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第117話:運命を越えて
黒い泥の奔流を切り裂き、俺とリリはデウスの中核へと肉薄した。 再生を繰り返す触手の壁も、空間の歪みも、今の俺たちを止めることはできない。
『オオオオオオオ……ッ!!』
デウスが絶叫する。 それは痛みによるものではなく、自らの理(ルール)が侵食されていくことへの根源的な恐怖だった。 「管理する側」から「狩られる側」へ。 立場の逆転を、神は認められない。
『認めぬ……! 私は世界の礎! 私が消えれば、世界は秩序を失う!』
『貴様らは、混沌を望むというのか!』
「秩序? 混沌?」
俺は鼻で笑い、リリの背中に魔力を注ぎ込む。
「知ったことか。俺たちが望むのは、誰かに決められた平和じゃなく、自分たちで選ぶ明日だ!」
俺の言葉に呼応し、リリの『緋蜂』が極大の光を放つ。 神殺しの一撃。 それがデウスの眉間に突き刺さろうとした、その瞬間。
ピタリ。
世界が止まった。 リリの剣が、あと数センチのところで静止している。 動かないのではない。時間が、空間が、因果が、凍りついている。
『……ならば、無に還れ』
デウスの仮面が砕け、中から眩い光が溢れ出した。 それは攻撃魔法ではない。 この世界の「記録」そのものへの干渉。
『権能解放:【歴史抹消(ヒストリー・ワイプ)】』
俺の視界が白く染まる。 感覚が希薄になっていく。 痛みはない。苦しみもない。 ただ、自分の存在が「最初からいなかったこと」にされていく感覚。
過去。 勇者パーティを追放された日。 リリと出会った路地裏。 仲間たちと過ごした旅路。 それらの記憶が、パラパラと剥がれ落ち、空白に変わっていく。
(……これが、神の最後の切り札か)
俺という特異点(歪み)の発生源を、過去に遡って消去する。 そうすれば、今の戦況も、リリの覚醒も、全てなかったことになる。 完璧で冷徹な、究極のリセットボタン。
「……ン……ジン……様……」
リリの声が遠い。 彼女の存在もまた、俺との出会いを否定されれば消滅する。 俺の意識が、白い闇に溶けていく。
――ふざけるな。
俺の魂の奥底で、小さな火種が燃え上がった。 誰の許可を得て、俺の人生を勝手に編集しようとしている? 俺の苦労を、屈辱を、そして手に入れた幸福を。 神ごときが、一行たりとも削除していいはずがない。
(俺の運命は、俺が決める)
俺は消えゆく意識の中で、強く念じた。 【確率操作】。 俺の能力は、不運を代償に「可能性」を手繰り寄せる力だ。 ならば、「俺が存在しない確率」が100%になろうとも、「俺が存在する確率」を0%から1%にこじ開ければいい。
それには、強烈な楔が必要だ。 俺がこの世界に生きた証。俺を観測し、記憶し、繋ぎ止めてくれる他者の存在。
「思い出せ……! 俺はお前らの、何だ!?」
俺は心の中で叫んだ。 届くはずのない声。 だが、その声に応える者たちがいた。
『――旦那は、俺の最高の雇い主だろがぁッ!』
グレンの咆哮が、白い世界にヒビを入れる。
『――貴殿は、拙者が認めた知将であり、戦友だ!』
カエデの斬撃が、因果の鎖を断ち切る。
『――あなたは、私の……私の大切な、ライバル(の想い人)よ!』
リエルの強運が、消滅の運命を拒絶する。
『――ジン様は、私を導いてくれた恩人ですぅ!』
『――テメェは俺の最高のお客だ!』
『みゅッ!(あいぼう!)』
ティア、ヴォルグ、ラク。 仲間たちの声が、想いが、俺という存在を世界に釘付けにする。
そして。
「――ジン様は、私の全てです」
リリの声が、決定的な楔となって打ち込まれた。 愛。執着。依存。 呼び方は何でもいい。 彼女の中にある俺という存在が、神の改変すらも上書きするほどに巨大で、強固だった。
パリーンッ!!!
