歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第94話:予期せぬ綻び

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 巨大な扉の向こうに広がっていたのは、底なしの闇と、その中心に浮かぶ一点の輝きだった。

 王都の地下深くに眠る、最後の『天の楔』。 それはこれまでの楔とは異なり、実体を持たない純粋な光の柱として存在していた。 周囲には、幾重もの魔法陣が回転し、厳重な守りを固めている。

「……綺麗な場所だな。墓場みたいだ」

 グレンが大剣を構え、皮肉っぽく呟く。 静謐な空間。だが、そこには明確な殺意が満ちていた。

『侵入者検知。排除行動を開始』

 光の柱から、無数の天使が湧き出した。 これまでの個体よりも一回り大きく、全身が複雑な紋様で装飾されている。上位個体だ。

「来るぞ! 総員、迎撃!」

 俺の号令と共に、戦端が開かれた。

 ドガガガガッ!!

 ヴォルグが携帯用ガトリング砲をぶっ放し、先頭の天使を牽制する。 グレンが咆哮と共に突っ込み、カエデがその影から神速の刃を走らせる。 ティアは後方で「あわわ」と言いながら適当に杖を振り回しているが、なぜか彼女への攻撃だけが不自然に逸れていく(ラッキー回避)。

 戦況は互角。 だが、俺たちの目的は殲滅ではない。楔の破壊だ。

「リリ! あそこだ! 中枢を叩け!」

 俺はモノクルで解析した、光の柱のコアを指差した。 リリなら、あの一点に到達できる。

「はいっ!」

 リリが地を蹴った。 銀色の軌跡を描き、天使たちの包囲網を縫うように疾走する。 速い。 誰も追いつけない。誰も触れられない。 最強の矛が、最後の標的へと突き刺さる――そのはずだった。

 ザッ。

 リリが最後の一歩を踏み込んだ、その瞬間。

「……え?」

 リリの体が、不自然に傾いだ。 何かに躓いたわけではない。攻撃を受けたわけでもない。 ただ、地面を蹴るはずだった右足が、床をすり抜けたのだ。

 ズザァッ!!

 勢いを殺せず、リリは無様に転倒した。 石畳の上を激しく転がり、壁に激突して止まる。

「リリ!?」

 俺は息を呑んだ。 あのリリが、戦闘中に転ぶ? ありえない。 彼女の【AGI:SSS】は、身体制御能力も含めての数値だ。何もない平地でバランスを崩すなど、天変地異が起きない限りありえないことだ。

『好機』

 天使たちがその隙を見逃すはずがない。 三体の天使が、倒れたリリに向かって槍を振り下ろす。

「しまっ……!」

 リリが顔を上げ、双剣で防ごうとする。 だが、その手が震えていた。 武器を握る力が入らないのか、『緋蜂』が手から滑り落ちる。

「リリッ!!」

 俺は叫び、駆け出した。 思考などない。作戦もない。 ただ、彼女を助けなければという本能だけで体が動いた。

「させねぇよッ!」

 ドゴォォォンッ!!

 俺が届くよりも早く、横合いから飛び込んだグレンが、天使たちをまとめて吹き飛ばした。 豪快なタックル。 グレンはリリの前に仁王立ちになり、後続の攻撃を受け止める。

「大丈夫か、嬢ちゃん! らしくねえぞ!」 

「……申し訳、ありません……」

 リリがよろよろと立ち上がろうとする。 俺は滑り込むように彼女の元へたどり着き、その体を抱き留めた。

「リリ! 怪我は……」

 言葉が、喉に詰まった。 俺の腕の中にある彼女の体が、羽毛のように軽い。 いや、軽いだけではない。

「……なんだ、これ……」

 俺は見た。 リリの右足。 ブーツの先が、半透明に透けていた。 向こう側の床が透けて見える。 実体がない。そこに「存在」が希薄化している。

「ジン、様……」

 リリが俺を見上げる。 その顔は死人のように白く、唇は震えていた。

「ごめんなさい……。隠していて、ごめんなさい……」 

「お前、まさか……」

 俺の脳裏に、最悪の推測が走る。 旅の途中、楔を破壊するたびに感じていた違和感。 リリの様子がおかしかったこと。 そして今、目の前で起きている現象。

 天の楔。 それは世界を管理するための杭。 そしてリリは、世界の厄災を封じるために造られた器。

 もし、その二つが「同じ理(ことわり)」で構成されていたとしたら? 楔を破壊することは、リリという存在を構成する術式そのものを破壊することと同義だとしたら?

「……馬鹿な」

 俺の手が震える。 俺は、リリを救うために戦っていたはずだ。 彼女を自由にするために、世界中の楔を折って回った。 だが、その行為そのものが、彼女の命を削っていたというのか。
「みゅう……!」 ラクが俺の肩から飛び降り、リリの透けた足に必死にしがみつく。 だが、その手もまた、空しくすり抜けてしまう。

「ジン様、逃げてください……。私はもう……」

 リリの声が遠い。 戦場の喧騒が遠のいていく。 俺の視界には、消え入りそうな愛しい少女の姿だけが映っていた。

 軍師としての冷徹な思考が停止する。 計算できない。予測できない。 こんな結末は、俺の筋書きにはない。

『排除対象の機能不全を確認』

 天使たちの包囲が狭まる。 絶体絶命の危機。 だが、今の俺には、剣を取る気力さえ湧かなかった。
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