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第66話:ヴォルグの鍛冶場
ヤマトの皇城、その崩れかけた中庭に、場違いな熱気と轟音が響き渡っていた。
ゴオォォォォッ!!
真っ赤な炎が夜空を焦がす。ヴォルグが『殲滅馬車』から展開した携帯用魔導炉が、臨界点ギリギリの火力を吐き出しているのだ。
「ヒャハハハハ! 最高だ! 最高に滾(たぎ)るぜぇッ!」
ヴォルグは上半身裸になり、汗と煤(すす)に塗れながらハンマーを振るっていた。金床の上にあるのは、地下の祭壇から引っこ抜いてきた伝説の金属『ヒヒイロカネ』だ。緋色に輝くその金属は、高熱に晒されても溶けるどころか、さらに強く輝きを増しているように見える。
「おいヴォルグ、大丈夫なのか? もう三時間も叩きっぱなしだぞ。いくらなんでも、一晩で三つの武器を仕上げるなんて無理がある」
俺が声をかけると、ヴォルグはギロリと目を剥いた。その目は充血し、狂気と職人魂がないまぜになった凄まじい光を放っている。
「ケッ、素人が! 俺の『魔導鍛冶』をそこらの鍛冶屋と一緒にするな!」
ヴォルグはハンマーを振り上げながら吠えた。
「普通の鉄は熱して叩いて不純物を抜くが、こいつ(ヒヒイロカネ)は違う! 魔力を流し込んで、金属の分子構造そのものを強制的に再構築(リビルド)するんだ! 物理的な時間は関係ねえ。俺のイメージと魔力が尽きなきゃ、粘土細工みたいに一瞬で形を変える!」
ヴォルグのハンマーが振り下ろされる。カンッ! という音と共に、ヒヒイロカネが液体のように波打ち、一瞬で形を変えた。時間短縮のからくりはこれか。だが、その代償としてヴォルグの体からは尋常ではない量の魔力が吸い上げられている。顔色が青白いのは、照明のせいだけではないだろう。
「邪魔すんじゃねえ! こいつは生き物だ……俺の魂(ソウル)と共鳴してやがる! 今、俺の脳内には最強の設計図が無限に溢れてるんだよぉッ!」
完全にトランス状態だ。ヒヒイロカネという素材が、天才鍛冶師のスイッチを完全に押し込んでしまったらしい。
「まずはテメェだ、筋肉ダルマ! そのナマクラ大剣を寄越せ!」
ヴォルグがグレンを指差す。グレンは愛剣『岩砕き・改』を差し出した。
「へっ、ナマクラとは失礼な。こいつも十分いい剣だぜ?」
「黙れ! ヒヒイロカネの前じゃ、オリハルコンなんぞブリキ細工だ! 見てろ、最強の質量兵器に作り変えてやる!」
ヴォルグは真っ赤に熱したヒヒイロカネを、『岩砕き』の刀身に融合させていく。 カンッ、カンッ、カンッ! ハンマーが振り下ろされるたびに、魔力の火花が散る。数ヶ月かかるはずの融合工程が、数分単位で圧縮され、完了していく。
数十分後。冷却水の中でジュゥゥゥッ! と激しい音を立てて冷やされた大剣が、再び姿を現した。
黒鉄色だった刀身は、燃えるような緋色に変わり、その厚みと大きさは一回り増している。もはや剣というより、鉄塊だ。
「名付けて『真・岩砕き(トゥルー・ロックブレイカー)』だ! 重量は三倍! 硬度は測定不能! 魔剣の『防御無視』だろうがなんだろうが、物理法則(おもさ)でねじ伏せろ!」
「うおおお! 重ぇ! だが、手に馴染む!」
グレンが軽々と振り回す。 ブンッ! という風切り音だけで、近くの瓦礫が吹き飛んだ。
「次は侍(サムライ)の姉ちゃん! テメェの刀だ!」 「……拙者の『兼定(かねさだ)』をか?」
カエデが躊躇うように腰の刀に手をやる。 武士にとって刀は魂だ。それを異国の、しかも狂った鍛冶師に委ねるのは抵抗があるだろう。
「安心しろ。作り変えるんじゃねえ。……『鍛え直す』んだ」
ヴォルグの表情から、ふと狂気が消え、真摯な職人の顔が覗いた。
「お前の刀、いい鉄を使ってるが、今のままじゃグレンの筋肉すら切れねえだろ? ましてや魔剣相手じゃ、一撃で折れる。……俺が、その『魂』に鎧を着せてやる」
「……わかった。頼む」
カエデは恭しく刀を差し出した。ヴォルグはそれを受け取ると、ヒヒイロカネを薄く伸ばし、刀身を包み込むように鍛造していく。繊細かつ大胆なハンマー捌き。 完成したのは、刃紋に赤い輝きを宿した、妖刀の如き美しさを持つ一振りだった。
「切れ味そのまま、耐久力はドラゴン級だ。遠慮なく斬り結べ」
「……かたじけない。この恩、剣技で返そう」
カエデが刀を抜き、その輝きに見惚れる。
そして最後。ヴォルグは残ったヒヒイロカネの塊を睨みつけ、俺とリリを見た。 彼の呼吸は荒く、立っているのがやっとの状態に見える。魔力枯渇寸前だ。
「最後は嬢ちゃんの短剣だが……注文通りでいいんだな?」
「ああ。リリの速度(AGI)を殺さず、かつ魔剣と打ち合っても砕けない強度が要る」
俺が言うと、リリも頷いた。
「お願いします。私の全てを乗せられる、最強の牙を」
「ケッ、注文の多い客だぜ。……だが、やりがいがある!」
ヴォルグがポーションを一気飲みし、再び炎を上げる。彼が作るのは、二本の短剣だ。リリの戦闘スタイルに合わせた、超軽量かつ超硬度の双剣。ヒヒイロカネの特性である「魔力伝導率の高さ」を最大限に活かし、リリ自身が纏う魔力や、俺が送る「不運エネルギー」すらも刃に乗せられるように調整する。
カンッ、カンッ、カンッ……!
