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第68話:決戦・紅葉坂(前編)
皇城の裏手、山へと続く長く急な坂道――通称『紅葉坂』。 その名の通り、そこは燃えるような紅葉に彩られた絶景の地だった。 だが今、舞い散る葉は赤だけでなく、どす黒い瘴気を纏って枯れ落ちていた。
「……来たか」
俺たちは坂の中腹で足を止めた。 坂の上から、ゆっくりと降りてくる影がある。 漆黒の鎧のような外殻に覆われた体。頭部には禍々しい角。そして右腕は、地面を引きずるほど巨大な異形の剣と化している。
かつての勇者、アルスの成れの果てだ。
「随分と待たせたな、ジン。……いや、今はこう呼ぶべきか。『旧友』と」
アルスが立ち止まる。 その全身から放たれるプレッシャーは、以前カジノホテルで対峙した時とは比較にならなかった。 空気そのものが重く軋み、肌にまとわりつくような悪寒が走る。 これが、天理すらも想定外とした「真の魔王」の威圧感か。
「悪いが、俺の友人の枠はもう定員オーバーでな。お前を入れる隙間はない」
俺は軽口で返しつつ、背後の仲間に合図を送る。 リリが双剣を構え、グレンが大剣を担ぎ直す。カエデも腰を落とし、鯉口を切った。 ティアは「ひぃぃ!」と悲鳴を上げながらヴォルグの影に隠れている。
「減らず口を……。まあいい。まずは手始めに、そこな侍から血祭りにあげてやろう」
アルスの視線が、カエデに向けられた。
「ッ!?」
殺気が物理的な衝撃となってカエデを襲ったのが見て取れた。 カエデは反射的に抜刀し、迎撃態勢を取る。
「来るぞ!」
俺が叫ぶと同時に、アルスの姿がブレた。 速い。 巨体に見合わぬ神速の踏み込みで、一瞬にしてカエデの目の前に肉薄する。
「遅い!」
カエデの神速の抜刀術――『居合・燕返し』が閃く。 ヴォルグによって鍛え直され、ヒヒイロカネで強化された名刀『兼定』の刃が、アルスの首を狙って走る。 だが。
ガギッ!!
アルスは避けることすらしなかった。 首を覆う黒い甲殻で、カエデの渾身の一撃を弾き返したのだ。
「な……ッ!?」
カエデが驚愕に見開く。 ヒヒイロカネの刃ですら傷一つつけられない硬度。 これが、厄災を取り込んだ魔王の防御力か。
「軽いな。羽虫が止まったかと思ったぞ」
アルスが嘲笑い、右腕の魔剣を振り上げる。 ただの斬撃ではない。空間ごと削り取るような、圧倒的な質量の暴風。
「しまっ――」
カエデの体勢が崩れているのが見えた。回避は間に合わない。 防御しようにも、相手は『防御無視』の権能を持つ魔剣だ。刀ごと両断される未来しか見えない。
カエデが、覚悟を決めたように目を閉じた。 その顔は、死を受け入れた武人のそれだった。
だが、俺の目の前でそんな結末は許さない。
ドォォォォォォォンッ!!!
轟音と共に、彼女の目の前に巨大な壁が出現した。 赤髪の巨漢。 グレンだ。
「――っらぁぁぁぁッ!!」
グレンはアルスの魔剣に対し、真正面から己の大剣を叩きつけていた。 ヴォルグが魂を削って打ち直した、ヒヒイロカネ合金製の超重量大剣『真・岩砕き』。
ギギギギギギッ……!!
火花が散り、衝撃波が紅葉を吹き飛ばす。 だが、砕けない。 以前なら飴細工のように破壊されていたはずのグレンの剣が、魔王の一撃を完璧に受け止めていた。
「な……!?」
アルスの顔に驚きが浮かぶ。
「俺の『強欲』を受け止めるだと……!? その剣、何でできている!?」
「へっ、ただの鉄屑じゃねえぞ! 愛と根性と、天才の狂気が詰まった最高傑作だ!」
グレンが歯を剥き出しにして笑う。 腕の筋肉が膨れ上がり、ミシミシと音を立てる。 力負けしていない。魔王の剛腕を、純粋な筋力だけで押し返そうとしている。
「グ、グレン殿……!?」
目を開けたカエデが、腰を抜かしたまま見上げている。 グレンは背中越しに、ニカっと笑ってみせた。
「おいおい、侍がんなところで寝てんじゃねえよ。風邪ひくぜ?」
「貴殿……なぜ……」
「言ったろ? 全部ぶっ飛ばしてやるってな」
グレンは視線をアルスに戻し、凄みを利かせた。
「それによう……女に手ェ出してんじゃねえよ、元勇者。テメェの相手は、この俺だろ?」
その瞬間。 後ろから見ていた俺にもわかった。 カエデの顔が、周囲の紅葉よりも赤く染まったのが。 呆然と見上げていた瞳が潤み、熱っぽい色を帯びていく。
「……野蛮人のくせに……。かっこいいではないか……」
カエデの口から漏れた呟きが、風に乗って聞こえた気がした。
「チッ、小賢しい!」
アルスが苛立ち、さらに力を込める。 だが、グレンは一歩も退かない。 最強の盾(タンク)が、最強の矛(魔剣)を完全に封じ込めていた。
「今だ、旦那! リリの嬢ちゃん! やっちまえ!」
