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第121話:空の孤島
勝利の美酒を味わう暇など、一秒たりとも存在しなかった。 天空城という超質量の塊が、制御を失って自由落下を始めている。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
地響きのような轟音。 だが、それは単なる落下音ではない。 ヴォルグが城の残存動力炉の制御を無理やり奪い、全力で逆噴射をかけている音だ。
「オラオラオラァッ!! 燃え尽きろガラクタァッ!!」
ヴォルグが制御盤に魔力を叩き込む。 城の底部から凄まじい魔力光が噴出し、落下の勢いを殺そうと抗っている。 おかげで即座に墜落することは免れているが、機体(城)は悲鳴を上げ、あちこちで爆発が起きている。
「リエル! 軌道はどうだ!?」
俺は通信機(イヤリング)に向かって叫んだ。
『やってるわよ! 私の全財産(運)を賭けて、風向きを変えているわ!』
リエルの悲痛な声が返ってくる。 彼女の【絶対強運】が、上空の気流をねじ曲げ、城を王都の直上から少しずつ、郊外の湖へとずらしているのだ。 だが、巨大すぎる質量を完全に制御するには至らない。
『でも、これが限界よ! 私の船も、もう浮いているだけで精一杯……! 貴方達を回収に行く余力なんてないわ!』
「ヴォルグ! 馬車はどうだ!?」
「無理だ! ここに来るまでの道が崩落して埋まってやがる! 掘り起こしてる暇なんざねえ!」
最悪だ。 落下地点の制御と減速には成功しつつある。このまま落ちれば、地上の被害は最小限に抑えられるかもしれない。 だが、その代償として――俺たちには「脱出手段」がない。 このままでは、俺たちは減速しきれない城と共に地面に激突し、鉄屑と瓦礫の中でミンチになる。
ヒュオオオオオ……ッ!
風切り音が強くなる。 窓の外を見ると、雲海を突き抜け、地上の景色が急速に迫ってきていた。 そして、城の外壁が赤熱し始めている。 空気摩擦だ。 このままでは激突する前に、俺たちはこの灼熱の中で蒸し焼きになる。
「くそっ……! ここまで来て、終わりかよ!」
グレンが悔しげに床を殴る。 カエデが唇を噛み締め、ティアが震えながら祈りを捧げる。
打つ手なしか? いや、諦めるな。思考しろ。 俺は軍師だ。どんな絶望的な盤面でも、必ず活路を見出してきたはずだ。
だが、計算の結果は無慈悲だった。 生存確率、0%。 物理的なエネルギー量が大きすぎる。俺たちの持てる全てを動員しても、この落下のエネルギーを相殺することは不可能だ。
「……ジン様」
隣で、リリが俺の袖を引いた。 彼女の顔は蒼白だったが、その瞳には静かな決意の光が宿っていた。
「私に、考えがあります」
「……なんだ?」
俺は縋るような思いで聞き返した。 リリは少しだけ躊躇い、そして意を決したように口を開いた。
「私の中に残っている、神の力の残滓……。それを使えば、大規模な転移魔法を発動できるかもしれません」
転移魔法。 空間を跳躍し、瞬時に別の場所へ移動する高等魔術だ。 確かに、それならこの密室から脱出できる。
「だが、お前の中に残っている力は僅かだろ? 全員を運べるだけの出力があるのか?」
俺の問いに、リリは寂しげに微笑んだ。
「……全員は、無理です。ですが、私以外の皆さんなら」
その言葉の意味を理解した瞬間、俺の血の気が引いた。
「代償が必要なんです。術式を安定させ、確実に皆さんを地上へ送るための……『核』となるものが」
リリが自分の胸に手を当てる。 そこには、かつて天理の楔と繋がっていた、見えない鎖の跡がある。
「私自身を魔力に変換して、転移門(ゲート)を固定します。そうすれば、ジン様たちは助かります」
自己犠牲。 まただ。 こいつは、また自分の命をチップにして、俺たちを勝たせようとしている。
「ふざけるな」
俺は低い声で言った。
「そんな提案、却下だ。聞かなかったことにする」
「でも! このままでは全滅です! 誰かが犠牲にならなければ……!」
「その誰かが、どうしてお前なんだ! 俺が……俺たちが戦ってきたのは、お前を犠牲にしないためだろうが!」
俺はリリの肩を掴み、揺さぶった。
「世界を救うためにお前が死ぬのが許せなかった。だから神とも戦った。それなのに、最後にお前が死んで俺たちが助かる? そんな結末で、俺が笑えるとでも思っているのか!」
「……っ」
リリが言葉を詰まらせる。 彼女の目から、大粒の涙が溢れ出した。
「だって……だって、嫌なんです! ジン様が死んでしまうなんて……! 私が消えることより、そっちの方がずっと怖いんです!」
リリの悲痛な叫びが、崩壊する城内に響き渡る。 愛ゆえの自己犠牲。 それは美談かもしれない。だが、俺にとっては最悪のバッドエンドだ。
「泣くな、リリ」
俺は彼女を強く抱きしめた。
「死なせない。お前も、俺も、こいつらもだ。……全員で帰る。それ以外の選択肢は俺が作らない」
俺は顔を上げ、周囲を見渡した。 迫りくる死の足音。燃え上がる瓦礫。 絶体絶命の窮地。
だが、俺の懐にはまだ、最強のカードが一枚残っている。
「……ラク」
俺は懐から、疲れ切って小さくなっている白い毛玉を取り出した。 こいつは、不運を食べる。 そして、食べた分だけのエネルギーを放出する。
今、俺たちは世界最大級の「不運(落下事故)」の只中にいる。 ならば。
