てないようだ。

「ちっ、ぞろぞろと……!」 

 アルスが舌打ちをする。 グレンが大剣を構え、カエデが刀に手をかける。さらに後方からヴォルグが魔導銃を向けている。 多勢に無勢。しかも、今のアルスはまだ魔剣に馴染みきっていないのか、右腕の制御が不安定に見える。

「……今日は挨拶だ。次は必ず殺す」

 アルスは不利を悟ったのか、足元に黒い霧を発生させた。 転移魔法だ。

「逃がすかよッ!」 

 グレンが飛びかかるが、大剣が空を切り、アルスの姿は霧と共に消え失せた。

      ◇

 静寂が戻った廊下で、リリが短剣を納めた。 リエルはまだ呆然と座り込んでいる。

「……どうして」

 リエルが震える声で問うた。 視線は俺ではなく、リリに向けられている。

「どうして私を助けたの? 貴女、私のことが嫌いなんでしょ? 死ねばいいと思っていたんじゃないの?」

 数分前まで、バチバチにやり合っていた恋敵だ。 見捨ててしまえば、ジンを独占できるチャンスだったかもしれないのに。

 リリはリエルを見下ろし、淡々と言った。

「勘違いしないでください。貴女のためではありません」 

「え?」 

「ジン様が『助ける』と決めたからです。……ジン様がこの街で必要とする人間なら、それが誰であれ、私が守ります」

 迷いのない瞳。 そこにあるのは、ジンへの絶対的な忠誠と、揺るぎない愛。 自分の感情よりも、主の意志を優先する。 それがリリの「相棒(パートナー)」としての矜持だった。

「……っ」

 リエルは言葉を失った。 カジノの勝負で見せた圧倒的な気配り。そして今、命がけで自分を守った強さ。 その全てが、一人の男のためだけに捧げられている。

(勝てない……。ポーカーだけじゃない。覚悟も、愛の深さも……私じゃ敵わない……)

 リエルの瞳から、悔し涙とは違う、純粋な敬意の光が溢れた。 彼女はゆっくりと立ち上がり、ドレスの埃を払った。 そして、リリに向かって真っ直ぐに頭を下げた。

「……ありがとう。助かったわ」 

「礼には及びません。……船の約束、忘れないでくださいね」

 リリはつっけんどんに返すが、その口元は少しだけ緩んでいた。

「ええ、約束するわ。最高の船を用意してあげる。……フン、これくらいしないと、貴女に借りを作ったままで気持ち悪いもの!」

 リエルはいつもの高飛車な調子を取り戻したが、その頬はほんのりと赤かった。 どうやら、リリへの敵対心は、奇妙な友情(と尊敬)へと変化したようだ。

「やれやれ。これでようやく出国できそうだな」

 俺は肩をすくめた。 アルスとの再戦は避けられないだろう。だが、今は先へ進むことが最優先だ。 東方への航路が開かれた。 俺たちは新たな仲間(と厄介なライバル)を加え、次なる舞台へと向かう。
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