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第83話:追憶のオアシス
奇跡の生還を果たしたグレンを回収し、俺たちは再び旅を続けていた。 目的地は、第3の楔があるとされる『天空の塔』。だが、その前に砂漠地帯を抜け、補給のためにオアシス都市を目指している。
揺れる馬車の中、全身包帯だらけのグレンが、ティアの回復魔法を受けながらガハハと笑っていた。
「いやぁ、死ぬかと思ったぜ! あいつら、数が多い上に一発が重いんだよな」
「笑い事ではありません! 本当に……本当に無事でよかったですぅ……」
ティアが涙目で杖を振るう。 カエデはグレンの隣にぴったりと張り付き、甲斐甲斐しく水を飲ませたり汗を拭いたりしている。完全に「世話女房」のポジションだ。
「しかし、解せぬな」
俺はコーヒー(リリが淹れた完璧な温度のもの)を飲みながら、グレンを見やった。
「いかにヒヒイロカネの装備と【VIT:S】があるとはいえ、数百の天使による集中砲火だぞ? 普通なら塵も残さず消滅しているはずだ」
俺のモノクルでの生存確率は0.01%だった。 それが覆った理由。単なる「根性」で片付けるには無理がある。
「ああん? そりゃテメェ、俺様の最高傑作のおかげに決まってんだろ」
運転席からヴォルグが鼻を鳴らす。
「あの大ハンマー『ギガント・ハンマー』にはな、攻撃機能だけじゃなく『魔力吸収転換(エネルギー・ドレイン)』の術式を組み込んでおいたんだよ」
「ドレイン?」
「ああ。受けた魔力攻撃を吸収して、使用者の生命力(HP)回復と身体強化に変換する機能だ。ま、理論上は可能ってだけで、普通の人間なら魔力酔いで脳が焼き切れる諸刃の剣だがな」
なるほど。 天使たちの極大魔法を浴びれば浴びるほど、グレンは回復し、硬くなっていたわけか。 そして、グレンの異常なタフネスと鈍感さ(痛覚鈍麻)が、魔力負荷の副作用を無効化した。 ヴォルグの狂気的な技術と、グレンのデタラメな肉体。 その二つが噛み合った結果の「生存」というわけだ。
「へっ、ヴォルグの旦那様々だな! おかげで最高の殴り合いができたぜ!」
「二度とするな馬鹿者。……寿命が縮んだぞ」
カエデがグレンの腕をつねる。 グレンは「痛てて」と言いつつも嬉しそうだ。
◇
昼過ぎ。 俺たちは砂漠の中にある小規模なオアシスに到着し、休憩を取ることにした。 澄んだ泉と、緑の木々。 殺伐とした逃避行の中で、久々に訪れた安息の地だ。
「わぁ……! 水浴びしてもいいですか!?」
ティアがはしゃぐ。
「周囲の警戒を忘れずにな。……リリ、少し休んでいろ。これまでの心労も溜まっているだろう」
俺はリリに声をかけた。 彼女はここ数日、戦闘に家事にと働き詰めだ。
「いえ、平気です。ジン様こそ、お疲れでしょう?」
リリは微笑んで首を振ると、手際よく昼食の準備を始めた。 その動きには一切の無駄がない。 カエデとティアが手伝おうとするが、リリの指示出しが完璧すぎて、二人は言われるがままに動く「手足」と化している。
「カエデさん、そちらの枝を。火力が強すぎます」
「は、はい! 承知!」
「ティアさん、お皿はあちらへ。……あ、転ばないように気をつけて」
「ひゃいっ! ……あぶなっ」
ティアが何もないところで躓きかけるのを、リリがすれ違いざまに支える。 料理を作りながら、周囲の状況を完全に把握し、コントロールしている。
「……勝てぬな」
カエデが薪をくべながら呟いた。
「武の腕前だけでなく、この配慮、視野の広さ。……リリ殿は、まさに『奥方』としての器が違う」
「ですよねぇ……。私なんて、聖女候補生なのに介護されてばかりで……」
ティアもしょんぼりしている。 その時。
ザバァッ!!
オアシスの泉から、巨大な触手が飛び出した。 水中に潜んでいた魔獣『クラーケン・オクトパス』だ。
「きゃあああっ!?」
「敵襲ッ!」
ティアが悲鳴を上げ、カエデが刀に手を伸ばす。 だが、それより速く。
ヒュンッ。
銀色の閃光が走った。 リリだ。 彼女は片手にフライパンを持ったまま、もう片方の手で『緋蜂』を投擲していた。
ドスッ! ギャァァァッ!
