歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

文字の大きさ
62 / 150

第62話:ラクの仲裁

 大海原を爆走する『殲滅馬車』の車内。 窓の外には見渡す限りの水平線が広がっているが、車内には険悪な空気が流れていた。

「……むぅ」

 唸り声を上げているのは、聖女候補生のティアだ。 彼女は手に持ったお絞りを握りしめ、俺の隣――リリが陣取っている聖域(特等席)を羨ましそうに見つめていた。

「どうした、ティア。腹でも痛いのか?」 

「違います! 私だって、ジン様のお役に立ちたいんです!」

 ティアが立ち上がる。

「命を助けていただいた恩返しもまだですし、タダ飯ぐらいは聖女の名折れです! ジン様、肩をお揉みします!」 

「いや、間に合ってる」 

「遠慮なさらず! 回復魔法の応用で、コリの芯までほぐしてみせますから!」

 ティアが意気込んで踏み出す。 案の定、何もないところでつまずいた。

「あだっ!?」

 彼女の手からお絞りがすっぽ抜け、放物線を描いて飛んでいく。 その着地地点には――座禅を組んで精神統一していたカエデがいた。

 ペチャッ。

「……ぬ?」

 カエデの顔面に、生暖かいお絞りが張り付く。 静寂。 カエデがゆっくりとお絞りを剥がし、ティアをギロリと睨みつけた。

「……貴様。拙者の瞑想を妨げるだけでなく、顔に布を投げつけるとは、どういう了見だ?」 

「ひぃッ!? ご、ごめんなさい! わざとじゃなくて、その、足が勝手に……!」 

「言い訳無用。その浮ついた足取りと精神が、武門の恥だと言っているのだ」

 カエデが刀に手をかける(抜く気はないだろうが威嚇だ)。 ティアが涙目でグレンの後ろに隠れる。

「な、なんですかぁ! カエデさんだって、さっきからジン様の方をチラチラ見てたじゃないですか!」 

「なっ……!?」

 カエデの顔が赤くなる。

「拙者は見てなどいない! ただ、あの男(ジン)の隙のない座り方と、気配の消し方を観察していただけで……!」 

「それを『見ている』って言うんですよーだ! 素直じゃないですねー!」 

「き、貴様ぁ……!」

 カエデが立ち上がり、ティアに詰め寄る。 ティアも「聖女候補生になんて口を!」と対抗する。 狭い車内で、女同士の不毛な争いが勃発した。

「……騒がしいな」

 俺はため息をつき、カップを置いた。 隣ではリリが、我関せずといった涼しい顔で読書をしている。 彼女にとって、自分以外の女性の争いなど、野良犬の喧嘩以下の価値しかないのだろう。

「ジン様、お茶のおかわりはいかがですか?」 

「ああ、頼む」

 リリの余裕。『背中を預けられる』と言われてから、薄々出ていた貫禄か。 だが、放置しておくと車内が破壊されかねない。 俺が止めようとした、その時だった。

「みゅッ!」

 鋭い鳴き声と共に、白い影が二人の間に割って入った。 ラクだ。 ラクはティアとカエデの足元に着地すると、プルプルと体を震わせ、その純白の毛並みを逆立てた。

「みゅ~……(ケンカはだめ)」

 つぶらな瞳が、二人を交互に見上げる。 そして、コロンと仰向けになり、無防備な腹を見せつけた。

「みゅ!(なでれ!)」

 究極の媚びポーズ。 「喧嘩する暇があったら、俺を愛でろ」という、強者の提案だ。

「……っ!」

 ティアとカエデの動きが止まる。 怒りの表情が凍りつき、みるみるうちに溶けていく。

「か、かわいい……!」 

「な、なんと愛くるしい……!」

 二人は吸い寄せられるようにその場にしゃがみ込み、ラクのモフモフボディに手を伸ばした。

「うわぁ、ふわふわですぅ……! 癒やされますぅ……」 

「うむ……この弾力、この温もり……。荒んだ心が洗われるようだ……」

 ティアが顔を埋め、カエデが肉球をプニプニと押す。 ラクは「みゅふー」と満足げな声を漏らし、されるがままになっている。 完全な鎮圧。 争いの火種は、圧倒的な「可愛さ」によって上書きされた。

「……恐ろしい子だ」 

「ふふっ、ラクちゃんは我が家の平和の守護神ですから」

 俺とリリは顔を見合わせて笑った。 その時、ラクを撫で回していたカエデが、ハッとした顔で呟いた。

「待てよ……。この白き毛並み、邪気を払う神聖な気配……。まさか、こやつは……」

 カエデが真剣な眼差しでラクを持ち上げる。

「東方の伝承にある守り神、『コマイヌ』の幼体ではないか!?」

「みゅ?(ちがうぞ)」

「おお……! やはりそうか! 伝説の神獣にお目にかかれるとは!」

 カエデが勝手に感動し、拝み始めた。 いや、それはただの「不運の塊」なんだが。 まあ、本人が幸せそうだから訂正する必要もないか。

「へっ、女ってのは毛玉に弱ぇな」

 向かいの席でグレンが呆れている。 だが、その視線がカエデの楽しそうな横顔に向けられているのを、俺は見逃さなかった。

「……お前も大概だぞ」 

「あ? なんだよ旦那」

 俺たちは苦笑し、再び窓の外を見た。 青い海原の向こうに、うっすらと陸地が見え始めていた。

「見えたぞ! ヤマトだ!」

 ヴォルグの声が響く。 東方の島国。 リリの過去が眠る場所。 そして、新たな戦いの舞台が、すぐそこまで迫っていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を

タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。 だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。 雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。 血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、 “最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。