世界を覆っていた白い闇が、粉々に砕け散った。 時間が動き出す。 俺の手には、リリの温もりが戻っていた。
「……戻ったか」
俺は汗を拭い、目の前の神を見据えた。 デウスの光が揺らいでいる。 最後の権能を行使し、それを破られた反動で、存在維持が限界に来ているのだ。
『な、ぜだ……。なぜ、消えぬ……。理は絶対のはず……』
「残念だったな。俺たちはもう、お前の理(てのひら)の上にはいない」
俺はリリの背中を押した。
「行け、リリ! 今度こそ終わりだ!」
「はいッ!」
リリが加速する。 神の呪縛を振りほどき、運命を越えた刃が、デウスの喉元へと迫る。 もはや、神に抗う術はない。
「チェックメイトだ、デウス」
俺の宣告と共に、リリの双剣が交差した。
『オオオオオオオ……ッ!!』
デウスが絶叫する。 それは痛みによるものではなく、自らの理(ルール)が侵食されていくことへの根源的な恐怖だった。 「管理する側」から「狩られる側」へ。 立場の逆転を、神は認められない。
『認めぬ……! 私は世界の礎! 私が消えれば、世界は秩序を失う!』
『貴様らは、混沌を望むというのか!』
「秩序? 混沌?」
俺は鼻で笑い、リリの背中に魔力を注ぎ込む。
「知ったことか。俺たちが望むのは、誰かに決められた平和じゃなく、自分たちで選ぶ明日だ!」
俺の言葉に呼応し、リリの『緋蜂』が極大の光を放つ。 神殺しの一撃。 それがデウスの眉間に突き刺さろうとした、その瞬間。
ピタリ。
世界が止まった。 リリの剣が、あと数センチのところで静止している。 動かないのではない。時間が、空間が、因果が、凍りついている。
『……ならば、無に還れ』
デウスの仮面が砕け、中から眩い光が溢れ出した。 それは攻撃魔法ではない。 この世界の「記録」そのものへの干渉。
『権能解放:【歴史抹消(ヒストリー・ワイプ)】』
俺の視界が白く染まる。 感覚が希薄になっていく。 痛みはない。苦しみもない。 ただ、自分の存在が「最初からいなかったこと」にされていく感覚。
過去。 勇者パーティを追放された日。 リリと出会った路地裏。 仲間たちと過ごした旅路。 それらの記憶が、パラパラと剥がれ落ち、空白に変わっていく。
(……これが、神の最後の切り札か)
俺という特異点(歪み)の発生源を、過去に遡って消去する。 そうすれば、今の戦況も、リリの覚醒も、全てなかったことになる。 完璧で冷徹な、究極のリセットボタン。
「……ン……ジン……様……」
リリの声が遠い。 彼女の存在もまた、俺との出会いを否定されれば消滅する。 俺の意識が、白い闇に溶けていく。
――ふざけるな。
俺の魂の奥底で、小さな火種が燃え上がった。 誰の許可を得て、俺の人生を勝手に編集しようとしている? 俺の苦労を、屈辱を、そして手に入れた幸福を。 神ごときが、一行たりとも削除していいはずがない。
(俺の運命は、俺が決める)
俺は消えゆく意識の中で、強く念じた。 【確率操作】。 俺の能力は、不運を代償に「可能性」を手繰り寄せる力だ。 ならば、「俺が存在しない確率」が100%になろうとも、「俺が存在する確率」を0%から1%にこじ開ければいい。
それには、強烈な楔が必要だ。 俺がこの世界に生きた証。俺を観測し、記憶し、繋ぎ止めてくれる他者の存在。
「思い出せ……! 俺はお前らの、何だ!?」
俺は心の中で叫んだ。 届くはずのない声。 だが、その声に応える者たちがいた。
『――旦那は、俺の最高の雇い主だろがぁッ!』
グレンの咆哮が、白い世界にヒビを入れる。
『――貴殿は、拙者が認めた知将であり、戦友だ!』
カエデの斬撃が、因果の鎖を断ち切る。
『――あなたは、私の……私の大切な、ライバル(の想い人)よ!』
リエルの強運が、消滅の運命を拒絶する。
『――ジン様は、私を導いてくれた恩人ですぅ!』
『――テメェは俺の最高のお客だ!』
『みゅッ!(あいぼう!)』
ティア、ヴォルグ、ラク。 仲間たちの声が、想いが、俺という存在を世界に釘付けにする。
そして。
「――ジン様は、私の全てです」
リリの声が、決定的な楔となって打ち込まれた。 愛。執着。依存。 呼び方は何でもいい。 彼女の中にある俺という存在が、神の改変すらも上書きするほどに巨大で、強固だった。
パリーンッ!!!
世界を覆っていた白い闇が、粉々に砕け散った。 時間が動き出す。 俺の手には、リリの温もりが戻っていた。
「……戻ったか」
俺は汗を拭い、目の前の神を見据えた。 デウスの光が揺らいでいる。 最後の権能を行使し、それを破られた反動で、存在維持が限界に来ているのだ。
『な、ぜだ……。なぜ、消えぬ……。理は絶対のはず……』
「残念だったな。俺たちはもう、お前の理(てのひら)の上にはいない」
俺はリリの背中を押した。
「行け、リリ! 今度こそ終わりだ!」
「はいッ!」
リリが加速する。 神の呪縛を振りほどき、運命を越えた刃が、デウスの喉元へと迫る。 もはや、神に抗う術はない。
「チェックメイトだ、デウス」
俺の宣告と共に、リリの双剣が交差した。
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