歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第89話:王都への帰還

 翌日。 俺たちを乗せた『殲滅馬車』は、深い森を抜け、丘の上に到達した。 そこからは、俺たちが拠点としていた懐かしき王都の全景が見渡せるはずだった。

「……なんだ、ありゃあ」

 ヴォルグが呻くように言った。 王都は、巨大な白いドーム状の結界に覆われていた。 空には無数の天使が旋回し、監視の目を光らせている。 まるで、都市そのものを鳥籠に閉じ込めたかのような異様な光景。

「完全に包囲されてるな」

 俺はモノクルで解析を行った。 結界の魔力濃度は測定不能。物理的な攻撃も、魔法的な干渉も一切受け付けない『絶対不可侵領域』だ。

「あれじゃあ、中に入るどころか近づくことさえできねえぞ」 

 グレンが顔をしかめる。

「いいや、逆だ。奴らがこれほど厳重に守っているということは……」

 俺は地図上の王都の位置を指で叩いた。

「この中に『本丸』があるってことだ」

 世界中に点在する天の楔。 その最後の一つ。

 ……やはり、俺たちの足元――王都の地下深くだったか。 

 薄々感づいてはいたが、灯台下暗しとはこのことだ。あるいは、俺たちがこの街に引き寄せられたのも、天理の皮肉な導きだったのかもしれない。

「どうするんですか、ジン様? 正面突破は不可能です」 

 リリが不安そうに尋ねる。彼女の顔色は、昨日よりもさらに優れないように見えた。 指先が微かに震えているのを、俺は見逃さなかった。

「……ヴォルグ。隠密モード(ステルス)は使えるか?」 

「おうよ! だが、あんな高密度の結界をすり抜けるとなると、魔力エンジンの出力を限界まで絞らなきゃならねえ。見つかったら即死だぞ?」 

「構わん。行け」

 俺は即断した。 ここで立ち止まっている時間はない。リリの様子がおかしい。一刻も早く決着をつけなければ、取り返しのつかないことになる予感がした。

       ◇

 ヴォルグがスイッチを入れると、馬車の装甲が周囲の景色と同化し、気配が完全に消えた。 俺たちは息を潜め、天使の監視網の隙間を縫うようにして、結界の境界線へと接近する。

「……ここだ。結界の魔素配列に、一箇所だけ歪みがある」

 俺はモノクルで解析した座標をヴォルグに伝えた。 おそらく、かつてアルスが魔剣を手に入れるために潜った地下遺跡への入り口付近だ。そこからなら、内部へ侵入できる可能性がある。

「よし、突っ込むぞ! 舌噛むんじゃねえぞ!」

 馬車が音もなく加速する。 結界の被膜に接触した瞬間、車体が激しく軋んだ。

 ギギギギギギ……!

 空間が悲鳴を上げる。 だが、ヴォルグの魔導技術と、俺の確率操作による微調整が噛み合い、俺たちは針の穴を通すように結界の内側へと滑り込んだ。

「……抜けたッ!」

 目の前に広がったのは、死に絶えたように静まり返った王都の街並みだった。 人はいない。 住民たちは皆、家の中に隠れているのか、それとも……。

「嫌な静けさだ。……まるで墓場だな」 カエデが刀に手をかける。

 俺たちは裏通りを慎重に進み、北区画の森を目指した。 そこには、俺たちの家がある。

       ◇

「……着いた」

 森の奥。 そこには、半壊したまま放置された『嘆きの白亜邸』が佇んでいた。 アルスとの戦いで破壊された前庭はそのままで、蔦はさらに伸び、廃墟の様相を呈している。 だが、俺たちにとっては、世界で唯一の安らげる場所だ。
「ただいま、我が家」 リリが呟く。 その声は震えていた。

 俺たちは馬車をガレージに隠し、屋敷の中へと入った。 埃っぽい空気が鼻をつく。 だが、家具や調度品はあの日のままだ。

「まずは休息だ。決戦は明日。……今夜は英気を養うぞ」

 俺の言葉に、皆が頷く。 ティアとカエデが掃除を始め、グレンが食料庫を確認しに行く。ヴォルグは防衛システムの再起動に取り掛かった。

 俺はリリを見た。 彼女はキッチンで立ち尽くし、自分の手のひらを見つめていた。

「リリ?」 

「あ……はい! 今、お茶を淹れますね!」

 リリが慌てて振り返る。 その笑顔は、どこか張り付いたように不自然だった。

「……無理はするなよ」 

「平気です。……ここは、私の家ですから」

 リリはそう言って、ポットに手を伸ばした。 その指先が、一瞬だけポットの取っ手をすり抜け――カチャン、と音を立てて空振ったのを、俺は見てしまった。

「……ッ」

 リリが息を呑み、誤魔化すように素早く握り直す。 俺は何も言えなかった。 見て見ぬふりをするしかなかった。 今、それを問い詰めてしまえば、何かが決定的に壊れてしまいそうで。

「みゅう……」 足元でラクが、心配そうに俺とリリを見上げている。

 最後の夜が始まる。 この平穏が、嵐の前の静けさであることを、俺たちは痛いほど理解していた。
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