夜明けが近づく頃。 最後の一撃が振り下ろされた。
「できたぞ……! 俺の生涯最高傑作だ!」
ヴォルグが掲げたのは、透き通るような緋色の刃を持つ二振りの短剣だった。 光を反射して煌めく様は、まるで宝石のようだ。
「『緋蜂(スカーレット・ビー)』。触れるもの全てを溶断し、貫く毒針だ。今の嬢ちゃんなら、使いこなせるはずだ」
リリが短剣を受け取る。彼女が魔力を流した瞬間、刀身がブォンと赤く発光した。
「……凄いです。手の一部になったみたいに、魔力が吸い込まれていきます」
リリが空を斬る。音がない。あまりに鋭すぎて、空気抵抗すら切り裂いているのだ。
「これなら……アルスの魔剣にも届きます」
リリの瞳に、確信の光が宿る。
「礼を言うぞ、ヴォルグ。いい仕事だ」
「ふん、礼は『勝利』で返せ。俺の作った武器が負けるなんて許さねえからな」
ヴォルグは照れ隠しのようにそっぽを向いた瞬間、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。慌てて駆け寄ると、高いびきが聞こえてくる。気絶するように眠っているだけだ。命を削って、俺たちの牙を研いでくれたのだ。
空が白み始めていた。東の空が、ヒヒイロカネと同じ緋色に染まっていく。 決戦の朝だ。
「行くぞ。……全てを終わらせに」
俺たちは新たな武器を手に、来るべき決戦の予感に身を引き締めた。奴がいつ、どこから襲ってこようとも、もう後れは取らない。
ゴオォォォォッ!!
真っ赤な炎が夜空を焦がす。ヴォルグが『殲滅馬車』から展開した携帯用魔導炉が、臨界点ギリギリの火力を吐き出しているのだ。
「ヒャハハハハ! 最高だ! 最高に滾(たぎ)るぜぇッ!」
ヴォルグは上半身裸になり、汗と煤(すす)に塗れながらハンマーを振るっていた。金床の上にあるのは、地下の祭壇から引っこ抜いてきた伝説の金属『ヒヒイロカネ』だ。緋色に輝くその金属は、高熱に晒されても溶けるどころか、さらに強く輝きを増しているように見える。
「おいヴォルグ、大丈夫なのか? もう三時間も叩きっぱなしだぞ。いくらなんでも、一晩で三つの武器を仕上げるなんて無理がある」
俺が声をかけると、ヴォルグはギロリと目を剥いた。その目は充血し、狂気と職人魂がないまぜになった凄まじい光を放っている。
「ケッ、素人が! 俺の『魔導鍛冶』をそこらの鍛冶屋と一緒にするな!」
ヴォルグはハンマーを振り上げながら吠えた。
「普通の鉄は熱して叩いて不純物を抜くが、こいつ(ヒヒイロカネ)は違う! 魔力を流し込んで、金属の分子構造そのものを強制的に再構築(リビルド)するんだ! 物理的な時間は関係ねえ。俺のイメージと魔力が尽きなきゃ、粘土細工みたいに一瞬で形を変える!」
ヴォルグのハンマーが振り下ろされる。カンッ! という音と共に、ヒヒイロカネが液体のように波打ち、一瞬で形を変えた。時間短縮のからくりはこれか。だが、その代償としてヴォルグの体からは尋常ではない量の魔力が吸い上げられている。顔色が青白いのは、照明のせいだけではないだろう。
「邪魔すんじゃねえ! こいつは生き物だ……俺の魂(ソウル)と共鳴してやがる! 今、俺の脳内には最強の設計図が無限に溢れてるんだよぉッ!」
完全にトランス状態だ。ヒヒイロカネという素材が、天才鍛冶師のスイッチを完全に押し込んでしまったらしい。
「まずはテメェだ、筋肉ダルマ! そのナマクラ大剣を寄越せ!」
ヴォルグがグレンを指差す。グレンは愛剣『岩砕き・改』を差し出した。
「へっ、ナマクラとは失礼な。こいつも十分いい剣だぜ?」
「黙れ! ヒヒイロカネの前じゃ、オリハルコンなんぞブリキ細工だ! 見てろ、最強の質量兵器に作り変えてやる!」
