歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第69話:決戦・紅葉坂(中編)

 紅葉坂での激闘は、膠着状態に陥っていた。

「オラオラオラァッ!!」

 グレンがヒヒイロカネの大剣『真・岩砕き』を豪快に振り回す。 その一撃は岩盤を砕き、空気を震わせるほどの威力だ。 だが、対するアルスもまた、魔剣を盾に変形させてそれを受け止める。

「チッ、硬いな……!」 

「無駄だ。俺の魔剣は、俺の『強欲』がある限り無限に再生する」

 アルスが冷ややかに告げる。 グレンの攻撃で魔剣の装甲にヒビが入っても、次の瞬間には黒いヘドロが湧き出し、傷を塞いでしまう。 厄災を取り込んだ魔王の再生能力は、常軌を逸していた。

「ならば、数で押すまで!」

 カエデが疾走する。 グレンが正面から注意を引いている隙に、死角から『兼定』の刃を走らせる。 ヒヒイロカネで強化された刃といえど、魔王の装甲を正面から断つことは難しい。だが、狙うは装甲の継ぎ目一点のみ。

 ザシュッ!

 カエデの一撃がアルスの脇腹を捉えた。 だが、浅い。 アルスは『思考解析』でカエデの軌道を読み、致命傷を避けているのだ。

「そこです!」

 さらにリリが頭上から急降下し、『緋蜂』を突き立てる。 しかし、それもアルスの背中から生えた黒い触手によって弾かれる。

「くっ……! 決定打が入らない!」 

「ちょこまかと鬱陶しい虫共だ……!」

 アルスが咆哮し、魔力を解放する。 衝撃波が広がり、グレンたちが吹き飛ばされる。 俺は後方で舌打ちした。

(マズいな。このままじゃジリ貧だ)

 個々の戦力は強化されているが、アルスの防御と再生能力がそれを上回っている。 奴の『思考解析(予知)』を封じない限り、有効打は入らない。 何か、奴の計算を狂わせる「イレギュラー」が必要だ。

 その時だった。

「み、皆さん! 私も援護します!」

 馬車の陰から、ティアが飛び出してきた。 手には杖を握りしめ、決死の形相をしている。

「下がってろティア! お前じゃ危ない!」 

「大丈夫です! 攻撃魔法は苦手ですが、支援魔法(バフ)なら任せてください! アルスさんの動きを止めるような、強力な弱体化魔法をかけます!」

 ティアが杖を掲げる。 ……待て。こいつの職業は「聖女候補生」だ。使えるのは神聖魔法(回復・浄化)のはずだ。 弱体化魔法なんて使えたか?

「聖なる光よ! 邪悪な力に鉄槌を! 『ホーリー・ライト』!」

 ティアが放ったのは、初級の攻撃魔法だった。 本来なら、目くらまし程度の光の玉が飛んでいくだけの魔法だ。 だが、彼女は「確率の迷子」。 その魔法が、まともに発動するはずがない。

 バチチチチッ……!!

 杖の先で、光がどす黒く変色し、不穏なスパークを上げ始めた。

「あっ、あれ? なんか色が変……ひゃうっ!?」

 ティアが慌てて杖を振る。 その拍子に、黒い光弾があらぬ方向へ――味方であるグレンの背中へと飛んでいった。

「グレン、避けろッ!」

 俺が叫ぶより早く、白い影が動いた。

「みゅッ!!(させん!)」

 ラクだ。 ラクはロケットのように跳躍すると、飛翔する光弾に横から体当たり(タックル)をかました。 ボヨンッ! 弾力のあるボディに弾かれ、光弾の軌道が直角に曲がる。

 その先には――アルスがいた。

「あ?」

 アルスが気づいた時には遅かった。 『思考解析』は、ティアの「失敗」と、ラクの「気まぐれ」という二重のイレギュラーまで予測できていなかったのだ。

 ドスッ。

 黒い光弾が、アルスの膝に直撃した。 ダメージはない。 だが、次の瞬間。

「ぐ、お……ッ!?」

 アルスが突然、ガクンと膝をついた。

「な、なんだ……足が、痺れる……!?」

 アルスの足元に、ビリビリとした紫色の電撃が走っている。 ティアの放った『ホーリー・ライト(聖なる光)』が、確率バグによって『パラライズ・サンダー(麻痺の雷撃)』に反転していたのだ。 しかも、聖女の魔力が乗っているため、魔王の耐性すら貫通している。

「でかした、ポンコツ聖女!」 

「ひぇぇ、褒められてる気がしません~!」

 ティアが涙目になるが、結果オーライだ。 アルスの動きが止まった。再生能力や防御力は健在だが、足が止まれば回避行動は取れない。

 ここが勝機だ。 だが、決定的な一撃を入れるには、まだ何かが足りない。 こちらの攻撃を「必中」させるための、最後の一押しが。

 ザザッ……ザザザッ……。

 その時、ヴォルグの懐からノイズ音が響いた。 彼が腰に下げていた、試作型の遠距離通信機だ。

『……こえ……聞こえるかしら? この役立たず共!』

 スピーカーから響いてきたのは、聞き覚えのある高圧的な声だった。 リエルだ。

「リエル様!? なんで通信機から?」 

『ヴォルグに渡しておいたのよ! ……まったく、見てられないわね。私が用意した豪華客船を断って、その薄汚い馬車で行ったくせに、そんな泥仕合をしてるなんて』

 どうやら、何らかの方法でこちらの状況を把握しているらしい。 彼女の声には、焦りと、そして強烈な叱咤が含まれていた。

『いいこと? 私が貴方達に投資したのは、勝つためよ。負けるなんて許さないわ』

 カジノの女王が宣言する。 その言葉は、単なる応援ではない。 彼女が持つ【絶対強運】。確定した未来を手繰り寄せる力が、通信機を通じて、言霊となってこの場に届く。

『私の全財産(プライド)を、貴方達の「勝利」にベットするわ! だから――外しやがったら承知しないわよッ!』

 キィィィィィン……!

 通信機が光り輝く。 その光が、戦場全体を包み込んだ。 俺には視えた。 場に漂っていた不確定な確率の波が、リエルの強運によって強引に「こちらの勝利」へと固定されていくのを。

 アルスが足元の小石に躓く確率、上昇。 カエデの刃が装甲の隙間を捉える確率、上昇。 グレンの一撃がクリティカルヒットする確率、上昇。

「……ハッ。最高のバフだな」

 俺は笑った。 バグった聖女のデバフと、最強の女王の強運バフ。 これだけのお膳立てが揃って、負けるわけにはいかない。

「総員、畳み掛けろ! 今なら何をやっても『当たる』ぞ!」

「おうよ! みなぎってきたぜぇ!」 

「承知! いざ、尋常に!」 

「ジン様のために!」

 グレン、カエデ、リリが同時に飛び出す。 その動きには、迷いも恐れもなかった。 勝利の確信だけが、彼らの刃を研ぎ澄ませていた。
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