歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第103話:ティアの理外浸食

 リエルの先導で即死トラップ地帯を抜けた俺たちは、広大な円形のホールに辿り着いた。 天井は高く、壁面には無数の歯車が噛み合い、回転している。 世界の運行を司る時計塔のような空間だ。

「……行き止まりか?」

 グレンが周囲を見回す。 その時、ホールの中心で歯車が組み変わり、巨大な機械人形(ゴーレム)が姿を現した。 全身が鏡面仕上げの金属で構成され、顔の部分には巨大な一つ目が赤く輝いている。

『警告。規定外の運命変動を検知。排除プロセス、レベル最大』 
『因果律の強制執行を開始する』

 機械人形の声と共に、空間が歪んだ。

「来るぞ! 散開ッ!」

 俺が叫ぶと同時に、機械人形の一つ目から赤黒い光線が放たれた。 狙いはカエデ。 カエデは瞬時に反応し、横へと跳ぶ――はずだった。

「なッ……!?」

 カエデの体が動かない。 いや、動こうとした瞬間に、「既に光線に当たった」という結果が世界に上書きされたのだ。

 ドォォォンッ!!

「ぐあぁぁぁっ!?」

 カエデが吹き飛ばされ、壁に激突する。 直撃を受けた肩の装甲が砕け散っている。

「カエデ!」 

「ば、馬鹿な……。拙者は避けたはずだ……! 回避の動作を取る前に、衝撃が……!」

 カエデが苦悶の声を上げる。 俺はモノクルで解析し、戦慄した。

「『因果歪曲』……! 攻撃が当たったという『結果』を先に確定させ、その後に『攻撃した』という事実を補完しているのか!」

 回避不能。防御不能。 リエルの『絶対強運』に近いが、より攻撃的で悪質な権能だ。 これが天理の守護者か。

『次。対象、グレン』

 機械人形の目が光る。 グレンが構えるが、無駄だ。因果が書き換えられれば、防御の上から心臓を潰される。

「くそっ、打つ手なしかよ!」

 グレンが歯を食いしばる。 俺も【確率操作】で対抗しようとするが、相手の演算速度が速すぎる。

 絶体絶命。 その時。

「ひぃぃ! ま、またオバケですかぁ!?」

 最後尾にいたティアが、パニックになって走り出した。 彼女は自分の足をもつれさせ、派手に転倒する。

 ズザーッ!

 ティアが転び、手に持っていた聖女の杖がすっぽ抜けた。 杖は回転しながら空を飛び、機械人形の方へ向かっていく。

『脅威度、皆無。無視する』

 機械人形は杖を無視し、グレンへの因果書き換えを実行しようとした。 だが。

 カコンッ。

 飛んでいった杖が、壁の歯車の一つに「偶然」挟まった。

 ガガガガッ……!

 歯車の回転が止まる。 それは、この部屋全体の魔力供給を制御する、たった一つの重要なギアだった。 本来なら絶対に物が挟まらないよう結界で守られているはずの場所。 だが、ティアの杖は「結界の更新タイミング」と「歯車の回転周期」と「杖の飛行軌道」が奇跡的に(あるいは悪夢的に)重なった一点を突き、入り込んでしまったのだ。

『エラー。因果演算にノイズ発生。再計算中……』

 機械人形の動きが止まる。 さらに、無理やり回ろうとした歯車が逆回転を始め、周囲の機関を巻き込んで暴走した。

 バチチチチッ!!

 機械人形の赤い一つ目が明滅する。

『エ、エラ……あ、あ、あれ? 私、誰ヲ攻撃シヨウト……?』 

『対象、グレン……否、自分? 自分ヲ排除?』

 ティアの【確率乱高下】が、因果律の計算式に致命的なバグを流し込んだ。 「攻撃が必中する」という因果がねじれ、「自分に攻撃が必中する」という最悪の自滅コードへと書き換わる。

『因果、確定。……サヨウナラ』

 ズドンッ!!!

 機械人形が自らの拳で、自らの一つ目を粉砕した。 さらに胸部の動力炉を引きずり出し、握りつぶす。

 ドガァァァァァンッ!!!!!

 盛大な自爆。 爆風が吹き荒れ、俺たちは呆然と立ち尽くした。

「……」 「……」

 最強の番人が、勝手に狂って、勝手に死んだ。 その元凶である少女は、地面に突っ伏したまま顔を上げた。

「あだだ……。あれ? 杖はどこですか? 敵さんは?」

 ティアがきょろきょろと周囲を見回す。 煙を上げて沈黙した機械人形を見て、彼女は首を傾げた。

「あわわ、何もしてないのに崩れちゃいました! もしかして、寿命だったんでしょうか?」

「……お前な」

 俺は深い溜め息をついた。 寿命なわけがあるか。お前が寿命を縮めたんだよ。 だが、結果として最大の難所を無傷(カエデの怪我は軽微だ)で突破できた。

「ティア。……お前はそのまま、何も考えずに生きてくれ」 

「は、はい? よくわかりませんが、褒められてるなら嬉しいです!」

 ティアが満面の笑みを浮かべる。 その背後で、回収した杖がまだバチバチと不穏な音を立てていたが、見なかったことにした。

「行くぞ。先は長い」

 俺たちは再び歩き出した。 天理すらも狂わせる「バグ」を連れて。 これなら、ラスボスの計算も狂わせられるかもしれない。 そんな淡い期待(と胃痛)を抱きながら。
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