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第86話:ヴォルグの通信イヤリング
奇岩の渓谷を抜け、俺たちを乗せた『殲滅馬車』は順調に『天空の塔』を目指して進んでいた。 車内では、ヴォルグが何やら作業台で細かい部品をいじり回している。
「へっへっへ……できたぜ。これからの戦いに欠かせねぇ新兵器だ」
ヴォルグがニヤリと笑い、テーブルの上にジャラリと数個の小さな金属片を広げた。 それは、宝石のような魔石が埋め込まれた、イヤーカフ型のアクセサリーだった。
「なんだこりゃ? 俺に洒落っ気なんざねえぞ」 グレンが興味なさそうに摘まみ上げる。
「ただの飾りじゃねえよ筋肉ダルマ。こいつは『超小型・魔導通信イヤリング』だ」
ヴォルグが得意げに説明を始めた。
「以前リエルの嬢ちゃんから預かった通信機があっただろ? あれの術式を解析して、小型化・高性能化させたもんさ。半径十キロ以内なら、思考入力だけで会話ができる。雑音除去(ノイズキャンセリング)と暗号化通信機能付きだ」
「ほう、それは便利だな」
俺は感心した。 これまでの戦闘では、大声で指示を出すか、リリとの阿吽の呼吸に頼るしかなかった。これがあれば、離れた場所にいる仲間とも連携が取れるし、隠密行動中の意思疎通もスムーズになる。
「全員分あるぜ。……ほらよ」
ヴォルグがそれぞれのメンバーにイヤリングを投げる。 グレンには無骨な鉄色。カエデには和風の装飾が施された茜色。ティアには聖女らしい白色。 そして。
「ジンと嬢ちゃんにはこれだ」
俺とリリに渡されたのは、銀色の台座に、深い青色の魔石が嵌め込まれたシンプルなデザインのものだった。 よく見ると、二つは対になるデザインをしている。
「……あ」
リリが小さく声を漏らし、自分の手のひらのイヤリングと、俺が受け取ったそれを見比べる。
「ああん? 文句あるかよ。ヒヒイロカネの端材で作ったから強度は最強だ。お前らの『緋蜂』や『モノクル』とも魔力波長を合わせてある」
「い、いいえ! 文句なんてありません! 素晴らしいです!」
リリが慌てて首を振る。その顔は、ほんのりと上気していた。 彼女は俺のイヤリングを指先でそっと撫でると、大事そうに自分のそれを胸に抱いた。
「ジン様と、お揃い……」
ボソリと呟かれたその言葉は、誰にも(俺以外には)聞こえていないようだった。
◇
その日の夜。 野営の準備を終え、皆が寝静まった頃。 俺は見張りの交代のために起きていたリリに声をかけた。
「調子はどうだ、リリ。新しい装備には慣れたか?」
「はい、ジン様。……あの、これ」
リリが髪をかき上げ、左耳を見せる。 そこには、昼間ヴォルグから渡されたイヤリングが装着されていた。 銀色の髪に、青い魔石がよく映えている。
「似合っているか、不安で……」
「ああ、似合ってるぞ。実用性重視の道具だが、お前がつけると宝飾品みたいだ」
俺が素直に褒めると、リリはカァッと顔を赤くして俯いた。
「あ、ありがとうございます……。その、ジン様も……つけていただけますか?」
おずおずとしたリクエスト。 俺は苦笑しながら、ポケットからイヤリングを取り出し、右耳につけた。
「こうか?」
「……はいっ!」
リリがパァッと顔を輝かせる。 彼女は懐から手鏡を取り出し、俺と並んでその鏡を覗き込んだ。 鏡の中、二人の耳元で、対になった青い石が光っている。
「ふふっ……なんだか、夫婦(めおと)みたいですね」
リリが夢見るような声で囁く。 なるほど、彼女にとっては通信機という機能よりも、「ジンとお揃いのアクセサリー」という事実の方が重要だったらしい。 最強の暗殺者にして、頼れるパートナー。そんな彼女が見せる、年相応の少女らしい一面。
「……そうだな。悪くない」
俺が肯定すると、リリは鏡の中の俺に向かって、幸せそうに微笑みかけた。
「大切にします。……この石が砕けるまで、ずっと」
その言葉は、単なる道具への愛着ではなく、俺への永遠の誓いのようにも聞こえた。
「みゅ~(あついねぇ)」
いつの間にか起きていたラクが、焚き火のそばで呆れたように鳴いた。 俺は咳払いをして、視線を夜空に向けた。 満天の星空。その下で、俺たちの絆はまた一つ、目に見える形で強固なものとなった。
