歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第96話:ジンの選択

「みゅーーーーーーーーッ!!!」

 懐から飛び出したラクが、空中で急速に膨張した。 普段の愛らしい姿とは違う、刺々しい毛を逆立てた、怒れる白い巨体。 ラクは俺とリリを覆い隠すように展開し、天使の戦斧を真正面から受け止めた。

 ズドォォォォォンッ!!!

 衝撃音が洞窟を揺らす。 不運エネルギーを物理的な質量と熱に変換するラクの特性。それが、天理の断罪の一撃を辛うじて防いでいた。

「みゅ……っ、みゅぅ……!」

 だが、拮抗は一瞬。 ラクの白い毛が焼かれ、悲痛な鳴き声を上げて弾き飛ばされた。

「ラクッ!」

 俺が叫ぶ。 ラクは壁に激突し、元の小さなサイズに戻って力なく転がった。 ピクリとも動かない。

『無駄な抵抗だ』

 上位天使が無感情に告げる。 その刃は、再び俺たちに向けられていた。

『器(リリ)は崩壊しかけている。貴様らが楔を破壊した結果だ。自らの手で愛する者を殺しておきながら、今更なにを守ろうというのか』

 天使の言葉が、鋭利な刃物のように俺の胸を抉る。 事実だ。 俺が「リリを救う」と信じてやってきたことは、彼女の命綱を断ち切る行為でしかなかった。

「……ジン様」

 腕の中で、リリが俺の服を掴んだ。 その手は透き通り、今にも消えてしまいそうだ。

「もう、いいんです」

 リリは泣きそうな、けれど覚悟を決めた笑顔を向けた。

「私を……壊してください」

「な……ッ!?」

「最後の楔を破壊すれば、天理の干渉は終わります。そうすれば、この世界はジン様が望んだ『自由な世界』になります。……私の命一つで、それが叶うなら」

 リリは俺の手を取り、自分の胸――心臓の上へと導いた。

「私は元々、そのために作られた道具です。ジン様のおかげで、人間として生きる幸せを知ることができました。それだけで十分です」 

「ふざけるな……!」

 俺は叫んだ。 そんな奇麗事で納得できるか。 道具? 生贄? 知ったことか。

「世界中の人間が救われようが、天理が正されようが、お前がいないなら何の意味もない!」

 俺はリリの手を強く握り返した。

「俺は軍師だ。常に最大の利益(メリット)を得るために動いてきた。……俺にとっての最大利益は、お前だ。世界なんて、お前のオマケにもなりはしない」

 極論だ。 だが、それが俺の本音だった。 世界平和など、リリの笑顔一つと天秤にかければ、塵芥のように軽い。

『理解不能。個体の生存を優先し、種の存続と世界の安定を放棄するか。……愚かしい』

 天使が戦斧を振り上げる。
『ならば、望み通り共に消えるがいい』

 処刑の閃光が放たれる。 俺はリリを抱きしめ、背を向けた。 防御する術はない。回避も間に合わない。 だが、俺は諦めてはいなかった。

(思考しろ。計算しろ。確率はゼロじゃない)

 楔を壊せばリリが消える。壊さなければ殺される。 二者択一の詰み盤面。 だが、本当にそれしかないのか? 天理が定めたルール(シナリオ)の外側に、第三の選択肢(ルート)があるはずだ。 俺たちがこれまで、散々覆してきたように。

「死なせるかよ……ッ!」

 俺が歯を食いしばり、不運の代償として自分の命をベットしようとした、その時。

「させませんわよッ!!」

 上空から、凛とした声が降ってきた。 同時に、天井の岩盤が爆砕し、巨大な鉄塊が降り注いだ。

 ズゴォォォォォンッ!!!

 天使と俺たちの間に、深紅のコンテナが突き刺さる。 土煙が舞う中、コンテナのハッチが開き、中から武装した自動人形(ゴーレム)たちが飛び出して天使に特攻を仕掛けた。

『!?』

 予期せぬ増援に、天使が一瞬たじろぐ。

『こちらの計算もさせてもらうわよ、天の使いさん!』

 瓦礫の隙間から見えた空に、黄金に輝く巨大飛行戦艦が浮かんでいた。 『クイーン・リエル号』だ。 その艦橋で、カジノの女王が仁王立ちしているのが、モニター(通信機)越しではなく肉眼で見えた。

「リエル……!」

 俺が呟くと、イヤリングから彼女の声が響いた。

『勘違いしないでよね! 私が来たのは、貴方に貸しを作るためよ! ……それと、私のライバルが勝手に消えるのを止めに来ただけなんだから!』

 相変わらずの減らず口。 だが、その声は震えていた。 彼女もまた、決死の覚悟でこの死地へ飛び込んできたのだ。

「……ありがとな、女王様」

 俺は口元を歪めた。 首の皮一枚繋がった。 このわずかな猶予(タイムラグ)が、運命を分かつ。

「リリ。俺は諦めない」

 俺はリリを見つめ、断言した。

「楔も壊す。世界も救う。そして、お前も生き残らせる。……俺は強欲だからな。全部手に入れなきゃ気が済まないんだ」

 リリの瞳が揺れる。

「……はい。ジン様なら、きっと……」

 俺は立ち上がった。 理不尽な二択など、蹴り飛ばしてやる。 ここからは、俺たちだけの「解答」を叩きつける時間だ。
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