歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第70話:決戦・紅葉坂(後編)

 勝機は、一瞬にして訪れた。

 ティアの『バグった麻痺雷撃』でアルスの足が止まり、リエルの『絶対強運』が俺たちの攻撃成功率を極限まで底上げしている。 この状況下において、俺の【確率操作】は、もはや「操作」ですらない。 確定した未来をなぞるだけの、勝利への進行表(チャート)だ。

「見えたぞ」

 俺は【解析のモノクル】越しに、アルスの右腕――魔剣『強欲』の深奥に輝く「核(コア)」を捉えた。 無敵の再生能力と、理不尽な防御無視攻撃。それらを支えている魔力の供給源。 本来なら分厚い装甲と因果の歪みに守られて視認すらできない急所だが、今の俺にはハッキリと視えている。

 だが、視えているだけでは足りない。 あの分厚い装甲を砕き、核に届かせるには、針の穴を通すような精密な一点突破が必要だ。 そして、それを通すための「道」を作るのが、軍師(オレ)の仕事だ。

「グレン、カエデ! 奴の『両翼』を削げ!」 

「おうよッ!」 

「承知!」

 俺の指示に、前衛の二人が同時に動く。 グレンが正面から『真・岩砕き』を振り下ろし、カエデが側面から神速の居合いを放つ。

「ぐ、おォォッ!?」

 アルスは麻痺した体で魔剣を動かし、防御しようとする。 だが、遅い。 グレンの大剣が魔剣の側面を叩き、その重みでアルスの体勢を崩す。同時にカエデの刃が、魔剣と肩の接合部にある装甲の隙間を精確に切り裂いた。 ヒヒイロカネの輝きが、魔王の闇を断つ。

 装甲に亀裂が入る。 千載一遇の好機。だが、まだ魔剣の自己再生が始まろうとしている。 そのコンマ一秒の隙間を、俺がこじ開ける。

「リリ! 正面、心臓の三センチ上だ! そこにある『核』ごと魔剣を砕け!」 

「はいッ!」

 リリが飛んだ。 その速度は音速を超え、赤い閃光となってアルスに迫る。 手にするのは、ヴォルグの最高傑作『緋蜂(スカーレット・ビー)』。

「じ、ジン……! 貴様ぁぁぁッ!!」

 アルスが絶叫し、残った力を振り絞って魔剣を突き出す。 相打ち覚悟の特攻。 魔王の底力による一撃は、リリの速度を持ってしても回避困難なタイミングだ。

 だが、俺は動じない。 この瞬間を待っていた。

「遅いんだよ、判断が」

 俺はポケットから手を出し、指を鳴らした。

【確率操作】――対象:アルスの足元の石畳。 内容:『分子結合の崩壊』および『摩擦係数の消失』。 発生確率:100%(確定)。

 パチン。

 バキッ!!

 アルスの踏み込んだ右足の石畳が、爆ぜるように砕け散った。 さらに、踏ん張ろうとした左足が、まるで氷の上に乗ったかのように滑る。

「な、に……ッ!?」

 アルスの体勢が大きく崩れる。 突き出された魔剣の切っ先が、リリの身体から僅かに逸れる。 リエルの強運と、俺の操作が噛み合った結果の、必然の「不運」。

 その隙だらけの胴体に、俺はリリという最強の弾丸を撃ち込んだ。

「さようなら、偽物の英雄」

 リリが交差させた双剣を振り抜く。

「私の英雄は、ジン様だけです!」

 ザンッ――!!!!

 澄んだ音が、紅葉坂に響き渡った。

 時間が止まったかのような静寂。 リリはアルスの背後へと抜け、着地と同時に剣を振るって残心を解く。

 背後で、アルスの動きが完全に停止していた。 彼が突き出した魔剣の中央に、赤い亀裂が走る。 それは瞬く間に広がり、刀身全体を覆い尽くし――

 パリーンッ!!

 ガラス細工のように砕け散った。 核を破壊された魔剣は、黒い霧となって霧散していく。

「あ……あぁ……」

 魔剣を失ったアルスが、自分の右腕(だった場所)を呆然と見つめる。 そこにはもう、何もない。 力も、憎悪も、彼を突き動かしていた妄執も、魔剣と共に消え去っていた。

「なんで……だ……。俺は、勇者……なのに……」

 アルスが膝をつく。 その体もまた、崩壊を始めていた。 天から切り離され、さらに魔剣という生命維持装置を失った彼の魂は、もはや現世に形を留めることができない。

「ジン……。俺を見てくれ……。俺は、選ばれた……」

 アルスが俺の方へ、残った左手を伸ばす。 その瞳から狂気の色は消え、子供のような怯えと、哀願の色が浮かんでいた。 誰かに認めてほしかった。誰かに愛されたかった。 ただそれだけの渇望が、彼をここまで歪ませてしまったのか。

「……あばよ、アルス」

 俺は短く告げた。 同情はしない。だが、最期を見届けるくらいの義理は果たしてやる。

 アルスの指先が、俺に触れる直前で灰になって崩れた。 風が吹く。 狂い咲いた季節外れの桜と、燃えるような紅葉が入り混じって舞う中、元勇者だった男の残骸は、さらさらと空へ舞い上がっていった。 季節の理(ことわり)すらも狂わせるほどの厄災。その歪な風景の中に、彼は吸い込まれるように消えていった。 後には、何も残らなかった。

「……終わりました」

 リリが短剣を納め、俺の元へ戻ってくる。 その表情に陰りはない。 彼女は自分の手で、過去の因縁を断ち切ったのだ。

「ああ。見事だった」

 俺はリリの頭を撫でた。 グレンとカエデも、武器を下ろして息を吐く。ティアはへたり込んで安心している。

 勝利だ。 俺たちは、理の外にある魔王という最大の脅威を退けた。 これで、リリの呪いを解くための障害はなくなったはずだ。

 ――そう、俺たちが思った、その瞬間だった。

 ピキッ。

 空から、奇妙な音が聞こえた。 ガラスにヒビが入るような、硬質な音。

「……なんだ?」

 俺が見上げると、赤く染まっていた夕暮れの空に、黒い亀裂が走っていた。 それは急速に広がり、空そのものが「割れて」いく。

「みゅッ!!(あぶない!)」

 ラクが毛を逆立てて警告音を発する。 俺のモノクルが、警告色(レッド)のアラートで埋め尽くされた。

【警告:天理への干渉を検知】 

【天の意志による強制介入】 

【排除:対象『リリ・クラウゼル』の削除を開始します】

「……は?」

 削除だと? 空の亀裂から、無機質な白い光が漏れ出し、地上へと降り注ぐ。 それは祝福の光ではない。 世界を管理する者が、異物を排除するために放つ、浄化の光だった。

 アルスを倒したことで、物語は終わるはずだった。 だが違った。 これは、もっと巨大な、世界の理そのものとの戦いの幕開けに過ぎなかったのだ。
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