歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第99話:消えゆく体

「嫌だ……。こんな結末、俺は認めないぞ……ッ!」

 地下空間に俺の絶叫が響く。 だが、現実は無慈悲に進行していた。 腕の中のリリの輪郭が、光の粒子となって解け始めていた。

「ジン、様……」

 リリが口を動かすが、声にならない。 彼女の存在を定義していた「天の楔」というアンカーが失われ、天理(せかい)が彼女を「不要な歪み」として排除しようとしているのだ。 俺が奪取したはずの「固定権限」も、天理という巨大な奔流の前では、小石で濁流を止めようとするようなものだった。 出力が違いすぎる。

「くそっ、くそっ……! 止まれ、消えるな!」

 俺は必死に魔力を注ぎ込み、リリを繋ぎ止めようとする。 だが、指先は虚しくすり抜けるばかりだ。 触れられない。温もりすら感じ取れない。 一番近くにいるのに、彼女だけが別の次元へ連れ去られていくようだ。

「ジン! どうなってるんだ!」 

 グレンが駆け寄ってくるが、どうすることもできない。 ティアが回復魔法をかけようとするが、対象が存在しないため発動しない。

【警告:対象の存在確率が低下中】 【消失まで、あと三十秒】

 モノクルのカウントダウンが、死刑執行までの時間を刻む。 思考しろ。 何か手があるはずだ。 俺は軍師だ。どんな絶望的な盤面でも、勝ち筋を見つけ出してきたはずだ。

(天理がリリを「異物」として排除しようとしているなら……もっと濃い「異物」で覆い隠せばいい)

 一か八かだ。 俺は視線を足元に向けた。 そこには、震えながらリリを見上げている白い毛玉がいた。

「ラク!!」

 俺が叫ぶと、ラクは弾かれたように顔を上げた。 言葉はいらない。 俺の意図を――いや、俺たちの願いを、こいつは本能で理解している。

「みゅーーーーーーーーッ!!!」

 ラクが跳躍した。 空中でその体が爆発的に膨張し、同時にその純白の毛並みが、どす黒い漆黒へと変色していく。 それは、ラクが溜め込んでいた「不運エネルギー」の解放だった。 リリから生まれ、リリを守るために育った、世界で最も濃厚な呪いの塊。

 バシュッ!!

 黒く巨大化したラクが、消えかけたリリを丸呑みにするように包み込んだ。 柔らかい毛並みが繭となり、リリを外界から遮断する。

「……!」

 俺はラクの繭に手を触れた。 弾力のある感触。 そして、その奥に微かに感じる、リリの鼓動。

「……止まったか」

 モノクルのカウントダウンが停止している。 ラクが自身の体を「結界」とし、リリを天理の干渉から隔離したのだ。 世界の理(ルール)が届かない、特異点の内側へ。

「みゅ……ぅ……」

 ラクが苦しげに鳴いた。 無理やりリリの崩壊を抑え込んでいるため、ラク自身にも相当な負荷がかかっているのだろう。 長くは持たない。これはあくまで応急処置だ。

「よくやった、ラク」

 俺は黒い繭を両手で抱きしめた。 重い。 命の重さだ。

「リリ、聞こえるか」

 俺は繭越しに語りかけた。

「絶対に離さない。俺が天理ごと書き換えてやる」

 返事はない。 だが、繭の中からじんわりとした温もりが伝わってきた。 それが、彼女の答えだと思った。

「……おい、ジン。あれを見ろ」

 カエデが震える指で空を指差した。 崩落した天井の大穴。その向こうに見える空に、異変が起きていた。 遥か上空に浮かぶ『天空城』から、無数の光が降り注いでいる。 それは、新たな天使の軍勢だった。 さっきまでの比ではない。空を埋め尽くすほどの数が、こちらへ向かって降下してきている。

「本格的に潰しに来たか……」

 天理も本気だ。 リリという歪みを完全に消去するために、なりふり構わず戦力を投入してきたのだ。

「どうするんだ、大将! ここであいつらを迎撃するか!?」

  ヴォルグがガトリング砲を構え直す。

「いや、ここで戦ってもジリ貧だ。リリを救うには、根本的な原因を絶つしかない」

 俺は空に浮かぶ白亜の城を見据えた。 あそこに行かなければならない。 このふざけた筋書きを書いた天の意志を引きずり下ろし、俺たちの物語を取り戻すために。

「上だ。天空城へ乗り込む」

 俺は宣言した。 しかし、どうやって? ヴォルグの馬車は飛行可能だが、あの数の天使を突破して成層圏まで到達するのは不可能だ。

 その時。

『迎えに来たわよ、愛すべき馬鹿ども!』

 頭上から、頼もしい声が降ってきた。 リエルだ。 見上げれば、大破したはずの黄金の飛行戦艦が、黒煙を上げながらも再浮上していた。 ボロボロの船体。だが、その輝きは失われていない。

『私の船は沈まない! だって、私が乗っているんだから!』

 絶対強運の女王が、不敵に笑う。 彼女の強運が、物理的な限界を超えて船を飛ばしているのだ。

「……最高だ、女王様」

 俺はラクの繭を抱きかかえ、仲間たちに合図した。

「乗るぞ! 最終決戦だ!」

 俺たちは瓦礫を蹴って、降りてきたタラップへと飛び乗った。 目指すは天の頂。 神殺しの狼煙が上がる。

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