ヴォルグは真っ赤に熱したヒヒイロカネを、『岩砕き』の刀身に融合させていく。 カンッ、カンッ、カンッ! ハンマーが振り下ろされるたびに、魔力の火花が散る。数ヶ月かかるはずの融合工程が、数分単位で圧縮され、完了していく。
数十分後。冷却水の中でジュゥゥゥッ! と激しい音を立てて冷やされた大剣が、再び姿を現した。
黒鉄色だった刀身は、燃えるような緋色に変わり、その厚みと大きさは一回り増している。もはや剣というより、鉄塊だ。
「名付けて『真・岩砕き(トゥルー・ロックブレイカー)』だ! 重量は三倍! 硬度は測定不能! 魔剣の『防御無視』だろうがなんだろうが、物理法則(おもさ)でねじ伏せろ!」
「うおおお! 重ぇ! だが、手に馴染む!」
グレンが軽々と振り回す。 ブンッ! という風切り音だけで、近くの瓦礫が吹き飛んだ。
「次は侍(サムライ)の姉ちゃん! テメェの刀だ!」 「……拙者の『兼定(かねさだ)』をか?」
カエデが躊躇うように腰の刀に手をやる。 武士にとって刀は魂だ。それを異国の、しかも狂った鍛冶師に委ねるのは抵抗があるだろう。
「安心しろ。作り変えるんじゃねえ。……『鍛え直す』んだ」
ヴォルグの表情から、ふと狂気が消え、真摯な職人の顔が覗いた。
「お前の刀、いい鉄を使ってるが、今のままじゃグレンの筋肉すら切れねえだろ? ましてや魔剣相手じゃ、一撃で折れる。……俺が、その『魂』に鎧を着せてやる」
「……わかった。頼む」
カエデは恭しく刀を差し出した。ヴォルグはそれを受け取ると、ヒヒイロカネを薄く伸ばし、刀身を包み込むように鍛造していく。繊細かつ大胆なハンマー捌き。 完成したのは、刃紋に赤い輝きを宿した、妖刀の如き美しさを持つ一振りだった。
「切れ味そのまま、耐久力はドラゴン級だ。遠慮なく斬り結べ」
「……かたじけない。この恩、剣技で返そう」
カエデが刀を抜き、その輝きに見惚れる。
そして最後。ヴォルグは残ったヒヒイロカネの塊を睨みつけ、俺とリリを見た。 彼の呼吸は荒く、立っているのがやっとの状態に見える。魔力枯渇寸前だ。
「最後は嬢ちゃんの短剣だが……注文通りでいいんだな?」
「ああ。リリの速度(AGI)を殺さず、かつ魔剣と打ち合っても砕けない強度が要る」
俺が言うと、リリも頷いた。
「お願いします。私の全てを乗せられる、最強の牙を」
「ケッ、注文の多い客だぜ。……だが、やりがいがある!」
ヴォルグがポーションを一気飲みし、再び炎を上げる。彼が作るのは、二本の短剣だ。リリの戦闘スタイルに合わせた、超軽量かつ超硬度の双剣。ヒヒイロカネの特性である「魔力伝導率の高さ」を最大限に活かし、リリ自身が纏う魔力や、俺が送る「不運エネルギー」すらも刃に乗せられるように調整する。
カンッ、カンッ、カンッ……!
夜明けが近づく頃。 最後の一撃が振り下ろされた。
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「……凄いです。手の一部になったみたいに、魔力が吸い込まれていきます」
リリが空を斬る。音がない。あまりに鋭すぎて、空気抵抗すら切り裂いているのだ。
「これなら……アルスの魔剣にも届きます」
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「ふん、礼は『勝利』で返せ。俺の作った武器が負けるなんて許さねえからな」
ヴォルグは照れ隠しのようにそっぽを向いた瞬間、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。慌てて駆け寄ると、高いびきが聞こえてくる。気絶するように眠っているだけだ。命を削って、俺たちの牙を研いでくれたのだ。
空が白み始めていた。東の空が、ヒヒイロカネと同じ緋色に染まっていく。 決戦の朝だ。
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