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第65話:最高のゴミ箱と幻の金属
老婆の待つ地下祭壇を後にし、長い階段を上りきった俺たちは、天守閣の最上階――崩れかけた廻縁(まわりえん)へと出ていた。 眼下には、枯れた庭園と、その向こうに広がる廃墟となった都が見える。
リリは手すりに寄りかかり、うつむいたまま動かなかった。
「……ごめんなさい、ジン様」
消え入りそうな声が風に乗る。
「私、ずっと自分が何者なのかを知りたくて……でも、知らなければよかったのかもしれません」
彼女の華奢な肩が震える。
「世界中の穢れを詰め込まれるための器。……それが私の正体でした。誰かに愛されるためじゃなく、ただ『ゴミ箱』として使うために造られた命……」
リリが顔を上げ、俺を見る。 その瞳は、涙で濡れながらも、絶望的に乾いていた。
「ジン様。……私と一緒にいたら、いつかジン様まで穢れてしまいます。だから……」
別れを切り出そうとしている。 自分が側にいることが、俺にとって害になると判断したのだ。 愚かなことだ。
「……リリ。お前は一つ、勘違いをしている」
俺は彼女の言葉を遮り、一歩近づいた。
「え……?」
「お前は自分を『ゴミ箱』だと言ったな。穢れを溜め込むだけの、忌まわしい容器だと」
俺はリリの手を取り、自分の胸に当てさせた。
「思い出せ。俺の能力が何だったか」
【確率操作】。 その本質は、不運という名の「負のエネルギー」を代償(燃料)にして、事象を書き換える力だ。
「俺はな、燃費が悪いんだ。そこら辺に転がっている小さな不運じゃ、すぐにガス欠になる。……世界を敵に回して、理不尽な運命をねじ伏せるには、桁外れの『不幸』が必要なんだよ」
俺はニヤリと笑った。 最高に性格の悪い、悪党の顔で。
「お前が世界中の厄災を集める『ゴミ箱』だって? 上等だ。それこそ、俺が求めていた最高の人材(パーツ)じゃないか」
「ジン、様……?」
「俺にはお前が必要だ。能力(スペック)の話だけじゃない。お前が溜め込むその莫大な『不運』がなければ、俺は輝けない」
俺は彼女の手を強く握りしめた。
「世界がお前をゴミ箱扱いして捨てるなら、俺が拾う。……俺の専用の『ゴミ箱』になってくれ」
言葉にすると最低のプロポーズだ。 だが、リリには――その言葉こそが、何よりの救済だった。 自分の呪われた体質を、生まれ持った業を、全肯定されたのだから。
「……っ、うぅ……!」
リリの瞳から、堰を切ったように涙が溢れ出した。 悲しみの涙ではない。 歓喜と、安堵と、そして愛おしさが混ざり合った、温かい涙だ。
「はい……! はいっ……! 私、なります! ジン様のゴミ箱でも、燃料でも、なんでもなります! 一生、ジン様の側で……不運を集め続けます!」
リリが俺の胸に飛び込んでくる。 俺はその体をしっかりと受け止めた。
「みゅう……(よかったね)」
足元では、ラクが目をうるませて(?)鼻をすすっている。 少し離れたところでは、ティアとカエデも貰い泣きをしていた。グレンだけは「なんだかよくわかんねぇが、丸く収まったな!」と笑っている。
これでいい。 リリの迷いは消えた。 あとは、このふざけた「天理」とやらをぶっ壊すだけだ。
――と、良い雰囲気になっていたその時。
「ヒャハハハハハハッ!! あったぞォォォッ!!」
地下の祭壇の方から、狂ったような叫び声が響いてきた。 ヴォルグだ。
「……なんだあの爆弾魔は。雰囲気ぶち壊しか」
俺たちは顔を見合わせ、慌てて地下へと戻った。 祭壇の間では、ヴォルグが壁の一部を破壊し、その奥に隠されていた「何か」を引っ張り出していた。
それは、歪な形をした金属塊だった。 暗い地下にあって、それ自体が燃えるような緋色(ひいろ)の光を放っている。 熱気のような魔力が、波紋のように広がっていた。
「間違いない……! こいつだ! 文献にあった通りの輝き、ミスリルをも凌駕する魔力伝導率、そしてオリハルコンすら豆腐のように感じる硬度……!」
ヴォルグが頬ずりせんばかりの勢いで、その金属塊に抱きついている。
「伝説の金属……『ヒヒイロカネ』だ!!」
ヒヒイロカネ。 東方の神話に登場する、神鉄。 どうやらそれは、この祭壇の動力源――厄災を封じるための「楔(くさび)」として使われていたらしい。
「ジン! こいつを使えば、あの魔剣に対抗できる武器が作れるぞ! いや、作らせろ! 俺の腕が唸って仕方ねえ!」
ヴォルグが血走った目で俺に迫る。
「……なるほどな」
俺は状況を整理した。 リリの覚悟は決まった。 そして、対抗手段となる素材も手に入った。
パズルのピースは揃いつつある。 あとは、これをどう組み上げて「勝利」という絵を描くかだ。
「いいだろう、ヴォルグ。存分に腕を振るえ。……来たるべき決戦のために、最高の一振りを頼む」
「おうよ! 任せときな! 今夜は徹夜だぜぇ!!」
