歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第80話:天使の追撃

 第一の楔を破壊し、『灼熱の洞窟』を脱出した俺たちだったが、息つく暇はなかった。 洞窟の外に出た瞬間、上空から強烈なプレッシャーが降り注いできたのだ。

「……待ち伏せか」

 俺は空を睨んだ。 そこには、十数体の『天使』が整列し、俺たちを見下ろしていた。 白金の彫像のような無機質な身体。背中には光の翼。 だが、以前遭遇した個体とは装備が違う。彼らが手にしているのは武器ではなく、奇妙な杖や宝珠のような法具だった。

『対象捕捉。これより捕縛、および無力化を開始する』

 先頭の天使が杖を掲げる。 瞬間、周囲の空間がガラスのように変質し、幾何学的な紋様が浮かび上がった。

『広域制圧結界・展開。――全スキル、凍結(フリーズ)』

 バシュンッ!!

 空気が重くなる。 まるで泥沼に沈められたような感覚。

「ぐっ……!? 体が、重ぇ……!」

 グレンが膝をつく。 彼の自慢の【金剛皮】の輝きが消え、ただの肉体に戻っていく。

「ジン様……力が、入りません……」

 リリも苦しげに肩で息をしている。 彼女の【神速】を生み出す身体強化も、俺とのパスも、強制的に遮断されているようだ。

「……天の権限による、天理への直接干渉か」

 俺は舌打ちした。 俺の【確率操作】も発動しない。 この世界の理(ルール)の中で戦う限り、天の代行者である彼らには逆らえないということだ。

 そして、もっと最悪なことがある。 パスが切れたということは、俺が肩代わりしていたリリの『不運』が、行き場を失って彼女自身に逆流し始めているということだ。

「……っ、うぅ……!」

 リリが胸を押さえてうずくまる。 彼女の頭上で、崖の岩が不自然にひび割れ、今にも崩落しそうになっている。 このままでは、奴らに殺される前に、リリが世界の悪意(不運)に押し潰されてしまう。

『抵抗は無意味。速やかに削除を受け入れろ』

 天使たちが降下してくる。 武器を持たない彼らは、法具を使って俺たちを拘束しようとしていた。 このままでは全滅だ。

「ど、どうしましょう……!」

 ティアが涙目で杖を握りしめている。 彼女もまた、聖女としてのスキルを封じられているはずだ。

「……ティア。お前、何か魔法を使えるか?」 

「えっ? で、でも、スキルが……」 

「構わん。何でもいい、奴らの計算を狂わせろ!」

 俺は賭けに出た。 この結界は「天理上のスキル」を封じるものだ。 だが、ティアの持つ【確率の乱高下】は、スキルという枠組みを超えた「特異点(バグ)」だ。 天理すらも予測できない彼女の「運」なら、この状況を打破できるかもしれない。

「わ、わかりました! ええと、ええと……!」

 ティアはパニックになりながら、天使たちに向かって杖を突き出した。 本来なら、スキル封印の影響で魔力を練ることさえ不可能なはずだ。

「あっち行ってくださいぃぃ! 『ホーリー・バリア』!!」

 彼女が放ったのは、初歩的な防御魔法だった。 一瞬、杖の先で魔力が霧散しかける。だが次の瞬間、ありえない現象が起きた。 封じられたはずの魔力が、彼女の「確率の歪み」に巻き込まれ、強引に形を成したのだ。

 ブォンッ……!

 ティアの杖先から、ピンク色の怪しい光が漏れ出した。 それは結界のノイズと干渉し、バチバチと火花を散らす。

【警告:予期せぬ異常発生】 【術式干渉……反転……変異……】

 天使たちの動きが止まる。 ティアの放った光が、天使たちを包み込んだ。

『……? 規律に異常発生。行動制御に、異常……』

 天使の一体が、突然ガクガクと震え出した。 そして。

「ワンッ!」

 犬の鳴き真似をした。

「……は?」

 俺たちが呆気に取られている間に、異変は連鎖した。 隣の天使がクルクルとバレリーナのように回転し始め、別の天使は「ハッピー! ハッピー!」と奇声を上げながら手拍子を打ち始めたのだ。

『警告、警告。思考回路が汚染されています』 『強制再起動……失敗。踊りたい衝動が抑制できません』

 無機質だったはずの天使たちが、まるで陽気なカーニバルの集団のように踊り狂っている。 盆踊りを始める奴、ラインダンスを踊る奴、何故かコサックダンスで高速移動する奴。 地獄のような光景(絵面的な意味で)が広がっていた。

「な、なんですかこれぇ!?」 

 ティア自身が驚愕している。

 俺は即座に【解析のモノクル】(機能回復)で状況を確認した。

【術式】ホーリー・バリア(防御) 【判定】クリティカル(方向性:斜め上) 【結果】対象の思考ルーチンを『陽気なダンスパーティ』に書き換え。 【備考】超・大成功(ミラクル)。

「……ぶっ」

 俺は吹き出しそうになるのを堪えた。 防御魔法が、どう歪めば「強制ダンスの呪い」になるんだ。 だが、結果として最強の足止めになっている。 結界の機能も、天使たちの狂乱によって崩壊し、俺たちのスキルも戻ってきていた。

「今だ! この隙にズラかるぞ!」 

「お、おう! なんかよくわからねえが、今のうちは攻撃してこねえみたいだな!」

 グレンがティアを小脇に抱え、ヴォルグが馬車を急発進させる。

「リリ、乗れ!」 

「はい!」

 俺たちは踊り狂う天使たちの間を縫って、強引に突破した。 天使たちは「待てー♪」「一緒に踊ろうよー♪」などと楽しげな声をかけながら追いかけてこようとするが、足が勝手にステップを踏んでしまい、まともに進めないようだ。

「ヒャハハハ! ざまぁみやがれ! 神の使いが形無しだぜ!」 

 ヴォルグが窓から爆弾(花火)をばら撒き、さらにカオスな状況にして離脱する。

      ◇

 安全圏まで逃げ切った後。 車内では、ティアがまたしても縮こまっていた。

「うぅ……ごめんなさい。また変なことしちゃいました……」 

「謝るな」

 俺はティアの頭に手を置いた。 今回は、文句なしのファインプレーだ。

「お前のそのデタラメな運が、俺たちを救ったんだ。……正直、計算できる戦力じゃないが、切り札にはなる」

 俺の言葉に、ティアが顔を上げる。 その瞳がパァッと輝いた。

「ほ、本当ですか!? 私、役に立ちましたか!?」 

「ああ。大金星だ」 

「やったぁ! えへへ、神様ありがとう!」

 ティアが無邪気に笑う。 その神様(の使い)を社会的に抹殺するような辱めを与えた直後に言うセリフじゃない気もするが。

「みゅ~(やるじゃないか)」 ラクもティアの膝に乗り、労うように尻尾を振っている。

 リリの「不運」が俺の武器なら、ティアの「狂運」は俺の想定を超える奇跡を起こすジョーカーだ。 使いこなすのは至難の業だが、ハマればこれほど頼もしいものはない。

 俺たちは、踊る天使たちの姿を脳裏に焼き付けながら(トラウマになりそうだ)、次なる目的地『深海の遺跡』へと馬車を走らせた。
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