歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第62話:ラクの仲裁

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 大海原を爆走する『殲滅馬車』の車内。 窓の外には見渡す限りの水平線が広がっているが、車内には険悪な空気が流れていた。

「……むぅ」

 唸り声を上げているのは、聖女候補生のティアだ。 彼女は手に持ったお絞りを握りしめ、俺の隣――リリが陣取っている聖域(特等席)を羨ましそうに見つめていた。

「どうした、ティア。腹でも痛いのか?」 

「違います! 私だって、ジン様のお役に立ちたいんです!」

 ティアが立ち上がる。

「命を助けていただいた恩返しもまだですし、タダ飯ぐらいは聖女の名折れです! ジン様、肩をお揉みします!」 

「いや、間に合ってる」 

「遠慮なさらず! 回復魔法の応用で、コリの芯までほぐしてみせますから!」

 ティアが意気込んで踏み出す。 案の定、何もないところでつまずいた。

「あだっ!?」

 彼女の手からお絞りがすっぽ抜け、放物線を描いて飛んでいく。 その着地地点には――座禅を組んで精神統一していたカエデがいた。

 ペチャッ。

「……ぬ?」

 カエデの顔面に、生暖かいお絞りが張り付く。 静寂。 カエデがゆっくりとお絞りを剥がし、ティアをギロリと睨みつけた。

「……貴様。拙者の瞑想を妨げるだけでなく、顔に布を投げつけるとは、どういう了見だ?」 

「ひぃッ!? ご、ごめんなさい! わざとじゃなくて、その、足が勝手に……!」 

「言い訳無用。その浮ついた足取りと精神が、武門の恥だと言っているのだ」

 カエデが刀に手をかける(抜く気はないだろうが威嚇だ)。 ティアが涙目でグレンの後ろに隠れる。

「な、なんですかぁ! カエデさんだって、さっきからジン様の方をチラチラ見てたじゃないですか!」 

「なっ……!?」

 カエデの顔が赤くなる。

「拙者は見てなどいない! ただ、あの男(ジン)の隙のない座り方と、気配の消し方を観察していただけで……!」 

「それを『見ている』って言うんですよーだ! 素直じゃないですねー!」 

「き、貴様ぁ……!」

 カエデが立ち上がり、ティアに詰め寄る。 ティアも「聖女候補生になんて口を!」と対抗する。 狭い車内で、女同士の不毛な争いが勃発した。

「……騒がしいな」

 俺はため息をつき、カップを置いた。 隣ではリリが、我関せずといった涼しい顔で読書をしている。 彼女にとって、自分以外の女性の争いなど、野良犬の喧嘩以下の価値しかないのだろう。

「ジン様、お茶のおかわりはいかがですか?」 

「ああ、頼む」

 リリの余裕。『背中を預けられる』と言われてから、薄々出ていた貫禄か。 だが、放置しておくと車内が破壊されかねない。 俺が止めようとした、その時だった。

「みゅッ!」

 鋭い鳴き声と共に、白い影が二人の間に割って入った。 ラクだ。 ラクはティアとカエデの足元に着地すると、プルプルと体を震わせ、その純白の毛並みを逆立てた。

「みゅ~……(ケンカはだめ)」

 つぶらな瞳が、二人を交互に見上げる。 そして、コロンと仰向けになり、無防備な腹を見せつけた。

「みゅ!(なでれ!)」

 究極の媚びポーズ。 「喧嘩する暇があったら、俺を愛でろ」という、強者の提案だ。

「……っ!」

 ティアとカエデの動きが止まる。 怒りの表情が凍りつき、みるみるうちに溶けていく。

「か、かわいい……!」 

「な、なんと愛くるしい……!」

 二人は吸い寄せられるようにその場にしゃがみ込み、ラクのモフモフボディに手を伸ばした。

「うわぁ、ふわふわですぅ……! 癒やされますぅ……」 

「うむ……この弾力、この温もり……。荒んだ心が洗われるようだ……」

 ティアが顔を埋め、カエデが肉球をプニプニと押す。 ラクは「みゅふー」と満足げな声を漏らし、されるがままになっている。 完全な鎮圧。 争いの火種は、圧倒的な「可愛さ」によって上書きされた。

「……恐ろしい子だ」 

「ふふっ、ラクちゃんは我が家の平和の守護神ですから」

 俺とリリは顔を見合わせて笑った。 その時、ラクを撫で回していたカエデが、ハッとした顔で呟いた。

「待てよ……。この白き毛並み、邪気を払う神聖な気配……。まさか、こやつは……」

 カエデが真剣な眼差しでラクを持ち上げる。

「東方の伝承にある守り神、『コマイヌ』の幼体ではないか!?」

「みゅ?(ちがうぞ)」

「おお……! やはりそうか! 伝説の神獣にお目にかかれるとは!」

 カエデが勝手に感動し、拝み始めた。 いや、それはただの「不運の塊」なんだが。 まあ、本人が幸せそうだから訂正する必要もないか。

「へっ、女ってのは毛玉に弱ぇな」

 向かいの席でグレンが呆れている。 だが、その視線がカエデの楽しそうな横顔に向けられているのを、俺は見逃さなかった。

「……お前も大概だぞ」 

「あ? なんだよ旦那」

 俺たちは苦笑し、再び窓の外を見た。 青い海原の向こうに、うっすらと陸地が見え始めていた。

「見えたぞ! ヤマトだ!」

 ヴォルグの声が響く。 東方の島国。 リリの過去が眠る場所。 そして、新たな戦いの舞台が、すぐそこまで迫っていた。
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