歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第76話:はじめてのテント生活

『天の楔』を破壊する旅。 それは、世界中を敵に回した逃避行でもあった。

 ヴォルグの『殲滅馬車』は優秀だが、魔力エンジンの熱排気やマナの残滓を天使たちに探知される恐れがある。そのため、定期的にエンジンを停止し、自然の魔素に紛れて冷却する時間が必要だった。 つまり、野営だ。

「……というわけで、今日はここでキャンプとする」

 俺たちは深い渓谷の底、岩肌に隠れるような場所で馬車を止めた。 空からは死角になり、川も近い。

「了解だ! 俺はエンジンの調整に入るぜ。デリケートな炉心だからな、ご機嫌取りが必要なんだよ」

  ヴォルグが工具箱を持って馬車の下に潜り込む。

「俺は薪拾いと、周囲の警戒をしてくるぜ」

  グレンが大剣を担いで森へ消えていく。

 残されたのは、テントの設営班だ。

「任せてください! 聖女候補生として、巡礼の旅で野宿は慣れています!」

 ティアが張り切って手を挙げた。 ……嫌な予感しかしないが、何もしないよりはマシか。

「拙者も手伝おう。野営の設営など、武士の嗜みだ」

 カエデも自信満々に進み出る。 こちらは頼りになりそうだ。俺は二人にテントの設営を任せ、周辺の結界設置を行うことにした。

 しかし。 数分後、俺が戻ってくると、そこには地獄絵図が広がっていた。

「あだっ!? またポールが顔に……!」 

「ぬうっ! なぜだ! なぜこの布は自立せんのだ!?」

 ティアは折りたたみ式のポールに手足を絡め取られ、ミノムシのようになって転がっていた。彼女の『確率乱高下』が発動しているのか、ペグを打とうとするたびにハンマーがすっぽ抜けたり、石に弾かれて自分に飛んできたりして、大騒ぎした挙句の果てがこれだ。

 一方のカエデは、テントの生地と格闘していた。 どうやら東方の文化にはない構造らしく、説明書(図解)を逆さまに読みながら、力任せにポールを曲げようとしている。

「ええい、軟弱な骨組みめ! 気合が足りん!」 

「待てカエデ! それは気合でどうにかなるもんじゃない! へし折る気か!」

 俺が慌てて止めに入ろうとした時だ。

 シュッ、パパパンッ!

 小気味よい音が響いた。 俺たちの横で、鮮やかな手際でテントが組み上がっていく。 杭が正確に地面に打ち込まれ、ロープが美しく張られ、シワひとつない完璧なテントが一瞬で完成した。

「……ジン様の寝床、完成しました」

 リリだ。 彼女は額の汗を拭うこともなく、涼しい顔で次の作業に取り掛かる。 かまどを作り、火を起こし、川で汲んできた水を沸かす。その動作には一切の無駄がない。

「す、すごい……。速すぎて手が見えませんでした……」 

 ミノムシ状態のティアが呆然と呟く。

「……これが、西洋の設営術か。見事だ」 カエデも感服したように唸る。
「私の主人はジン様だけですから。ジン様に不自由な思いはさせません」

 リリは淡々と言いながら、手際よく野草と干し肉を調理していく。 ただの保存食が、彼女の手にかかると極上のスープの香りを放ち始めるから不思議だ。 ヴォルグ製の『万能包丁』と『魔導コンロ』を使いこなしているのも大きいが、それ以上に彼女自身のスキルが高い。

「お前たち、少しはリリを見習えよ」

 俺が呆れて言うと、ティアとカエデはシュンと肩を落とした。

「うぅ……面目ないです。ドジな聖女なんて、ただの足手まといですよね……」 

「くっ……。剣の腕なら負けん自信はあるが、女子力(おなごぢから)でこれほど差を見せつけられるとは……」

 二人が敗北感に打ちひしがれている。 そこへ、グレンが薪と獲物(巨大な猪)を抱えて戻ってきた。

「おう、いい匂いがするじゃねえか! 飯か!?」 

「はい、グレンさん。猪、捌いていただけますか?」 

「おうよ!」

 リリの指示でグレンが動く。 いつの間にか、この野営地におけるヒエラルキーが確立されていた。 頂点にジン(俺)。 その直下にリリ(絶対的な実務管理者)。 その他(労働力およびトラブルメーカー)。

「……ふふっ。皆さん、落ち込まないでください。ご飯ができたら元気になりますよ」

 リリが優しく微笑み、スープを配る。 その笑顔は、慈愛に満ちた聖母のようであり――同時に、「このパーティの生活を握っているのは私です」という、揺るぎない正妻の余裕に満ちていた。

「は、はい! いただきますぅ!」 

「かたじけない……。美味い……染みる……」

 ティアとカエデがスープを飲んで涙する。 足元ではラクが「みゅッ(うまい!)」と跳ねている。

 胃袋を掴まれた人間に、逆らう権利はない。 俺はリリが用意してくれた特等席
(一番ふかふかの敷物が敷かれた場所)でくつろぎながら、夜空を見上げた。

 逃亡生活は過酷だ。 だが、リリがいれば、少なくとも「生活」の質だけは保証されそうだ。 俺は心の中で、優秀すぎるパートナーに感謝した。
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