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第108話:理外の歪み
神殺しの戦いは、一方的な蹂躙と化していた。
『無駄だ。諦めよ』
デウスが指を振るうたびに、空間が削り取られ、防御不能の衝撃が俺たちを襲う。 グレンが血を吐きながら吹き飛び、カエデの刀が半ばから折れる。リエルが【絶対強運】で回避を試みるが、運命そのものを固定された攻撃の前では、確率の偏りなど誤差でしかない。
「くっ……! ここまで、なのか……!」
ヴォルグが膝をつく。彼の武器は全てスクラップにされ、もう撃てる弾はない。 俺も【解析のモノクル】を酷使しすぎて、視界が焼き切れそうだ。だが、解析結果はずっと同じ。 【勝率:0%】。
デウスの周囲には、視認不可能な『因果の壁』が張り巡らされている。こちらの攻撃は「当たらなかったこと」にされ、向こうの攻撃は「必ず当たること」にされる。 ルールブックを書き換えられる相手に、ゲームで勝てるわけがない。
「……嫌です」
その時、震える声がした。ティアだ。 彼女はボロボロの法衣を泥だらけにしながら、涙目で立ち上がっていた。
「嫌ですぅ! こんなの納得いきません! みんな頑張ったのに……リリさんもあんなに苦しんでいるのに……!」
ティアが杖を握りしめ、デウスに向かって走り出した。魔力は空っぽだ。ただのやけっぱちの特攻。
「ティア、待て!」
「ええい、このぉぉぉッ!」
ティアは俺の制止も聞かず、杖を振りかぶった。だが、案の定。
ズベッ!
彼女は何もない平坦な床で、盛大に足を滑らせた。漫画のように体が宙に浮き、回転する。 その遠心力で、握りしめていた杖が手からすっぽ抜けた。
ヒュルルルル……。
杖は間の抜けた回転音を立てながら、放物線を描いてデウスの方へ飛んでいく。 ただの木の棒が飛んでいったところで、神に届くはずがない。誰もがそう思った。
『脅威度、皆無』
デウスもまた、その杖を無視した。因果の壁を展開する必要すらないと判断したのだろう。あるいは、「当たらない」という未来が既に確定しているからか。
だが。
カコンッ。
杖はデウスの足元に落ち――跳ね返った拍子に、床の紋様の「ほんの僅かな窪み」に突き刺さった。
その瞬間。
バチチチチチッ!!!!!
デウスの足元から、黒い稲妻のようなノイズが噴き出した。
『……? エラー発生。座標計算にズレを検知』
デウスの動きがピタリと止まる。空間に張り巡らされていた『因果の壁』に、蜘蛛の巣のような亀裂が走り始めた。
「な、なんだ!?」
グレンが目を見開く。
俺はモノクルで解析した。そして、信じられない光景を目にした。
「……狂ったのか?」
ティアが転んで杖を投げた。それだけだ。だが、その杖が突き刺さった場所は、この空間を構成する術式の、超極小の繋ぎ目だった。本来なら神域の精度で組み上げられた完璧な術式。そこに、「確率の迷子」であるティアの杖が、ありえない角度とタイミングで干渉したことで、術式の循環が致命的に乱れたのだ。
例えるなら、精巧な懐中時計の歯車に、たまたま飛んできた砂利が挟まって停止したようなもの。天文学的な確率すら超えた、理外の奇跡(トラブル)。
『修正……修正不能。因果律の記述に矛盾発生。再起動を――』
デウスの輪郭がブレる。 鉄壁だった防御に、一瞬の隙が生まれた。「0%」だった勝率の数字が、激しく乱高下し始める。
「……ははっ」
俺は乾いた笑いを漏らした。やってくれたな、ポンコツ聖女。神様のご立派な筋書きに、特大の歪みをぶち込みやがった。
「あだだ……。あれ? 杖はどこですかぁ?」
ティアは地面に突っ伏したまま、きょろきょろしている。自分が何をしたのか分かっていない。だが、それでいい。
「総員、構えろ! 穴は開いたぞ!」
俺は叫んだ。神は今、計算処理に追われている。この一瞬こそが、俺たちが待ち望んでいた唯一の勝機。
「叩き込め! ありったけの理不尽を!」