グレンの咆哮が、反撃の狼煙となる。 俺とリリは同時に駆け出した。 ここからが、本当の決戦だ。
「……来たか」
俺たちは坂の中腹で足を止めた。 坂の上から、ゆっくりと降りてくる影がある。 漆黒の鎧のような外殻に覆われた体。頭部には禍々しい角。そして右腕は、地面を引きずるほど巨大な異形の剣と化している。
かつての勇者、アルスの成れの果てだ。
「随分と待たせたな、ジン。……いや、今はこう呼ぶべきか。『旧友』と」
アルスが立ち止まる。 その全身から放たれるプレッシャーは、以前カジノホテルで対峙した時とは比較にならなかった。 空気そのものが重く軋み、肌にまとわりつくような悪寒が走る。 これが、天理すらも想定外とした「真の魔王」の威圧感か。
「悪いが、俺の友人の枠はもう定員オーバーでな。お前を入れる隙間はない」
俺は軽口で返しつつ、背後の仲間に合図を送る。 リリが双剣を構え、グレンが大剣を担ぎ直す。カエデも腰を落とし、鯉口を切った。 ティアは「ひぃぃ!」と悲鳴を上げながらヴォルグの影に隠れている。
「減らず口を……。まあいい。まずは手始めに、そこな侍から血祭りにあげてやろう」
アルスの視線が、カエデに向けられた。
「ッ!?」
殺気が物理的な衝撃となってカエデを襲ったのが見て取れた。 カエデは反射的に抜刀し、迎撃態勢を取る。
「来るぞ!」
俺が叫ぶと同時に、アルスの姿がブレた。 速い。 巨体に見合わぬ神速の踏み込みで、一瞬にしてカエデの目の前に肉薄する。
「遅い!」
カエデの神速の抜刀術――『居合・燕返し』が閃く。 ヴォルグによって鍛え直され、ヒヒイロカネで強化された名刀『兼定』の刃が、アルスの首を狙って走る。 だが。
ガギッ!!
アルスは避けることすらしなかった。 首を覆う黒い甲殻で、カエデの渾身の一撃を弾き返したのだ。
「な……ッ!?」
カエデが驚愕に見開く。 ヒヒイロカネの刃ですら傷一つつけられない硬度。 これが、厄災を取り込んだ魔王の防御力か。
「軽いな。羽虫が止まったかと思ったぞ」
アルスが嘲笑い、右腕の魔剣を振り上げる。 ただの斬撃ではない。空間ごと削り取るような、圧倒的な質量の暴風。
「しまっ――」
カエデの体勢が崩れているのが見えた。回避は間に合わない。 防御しようにも、相手は『防御無視』の権能を持つ魔剣だ。刀ごと両断される未来しか見えない。
カエデが、覚悟を決めたように目を閉じた。 その顔は、死を受け入れた武人のそれだった。
だが、俺の目の前でそんな結末は許さない。
ドォォォォォォォンッ!!!
轟音と共に、彼女の目の前に巨大な壁が出現した。 赤髪の巨漢。 グレンだ。
「――っらぁぁぁぁッ!!」
グレンはアルスの魔剣に対し、真正面から己の大剣を叩きつけていた。 ヴォルグが魂を削って打ち直した、ヒヒイロカネ合金製の超重量大剣『真・岩砕き』。
ギギギギギギッ……!!
火花が散り、衝撃波が紅葉を吹き飛ばす。 だが、砕けない。 以前なら飴細工のように破壊されていたはずのグレンの剣が、魔王の一撃を完璧に受け止めていた。
「な……!?」
アルスの顔に驚きが浮かぶ。
「俺の『強欲』を受け止めるだと……!? その剣、何でできている!?」
「へっ、ただの鉄屑じゃねえぞ! 愛と根性と、天才の狂気が詰まった最高傑作だ!」
グレンが歯を剥き出しにして笑う。 腕の筋肉が膨れ上がり、ミシミシと音を立てる。 力負けしていない。魔王の剛腕を、純粋な筋力だけで押し返そうとしている。
「グ、グレン殿……!?」
目を開けたカエデが、腰を抜かしたまま見上げている。 グレンは背中越しに、ニカっと笑ってみせた。
「おいおい、侍がんなところで寝てんじゃねえよ。風邪ひくぜ?」
「貴殿……なぜ……」
「言ったろ? 全部ぶっ飛ばしてやるってな」
グレンは視線をアルスに戻し、凄みを利かせた。
「それによう……女に手ェ出してんじゃねえよ、元勇者。テメェの相手は、この俺だろ?」
その瞬間。 後ろから見ていた俺にもわかった。 カエデの顔が、周囲の紅葉よりも赤く染まったのが。 呆然と見上げていた瞳が潤み、熱っぽい色を帯びていく。
「……野蛮人のくせに……。かっこいいではないか……」
カエデの口から漏れた呟きが、風に乗って聞こえた気がした。
「チッ、小賢しい!」
アルスが苛立ち、さらに力を込める。 だが、グレンは一歩も退かない。 最強の盾(タンク)が、最強の矛(魔剣)を完全に封じ込めていた。
「今だ、旦那! リリの嬢ちゃん! やっちまえ!」
グレンの咆哮が、反撃の狼煙となる。 俺とリリは同時に駆け出した。 ここからが、本当の決戦だ。
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