歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第67話:深淵の底で

 同時刻。 ヤマトの都の地下深く、淀んだ闇が吹き溜まる龍穴の底に、一人の男が佇んでいた。

「……ここか」

 アルスは虚ろな瞳で周囲を見回した。 そこは、この国が封じ込めてきた「厄災」の漏れ口。 地上ではジンたちがリリの出生の秘密に触れ、ヴォルグがヒヒイロカネを採掘していた場所のさらに奥底だ。 濃厚な負のエネルギーが、ヘドロのように渦巻いている。

『喰ライタイ……喰ライタイ……』

 右腕の魔剣が、下卑た咀嚼音を立てて蠢く。 この剣は『強欲』。持ち主の欲望を糧とし、全てを奪い尽くす権能を持つ。 だが、今のアルスにあるのは食欲ではない。 渇きだ。 勇者としての栄光、仲間、そして未来――全てを奪われた空虚な器を満たすための、絶望的な渇き。

「ああ、わかっている。……俺も、腹が減って仕方がないんだ」

 アルスは右腕を掲げた。 魔剣の切っ先が、闇の奔流に触れる。

 ジュワァァァッ!!

 まるで熱した鉄を水に入れたような音が響き、周囲の厄災が魔剣へと吸い込まれていく。 それは、世界が管理しきれずに排出した「廃棄物(澱み)」だ。 本来なら、勇者が浄化すべき穢れ。 だが、アルスはそれを浄化しない。 飲み込み、我が物として同化していく。

『警告。個体名アルス・グレイラットの汚染深度が臨界点を超過。勇者資格の剥奪を執行します』

 脳内に、無機質な「天の声」が響いた。 かつて彼を導き、スキルを与え、称賛してくれた天の意志(天理)の声だ。

「……うるさいな」

 アルスは嘲笑った。

「今更なんだ。俺が泥水をすすっていた時、お前は何もしなかったくせに」

『警告。聖剣との契約を断絶。加護(ギフト)を回収します』

 体の中から、温かい力が抜けていく。 生まれ持った「天性の強運」や「勇者補正」が、天側から強制的に遮断されていく感覚。 普通なら、そこで力尽きるはずだった。 だが。

「いらないよ、そんなもの。……俺には、もっと相応しい力がある」

 アルスは魔剣を通じて、さらに深く、貪欲に厄災を吸い上げた。 リリという器から溢れ出し、行き場を失っていた莫大な呪い。 それが、空っぽになったアルスの魂へと流れ込む。

 ドクンッ!!

 心臓が早鐘を打つ。 血液が黒く変色し、全身の血管がどす黒く浮き上がる。 天から与えられた「正義の力」が消え、代わりに底なしの「悪意」が満ちていく。

『異常。異常。対象の魂の器が理(ことわり)を逸脱。測定不能。……覚醒を確認』

 天の声が歪み、ノイズ混じりになる。

「はっ……はははは! そうか、そうだったのか!」

 アルスは高笑いした。 理解したのだ。 勇者とは、天理に踊らされる道化に過ぎない。 だが、天に見捨てられ、その理(ルール)を踏み越えた先にこそ――真の自由があるのだと。

「勇者なんて、最初からいなかったんだ。……俺が、俺こそが、この世界の王になる!」

 轟!!

 アルスの体から、漆黒の魔力が噴き上がった。 それは龍穴の天井を突き破り、ヤマトの空へと黒い柱となって昇っていく。

 右腕の魔剣が変貌する。 黒い装甲が全身を覆い、禍々しい角が生えた兜が頭部を包む。 その姿は、かつて彼が倒すべき敵として描かれていた「魔王」そのものだった。

「ジン……。リリ……」

 兜の奥で、紅蓮の瞳が輝く。

「感謝するぞ。お前たちが俺をここまで堕としてくれたおかげで、俺は『本物』になれた」

 アルスは右手を握りしめた。 空間が軋み、パキンと割れる音がする。

「待っていろ。最高の絶望を届けてやる」

 ヤマトの地下で、最悪の怪物が産声を上げた。 それは天理すらも想定していなかった、理の外にある脅威の誕生だった。
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