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第115話:崩壊する理
俺たちが飛び込んだ先は、混沌の渦だった。 『天空城』の内部は、もはや城の形を留めていなかった。 白亜の壁は脈打ち、血管のような光のラインが走り、空間そのものが生き物のように蠢いている。 デウスが城と融合し、自身を再構築しているのだ。
『排除……排除……排除……』
壁から、床から、天井から、無数の「腕」が生え、俺たちに襲いかかってくる。 それは天使の腕であり、瓦礫の塊であり、純粋な魔力の刃でもあった。
「邪魔ですッ!」
リリが双剣を一閃させる。 銀色の軌跡が空間を断ち切り、迫りくる腕をことごとく粉砕していく。 神の力を得た彼女の斬撃は、物理的な干渉を超え、デウスの構成要素(データ)そのものを消去していた。
「ジン様、捕まっていてください! 加速します!」
「ああ、頼む!」
俺はリリの腰に手を回し、しがみつく。 リリの背中の光翼が羽ばたき、俺たちは光の矢となって回廊を疾走した。
速い。 崩落する天井が、俺たちの背後で次々と落ちていく。 全方位からの攻撃を紙一重で躱し、あるいは弾き飛ばし、最短距離で中枢を目指す。
『理解不能……。なぜ、そこまで抗う』
空間全体から、デウスの苦悶の声が響く。
『個の命など、大いなる円環の中では塵に等しい。なぜ、たった一つの命のために、世界の安寧を捨てる』 『なぜ、滅びを受け入れぬ』
「うるさいな」
俺は叫び返した。 風切り音と爆発音の中で、声を張り上げる。
「大層な御託を並べるな! 結局のところ、お前は怖がっているだけだろ!」
『……何?』
「予想外の事態、計算外のノイズ、制御できない感情……。それらが怖いから、全てを管理し、固定し、予定調和の中に閉じ込めようとした!」
俺はモノクルでデウスの魔力流を解析しながら、嘲笑った。
「だがな、世界ってのはそんなに綺麗なもんじゃない! 泥臭くて、理不尽で、思い通りにならないことだらけだ! だからこそ――面白いんだろうがッ!」
俺たちの旅を見ろ。 不運にまみれ、ドジに振り回され、筋肉に呆れ、爆発に巻き込まれる毎日。 計算通りに行ったことなんて一度もない。 だが、その混沌こそが、俺たちが選び、歩んできた「生」そのものだ。
『……混沌は、崩壊を招く』
デウスの声が震える。 前方の空間が歪み、巨大な壁となって立ちはだかる。 城の全エネルギーを集中させた、最後の防壁。
『ここが、理の果てだ。消えよ』
壁から、極大の消滅光が放たれようとしていた。 回避不能の質量。
「リリ! 一点突破だ!」
「はい!」
俺は【確率操作】を最大出力で展開する。 対象は、目の前の防壁。 そこに存在するはずの微細な「構成ミス(もろさ)」、魔力供給の「遅延(ラグ)」、そしてデウス自身の「迷い」。 あらゆる不確定要素をかき集め、一つの針の穴を穿つ。
「今だッ!」
「貫けぇぇぇぇッ!!!」
リリが『緋蜂』を突き出す。 切っ先に、俺とリリの全魔力、そしてこれまで培ってきた全ての因果が収束する。
ズドォォォォォォォォォォンッ!!!!!
光と光が衝突し、世界が白く染まる。 拮抗したのは一瞬。 俺たちの「強欲」が、神の「諦観」を食い破った。
パリーンッ!!
