111 / 111
第111話:軍師の策
しおりを挟む
俺が『亜空間の巾着』から解き放った漆黒の闇――凝縮された不運エネルギーは、ブラックホールのようにラクの繭へと吸い込まれていった。
ズズズズズズ……ッ。
繭が脈動する。 白かったラクの毛並みが、内側から染み出すようにドス黒く変色し、禍々しい紫電を放ち始めた。
『……何をした』
デウスの手が止まる。 神の目から見ても、俺の行動は理解不能な自殺行為に映ったはずだ。 消滅しかけている器(リリ)に、さらに致死性の猛毒(呪い)を注ぎ込んだのだから。
『自ら器を破壊したか。……ならば、手間が省けた』
デウスが興味を失ったように腕を下ろす。 奴の認識では、リリはこれで完全に崩壊し、穢れと共に消滅するはずだ。
「……ハッ。そう思うか?」
俺は汗を拭い、ニヤリと笑った。 心臓は早鐘を打っている。成功率は未知数。だが、理論(ロジック)は通っている。
「教えてやるよ、デウス。お前が作った『器』の仕様をな」
俺は黒く変色していく繭の前に立ち塞がった。
「リリは、世界の穢れを無限に溜め込むゴミ箱として設計された。だが、無限といっても限度がある。許容量を超えればどうなる?」
『……溢れ出し、世界を汚染する。だが、その前に器自体が自壊するよう設定されている』
「通常ならな。だが、今のリリは『天の楔』というリミッターを失っている状態だ」
俺は指を立てた。
「リミッターの外れた器に、計算外のエネルギーを限界まで注ぎ込む。……そうすれば、天理は何を起こす?」
精密な魔導回路なら焼き切れるか、暴走して終わりだ。 だが、この世界の理(ことわり)において、エネルギーは消滅しない。行き場を失った力は、形を変えて噴出する。
「『飽和(オーバーフロー)』だ」
俺は断言した。
「器としての機能が反転し、溜め込んだ『不運(マイナス)』が極限まで圧縮されれば、それは『事象を改変するエネルギー(プラス)』へと転じる。……毒を変じて薬と成す、究極の反則技だ」
俺がリリから吸い上げた不運を溜め込んでいたのも、この瞬間のためだ。 彼女が背負わされた呪いを、彼女自身を救うための力に変える。
『……詭弁だ。そのような事象改変、認められん』
デウスが右手を掲げる。 掌に、再び消滅の光が集束していく。 奴も本能的に察知したらしい。あの繭の中で生まれようとしているものが、自分にとって致命的な脅威になり得ることを。
『芽のうちに摘む』
「させねぇよ……ッ!」
俺は懐から、最後の魔導爆弾を取り出した。ヴォルグからくすねておいた予備だ。 だが、こんなもので神の光を防げるわけがない。
その時。
「行かせぬ!」
俺の前に、人影が飛び出した。 カエデだ。 彼女は血まみれの体で、折れた刀『兼定・改』を構えていた。 その背後には、倒れ伏したグレンがいる。
「カエデ! 無理だ、下がれ!」
「断る! グレン殿が命を懸けて守った場所だ……! 拙者が退くわけにはいかん!」
カエデの瞳が決意に燃える。 彼女だけではない。
「ヒャハ……! 武器がなけりゃ、拳で殴るまでだァ!」
ヴォルグが素手で構える。ガトリング砲は既に鉄屑だ。 ティアもふらふらと立ち上がり、折れた杖の先端を握りしめている。
「わ、私も……! 聖女の意地を見せますぅ!」
「私もよ! 私のカジノで、客に手出しはさせないわ!」
リエルがボロボロのドレスを翻し、前に出る。魔力は尽きかけているが、【絶対強運】のオーラだけは消えていない。
満身創痍の仲間たちが、俺と繭を守る壁となる。
『無意味な抵抗を』
デウスが光を放つ。 消滅の閃光が、カエデたちを飲み込もうとする。
「くっ……!」
カエデが折れた刀で受け止めようとするが、衝撃だけで吹き飛ばされそうになる。 リエルが前に出て軌道を逸らそうとするが、運命固定の圧力に押し潰され、膝をつく。 防ぎきれない。
その時。
ドクンッ!!
