歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第85話:ヒロインたちの誓い

 砂塵の迷宮を抜けた先には、奇岩が立ち並ぶ渓谷が広がっていた。 『天空の塔』への道のりはまだ遠い。

「……止めてくださいっ!」

 馬車の中で、リリが鋭い声を上げた。 ヴォルグが急ブレーキをかける。 車体が揺れ、ティアが「あだっ」と前の座席に額をぶつけた。

「どうした、リリ」 

「囲まれています。……数は三十。地中と、岩陰に潜伏しています」

 リリの【危機察知】は、もはや予知に近い精度だ。 俺がモノクルで確認すると、周囲の岩場に擬態した魔物の反応が無数にあった。

『ロック・スパイダー』。 岩のような甲殻を持つ巨大な蜘蛛だ。糸で獲物を捕らえ、溶解液を注入して啜る厄介な魔物だ。

「チッ、待ち伏せかよ。性格の悪い蜘蛛だぜ」

 グレンが大剣を担いで立ち上がる。

「俺とヴォルグで前方を蹴散らす。旦那は指揮を頼む」 

「わかった。リリ、カエデ、ティアは後方の護衛だ。馬車を死守しろ」

 俺たちは配置についた。 グレンが飛び出し、蜘蛛の群れに突っ込んでいく。ヴォルグが魔導砲で援護射撃を行う。 前線は安定している。 だが、敵もさるもの。前衛に気を取られている隙に、別動隊が絶壁を駆け下り、後方の馬車へと殺到した。

「来ました! 後ろからです!」

 ティアが叫ぶ。 十数匹のロック・スパイダーが、糸を吐きながら襲いかかってくる。

「聖なる光よ! 『ホーリー・レイ』!」

 ティアが迎撃魔法を放つ。 だが、彼女の『確率乱高下』が発動し、光線は蜘蛛ではなく、その足元の岩を粉砕した。 岩が崩れ、蜘蛛が体勢を崩す。 結果オーライだが、決定打にはならない。

「くっ、数が多い! 拙者が引き受ける!」

 カエデが抜刀し、前に出る。 ヒヒイロカネの刃が閃き、先頭の蜘蛛の足を斬り飛ばす。 だが、ロック・スパイダーの甲殻は硬い。斬撃は通るが、一撃で絶命させるには至らない。

「キシャアアアッ!」

 三匹の蜘蛛が同時に飛びかかり、粘着質の糸を吐き出した。 カエデが回避行動を取るが、足場が悪く、糸に足を絡め取られる。

「しまっ……!?」

 動けなくなったカエデに、鋭利な牙が迫る。 ティアが助けようとするが、別の蜘蛛に阻まれる。 絶体絶命。

 ――ヒュンッ。

 風が鳴った。 次の瞬間、カエデに襲いかかっていた三匹の蜘蛛の首が、同時に宙を舞った。

「え……?」

 カエデが目を見開く。 彼女の目の前に、銀色の髪をなびかせた少女が立っていた。 両手には、緋色に輝く二振りの短剣。 リリだ。

「……遅いです」

 リリは冷徹に言い放ち、地面を蹴った。 速い。 カエデの動体視力ですら追いきれない速度。 残像だけを残して戦場を駆け巡り、すれ違いざまに蜘蛛たちの急所――甲殻の隙間や目の奥を正確に貫いていく。

 ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!

 硬い甲殻など存在しないかのように、刃が吸い込まれていく。 ヴォルグの傑作『緋蜂』の切れ味と、リリの【AGI:SSS】が組み合わさった、死の舞踏。

「キ、キシャ……?」

 残った蜘蛛たちが恐怖に後ずさる。 だが、逃さない。

「ジン様の『所有物(なかま)』には、指一本触れさせませんから」

 リリが双剣を交差させる。 赤い魔力が刃に収束し、真空の刃となって解き放たれた。

 ズバァァァァンッ!!

 扇状に広がった斬撃が、残りの蜘蛛たちをまとめて両断した。 十数匹の魔物が、ものの数秒で沈黙した。 圧倒的。 それは戦闘というより、一方的な「掃除」だった。

「……ふぅ」

 リリは短剣を血振りして納めると、何事もなかったかのように振り返った。 カエデの足の糸を切り、手を差し出す。

「怪我はありませんか、カエデさん、ティアさん」 

「あ……はい……」 

「かたじけない……」

 二人は呆然とリリを見上げていた。 同じ戦場に立ち、同じ敵と戦って、これほどの差があるとは。 武人としてのカエデも、聖女候補生のティアも、格の違いをまざまざと見せつけられたのだ。

「……勝てぬな」

 カエデがポツリと漏らした。 それは剣の腕前のことだけではない。 ジンを守るという覚悟、敵を排除する冷徹さ、そして仲間への配慮。 全てにおいて、リリは完成されている。

「リリさん……すごいです! かっこいいです!」 

 ティアが目を輝かせて抱きつく。

「私、決めました! ジン様の一番はリリさんです! 私はその次……いえ、その次くらいで頑張ります!」 

「拙者はそのような不埒な考えはないが……貴殿の強さと覚悟には感服した。背中を預けるに足る、真の強者だ。……これからは『姉御』と呼ばせていただこう」

 カエデが真剣な顔で頭を下げる。 リリはきょとんとした後、困ったように微笑んだ。

「姉御はやめてください。……でも、背中は任せてください。ジン様の盾となる貴女たちを守るのも、私の役目ですから」

 その言葉に、二人は顔を見合わせ、深く頷いた。 ここに、ジンを巡るヒロインたちの序列は完全に確定した。 絶対的な頂点に君臨する正妻(リリ)と、それを支える愉快な妹分たち。

「おーい! 終わったかー!」

 前方での掃討を終えた俺とグレンが戻ると、そこでは三人の女性陣が何やら良い雰囲気になっていた。 殺伐とした戦闘後とは思えない空気に、俺は首を傾げた。

「なんだ、女子会か?」 

「はい! 結束を深めていました!」

 リリが満面の笑みで答える。 その肩には、いつの間にかラクが乗っており、「みゅヘン!(うまくいったな)」とドヤ顔をしていた。

 何があったかは知らないが、パーティの連携が強化されたなら何よりだ。 俺たちは再び馬車に乗り込み、荒野の先にある『天空の塔』を目指して車輪を進めた。
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