「起きろ、相棒。……食後の運動の時間だ」
俺はラクを高く掲げた。 これが、最後の賭けだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
地響きのような轟音。 だが、それは単なる落下音ではない。 ヴォルグが城の残存動力炉の制御を無理やり奪い、全力で逆噴射をかけている音だ。
「オラオラオラァッ!! 燃え尽きろガラクタァッ!!」
ヴォルグが制御盤に魔力を叩き込む。 城の底部から凄まじい魔力光が噴出し、落下の勢いを殺そうと抗っている。 おかげで即座に墜落することは免れているが、機体(城)は悲鳴を上げ、あちこちで爆発が起きている。
「リエル! 軌道はどうだ!?」
俺は通信機(イヤリング)に向かって叫んだ。
『やってるわよ! 私の全財産(運)を賭けて、風向きを変えているわ!』
リエルの悲痛な声が返ってくる。 彼女の【絶対強運】が、上空の気流をねじ曲げ、城を王都の直上から少しずつ、郊外の湖へとずらしているのだ。 だが、巨大すぎる質量を完全に制御するには至らない。
『でも、これが限界よ! 私の船も、もう浮いているだけで精一杯……! 貴方達を回収に行く余力なんてないわ!』
「ヴォルグ! 馬車はどうだ!?」
「無理だ! ここに来るまでの道が崩落して埋まってやがる! 掘り起こしてる暇なんざねえ!」
最悪だ。 落下地点の制御と減速には成功しつつある。このまま落ちれば、地上の被害は最小限に抑えられるかもしれない。 だが、その代償として――俺たちには「脱出手段」がない。 このままでは、俺たちは減速しきれない城と共に地面に激突し、鉄屑と瓦礫の中でミンチになる。
ヒュオオオオオ……ッ!
風切り音が強くなる。 窓の外を見ると、雲海を突き抜け、地上の景色が急速に迫ってきていた。 そして、城の外壁が赤熱し始めている。 空気摩擦だ。 このままでは激突する前に、俺たちはこの灼熱の中で蒸し焼きになる。
「くそっ……! ここまで来て、終わりかよ!」
グレンが悔しげに床を殴る。 カエデが唇を噛み締め、ティアが震えながら祈りを捧げる。
打つ手なしか? いや、諦めるな。思考しろ。 俺は軍師だ。どんな絶望的な盤面でも、必ず活路を見出してきたはずだ。
だが、計算の結果は無慈悲だった。 生存確率、0%。 物理的なエネルギー量が大きすぎる。俺たちの持てる全てを動員しても、この落下のエネルギーを相殺することは不可能だ。
「……ジン様」
隣で、リリが俺の袖を引いた。 彼女の顔は蒼白だったが、その瞳には静かな決意の光が宿っていた。
「私に、考えがあります」
「……なんだ?」
俺は縋るような思いで聞き返した。 リリは少しだけ躊躇い、そして意を決したように口を開いた。
「私の中に残っている、神の力の残滓……。それを使えば、大規模な転移魔法を発動できるかもしれません」
転移魔法。 空間を跳躍し、瞬時に別の場所へ移動する高等魔術だ。 確かに、それならこの密室から脱出できる。
「だが、お前の中に残っている力は僅かだろ? 全員を運べるだけの出力があるのか?」
俺の問いに、リリは寂しげに微笑んだ。
「……全員は、無理です。ですが、私以外の皆さんなら」
その言葉の意味を理解した瞬間、俺の血の気が引いた。
「代償が必要なんです。術式を安定させ、確実に皆さんを地上へ送るための……『核』となるものが」
リリが自分の胸に手を当てる。 そこには、かつて天理の楔と繋がっていた、見えない鎖の跡がある。
「私自身を魔力に変換して、転移門(ゲート)を固定します。そうすれば、ジン様たちは助かります」
自己犠牲。 まただ。 こいつは、また自分の命をチップにして、俺たちを勝たせようとしている。
「ふざけるな」
俺は低い声で言った。
「そんな提案、却下だ。聞かなかったことにする」
「でも! このままでは全滅です! 誰かが犠牲にならなければ……!」
「その誰かが、どうしてお前なんだ! 俺が……俺たちが戦ってきたのは、お前を犠牲にしないためだろうが!」
俺はリリの肩を掴み、揺さぶった。
「世界を救うためにお前が死ぬのが許せなかった。だから神とも戦った。それなのに、最後にお前が死んで俺たちが助かる? そんな結末で、俺が笑えるとでも思っているのか!」
「……っ」
リリが言葉を詰まらせる。 彼女の目から、大粒の涙が溢れ出した。
「だって……だって、嫌なんです! ジン様が死んでしまうなんて……! 私が消えることより、そっちの方がずっと怖いんです!」
リリの悲痛な叫びが、崩壊する城内に響き渡る。 愛ゆえの自己犠牲。 それは美談かもしれない。だが、俺にとっては最悪のバッドエンドだ。
「泣くな、リリ」
俺は彼女を強く抱きしめた。
「死なせない。お前も、俺も、こいつらもだ。……全員で帰る。それ以外の選択肢は俺が作らない」
俺は顔を上げ、周囲を見渡した。 迫りくる死の足音。燃え上がる瓦礫。 絶体絶命の窮地。
だが、俺の懐にはまだ、最強のカードが一枚残っている。
「……ラク」
俺は懐から、疲れ切って小さくなっている白い毛玉を取り出した。 こいつは、不運を食べる。 そして、食べた分だけのエネルギーを放出する。
今、俺たちは世界最大級の「不運(落下事故)」の只中にいる。 ならば。
「起きろ、相棒。……食後の運動の時間だ」
俺はラクを高く掲げた。 これが、最後の賭けだ。
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