歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第109話:女王の矜持

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 ティアのドジによって生まれた『歪み』は、デウスの絶対的な防御に風穴を開けた。 だが、神は止まらない。

『……再計算完了。脅威度判定、修正』

 デウスの全身からノイズが消え、再び冷徹な輝きが戻る。 しかし、その仮面の奥にある(はずの)視線は、明確に一点に固定されていた。

『個体名ティア。……確率変動の特異点。排除優先度、最上位』

 デウスがティアを指差した。 これまで「羽虫」程度にしか見ていなかった認識が、「災厄」へと書き換わったのだ。

「えっ……? わ、私ですか!?」

 ティアが杖を抱えて後ずさる。 デウスの背中の光翼が展開し、その全てがティアに照準を合わせた。

「させんッ!」

 俺は即座に前に出た。 叫ぶより速く、【確率操作】を連打する。

【確率操作】――対象:ティアの回避率。上昇。 【確率操作】――対象:デウスの照準精度。低下。 【確率操作】――対象:空間の魔素密度。拡散。

 思考速度の限界を超えて、あらゆる「不確定要素」をティアの生存に振る。 だが。

『無意味だ』

 デウスの攻撃は予備動作なしで放たれた。 俺が重ねた確率の壁を、「運命固定」という絶対的な理が紙のように突き破っていく。

『消去』

 音もなく、数条の光線がティアを襲った。 それは物理的な破壊力を持った光ではない。存在そのものを削り取る、因果律の刃だ。 グレンは遠すぎて間に合わない。カエデも体勢を崩している。 俺の干渉も弾かれた。

「くそっ、間に合えッ!」

 俺は懐からヴォルグ製の『対魔障壁発生グレネード』を鷲掴みにし、ティアの前に投げ込んだ。 物理的な盾で少しでも威力を減衰させるしかない。 だが、光線はそれすらも透過してティアに迫る。

「いやぁぁぁっ!」

 ティアが悲鳴を上げて目を閉じる。 死。 それが確定した未来――のはずだった。

 ガガガガガガッ!!!

 光線がティアの目前で弾け、火花を散らした。 何かが、見えない壁となって彼女を守ったのだ。

「……え?」

 ティアが目を開ける。 彼女の前に、ボロボロのドレスを纏った女性が立っていた。 背中には無数の光線が突き刺さり、ドレスを焦がしているが、その肉体には届いていない。 黄金の光が、彼女を包み込んでいた。

「リ、リエルさん……!?」

 カジノの女王、リエルだった。

「……ふん。相変わらず世話の焼ける子ね」

 リエルは振り返らず、扇子を開いてデウスを見据えた。 その額からは血が流れ、足は震えている。 だが、その背中は誰よりも高く、誇り高かった。

『理解不能。個体名リエル・バレンタイン。その強運は自己防衛にのみ最適化されているはず。他者を庇えば、運の容量(リソース)が不足し、自らが死ぬ確率は99.9%』

 デウスが淡々と事実を告げる。 そうだ。リエルの【絶対強運】は、あくまで「自分が勝つ(生き残る)」ための力だ。 それを他人のために使えば、自分を守るための運が枯渇する。 今、彼女は「自分が助かる運命」を捨てて、「ティアを守る運命」を無理やり手繰り寄せているのだ。

「うるさいわね、機械人形」

 リエルは鼻で笑った。

「計算、確率、99%? ……笑わせないでよ」

 彼女は一歩、前に出る。 光線が雨のように降り注ぐ中を、黄金の盾(オーラ)を展開して押し返していく。

「私はカジノの女王よ! 客がチップを賭けたなら、最後まで勝負の席を守るのがディーラーの務めでしょう!」

 リエルの矜持。 それは、自分の船に乗せた客を、自分の領域(テリトリー)に踏み込んだ人間を、決して見捨てないという王者のプライドだ。

「それに……! 私の船に乗せた客に、指一本触れさせるもんですか!」

 彼女の叫びに呼応するように、黄金のオーラが爆発的に膨れ上がった。 【絶対強運】の過剰駆動。 自身の命をチップにして、天理の攻撃を「ハズレ」にし続ける大博打。

「ぐっ……ぅぅ……!」

 リエルの口から血が溢れる。 限界を超えている。魂が削れているのだ。 俺は歯を食いしばり、モノクルの解析モードを最大出力に切り替えた。

(リエルが稼いでくれているこの時間……一秒たりとも無駄にはしない!)

 リエルの強運とティアの歪みが衝突している今、デウスの「運命固定」にはノイズが走っている。 その隙間を見つけ出す。 ただ守られるだけじゃない。この攻防の中に、反撃の糸口があるはずだ。

「リエル! 右だ! そこだけ出力が薄い!」

 俺は叫んだ。 解析で見えた、光線の「揺らぎ」を伝える。

「っ、わかったわよ!」

 リエルが俺の指示通りに盾の角度を変える。 直撃コースだった光線が逸れ、負荷が僅かに軽減される。

「ティア! ぼさっとしてんじゃないわよ! 私の運が尽きる前に、貴女の『歪み』で活路を開きなさい!」 

「は、はいっ! リエルさん、死なせないでくださいね!」

 ティアが涙を拭い、杖を構え直す。 リエルが命を削って繋いだ希望。俺が解析し、導き出した勝機。 役者は揃った。

「総員、リエルに続け! 神の計算を、さらに狂わせてやれ!」

 俺たちは再び駆け出した。 女王の背中が、眩しいほどに輝いていた。
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