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第81話:第二の天の楔:深海の遺跡
次なる目的地は、大陸南方の海域に沈む『深海の遺跡』だ。俺たちは海岸線に到着すると、ヴォルグの合図で馬車を海へと乗り入れた。
「ヒャハハハ! 潜航開始だ! 水圧なんぞクソ喰らえ!」
ヴォルグがレバーを引くと、『殲滅馬車』の車輪が格納され、車体全体が魔力シールドで覆われる。水陸両用モードから、さらに高深度に耐えうる『深海潜航モード』への変形だ。
ゴボボボボ……。
窓の外が青から深い紺碧、そして漆黒の闇へと変わっていく。ライトが照らす先には、異形の深海魚や巨大な海藻の森が広がっていた。
「うわぁ……。お魚さんがいっぱいですぅ……」
ティアが窓に張り付いてはしゃぐ。
「深海とは、かくも静謐な場所であったか」
カエデも感嘆の声を漏らす。
やがて、海底に巨大な石造りの神殿が見えてきた。古代文明の遺産のような威容を誇るその中心に、淡い光を放つ柱――『第二の天の楔』が鎮座している。
「見つけたぞ。あれだ」
俺はモノクルで確認した。だが、問題がある。神殿の周囲には強力な結界が張られており、馬車のままでは接近できない。生身で近づき、直接爆破する必要がある。
「俺とリリで行く。ヴォルグはここで待機。グレンたちは迎撃準備だ」
俺たちはヴォルグ特製の『水中呼吸の魔導具(小型)』を口にくわえ、ハッチから海中へと飛び出した。
冷たい水圧が全身を締め付ける。 動きが鈍る。水の抵抗は陸上の比ではない。 だが――
ヒュンッ!
リリは水の中であることを忘れたかのように、矢のような速度で先行していた。 水の抵抗を受け流し、まるで水流そのものになったかのような滑らかな動き。
「……すげぇな」
俺が感心していると、神殿の影から半魚人のような守護者(ガーディアン)たちが現れた。槍を持ったマーマンの群れだ。水中戦はお手の物だろう。
「させません」
リリが双剣を振るう。水の抵抗で剣速が落ちるはずなのに、彼女の斬撃は衰えない。すれ違いざまにマーマンの武器を弾き、急所を突く。水中でも【AGI:SSS】は健在だった。
「リリ、動きにくいだろうに、よくやれるな」
「はい。ジン様の魔力の鼓動(リズム)に合わせていますから」
リリが振り返り、泡の中で微笑む(ように見えた)。俺とのパスを通じて魔力の波長を完全に同調させ、身体強化の効率を極限まで高めているらしい。他人の生体リズムに自らを完璧に合わせるなど、並大抵の集中力では不可能だ。相変わらず、愛が重いというか、技術レベルが高すぎる。
俺たちは敵を蹴散らし、楔の根元へと到達した。ヴォルグ製の特殊爆雷を設置する。作業は順調だった。
だが、その時。
ガキンッ!!
俺の口元に衝撃が走った。流れ弾か、それとも破片か。口にくわえていた呼吸魔導具にヒビが入り、砕け散ってしまった。
「ごぼッ!?」
空気が漏れる。肺の中の酸素が一気に失われる。苦しい。視界が霞む。深海での酸素喪失は、死に直結する。
(まずい……意識が……)
俺がもがきかけた、その瞬間。
ぐいっ。
襟首を掴まれ、引き寄せられた。目の前に、リリの顔がある。彼女は自分の呼吸具を外し――そのまま、俺の唇に自分の唇を重ねた。
「……んッ」
温かい空気が、口移しで俺の肺へと送り込まれてくる。リリの吐息。生命の共有。 酸素と共に、甘い痺れが脳髄に走る。
数秒後、唇が離れた。リリは顔を真っ赤にして(水中でもわかった)、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
『……これで、保ちますか?』
声は聞こえないが、口の動きでわかった。俺は頷き、親指を立てた。十分だ。いや、過剰供給で頭がクラクラするくらいだ。
俺たちは爆雷のスイッチを入れ、馬車へと急行した。背後で轟音が響き、白亜の柱が崩壊していく。第二の楔、破壊完了。
◇
馬車に戻った俺たちを迎えたのは、顔を真っ赤にした女性陣だった。
「あ、あわわわ……! み、見ちゃいましたぁ……!」
ティアが両手で顔を覆いながら指の隙間から見ている。
「……破廉恥な。し、しかし……あれもまた、主従の絆の形か……?」
カエデが腕組みをして唸っているが、耳まで赤い。
どうやら、馬車の窓から丸見えだったらしい。
「ふふっ。ごちそうさまでした、ジン様」
リリだけは満足げに唇を拭い、俺の腕に抱きついてきた。水中での口移し。 それは彼女にとって、どんな高級ディナーよりも甘美な「勝利の味」だったに違いない。
「……次はもっと頑丈な呼吸具を作らせる」
俺は顔を逸らして誤魔化した。だが、その心臓がまだ少し早鐘を打っていることを、リリには悟られている気がした。