俺たちの反撃が始まる。歪みでこじ開けられた運命の扉へ向かって。
『無駄だ。諦めよ』
デウスが指を振るうたびに、空間が削り取られ、防御不能の衝撃が俺たちを襲う。 グレンが血を吐きながら吹き飛び、カエデの刀が半ばから折れる。リエルが【絶対強運】で回避を試みるが、運命そのものを固定された攻撃の前では、確率の偏りなど誤差でしかない。
「くっ……! ここまで、なのか……!」
ヴォルグが膝をつく。彼の武器は全てスクラップにされ、もう撃てる弾はない。 俺も【解析のモノクル】を酷使しすぎて、視界が焼き切れそうだ。だが、解析結果はずっと同じ。 【勝率:0%】。
デウスの周囲には、視認不可能な『因果の壁』が張り巡らされている。こちらの攻撃は「当たらなかったこと」にされ、向こうの攻撃は「必ず当たること」にされる。 ルールブックを書き換えられる相手に、ゲームで勝てるわけがない。
「……嫌です」
その時、震える声がした。ティアだ。 彼女はボロボロの法衣を泥だらけにしながら、涙目で立ち上がっていた。
「嫌ですぅ! こんなの納得いきません! みんな頑張ったのに……リリさんもあんなに苦しんでいるのに……!」
ティアが杖を握りしめ、デウスに向かって走り出した。魔力は空っぽだ。ただのやけっぱちの特攻。
「ティア、待て!」
「ええい、このぉぉぉッ!」
ティアは俺の制止も聞かず、杖を振りかぶった。だが、案の定。
ズベッ!
彼女は何もない平坦な床で、盛大に足を滑らせた。漫画のように体が宙に浮き、回転する。 その遠心力で、握りしめていた杖が手からすっぽ抜けた。
ヒュルルルル……。
杖は間の抜けた回転音を立てながら、放物線を描いてデウスの方へ飛んでいく。 ただの木の棒が飛んでいったところで、神に届くはずがない。誰もがそう思った。
『脅威度、皆無』
デウスもまた、その杖を無視した。因果の壁を展開する必要すらないと判断したのだろう。あるいは、「当たらない」という未来が既に確定しているからか。
だが。
カコンッ。
杖はデウスの足元に落ち――跳ね返った拍子に、床の紋様の「ほんの僅かな窪み」に突き刺さった。
その瞬間。
バチチチチチッ!!!!!
デウスの足元から、黒い稲妻のようなノイズが噴き出した。
『……? エラー発生。座標計算にズレを検知』
デウスの動きがピタリと止まる。空間に張り巡らされていた『因果の壁』に、蜘蛛の巣のような亀裂が走り始めた。
「な、なんだ!?」
グレンが目を見開く。
俺はモノクルで解析した。そして、信じられない光景を目にした。
「……狂ったのか?」
ティアが転んで杖を投げた。それだけだ。だが、その杖が突き刺さった場所は、この空間を構成する術式の、超極小の繋ぎ目だった。本来なら神域の精度で組み上げられた完璧な術式。そこに、「確率の迷子」であるティアの杖が、ありえない角度とタイミングで干渉したことで、術式の循環が致命的に乱れたのだ。
例えるなら、精巧な懐中時計の歯車に、たまたま飛んできた砂利が挟まって停止したようなもの。天文学的な確率すら超えた、理外の奇跡(トラブル)。
『修正……修正不能。因果律の記述に矛盾発生。再起動を――』
デウスの輪郭がブレる。 鉄壁だった防御に、一瞬の隙が生まれた。「0%」だった勝率の数字が、激しく乱高下し始める。
「……ははっ」
俺は乾いた笑いを漏らした。やってくれたな、ポンコツ聖女。神様のご立派な筋書きに、特大の歪みをぶち込みやがった。
「あだだ……。あれ? 杖はどこですかぁ?」
ティアは地面に突っ伏したまま、きょろきょろしている。自分が何をしたのか分かっていない。だが、それでいい。
「総員、構えろ! 穴は開いたぞ!」
俺は叫んだ。神は今、計算処理に追われている。この一瞬こそが、俺たちが待ち望んでいた唯一の勝機。
「叩き込め! ありったけの理不尽を!」
俺たちの反撃が始まる。歪みでこじ開けられた運命の扉へ向かって。
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