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第77話:ラクの暖房
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深い渓谷を抜けた俺たちは、次なる目的地『灼熱の洞窟』を目指し、標高の高い山岳地帯へと足を踏み入れていた。活火山へ向かっているはずなのだが、その道中は皮肉にも極寒の雪山だった。
「さ、さ、寒いですぅ……! 鼻水が凍りそうです……!」
ティアがガタガタと震えながら、毛布にくるまっている。日が暮れると、気温は氷点下を遥かに下回った。ヴォルグの『殲滅馬車』は寒冷地仕様の結界も張れるが、連日の激走で魔力エンジンの出力が低下しており、今夜は冷却とメンテナンスのためにエンジンを停止しなければならない。
「……仕方ない。今夜も野営だ」
俺たちは風を避けられる岩陰に馬車を止め、テントを設営した。だが、リリの手際で完璧なテントが建っても、染み込んでくる冷気までは防げない。
「うぅ……焚き火が効かねえ。薪が湿気ってやがる」
グレンが火種に息を吹きかけるが、頼りない炎はすぐに風にかき消されてしまう。
「拙者の『気合』でも、この寒さは凌げぬか……」
カエデも青い顔をして刀を抱いている。
このままでは凍死、とまではいかなくとも、体力を大幅に削られる。ヴォルグに至っては「指がかじかんで整備ができねえ!」と工具を投げ出している始末だ。
「……困ったな」
俺が吐く息も白い。リリが心配そうに俺の手を握り、自身の体温で温めようとしてくれるが、彼女の手も冷たい。
「みゅ~」
その時。俺の懐から、白い毛玉――ラクが顔を出した。ラクは周囲を見回し、寒さに震える仲間たちを確認すると、決意を秘めた瞳(?)で俺を見上げた。
「みゅッ!(まかせろ!)」
ラクがテントの中央に飛び降りる。そして、深呼吸をするように体を膨らませ始めた。
ポンッ、ポムッ、ムクムクムク……。
ラクの体が巨大化していく。バランスボール大を超え、大岩サイズになり、さらに膨らんで――ついにはテントの内側いっぱいに広がる、巨大な白いドーム状になった。
「な、なんですこれぇ!?」
「巨大な……かまくら?」
ティアとカエデが驚く中、ラクの体毛がふわりと開き、俺たちを内側へと招き入れた。恐る恐る中に入ると、そこは天国だった。
「……温かい」
ラクの体毛は極上の羽毛布団のように柔らかく、そしてほんのりと熱を帯びていた。こいつは不運を吸収し、それを熱エネルギーに変換する性質がある。俺たちの旅路に漂う「厄災の予兆(不運)」や、ティアから漏れ出る「確率の歪み」を燃料にして、自家発電しているのだ。
「みゅ~(あったまれ~)」
壁面(ラクの内側)から、安らぐ声が響く。
「すげぇ! 生きた暖房じゃねえか!」
グレンが大の字になってラクの毛並みに埋もれる。
「ヒャハハ! こりゃいい! 極楽だぜェ!」
ヴォルグも寝転がる。
俺たちは車座になり、ラクの体温に包まれて暖を取ることにした。自然と、配置が決まっていく。
中央の最も温かい特等席には、俺とリリ。リリはここぞとばかりに俺に密着し、頭を肩に乗せている。
「ジン様……ポカポカしますね」
「ああ。ラクのおかげだな」
俺がリリの腰に手を回すと、彼女は嬉しそうに目を細めた。その向かい側では、ティアが「あわわ、埋もれますぅ」と毛並みに沈み込んでいる。
そして、少し離れた場所では。
「……お、おい。少し詰めすぎじゃねえか?」
グレンが困惑気味に言った。彼のすぐ隣、腕が触れ合う距離にカエデが座っていたのだ。他の場所は空いているのに、わざわざそこを選んでいる。
「む、無礼者。……ここが一番、熱効率が良いと判断しただけだ。他意はない」
カエデはそっぽを向いて言い訳をしているが、その耳は真っ赤だ。武人としての凛々しさはどこへやら、完全に乙女の顔になっている。
「そうか? まあ、寒いよりはいいか。ほら、もっと寄れよ」
「ひゃっ!?」
グレンが無自覚にカエデの肩を引き寄せる。カエデが沸騰し、湯気を出しながら硬直した。
「……ふふっ。お熱いですね」
リリが小声で冷やかす。
「まあな。ラクの熱だけじゃないみたいだ」