深海の闇を抜け、馬車は浮上を開始する。次なる目的地へ。俺たちの旅は、さらに熱を帯びて続いていく。
「ヒャハハハ! 潜航開始だ! 水圧なんぞクソ喰らえ!」
ヴォルグがレバーを引くと、『殲滅馬車』の車輪が格納され、車体全体が魔力シールドで覆われる。水陸両用モードから、さらに高深度に耐えうる『深海潜航モード』への変形だ。
ゴボボボボ……。
窓の外が青から深い紺碧、そして漆黒の闇へと変わっていく。ライトが照らす先には、異形の深海魚や巨大な海藻の森が広がっていた。
「うわぁ……。お魚さんがいっぱいですぅ……」
ティアが窓に張り付いてはしゃぐ。
「深海とは、かくも静謐な場所であったか」
カエデも感嘆の声を漏らす。
やがて、海底に巨大な石造りの神殿が見えてきた。古代文明の遺産のような威容を誇るその中心に、淡い光を放つ柱――『第二の天の楔』が鎮座している。
「見つけたぞ。あれだ」
俺はモノクルで確認した。だが、問題がある。神殿の周囲には強力な結界が張られており、馬車のままでは接近できない。生身で近づき、直接爆破する必要がある。
「俺とリリで行く。ヴォルグはここで待機。グレンたちは迎撃準備だ」
俺たちはヴォルグ特製の『水中呼吸の魔導具(小型)』を口にくわえ、ハッチから海中へと飛び出した。
冷たい水圧が全身を締め付ける。 動きが鈍る。水の抵抗は陸上の比ではない。 だが――
ヒュンッ!
リリは水の中であることを忘れたかのように、矢のような速度で先行していた。 水の抵抗を受け流し、まるで水流そのものになったかのような滑らかな動き。
「……すげぇな」
俺が感心していると、神殿の影から半魚人のような守護者(ガーディアン)たちが現れた。槍を持ったマーマンの群れだ。水中戦はお手の物だろう。
「させません」
リリが双剣を振るう。水の抵抗で剣速が落ちるはずなのに、彼女の斬撃は衰えない。すれ違いざまにマーマンの武器を弾き、急所を突く。水中でも【AGI:SSS】は健在だった。
「リリ、動きにくいだろうに、よくやれるな」
「はい。ジン様の魔力の鼓動(リズム)に合わせていますから」
リリが振り返り、泡の中で微笑む(ように見えた)。俺とのパスを通じて魔力の波長を完全に同調させ、身体強化の効率を極限まで高めているらしい。他人の生体リズムに自らを完璧に合わせるなど、並大抵の集中力では不可能だ。相変わらず、愛が重いというか、技術レベルが高すぎる。
俺たちは敵を蹴散らし、楔の根元へと到達した。ヴォルグ製の特殊爆雷を設置する。作業は順調だった。
だが、その時。
ガキンッ!!
俺の口元に衝撃が走った。流れ弾か、それとも破片か。口にくわえていた呼吸魔導具にヒビが入り、砕け散ってしまった。
「ごぼッ!?」
空気が漏れる。肺の中の酸素が一気に失われる。苦しい。視界が霞む。深海での酸素喪失は、死に直結する。
(まずい……意識が……)
俺がもがきかけた、その瞬間。
ぐいっ。
襟首を掴まれ、引き寄せられた。目の前に、リリの顔がある。彼女は自分の呼吸具を外し――そのまま、俺の唇に自分の唇を重ねた。
「……んッ」
温かい空気が、口移しで俺の肺へと送り込まれてくる。リリの吐息。生命の共有。 酸素と共に、甘い痺れが脳髄に走る。
数秒後、唇が離れた。リリは顔を真っ赤にして(水中でもわかった)、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
『……これで、保ちますか?』
声は聞こえないが、口の動きでわかった。俺は頷き、親指を立てた。十分だ。いや、過剰供給で頭がクラクラするくらいだ。
俺たちは爆雷のスイッチを入れ、馬車へと急行した。背後で轟音が響き、白亜の柱が崩壊していく。第二の楔、破壊完了。
◇
馬車に戻った俺たちを迎えたのは、顔を真っ赤にした女性陣だった。
「あ、あわわわ……! み、見ちゃいましたぁ……!」
ティアが両手で顔を覆いながら指の隙間から見ている。
「……破廉恥な。し、しかし……あれもまた、主従の絆の形か……?」
カエデが腕組みをして唸っているが、耳まで赤い。
どうやら、馬車の窓から丸見えだったらしい。
「ふふっ。ごちそうさまでした、ジン様」
リリだけは満足げに唇を拭い、俺の腕に抱きついてきた。水中での口移し。 それは彼女にとって、どんな高級ディナーよりも甘美な「勝利の味」だったに違いない。
「……次はもっと頑丈な呼吸具を作らせる」
俺は顔を逸らして誤魔化した。だが、その心臓がまだ少し早鐘を打っていることを、リリには悟られている気がした。
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