短剣は正確にクラーケンの眉間を貫き、魔獣は断末魔を上げて水面に沈んだ。 即死。
「……あ、新鮮なタコですね。今日の具材にしましょう」
リリが手首を返すと、投擲された短剣が魔力の糸に引かれるように手元へ戻ってきた。彼女は何事もなかったかのようにタコの足を切り分け始めた。
「……」 「……」
カエデとティアは、口を開けたまま固まっていた。 敵襲への反応速度。一撃必殺の戦闘力。そして、即座に食材として活用する判断力。 全てにおいて、次元が違う。
「ジン様の『仲間(所有物)』には、指一本触れさせませんから」
リリはニコリと笑った。 その笑顔は美しく、そして絶対的な「強者」の余裕に満ちていた。
「「……一生ついていきます、姉様(リリ殿)!!」」
ティアとカエデが同時に頭を下げた。 ここに、ヒロイン(?)たちの序列が完全に確定した瞬間だった。
「みゅ~(さすがだ)」
ラクがタコの足をもらってご満悦で齧っている。 俺は出来上がった極上の海鮮スープ(砂漠産)を啜りながら、頼もしすぎるパートナーに心の中で拍手を送った。 この旅、リリがいれば食いっぱぐれることだけはなさそうだ。
揺れる馬車の中、全身包帯だらけのグレンが、ティアの回復魔法を受けながらガハハと笑っていた。
「いやぁ、死ぬかと思ったぜ! あいつら、数が多い上に一発が重いんだよな」
「笑い事ではありません! 本当に……本当に無事でよかったですぅ……」
ティアが涙目で杖を振るう。 カエデはグレンの隣にぴったりと張り付き、甲斐甲斐しく水を飲ませたり汗を拭いたりしている。完全に「世話女房」のポジションだ。
「しかし、解せぬな」
俺はコーヒー(リリが淹れた完璧な温度のもの)を飲みながら、グレンを見やった。
「いかにヒヒイロカネの装備と【VIT:S】があるとはいえ、数百の天使による集中砲火だぞ? 普通なら塵も残さず消滅しているはずだ」
俺のモノクルでの生存確率は0.01%だった。 それが覆った理由。単なる「根性」で片付けるには無理がある。
「ああん? そりゃテメェ、俺様の最高傑作のおかげに決まってんだろ」
運転席からヴォルグが鼻を鳴らす。
「あの大ハンマー『ギガント・ハンマー』にはな、攻撃機能だけじゃなく『魔力吸収転換(エネルギー・ドレイン)』の術式を組み込んでおいたんだよ」
「ドレイン?」
「ああ。受けた魔力攻撃を吸収して、使用者の生命力(HP)回復と身体強化に変換する機能だ。ま、理論上は可能ってだけで、普通の人間なら魔力酔いで脳が焼き切れる諸刃の剣だがな」
なるほど。 天使たちの極大魔法を浴びれば浴びるほど、グレンは回復し、硬くなっていたわけか。 そして、グレンの異常なタフネスと鈍感さ(痛覚鈍麻)が、魔力負荷の副作用を無効化した。 ヴォルグの狂気的な技術と、グレンのデタラメな肉体。 その二つが噛み合った結果の「生存」というわけだ。
「へっ、ヴォルグの旦那様々だな! おかげで最高の殴り合いができたぜ!」
「二度とするな馬鹿者。……寿命が縮んだぞ」
カエデがグレンの腕をつねる。 グレンは「痛てて」と言いつつも嬉しそうだ。
◇
昼過ぎ。 俺たちは砂漠の中にある小規模なオアシスに到着し、休憩を取ることにした。 澄んだ泉と、緑の木々。 殺伐とした逃避行の中で、久々に訪れた安息の地だ。
「わぁ……! 水浴びしてもいいですか!?」
ティアがはしゃぐ。
「周囲の警戒を忘れずにな。……リリ、少し休んでいろ。これまでの心労も溜まっているだろう」
俺はリリに声をかけた。 彼女はここ数日、戦闘に家事にと働き詰めだ。
「いえ、平気です。ジン様こそ、お疲れでしょう?」
リリは微笑んで首を振ると、手際よく昼食の準備を始めた。 その動きには一切の無駄がない。 カエデとティアが手伝おうとするが、リリの指示出しが完璧すぎて、二人は言われるがままに動く「手足」と化している。
「カエデさん、そちらの枝を。火力が強すぎます」
「は、はい! 承知!」
「ティアさん、お皿はあちらへ。……あ、転ばないように気をつけて」
「ひゃいっ! ……あぶなっ」
ティアが何もないところで躓きかけるのを、リリがすれ違いざまに支える。 料理を作りながら、周囲の状況を完全に把握し、コントロールしている。
「……勝てぬな」
カエデが薪をくべながら呟いた。
「武の腕前だけでなく、この配慮、視野の広さ。……リリ殿は、まさに『奥方』としての器が違う」
「ですよねぇ……。私なんて、聖女候補生なのに介護されてばかりで……」
ティアもしょんぼりしている。 その時。
ザバァッ!!
オアシスの泉から、巨大な触手が飛び出した。 水中に潜んでいた魔獣『クラーケン・オクトパス』だ。
「きゃあああっ!?」
「敵襲ッ!」
ティアが悲鳴を上げ、カエデが刀に手を伸ばす。 だが、それより速く。
ヒュンッ。
銀色の閃光が走った。 リリだ。 彼女は片手にフライパンを持ったまま、もう片方の手で『緋蜂』を投擲していた。
ドスッ! ギャァァァッ!
短剣は正確にクラーケンの眉間を貫き、魔獣は断末魔を上げて水面に沈んだ。 即死。
「……あ、新鮮なタコですね。今日の具材にしましょう」
リリが手首を返すと、投擲された短剣が魔力の糸に引かれるように手元へ戻ってきた。彼女は何事もなかったかのようにタコの足を切り分け始めた。
「……」 「……」
カエデとティアは、口を開けたまま固まっていた。 敵襲への反応速度。一撃必殺の戦闘力。そして、即座に食材として活用する判断力。 全てにおいて、次元が違う。
「ジン様の『仲間(所有物)』には、指一本触れさせませんから」
リリはニコリと笑った。 その笑顔は美しく、そして絶対的な「強者」の余裕に満ちていた。
「「……一生ついていきます、姉様(リリ殿)!!」」
ティアとカエデが同時に頭を下げた。 ここに、ヒロイン(?)たちの序列が完全に確定した瞬間だった。
「みゅ~(さすがだ)」
ラクがタコの足をもらってご満悦で齧っている。 俺は出来上がった極上の海鮮スープ(砂漠産)を啜りながら、頼もしすぎるパートナーに心の中で拍手を送った。 この旅、リリがいれば食いっぱぐれることだけはなさそうだ。
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