戦場に、心音が響いた。 誰のものでもない。空間そのものが脈打つような音。
音源は――俺の背後。 黒い繭だ。
ピキッ、ピキピキッ……。
繭の表面に亀裂が走る。 その隙間から漏れ出したのは、闇色ではない。 目が眩むほどに神々しい、白銀の光だった。
『な、んだ……? この波長は……?』
デウスの動きが止まる。 放たれようとしていた消滅の光が、繭から放たれた光に押し返され、霧散していく。
「……来たか」
俺は振り返った。 繭が砕ける。 中から現れたのは、かつて「歩く災害」と呼ばれ、世界に拒絶された少女。
だが、今の彼女は違う。 背中には、デウスのそれとは異なる、温かく柔らかな光の翼。 銀色の髪は輝きを増し、深紅の瞳は星々のように澄み渡っている。
リリ・クラウゼル。 彼女は今、世界の理(ことわり)を食らい尽くし、新たな「神」として新生した。
ズズズズズズ……ッ。
繭が脈動する。 白かったラクの毛並みが、内側から染み出すようにドス黒く変色し、禍々しい紫電を放ち始めた。
『……何をした』
デウスの手が止まる。 神の目から見ても、俺の行動は理解不能な自殺行為に映ったはずだ。 消滅しかけている器(リリ)に、さらに致死性の猛毒(呪い)を注ぎ込んだのだから。
『自ら器を破壊したか。……ならば、手間が省けた』
デウスが興味を失ったように腕を下ろす。 奴の認識では、リリはこれで完全に崩壊し、穢れと共に消滅するはずだ。
「……ハッ。そう思うか?」
俺は汗を拭い、ニヤリと笑った。 心臓は早鐘を打っている。成功率は未知数。だが、理論(ロジック)は通っている。
「教えてやるよ、デウス。お前が作った『器』の仕様をな」
俺は黒く変色していく繭の前に立ち塞がった。
「リリは、世界の穢れを無限に溜め込むゴミ箱として設計された。だが、無限といっても限度がある。許容量を超えればどうなる?」
『……溢れ出し、世界を汚染する。だが、その前に器自体が自壊するよう設定されている』
「通常ならな。だが、今のリリは『天の楔』というリミッターを失っている状態だ」
俺は指を立てた。
「リミッターの外れた器に、計算外のエネルギーを限界まで注ぎ込む。……そうすれば、天理は何を起こす?」
精密な魔導回路なら焼き切れるか、暴走して終わりだ。 だが、この世界の理(ことわり)において、エネルギーは消滅しない。行き場を失った力は、形を変えて噴出する。
「『飽和(オーバーフロー)』だ」
俺は断言した。
「器としての機能が反転し、溜め込んだ『不運(マイナス)』が極限まで圧縮されれば、それは『事象を改変するエネルギー(プラス)』へと転じる。……毒を変じて薬と成す、究極の反則技だ」
俺がリリから吸い上げた不運を溜め込んでいたのも、この瞬間のためだ。 彼女が背負わされた呪いを、彼女自身を救うための力に変える。
『……詭弁だ。そのような事象改変、認められん』
デウスが右手を掲げる。 掌に、再び消滅の光が集束していく。 奴も本能的に察知したらしい。あの繭の中で生まれようとしているものが、自分にとって致命的な脅威になり得ることを。
『芽のうちに摘む』
「させねぇよ……ッ!」
俺は懐から、最後の魔導爆弾を取り出した。ヴォルグからくすねておいた予備だ。 だが、こんなもので神の光を防げるわけがない。
その時。
「行かせぬ!」
俺の前に、人影が飛び出した。 カエデだ。 彼女は血まみれの体で、折れた刀『兼定・改』を構えていた。 その背後には、倒れ伏したグレンがいる。
「カエデ! 無理だ、下がれ!」
「断る! グレン殿が命を懸けて守った場所だ……! 拙者が退くわけにはいかん!」
カエデの瞳が決意に燃える。 彼女だけではない。
「ヒャハ……! 武器がなけりゃ、拳で殴るまでだァ!」
ヴォルグが素手で構える。ガトリング砲は既に鉄屑だ。 ティアもふらふらと立ち上がり、折れた杖の先端を握りしめている。
「わ、私も……! 聖女の意地を見せますぅ!」
「私もよ! 私のカジノで、客に手出しはさせないわ!」
リエルがボロボロのドレスを翻し、前に出る。魔力は尽きかけているが、【絶対強運】のオーラだけは消えていない。
満身創痍の仲間たちが、俺と繭を守る壁となる。
『無意味な抵抗を』
デウスが光を放つ。 消滅の閃光が、カエデたちを飲み込もうとする。
「くっ……!」
カエデが折れた刀で受け止めようとするが、衝撃だけで吹き飛ばされそうになる。 リエルが前に出て軌道を逸らそうとするが、運命固定の圧力に押し潰され、膝をつく。 防ぎきれない。
その時。
ドクンッ!!
戦場に、心音が響いた。 誰のものでもない。空間そのものが脈打つような音。
音源は――俺の背後。 黒い繭だ。
ピキッ、ピキピキッ……。
繭の表面に亀裂が走る。 その隙間から漏れ出したのは、闇色ではない。 目が眩むほどに神々しい、白銀の光だった。
『な、んだ……? この波長は……?』
デウスの動きが止まる。 放たれようとしていた消滅の光が、繭から放たれた光に押し返され、霧散していく。
「……来たか」
俺は振り返った。 繭が砕ける。 中から現れたのは、かつて「歩く災害」と呼ばれ、世界に拒絶された少女。
だが、今の彼女は違う。 背中には、デウスのそれとは異なる、温かく柔らかな光の翼。 銀色の髪は輝きを増し、深紅の瞳は星々のように澄み渡っている。
リリ・クラウゼル。 彼女は今、世界の理(ことわり)を食らい尽くし、新たな「神」として新生した。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
無能と呼ばれてパーティーを追放!最強に成り上がり人生最高!
本条蒼依
ファンタジー
主人公クロスは、マスターで聞いた事のない職業だが、Eランクという最低ランクの職業を得た。
そして、差別を受けた田舎を飛び出し、冒険者ギルドに所属しポーターとして生活をしていたが、
同じパーティーメンバーからも疎まれている状況で話は始まる。
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる