109 / 150
第109話:女王の矜持
ティアのドジによって生まれた『歪み』は、デウスの絶対的な防御に風穴を開けた。 だが、神は止まらない。
『……再計算完了。脅威度判定、修正』
デウスの全身からノイズが消え、再び冷徹な輝きが戻る。 しかし、その仮面の奥にある(はずの)視線は、明確に一点に固定されていた。
『個体名ティア。……確率変動の特異点。排除優先度、最上位』
デウスがティアを指差した。 これまで「羽虫」程度にしか見ていなかった認識が、「災厄」へと書き換わったのだ。
「えっ……? わ、私ですか!?」
ティアが杖を抱えて後ずさる。 デウスの背中の光翼が展開し、その全てがティアに照準を合わせた。
「させんッ!」
俺は即座に前に出た。 叫ぶより速く、【確率操作】を連打する。
【確率操作】――対象:ティアの回避率。上昇。 【確率操作】――対象:デウスの照準精度。低下。 【確率操作】――対象:空間の魔素密度。拡散。
思考速度の限界を超えて、あらゆる「不確定要素」をティアの生存に振る。 だが。
『無意味だ』
デウスの攻撃は予備動作なしで放たれた。 俺が重ねた確率の壁を、「運命固定」という絶対的な理が紙のように突き破っていく。
『消去』
音もなく、数条の光線がティアを襲った。 それは物理的な破壊力を持った光ではない。存在そのものを削り取る、因果律の刃だ。 グレンは遠すぎて間に合わない。カエデも体勢を崩している。 俺の干渉も弾かれた。
「くそっ、間に合えッ!」
俺は懐からヴォルグ製の『対魔障壁発生グレネード』を鷲掴みにし、ティアの前に投げ込んだ。 物理的な盾で少しでも威力を減衰させるしかない。 だが、光線はそれすらも透過してティアに迫る。
「いやぁぁぁっ!」
ティアが悲鳴を上げて目を閉じる。 死。 それが確定した未来――のはずだった。
ガガガガガガッ!!!
光線がティアの目前で弾け、火花を散らした。 何かが、見えない壁となって彼女を守ったのだ。
「……え?」
ティアが目を開ける。 彼女の前に、ボロボロのドレスを纏った女性が立っていた。 背中には無数の光線が突き刺さり、ドレスを焦がしているが、その肉体には届いていない。 黄金の光が、彼女を包み込んでいた。
「リ、リエルさん……!?」
カジノの女王、リエルだった。
「……ふん。相変わらず世話の焼ける子ね」
リエルは振り返らず、扇子を開いてデウスを見据えた。 その額からは血が流れ、足は震えている。 だが、その背中は誰よりも高く、誇り高かった。
『理解不能。個体名リエル・バレンタイン。その強運は自己防衛にのみ最適化されているはず。他者を庇えば、運の容量(リソース)が不足し、自らが死ぬ確率は99.9%』
デウスが淡々と事実を告げる。 そうだ。リエルの【絶対強運】は、あくまで「自分が勝つ(生き残る)」ための力だ。 それを他人のために使えば、自分を守るための運が枯渇する。 今、彼女は「自分が助かる運命」を捨てて、「ティアを守る運命」を無理やり手繰り寄せているのだ。
「うるさいわね、機械人形」
リエルは鼻で笑った。
「計算、確率、99%? ……笑わせないでよ」
彼女は一歩、前に出る。 光線が雨のように降り注ぐ中を、黄金の盾(オーラ)を展開して押し返していく。
「私はカジノの女王よ! 客がチップを賭けたなら、最後まで勝負の席を守るのがディーラーの務めでしょう!」
リエルの矜持。 それは、自分の船に乗せた客を、自分の領域(テリトリー)に踏み込んだ人間を、決して見捨てないという王者のプライドだ。
「それに……! 私の船に乗せた客に、指一本触れさせるもんですか!」
彼女の叫びに呼応するように、黄金のオーラが爆発的に膨れ上がった。 【絶対強運】の過剰駆動。 自身の命をチップにして、天理の攻撃を「ハズレ」にし続ける大博打。
「ぐっ……ぅぅ……!」
リエルの口から血が溢れる。 限界を超えている。魂が削れているのだ。 俺は歯を食いしばり、モノクルの解析モードを最大出力に切り替えた。
(リエルが稼いでくれているこの時間……一秒たりとも無駄にはしない!)
リエルの強運とティアの歪みが衝突している今、デウスの「運命固定」にはノイズが走っている。 その隙間を見つけ出す。 ただ守られるだけじゃない。この攻防の中に、反撃の糸口があるはずだ。
「リエル! 右だ! そこだけ出力が薄い!」
俺は叫んだ。 解析で見えた、光線の「揺らぎ」を伝える。
「っ、わかったわよ!」
リエルが俺の指示通りに盾の角度を変える。 直撃コースだった光線が逸れ、負荷が僅かに軽減される。
「ティア! ぼさっとしてんじゃないわよ! 私の運が尽きる前に、貴女の『歪み』で活路を開きなさい!」
「は、はいっ! リエルさん、死なせないでくださいね!」
ティアが涙を拭い、杖を構え直す。 リエルが命を削って繋いだ希望。俺が解析し、導き出した勝機。 役者は揃った。
「総員、リエルに続け! 神の計算を、さらに狂わせてやれ!」
俺たちは再び駆け出した。 女王の背中が、眩しいほどに輝いていた。
『……再計算完了。脅威度判定、修正』
デウスの全身からノイズが消え、再び冷徹な輝きが戻る。 しかし、その仮面の奥にある(はずの)視線は、明確に一点に固定されていた。
『個体名ティア。……確率変動の特異点。排除優先度、最上位』
デウスがティアを指差した。 これまで「羽虫」程度にしか見ていなかった認識が、「災厄」へと書き換わったのだ。
「えっ……? わ、私ですか!?」
ティアが杖を抱えて後ずさる。 デウスの背中の光翼が展開し、その全てがティアに照準を合わせた。
「させんッ!」
俺は即座に前に出た。 叫ぶより速く、【確率操作】を連打する。
【確率操作】――対象:ティアの回避率。上昇。 【確率操作】――対象:デウスの照準精度。低下。 【確率操作】――対象:空間の魔素密度。拡散。
思考速度の限界を超えて、あらゆる「不確定要素」をティアの生存に振る。 だが。
『無意味だ』
デウスの攻撃は予備動作なしで放たれた。 俺が重ねた確率の壁を、「運命固定」という絶対的な理が紙のように突き破っていく。
『消去』
音もなく、数条の光線がティアを襲った。 それは物理的な破壊力を持った光ではない。存在そのものを削り取る、因果律の刃だ。 グレンは遠すぎて間に合わない。カエデも体勢を崩している。 俺の干渉も弾かれた。
「くそっ、間に合えッ!」
俺は懐からヴォルグ製の『対魔障壁発生グレネード』を鷲掴みにし、ティアの前に投げ込んだ。 物理的な盾で少しでも威力を減衰させるしかない。 だが、光線はそれすらも透過してティアに迫る。
「いやぁぁぁっ!」
ティアが悲鳴を上げて目を閉じる。 死。 それが確定した未来――のはずだった。
ガガガガガガッ!!!
光線がティアの目前で弾け、火花を散らした。 何かが、見えない壁となって彼女を守ったのだ。
「……え?」
ティアが目を開ける。 彼女の前に、ボロボロのドレスを纏った女性が立っていた。 背中には無数の光線が突き刺さり、ドレスを焦がしているが、その肉体には届いていない。 黄金の光が、彼女を包み込んでいた。
「リ、リエルさん……!?」
カジノの女王、リエルだった。
「……ふん。相変わらず世話の焼ける子ね」
リエルは振り返らず、扇子を開いてデウスを見据えた。 その額からは血が流れ、足は震えている。 だが、その背中は誰よりも高く、誇り高かった。
『理解不能。個体名リエル・バレンタイン。その強運は自己防衛にのみ最適化されているはず。他者を庇えば、運の容量(リソース)が不足し、自らが死ぬ確率は99.9%』
デウスが淡々と事実を告げる。 そうだ。リエルの【絶対強運】は、あくまで「自分が勝つ(生き残る)」ための力だ。 それを他人のために使えば、自分を守るための運が枯渇する。 今、彼女は「自分が助かる運命」を捨てて、「ティアを守る運命」を無理やり手繰り寄せているのだ。
「うるさいわね、機械人形」
リエルは鼻で笑った。
「計算、確率、99%? ……笑わせないでよ」
彼女は一歩、前に出る。 光線が雨のように降り注ぐ中を、黄金の盾(オーラ)を展開して押し返していく。
「私はカジノの女王よ! 客がチップを賭けたなら、最後まで勝負の席を守るのがディーラーの務めでしょう!」
リエルの矜持。 それは、自分の船に乗せた客を、自分の領域(テリトリー)に踏み込んだ人間を、決して見捨てないという王者のプライドだ。
「それに……! 私の船に乗せた客に、指一本触れさせるもんですか!」
彼女の叫びに呼応するように、黄金のオーラが爆発的に膨れ上がった。 【絶対強運】の過剰駆動。 自身の命をチップにして、天理の攻撃を「ハズレ」にし続ける大博打。
「ぐっ……ぅぅ……!」
リエルの口から血が溢れる。 限界を超えている。魂が削れているのだ。 俺は歯を食いしばり、モノクルの解析モードを最大出力に切り替えた。
(リエルが稼いでくれているこの時間……一秒たりとも無駄にはしない!)
リエルの強運とティアの歪みが衝突している今、デウスの「運命固定」にはノイズが走っている。 その隙間を見つけ出す。 ただ守られるだけじゃない。この攻防の中に、反撃の糸口があるはずだ。
「リエル! 右だ! そこだけ出力が薄い!」
俺は叫んだ。 解析で見えた、光線の「揺らぎ」を伝える。
「っ、わかったわよ!」
リエルが俺の指示通りに盾の角度を変える。 直撃コースだった光線が逸れ、負荷が僅かに軽減される。
「ティア! ぼさっとしてんじゃないわよ! 私の運が尽きる前に、貴女の『歪み』で活路を開きなさい!」
「は、はいっ! リエルさん、死なせないでくださいね!」
ティアが涙を拭い、杖を構え直す。 リエルが命を削って繋いだ希望。俺が解析し、導き出した勝機。 役者は揃った。
「総員、リエルに続け! 神の計算を、さらに狂わせてやれ!」
俺たちは再び駆け出した。 女王の背中が、眩しいほどに輝いていた。
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を
タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。
だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。
雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。
血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、
“最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。