俺も苦笑し、ラクの毛並みを撫でた。外は極寒の雪山。追手も迫っているかもしれない。だが今夜だけは、この白くて温かい要塞の中で、穏やかな夢を見られそうだった。
ラクの寝息のような振動が、心地よい揺り籠となって俺たちを眠りへと誘っていった。
「さ、さ、寒いですぅ……! 鼻水が凍りそうです……!」
ティアがガタガタと震えながら、毛布にくるまっている。日が暮れると、気温は氷点下を遥かに下回った。ヴォルグの『殲滅馬車』は寒冷地仕様の結界も張れるが、連日の激走で魔力エンジンの出力が低下しており、今夜は冷却とメンテナンスのためにエンジンを停止しなければならない。
「……仕方ない。今夜も野営だ」
俺たちは風を避けられる岩陰に馬車を止め、テントを設営した。だが、リリの手際で完璧なテントが建っても、染み込んでくる冷気までは防げない。
「うぅ……焚き火が効かねえ。薪が湿気ってやがる」
グレンが火種に息を吹きかけるが、頼りない炎はすぐに風にかき消されてしまう。
「拙者の『気合』でも、この寒さは凌げぬか……」
カエデも青い顔をして刀を抱いている。
このままでは凍死、とまではいかなくとも、体力を大幅に削られる。ヴォルグに至っては「指がかじかんで整備ができねえ!」と工具を投げ出している始末だ。
「……困ったな」
俺が吐く息も白い。リリが心配そうに俺の手を握り、自身の体温で温めようとしてくれるが、彼女の手も冷たい。
「みゅ~」
その時。俺の懐から、白い毛玉――ラクが顔を出した。ラクは周囲を見回し、寒さに震える仲間たちを確認すると、決意を秘めた瞳(?)で俺を見上げた。
「みゅッ!(まかせろ!)」
ラクがテントの中央に飛び降りる。そして、深呼吸をするように体を膨らませ始めた。
ポンッ、ポムッ、ムクムクムク……。
ラクの体が巨大化していく。バランスボール大を超え、大岩サイズになり、さらに膨らんで――ついにはテントの内側いっぱいに広がる、巨大な白いドーム状になった。
「な、なんですこれぇ!?」
「巨大な……かまくら?」
ティアとカエデが驚く中、ラクの体毛がふわりと開き、俺たちを内側へと招き入れた。恐る恐る中に入ると、そこは天国だった。
「……温かい」
ラクの体毛は極上の羽毛布団のように柔らかく、そしてほんのりと熱を帯びていた。こいつは不運を吸収し、それを熱エネルギーに変換する性質がある。俺たちの旅路に漂う「厄災の予兆(不運)」や、ティアから漏れ出る「確率の歪み」を燃料にして、自家発電しているのだ。
「みゅ~(あったまれ~)」
壁面(ラクの内側)から、安らぐ声が響く。
「すげぇ! 生きた暖房じゃねえか!」
グレンが大の字になってラクの毛並みに埋もれる。
「ヒャハハ! こりゃいい! 極楽だぜェ!」
ヴォルグも寝転がる。
俺たちは車座になり、ラクの体温に包まれて暖を取ることにした。自然と、配置が決まっていく。
中央の最も温かい特等席には、俺とリリ。リリはここぞとばかりに俺に密着し、頭を肩に乗せている。
「ジン様……ポカポカしますね」
「ああ。ラクのおかげだな」
俺がリリの腰に手を回すと、彼女は嬉しそうに目を細めた。その向かい側では、ティアが「あわわ、埋もれますぅ」と毛並みに沈み込んでいる。
そして、少し離れた場所では。
「……お、おい。少し詰めすぎじゃねえか?」
グレンが困惑気味に言った。彼のすぐ隣、腕が触れ合う距離にカエデが座っていたのだ。他の場所は空いているのに、わざわざそこを選んでいる。
「む、無礼者。……ここが一番、熱効率が良いと判断しただけだ。他意はない」
カエデはそっぽを向いて言い訳をしているが、その耳は真っ赤だ。武人としての凛々しさはどこへやら、完全に乙女の顔になっている。
「そうか? まあ、寒いよりはいいか。ほら、もっと寄れよ」
「ひゃっ!?」
グレンが無自覚にカエデの肩を引き寄せる。カエデが沸騰し、湯気を出しながら硬直した。
「……ふふっ。お熱いですね」
リリが小声で冷やかす。
「まあな。ラクの熱だけじゃないみたいだ」
俺も苦笑し、ラクの毛並みを撫でた。外は極寒の雪山。追手も迫っているかもしれない。だが今夜だけは、この白くて温かい要塞の中で、穏やかな夢を見られそうだった。
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