ヴォルグの歓声が地下に木霊する。 リリは俺の隣で、涙を拭って力強く頷いた。
準備は整いつつある。 ヤマトに巣食う闇と、迫りくる元勇者。 全ての因縁を断ち切るための戦いが、始まろうとしていた。
リリは手すりに寄りかかり、うつむいたまま動かなかった。
「……ごめんなさい、ジン様」
消え入りそうな声が風に乗る。
「私、ずっと自分が何者なのかを知りたくて……でも、知らなければよかったのかもしれません」
彼女の華奢な肩が震える。
「世界中の穢れを詰め込まれるための器。……それが私の正体でした。誰かに愛されるためじゃなく、ただ『ゴミ箱』として使うために造られた命……」
リリが顔を上げ、俺を見る。 その瞳は、涙で濡れながらも、絶望的に乾いていた。
「ジン様。……私と一緒にいたら、いつかジン様まで穢れてしまいます。だから……」
別れを切り出そうとしている。 自分が側にいることが、俺にとって害になると判断したのだ。 愚かなことだ。
「……リリ。お前は一つ、勘違いをしている」
俺は彼女の言葉を遮り、一歩近づいた。
「え……?」
「お前は自分を『ゴミ箱』だと言ったな。穢れを溜め込むだけの、忌まわしい容器だと」
俺はリリの手を取り、自分の胸に当てさせた。
「思い出せ。俺の能力が何だったか」
【確率操作】。 その本質は、不運という名の「負のエネルギー」を代償(燃料)にして、事象を書き換える力だ。
「俺はな、燃費が悪いんだ。そこら辺に転がっている小さな不運じゃ、すぐにガス欠になる。……世界を敵に回して、理不尽な運命をねじ伏せるには、桁外れの『不幸』が必要なんだよ」
俺はニヤリと笑った。 最高に性格の悪い、悪党の顔で。
「お前が世界中の厄災を集める『ゴミ箱』だって? 上等だ。それこそ、俺が求めていた最高の人材(パーツ)じゃないか」
「ジン、様……?」
「俺にはお前が必要だ。能力(スペック)の話だけじゃない。お前が溜め込むその莫大な『不運』がなければ、俺は輝けない」
俺は彼女の手を強く握りしめた。
「世界がお前をゴミ箱扱いして捨てるなら、俺が拾う。……俺の専用の『ゴミ箱』になってくれ」
言葉にすると最低のプロポーズだ。 だが、リリには――その言葉こそが、何よりの救済だった。 自分の呪われた体質を、生まれ持った業を、全肯定されたのだから。
「……っ、うぅ……!」
リリの瞳から、堰を切ったように涙が溢れ出した。 悲しみの涙ではない。 歓喜と、安堵と、そして愛おしさが混ざり合った、温かい涙だ。
「はい……! はいっ……! 私、なります! ジン様のゴミ箱でも、燃料でも、なんでもなります! 一生、ジン様の側で……不運を集め続けます!」
リリが俺の胸に飛び込んでくる。 俺はその体をしっかりと受け止めた。
「みゅう……(よかったね)」
足元では、ラクが目をうるませて(?)鼻をすすっている。 少し離れたところでは、ティアとカエデも貰い泣きをしていた。グレンだけは「なんだかよくわかんねぇが、丸く収まったな!」と笑っている。
これでいい。 リリの迷いは消えた。 あとは、このふざけた「天理」とやらをぶっ壊すだけだ。
――と、良い雰囲気になっていたその時。
「ヒャハハハハハハッ!! あったぞォォォッ!!」
地下の祭壇の方から、狂ったような叫び声が響いてきた。 ヴォルグだ。
「……なんだあの爆弾魔は。雰囲気ぶち壊しか」
俺たちは顔を見合わせ、慌てて地下へと戻った。 祭壇の間では、ヴォルグが壁の一部を破壊し、その奥に隠されていた「何か」を引っ張り出していた。
それは、歪な形をした金属塊だった。 暗い地下にあって、それ自体が燃えるような緋色(ひいろ)の光を放っている。 熱気のような魔力が、波紋のように広がっていた。
「間違いない……! こいつだ! 文献にあった通りの輝き、ミスリルをも凌駕する魔力伝導率、そしてオリハルコンすら豆腐のように感じる硬度……!」
ヴォルグが頬ずりせんばかりの勢いで、その金属塊に抱きついている。
「伝説の金属……『ヒヒイロカネ』だ!!」
ヒヒイロカネ。 東方の神話に登場する、神鉄。 どうやらそれは、この祭壇の動力源――厄災を封じるための「楔(くさび)」として使われていたらしい。
「ジン! こいつを使えば、あの魔剣に対抗できる武器が作れるぞ! いや、作らせろ! 俺の腕が唸って仕方ねえ!」
ヴォルグが血走った目で俺に迫る。
「……なるほどな」
俺は状況を整理した。 リリの覚悟は決まった。 そして、対抗手段となる素材も手に入った。
パズルのピースは揃いつつある。 あとは、これをどう組み上げて「勝利」という絵を描くかだ。
「いいだろう、ヴォルグ。存分に腕を振るえ。……来たるべき決戦のために、最高の一振りを頼む」
「おうよ! 任せときな! 今夜は徹夜だぜぇ!!」
ヴォルグの歓声が地下に木霊する。 リリは俺の隣で、涙を拭って力強く頷いた。
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