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第129話:白亜邸の朝
小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む柔らかな光で目を覚ました。 体を起こすと、ふわりと柔らかい布団の感触がする。 岩肌でも、馬車の硬いシートでもない。 久しぶりに戻ってきた、我が家のベッドだ。
「……よく寝たな」
俺は大きく伸びをした。 隣を見ると、シーツは整えられており、リリの姿はない。 だが、階下からはトントンというリズミカルな音と、鼻歌交じりの気配が伝わってくる。
俺は着替えてリビングへと降りた。 キッチンでは、エプロン姿のリリが朝食の準備をしていた。
「おはよう、リリ」
「あ、おはようございます、ジン様!」
リリが振り返り、満面の笑みを向ける。 その手には包丁が握られていた。 ヴォルグが作ったアダマンタイト製の無骨な包丁ではない。昨日、街の雑貨屋で買ってきた、ごく普通の鉄の包丁だ。
「見てください、ジン様」
リリは嬉しそうに、まな板の上のトマトを指差した。
「そっと切っても、潰れないんです。まな板も割れませんし、衝撃波で窓ガラスが震えることもないんです」
彼女は包丁を動かす。 トントン、と軽快な音が響き、トマトが綺麗にスライスされていく。 かつて【AGI:SSS】の身体能力を持て余し、触れるもの全てを破壊しかねなかった彼女にとって、それは奇跡のような光景だった。
「力の加減ができるって、こんなに素晴らしいことだったんですね……」
「ああ。随分と腕を上げたな」
「ふふっ、これからは普通の奥様として、もっともっと精進しますね!」
リリは鼻歌を再開し、鍋をかき混ぜる。 中身は、ヤマトへの旅で覚えた知識を活かした、特製の味噌スープだ。出汁の香りが食欲をそそる。
「みゅ~」
足元に、白い毛玉がすり寄ってきた。 ラクだ。 こいつも不運エネルギーを失い、サイズ変更や物理無効化といった特殊能力はなくなってしまった。 だが、その知能の高さと愛らしさは健在だ。 今は俺の足に頭突きをして、「腹が減った」と訴えている。
「はいはい。お前も一緒にな」
俺はラクを抱き上げ、テーブルの椅子に乗せた。 リリが料理を運んでくる。 焼き立てのパン、新鮮なサラダ、卵料理、そして温かいスープ。 どこにでもある、ありふれた朝食。 だが、俺たちにとっては、命がけで勝ち取った「最高のご馳走」だ。
「いただきます」 「いただきます!」 「みゅッ!」
三人(?)で手を合わせる。 スープを一口啜る。優しい味が、体に染み渡っていく。
「……美味い」
「良かったです。今日は塩加減、自信があったんです」
リリが安堵の息をつく。 俺はパンを千切りながら、窓の外を見た。 庭では、新しく雇った庭師(グレンの紹介)が、荒れ果てていた前庭の手入れを始めている。 壊れた門も直り、平和な風景が戻りつつある。
「そういえば、午後はミライが来るんだったか」
「はい。新政府の設立準備について、ジン様の知恵をお借りしたいと」
「やれやれ。引退した身だってのに、人使いが荒いな」
俺は肩をすくめたが、本気で嫌がっているわけではない。 自分たちが守った世界だ。良い形に落ち着くまでは、少しばかり手を貸すのも悪くない。
「でも、その前に……」
リリが身を乗り出し、俺の口元についたパン屑を指先で取った。 そして、悪戯っぽく微笑む。
「お買い物に行きませんか? 新しいお皿や家具も揃えたいですし……それに」
「それに?」
「ふふっ。内緒です」
リリは顔を赤らめ、視線を逸らした。 その仕草だけで、なんとなく察しがついた。 これからの二人の生活に必要なもの。未来を形作るための準備。
「……わかった。付き合おう」
俺が言うと、リリはパァッと花が咲くように笑った。 ラクも「みゅー!(いくぞ!)」とテーブルの上で跳ねる。
