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第95話:残酷な真実
思考が、凍りついていた。 目の前で透けていくリリの足。 それは、俺がこれまで積み上げてきた「勝利の方程式」が、根本から間違っていたことを突きつけていた。
『肯定する。推測は正しい』
無機質な声が響いた。 天使たちの包囲網が割れ、一際巨大な、黄金の装飾を施された白金の天使が進み出てくる。 上位執行者(ドミニオン)。 その顔のない頭部が、俺とリリを見下ろしていた。
『個体名リリ・クラウゼルは、天理が定めた「穢れの器」。世界から排出される歪みを集積し、隔離するための生体部品(パーツ)である』
天使が戦斧を地面に突き立てる。 その衝撃波だけで、周囲の空気がビリビリと震える。
『貴様らが破壊してきた「天の楔」とは、その器を現世に固定し、安定させるためのアンカーだ。楔を破壊すれば、器の固定は解け、存在を維持できずに霧散する。……当然の帰結だ』
「……なんだと?」
俺の声が震える。 俺たちは、リリを縛る鎖だと思って楔を壊してきた。 だが、それは鎖であると同時に、彼女をこの世界に繋ぎ止める「命綱」でもあったというのか。
「じゃあ、俺たちがやってきたことは……リリを救うためじゃなく、殺すための手順だったって言うのかよ……ッ!」
俺は叫んだ。 認めたくなかった。 俺の策が、俺の行動が、愛する者を死に追いやっていたなんて。
『左様。貴様らの反逆は、自らの首を絞めるだけの愚行。……滑稽な道化だ』
天使の嘲笑うような思念が脳に響く。
「嘘です……! そんなの、あんまりです……!」
ティアが泣き叫ぶ。
「天理とやら……。どこまで性根が腐っておるのだ」
カエデが刀を構える手が震えている。怒りで。
「……ジン様」
腕の中のリリが、弱々しく俺の名を呼んだ。 彼女の体はさらに透明度を増している。肌の温もりが、遠くなっていく。
「ごめんなさい……。薄々は、気づいていました」
「……気づいていただと?」
「はい。楔を壊すたびに、体が軽くなって……同時に、自分が消えていくような感覚があって……」
リリは儚げに微笑んだ。
「でも、言えませんでした。言えば、ジン様は止まってしまうから。……ジン様が望む『自由な世界』を、私のせいで閉ざしたくなかったから」
「馬鹿野郎ッ!!」
俺はリリを抱きしめた。 強く、強く。消えてしまわないように。
「お前がいない世界に、何の意味がある! 俺が欲しかったのは、お前が隣で笑っている未来だけだ! それ以外はいらない!」
「ジン様……」
リリの瞳から涙が溢れる。 その涙が頬を伝い、俺の服に染み込む感触だけは、まだ鮮明だった。
『理解不能。個人の感情で、世界の理を否定するか』
天使が戦斧を振り上げる。
『ならば、ここで終わらせよう。器は既に機能不全。速やかに廃棄し、新たな器を再設定するのみ』
天使の刃に、膨大な魔力が収束していく。 その輝きは、慈悲なき処刑の光。
「させねぇぞ、クソ野郎がぁッ!」
グレンが吠えた。 ヒヒイロカネの大剣を構え、俺たちの前に立ちはだかる。
「俺の雇い主を泣かせるんじゃねえ! 神様だか何だか知らねえが、ここを通るなら俺を倒してから行け!」
「我らもだ! これ以上の理不尽、看過できん!」 カエデが並び立つ。
「わ、私も戦います! リリさんを消させたりしません!」
ティアも杖を構える。
「ケッ、気に入らねえ展開だぜ! 全部ぶっ飛ばしてやる!」
ヴォルグがガトリング砲を回す。
仲間たちが、絶望的な状況でも戦意を失わずに壁となってくれている。 だが、俺の足は動かなかった。 軍師としての思考が、冷徹に「詰み(チェックメイト)」を告げている。
戦って勝てる相手ではない。 逃げても、リリの消滅は止まらない。 破壊してしまった楔を、今更直すこともできない。
どうすればいい? 確率を操作しても、前提条件が破綻していては意味がない。 「リリが助かる確率」が、物理的にゼロになっているのだから。
『排除実行』
上位天使が戦斧を振り下ろす。 閃光が奔る。 グレンたちが受け止めようとするが、その圧倒的な質量の前に弾き飛ばされる。
「ぐああああッ!?」
「きゃああッ!」
壁が崩れた。 俺とリリの前に、遮るものは何もない。
死の刃が迫る。 俺はリリを抱きしめたまま、動けなかった。 初めて感じた、本当の敗北感。 そして、全てを失うことへの恐怖。