通信テストも良好。 装備も万全。 次は、第3の楔が待つ『天空の塔』だ。 どんな困難が待ち受けていようと、この声が届く限り、俺たちは負けない。
「へっへっへ……できたぜ。これからの戦いに欠かせねぇ新兵器だ」
ヴォルグがニヤリと笑い、テーブルの上にジャラリと数個の小さな金属片を広げた。 それは、宝石のような魔石が埋め込まれた、イヤーカフ型のアクセサリーだった。
「なんだこりゃ? 俺に洒落っ気なんざねえぞ」 グレンが興味なさそうに摘まみ上げる。
「ただの飾りじゃねえよ筋肉ダルマ。こいつは『超小型・魔導通信イヤリング』だ」
ヴォルグが得意げに説明を始めた。
「以前リエルの嬢ちゃんから預かった通信機があっただろ? あれの術式を解析して、小型化・高性能化させたもんさ。半径十キロ以内なら、思考入力だけで会話ができる。雑音除去(ノイズキャンセリング)と暗号化通信機能付きだ」
「ほう、それは便利だな」
俺は感心した。 これまでの戦闘では、大声で指示を出すか、リリとの阿吽の呼吸に頼るしかなかった。これがあれば、離れた場所にいる仲間とも連携が取れるし、隠密行動中の意思疎通もスムーズになる。
「全員分あるぜ。……ほらよ」
ヴォルグがそれぞれのメンバーにイヤリングを投げる。 グレンには無骨な鉄色。カエデには和風の装飾が施された茜色。ティアには聖女らしい白色。 そして。
「ジンと嬢ちゃんにはこれだ」
俺とリリに渡されたのは、銀色の台座に、深い青色の魔石が嵌め込まれたシンプルなデザインのものだった。 よく見ると、二つは対になるデザインをしている。
「……あ」
リリが小さく声を漏らし、自分の手のひらのイヤリングと、俺が受け取ったそれを見比べる。
「ああん? 文句あるかよ。ヒヒイロカネの端材で作ったから強度は最強だ。お前らの『緋蜂』や『モノクル』とも魔力波長を合わせてある」
「い、いいえ! 文句なんてありません! 素晴らしいです!」
リリが慌てて首を振る。その顔は、ほんのりと上気していた。 彼女は俺のイヤリングを指先でそっと撫でると、大事そうに自分のそれを胸に抱いた。
「ジン様と、お揃い……」
ボソリと呟かれたその言葉は、誰にも(俺以外には)聞こえていないようだった。
◇
その日の夜。 野営の準備を終え、皆が寝静まった頃。 俺は見張りの交代のために起きていたリリに声をかけた。
「調子はどうだ、リリ。新しい装備には慣れたか?」
「はい、ジン様。……あの、これ」
リリが髪をかき上げ、左耳を見せる。 そこには、昼間ヴォルグから渡されたイヤリングが装着されていた。 銀色の髪に、青い魔石がよく映えている。
「似合っているか、不安で……」
「ああ、似合ってるぞ。実用性重視の道具だが、お前がつけると宝飾品みたいだ」
俺が素直に褒めると、リリはカァッと顔を赤くして俯いた。
「あ、ありがとうございます……。その、ジン様も……つけていただけますか?」
おずおずとしたリクエスト。 俺は苦笑しながら、ポケットからイヤリングを取り出し、右耳につけた。
「こうか?」
「……はいっ!」
リリがパァッと顔を輝かせる。 彼女は懐から手鏡を取り出し、俺と並んでその鏡を覗き込んだ。 鏡の中、二人の耳元で、対になった青い石が光っている。
「ふふっ……なんだか、夫婦(めおと)みたいですね」
リリが夢見るような声で囁く。 なるほど、彼女にとっては通信機という機能よりも、「ジンとお揃いのアクセサリー」という事実の方が重要だったらしい。 最強の暗殺者にして、頼れるパートナー。そんな彼女が見せる、年相応の少女らしい一面。
「……そうだな。悪くない」
俺が肯定すると、リリは鏡の中の俺に向かって、幸せそうに微笑みかけた。
「大切にします。……この石が砕けるまで、ずっと」
その言葉は、単なる道具への愛着ではなく、俺への永遠の誓いのようにも聞こえた。
「みゅ~(あついねぇ)」
いつの間にか起きていたラクが、焚き火のそばで呆れたように鳴いた。 俺は咳払いをして、視線を夜空に向けた。 満天の星空。その下で、俺たちの絆はまた一つ、目に見える形で強固なものとなった。
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