波乱万丈な冒険は終わった。 だが、ここから始まる「日常」という物語も、きっと退屈することはないだろう。 最高のパートナーと、愉快な家族がいれば。
俺たちは残りの朝食を平らげ、新しい一日へと踏み出した。
「……よく寝たな」
俺は大きく伸びをした。 隣を見ると、シーツは整えられており、リリの姿はない。 だが、階下からはトントンというリズミカルな音と、鼻歌交じりの気配が伝わってくる。
俺は着替えてリビングへと降りた。 キッチンでは、エプロン姿のリリが朝食の準備をしていた。
「おはよう、リリ」
「あ、おはようございます、ジン様!」
リリが振り返り、満面の笑みを向ける。 その手には包丁が握られていた。 ヴォルグが作ったアダマンタイト製の無骨な包丁ではない。昨日、街の雑貨屋で買ってきた、ごく普通の鉄の包丁だ。
「見てください、ジン様」
リリは嬉しそうに、まな板の上のトマトを指差した。
「そっと切っても、潰れないんです。まな板も割れませんし、衝撃波で窓ガラスが震えることもないんです」
彼女は包丁を動かす。 トントン、と軽快な音が響き、トマトが綺麗にスライスされていく。 かつて【AGI:SSS】の身体能力を持て余し、触れるもの全てを破壊しかねなかった彼女にとって、それは奇跡のような光景だった。
「力の加減ができるって、こんなに素晴らしいことだったんですね……」
「ああ。随分と腕を上げたな」
「ふふっ、これからは普通の奥様として、もっともっと精進しますね!」
リリは鼻歌を再開し、鍋をかき混ぜる。 中身は、ヤマトへの旅で覚えた知識を活かした、特製の味噌スープだ。出汁の香りが食欲をそそる。
「みゅ~」
足元に、白い毛玉がすり寄ってきた。 ラクだ。 こいつも不運エネルギーを失い、サイズ変更や物理無効化といった特殊能力はなくなってしまった。 だが、その知能の高さと愛らしさは健在だ。 今は俺の足に頭突きをして、「腹が減った」と訴えている。
「はいはい。お前も一緒にな」
俺はラクを抱き上げ、テーブルの椅子に乗せた。 リリが料理を運んでくる。 焼き立てのパン、新鮮なサラダ、卵料理、そして温かいスープ。 どこにでもある、ありふれた朝食。 だが、俺たちにとっては、命がけで勝ち取った「最高のご馳走」だ。
「いただきます」 「いただきます!」 「みゅッ!」
三人(?)で手を合わせる。 スープを一口啜る。優しい味が、体に染み渡っていく。
「……美味い」
「良かったです。今日は塩加減、自信があったんです」
リリが安堵の息をつく。 俺はパンを千切りながら、窓の外を見た。 庭では、新しく雇った庭師(グレンの紹介)が、荒れ果てていた前庭の手入れを始めている。 壊れた門も直り、平和な風景が戻りつつある。
「そういえば、午後はミライが来るんだったか」
「はい。新政府の設立準備について、ジン様の知恵をお借りしたいと」
「やれやれ。引退した身だってのに、人使いが荒いな」
俺は肩をすくめたが、本気で嫌がっているわけではない。 自分たちが守った世界だ。良い形に落ち着くまでは、少しばかり手を貸すのも悪くない。
「でも、その前に……」
リリが身を乗り出し、俺の口元についたパン屑を指先で取った。 そして、悪戯っぽく微笑む。
「お買い物に行きませんか? 新しいお皿や家具も揃えたいですし……それに」
「それに?」
「ふふっ。内緒です」
リリは顔を赤らめ、視線を逸らした。 その仕草だけで、なんとなく察しがついた。 これからの二人の生活に必要なもの。未来を形作るための準備。
「……わかった。付き合おう」
俺が言うと、リリはパァッと花が咲くように笑った。 ラクも「みゅー!(いくぞ!)」とテーブルの上で跳ねる。
波乱万丈な冒険は終わった。 だが、ここから始まる「日常」という物語も、きっと退屈することはないだろう。 最高のパートナーと、愉快な家族がいれば。
俺たちは残りの朝食を平らげ、新しい一日へと踏み出した。
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