――その時。
「みゅーーーーーーーーッ!!!」
俺の懐から、小さな白い影が飛び出した。
『肯定する。推測は正しい』
無機質な声が響いた。 天使たちの包囲網が割れ、一際巨大な、黄金の装飾を施された白金の天使が進み出てくる。 上位執行者(ドミニオン)。 その顔のない頭部が、俺とリリを見下ろしていた。
『個体名リリ・クラウゼルは、天理が定めた「穢れの器」。世界から排出される歪みを集積し、隔離するための生体部品(パーツ)である』
天使が戦斧を地面に突き立てる。 その衝撃波だけで、周囲の空気がビリビリと震える。
『貴様らが破壊してきた「天の楔」とは、その器を現世に固定し、安定させるためのアンカーだ。楔を破壊すれば、器の固定は解け、存在を維持できずに霧散する。……当然の帰結だ』
「……なんだと?」
俺の声が震える。 俺たちは、リリを縛る鎖だと思って楔を壊してきた。 だが、それは鎖であると同時に、彼女をこの世界に繋ぎ止める「命綱」でもあったというのか。
「じゃあ、俺たちがやってきたことは……リリを救うためじゃなく、殺すための手順だったって言うのかよ……ッ!」
俺は叫んだ。 認めたくなかった。 俺の策が、俺の行動が、愛する者を死に追いやっていたなんて。
『左様。貴様らの反逆は、自らの首を絞めるだけの愚行。……滑稽な道化だ』
天使の嘲笑うような思念が脳に響く。
「嘘です……! そんなの、あんまりです……!」
ティアが泣き叫ぶ。
「天理とやら……。どこまで性根が腐っておるのだ」
カエデが刀を構える手が震えている。怒りで。
「……ジン様」
腕の中のリリが、弱々しく俺の名を呼んだ。 彼女の体はさらに透明度を増している。肌の温もりが、遠くなっていく。
「ごめんなさい……。薄々は、気づいていました」
「……気づいていただと?」
「はい。楔を壊すたびに、体が軽くなって……同時に、自分が消えていくような感覚があって……」
リリは儚げに微笑んだ。
「でも、言えませんでした。言えば、ジン様は止まってしまうから。……ジン様が望む『自由な世界』を、私のせいで閉ざしたくなかったから」
「馬鹿野郎ッ!!」
俺はリリを抱きしめた。 強く、強く。消えてしまわないように。
「お前がいない世界に、何の意味がある! 俺が欲しかったのは、お前が隣で笑っている未来だけだ! それ以外はいらない!」
「ジン様……」
リリの瞳から涙が溢れる。 その涙が頬を伝い、俺の服に染み込む感触だけは、まだ鮮明だった。
『理解不能。個人の感情で、世界の理を否定するか』
天使が戦斧を振り上げる。
『ならば、ここで終わらせよう。器は既に機能不全。速やかに廃棄し、新たな器を再設定するのみ』
天使の刃に、膨大な魔力が収束していく。 その輝きは、慈悲なき処刑の光。
「させねぇぞ、クソ野郎がぁッ!」
グレンが吠えた。 ヒヒイロカネの大剣を構え、俺たちの前に立ちはだかる。
「俺の雇い主を泣かせるんじゃねえ! 神様だか何だか知らねえが、ここを通るなら俺を倒してから行け!」
「我らもだ! これ以上の理不尽、看過できん!」 カエデが並び立つ。
「わ、私も戦います! リリさんを消させたりしません!」
ティアも杖を構える。
「ケッ、気に入らねえ展開だぜ! 全部ぶっ飛ばしてやる!」
ヴォルグがガトリング砲を回す。
仲間たちが、絶望的な状況でも戦意を失わずに壁となってくれている。 だが、俺の足は動かなかった。 軍師としての思考が、冷徹に「詰み(チェックメイト)」を告げている。
戦って勝てる相手ではない。 逃げても、リリの消滅は止まらない。 破壊してしまった楔を、今更直すこともできない。
どうすればいい? 確率を操作しても、前提条件が破綻していては意味がない。 「リリが助かる確率」が、物理的にゼロになっているのだから。
『排除実行』
上位天使が戦斧を振り下ろす。 閃光が奔る。 グレンたちが受け止めようとするが、その圧倒的な質量の前に弾き飛ばされる。
「ぐああああッ!?」
「きゃああッ!」
壁が崩れた。 俺とリリの前に、遮るものは何もない。
死の刃が迫る。 俺はリリを抱きしめたまま、動けなかった。 初めて感じた、本当の敗北感。 そして、全てを失うことへの恐怖。
――その時。
「みゅーーーーーーーーッ!!!」
俺の懐から、小さな白い影が飛び出した。
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