防壁が砕け散る。 その向こう側に、輝く核(コア)が見えた。 デウスの本体。天理の心臓。
「……届いた」
俺たちは広大な空間へと飛び出した。 そこは、崩れゆく城の中で唯一、静寂が保たれた場所。 宙に浮く巨大な光の結晶――デウスの核が、静かに脈動している。
『……見事だ、人よ』
核から、声が聞こえた。 それは今までのような威圧的なものではなく、どこか憑き物が落ちたような、穏やかな響きだった。
『貴様らの「歪み」が、理を超えたか』
「ああ。俺たちの勝ちだ」
俺はリリと共に、核の前に立った。 リリが剣を振り上げる。 これで、終わる。
「ジン様。……一緒に」
リリが俺の手を取り、剣の柄を握らせた。 温かい。 透き通るような冷たさはもうない。確かにそこに生きている、熱を持った手のひら。
「ああ。終わらせよう」
俺たちは呼吸を合わせ、最後の力で剣を振り下ろした。 新たな世界を切り開くために。
「はぁぁぁぁぁッ!!!」
一閃。 ヒヒイロカネの刃が、神の核を両断した。
『排除……排除……排除……』
壁から、床から、天井から、無数の「腕」が生え、俺たちに襲いかかってくる。 それは天使の腕であり、瓦礫の塊であり、純粋な魔力の刃でもあった。
「邪魔ですッ!」
リリが双剣を一閃させる。 銀色の軌跡が空間を断ち切り、迫りくる腕をことごとく粉砕していく。 神の力を得た彼女の斬撃は、物理的な干渉を超え、デウスの構成要素(データ)そのものを消去していた。
「ジン様、捕まっていてください! 加速します!」
「ああ、頼む!」
俺はリリの腰に手を回し、しがみつく。 リリの背中の光翼が羽ばたき、俺たちは光の矢となって回廊を疾走した。
速い。 崩落する天井が、俺たちの背後で次々と落ちていく。 全方位からの攻撃を紙一重で躱し、あるいは弾き飛ばし、最短距離で中枢を目指す。
『理解不能……。なぜ、そこまで抗う』
空間全体から、デウスの苦悶の声が響く。
『個の命など、大いなる円環の中では塵に等しい。なぜ、たった一つの命のために、世界の安寧を捨てる』 『なぜ、滅びを受け入れぬ』
「うるさいな」
俺は叫び返した。 風切り音と爆発音の中で、声を張り上げる。
「大層な御託を並べるな! 結局のところ、お前は怖がっているだけだろ!」
『……何?』
「予想外の事態、計算外のノイズ、制御できない感情……。それらが怖いから、全てを管理し、固定し、予定調和の中に閉じ込めようとした!」
俺はモノクルでデウスの魔力流を解析しながら、嘲笑った。
「だがな、世界ってのはそんなに綺麗なもんじゃない! 泥臭くて、理不尽で、思い通りにならないことだらけだ! だからこそ――面白いんだろうがッ!」
俺たちの旅を見ろ。 不運にまみれ、ドジに振り回され、筋肉に呆れ、爆発に巻き込まれる毎日。 計算通りに行ったことなんて一度もない。 だが、その混沌こそが、俺たちが選び、歩んできた「生」そのものだ。
『……混沌は、崩壊を招く』
デウスの声が震える。 前方の空間が歪み、巨大な壁となって立ちはだかる。 城の全エネルギーを集中させた、最後の防壁。
『ここが、理の果てだ。消えよ』
壁から、極大の消滅光が放たれようとしていた。 回避不能の質量。
「リリ! 一点突破だ!」
「はい!」
俺は【確率操作】を最大出力で展開する。 対象は、目の前の防壁。 そこに存在するはずの微細な「構成ミス(もろさ)」、魔力供給の「遅延(ラグ)」、そしてデウス自身の「迷い」。 あらゆる不確定要素をかき集め、一つの針の穴を穿つ。
「今だッ!」
「貫けぇぇぇぇッ!!!」
リリが『緋蜂』を突き出す。 切っ先に、俺とリリの全魔力、そしてこれまで培ってきた全ての因果が収束する。
ズドォォォォォォォォォォンッ!!!!!
光と光が衝突し、世界が白く染まる。 拮抗したのは一瞬。 俺たちの「強欲」が、神の「諦観」を食い破った。
パリーンッ!!
防壁が砕け散る。 その向こう側に、輝く核(コア)が見えた。 デウスの本体。天理の心臓。
「……届いた」
俺たちは広大な空間へと飛び出した。 そこは、崩れゆく城の中で唯一、静寂が保たれた場所。 宙に浮く巨大な光の結晶――デウスの核が、静かに脈動している。
『……見事だ、人よ』
核から、声が聞こえた。 それは今までのような威圧的なものではなく、どこか憑き物が落ちたような、穏やかな響きだった。
『貴様らの「歪み」が、理を超えたか』
「ああ。俺たちの勝ちだ」
俺はリリと共に、核の前に立った。 リリが剣を振り上げる。 これで、終わる。
「ジン様。……一緒に」
リリが俺の手を取り、剣の柄を握らせた。 温かい。 透き通るような冷たさはもうない。確かにそこに生きている、熱を持った手のひら。
「ああ。終わらせよう」
俺たちは呼吸を合わせ、最後の力で剣を振り下ろした。 新たな世界を切り開くために。
「はぁぁぁぁぁッ!!!」
一閃。 ヒヒイロカネの刃が、神の核を両断した。
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