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第78話:ジャックの賭け
翌朝。 ラクの「モフモフドーム」が解除されると、外は変わらず白銀の世界だったが、昨晩の凍てつくような強風は止んでいた。
「ふぁぁ……よく寝たぁ。ラクちゃんの毛布、最高でしたね」
ティアが伸びをする。 リリも肌艶が良く、昨日の疲れはすっかり取れたようだ。 俺たちは簡単な朝食を済ませ、馬車のエンジンを温め始めた。
その時だった。
ザザッ……ザザザッ……。
ヴォルグの懐から、電子ノイズのような音が響いた。 リエルとの連絡に使った、あの試作型通信機だ。
「ああん? 誰だ、朝っぱらから」
ヴォルグが不機嫌そうに応答する。
『……よう。生きてるか、爆弾魔』
スピーカーから聞こえてきたのは、低い男の声だった。 俺たちには馴染みのある、カジノ都市の裏通りで聞いた声だ。
「ジャックか?」
俺が声をかけると、向こうでグラスを置く音がした。
『ああ、ジンか。無事なようで何よりだ。……そこにはウチの跳ねっ返り(カエデ)もいるんだろうな?』
「主(あるじ)殿! カエデはここにおります!」
カエデが通信機に向かって姿勢を正した。 画面もないのに直立不動だ。律儀な奴だ。
『へっ、元気そうだな。お前がいないと店が静かで調子が狂うぜ』
「も、申し訳ありませぬ……。拙者の我が儘で、職場放棄を……」
『気にするな。言ったろ? 俺は面白い方に賭けるってな』
ジャックの声には、微かな笑いが混じっていた。
「どういう用件だ? ただの安否確認じゃないだろ」
俺が本題を促すと、ジャックの声が真剣なトーンに変わった。
『ああ。お前らが「神敵」になってから、こっちも騒がしくてな。教会や各国の諜報員が嗅ぎ回ってやがる。……だが、灯台下暗しとはよく言ったもんだ。奴らの包囲網には、いくつか「穴」がある』
ジャックは裏社会の顔役だ。 表の権力が及ばないルートや、隠された抜け道を知り尽くしている。
『お前らが目指している「灼熱の洞窟」だが、正面ルートは既に聖騎士団が封鎖している。……だが、俺が昔使っていた密輸ルートなら、誰にも見つからずに火口付近まで接近できる』
「……いいのか? 俺たちに協力すれば、あんたも『神敵』の仲間入りだぞ」
俺は確認した。 彼は商人であり、情報屋だ。 世界を敵に回すリスクと、俺たちに協力するメリット。天秤にかければ、どちらが重いかは明白だ。
だが、ジャックは鼻で笑った。
『ハッ、何を今更。俺はな、ジン。お前という男に「全財産」を賭けたんだよ』
「全財産?」
『ああ。お前がカジノでリエル様を負かしたあの夜、俺は確信したね。この腐った世界のルールをひっくり返せるのは、お前みたいな規格外のジョーカーだけだってな』
ジャックの声に、熱がこもる。
『俺はギャンブラーじゃないが、勝ち馬に乗る嗅覚には自信がある。……俺の賭けを、紙屑にしないでくれよ?』
「……フッ、高い賭け金だな」
俺はニヤリと笑った。 期待されるのは嫌いじゃない。特に、こちらの実力を理解した上での投資なら尚更だ。
「安心しろ。倍にして返してやる」
『期待してるぜ。……データ送るぞ。ヴォルグ、受信しろ』
通信機から地図データが転送される。 そこには、現在の山岳地帯から火山へ抜けるための、複雑だが安全な地下ルートが記されていた。 これなら、空からの監視も、地上の検問もスルーできる。
「恩に着る」
『礼はいい。カエデを頼んだぞ。……あいつは不器用だからな』
「主殿……! かたじけのうございます……!」
カエデが通信機に向かって涙ぐみながら頭を下げる。
通信が切れた。 俺たちは地図を確認し、進路を修正した。
「地下ルートか。また暗い旅になりそうだな」
グレンがぼやくが、その顔は明るい。 行き先が定まれば、あとは突き進むだけだ。
「ヴォルグ、頼めるか?」
「おうよ! 地下だろうが水中だろうが、この『殲滅馬車』に走破できねえ道はねえ!」
エンジンが唸りを上げる。 俺たちはジャックから託された「裏道」へと、馬車の鼻先を向けた。 目指すは第一の楔、『灼熱の洞窟』。 反撃の狼煙を上げる時は近い。
「ふぁぁ……よく寝たぁ。ラクちゃんの毛布、最高でしたね」
ティアが伸びをする。 リリも肌艶が良く、昨日の疲れはすっかり取れたようだ。 俺たちは簡単な朝食を済ませ、馬車のエンジンを温め始めた。
その時だった。
ザザッ……ザザザッ……。
ヴォルグの懐から、電子ノイズのような音が響いた。 リエルとの連絡に使った、あの試作型通信機だ。
「ああん? 誰だ、朝っぱらから」
ヴォルグが不機嫌そうに応答する。
『……よう。生きてるか、爆弾魔』
スピーカーから聞こえてきたのは、低い男の声だった。 俺たちには馴染みのある、カジノ都市の裏通りで聞いた声だ。
「ジャックか?」
俺が声をかけると、向こうでグラスを置く音がした。
『ああ、ジンか。無事なようで何よりだ。……そこにはウチの跳ねっ返り(カエデ)もいるんだろうな?』
「主(あるじ)殿! カエデはここにおります!」
カエデが通信機に向かって姿勢を正した。 画面もないのに直立不動だ。律儀な奴だ。
『へっ、元気そうだな。お前がいないと店が静かで調子が狂うぜ』
「も、申し訳ありませぬ……。拙者の我が儘で、職場放棄を……」
『気にするな。言ったろ? 俺は面白い方に賭けるってな』
ジャックの声には、微かな笑いが混じっていた。
「どういう用件だ? ただの安否確認じゃないだろ」
俺が本題を促すと、ジャックの声が真剣なトーンに変わった。
『ああ。お前らが「神敵」になってから、こっちも騒がしくてな。教会や各国の諜報員が嗅ぎ回ってやがる。……だが、灯台下暗しとはよく言ったもんだ。奴らの包囲網には、いくつか「穴」がある』
ジャックは裏社会の顔役だ。 表の権力が及ばないルートや、隠された抜け道を知り尽くしている。
『お前らが目指している「灼熱の洞窟」だが、正面ルートは既に聖騎士団が封鎖している。……だが、俺が昔使っていた密輸ルートなら、誰にも見つからずに火口付近まで接近できる』
「……いいのか? 俺たちに協力すれば、あんたも『神敵』の仲間入りだぞ」
俺は確認した。 彼は商人であり、情報屋だ。 世界を敵に回すリスクと、俺たちに協力するメリット。天秤にかければ、どちらが重いかは明白だ。
だが、ジャックは鼻で笑った。
『ハッ、何を今更。俺はな、ジン。お前という男に「全財産」を賭けたんだよ』
「全財産?」
『ああ。お前がカジノでリエル様を負かしたあの夜、俺は確信したね。この腐った世界のルールをひっくり返せるのは、お前みたいな規格外のジョーカーだけだってな』
ジャックの声に、熱がこもる。
『俺はギャンブラーじゃないが、勝ち馬に乗る嗅覚には自信がある。……俺の賭けを、紙屑にしないでくれよ?』
「……フッ、高い賭け金だな」
俺はニヤリと笑った。 期待されるのは嫌いじゃない。特に、こちらの実力を理解した上での投資なら尚更だ。
「安心しろ。倍にして返してやる」
『期待してるぜ。……データ送るぞ。ヴォルグ、受信しろ』
通信機から地図データが転送される。 そこには、現在の山岳地帯から火山へ抜けるための、複雑だが安全な地下ルートが記されていた。 これなら、空からの監視も、地上の検問もスルーできる。
「恩に着る」
『礼はいい。カエデを頼んだぞ。……あいつは不器用だからな』
「主殿……! かたじけのうございます……!」
カエデが通信機に向かって涙ぐみながら頭を下げる。
通信が切れた。 俺たちは地図を確認し、進路を修正した。
「地下ルートか。また暗い旅になりそうだな」
グレンがぼやくが、その顔は明るい。 行き先が定まれば、あとは突き進むだけだ。
「ヴォルグ、頼めるか?」
「おうよ! 地下だろうが水中だろうが、この『殲滅馬車』に走破できねえ道はねえ!」
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