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第131話:残された脅威
天理が消滅し、世界は自由を手に入れたが、それは同時に「管理者がいなくなった世界」の混乱を引き受けることでもあった。特に深刻なのは、かつて天理の手足となって働いていた『天使』たちの処遇だ。
「……報告によると、北の山岳地帯で『白い巨人』が暴れているそうです」
王城の作戦室にて、ミライが地図の一点を指し示しながら疲れたように言った。
「機能停止したはずの天使が、再起動したと?」
「ええ。おそらく、残留魔力による自律防衛本能の暴走でしょう。天理からの導きを失い、周囲の動くもの全てを敵とみなして攻撃する……ただの殺戮兵器と化しています」
厄介な話だ。統率された軍団も怖いが、制御不能の暴走兵器はもっとタチが悪い上に、今の俺たちにはかつてのような反則じみたスキルはない。
「現地の自警団では手が負えません。……ジン様、お願いできますか?」
ミライが縋るような目を向けてくる。新政府の樹立で忙殺されている彼女に、これ以上の負担をかけるわけにはいかないだろう。
「わかった。引き受けよう」
「ありがとうございます! 報酬は弾んでおきますね!」
俺は作戦室を出て、待機していた仲間たちに声をかけた。
「出番だぞ。残業の時間だ」
◇
現場となった山岳地帯は異様な光景だった。岩肌がえぐれ、木々がなぎ倒されている中心で暴れまわっていたのは、全長五メートルほどの巨大な天使だった。 上位個体(アークエンジェル)の残骸か、片翼は折れ、鎧もボロボロだが、手にした大剣を滅茶苦茶に振り回している。
「グルルル……排除……排除……」
壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す姿は、神々しさなど微塵もなく、ただ哀れで不気味だ。
「へっ、随分と錆びついた神様だな」
グレンが背中の大剣を抜く。スキル【金剛皮】はないため、ただの鍛え上げられた肉体と、鋼鉄の大剣があるだけだ。
「油断するなよ。腐っても天使だ。一発もらえば即死だぞ」
「わかってるよ。……行くぜ!」
グレンが飛び出すと天使が反応し、大剣を振り下ろしてくる。以前なら【金剛皮】で受け止めていただろうが、今のグレンはそれを紙一重で回避した。
「遅ぇ!」
回避と同時に踏み込み、カウンターの一撃を叩き込むと、天使の脇腹に重い一撃が入り、巨体がよろめいた。
「拙者も続く!」
カエデが疾走する。彼女もまた、スキルによる加速はないが、その足運びは流水の如く滑らかだ。天使の死角に回り込み、ヒヒイロカネの刀を一閃させる。
「ヤマト一刀流――『断ち風』!」
ザシュッという音と共に天使の腕の関節が切断され、大剣が地面に落ちる。スキルに頼らない、純粋な剣技の冴えだ。
「今だ、リリ!」
俺の合図で、リリが動く。【AGI:SSS】の超加速はないが、彼女が積み重ねてきた経験とヴォルグ製武器の性能は本物だ。瓦礫を足場に高く跳躍し、天使の頭上を取る。
「はぁぁぁぁッ!!」
双剣が交差する。落下の勢いを乗せた斬撃が、天使の仮面を砕き、その奥にある動力炉(魔石)を貫いた。
プスン、と音を立てて天使の動きが停止する。巨体が音を立てて崩れ落ち、やがて光の粒子となって消滅していった。
「ふぅ……。なんとかなりましたね」
リリが着地し、汗を拭う。以前のような圧倒的な速さはなく息も切れているが、その顔には充実感があった。
「ああ。俺たちの力だけで勝ったんだ」
俺は倒れ伏した天使の残骸を見下ろした。確率操作も運命固定もない、読み合い、連携し、技でねじ伏せる戦い。それがこれからの俺たちの戦い方だ。
「ま、楽勝だったな!」
「貴殿、最後の一撃を避ける時、顔が引きつっていたぞ」
「うっせ! 避けたんだからいいだろ!」
グレンとカエデが言い合いをし、ティアは「怪我はありませんか~?」とポーションを持って走り回り、ヴォルグは「天使の装甲板ゲットォ!」と残骸を回収している。 足元ではラクが「みゅう(おつかれ)」と俺の足を叩く。
変わらない光景だが、確かに何かが変わった世界。
「帰るか。ミライに報告して、一杯やろうぜ」
俺たちは夕焼けに染まる山道を、ゆっくりと歩き出した。 世界中に散らばる「残された脅威」はまだ多いが、この仲間たちがいればどんな問題も解決できるだろう。 そんな確信と共に、俺はリリの手を握った。
「……報告によると、北の山岳地帯で『白い巨人』が暴れているそうです」
王城の作戦室にて、ミライが地図の一点を指し示しながら疲れたように言った。
「機能停止したはずの天使が、再起動したと?」
「ええ。おそらく、残留魔力による自律防衛本能の暴走でしょう。天理からの導きを失い、周囲の動くもの全てを敵とみなして攻撃する……ただの殺戮兵器と化しています」
厄介な話だ。統率された軍団も怖いが、制御不能の暴走兵器はもっとタチが悪い上に、今の俺たちにはかつてのような反則じみたスキルはない。
「現地の自警団では手が負えません。……ジン様、お願いできますか?」
ミライが縋るような目を向けてくる。新政府の樹立で忙殺されている彼女に、これ以上の負担をかけるわけにはいかないだろう。
「わかった。引き受けよう」
「ありがとうございます! 報酬は弾んでおきますね!」
俺は作戦室を出て、待機していた仲間たちに声をかけた。
「出番だぞ。残業の時間だ」
◇
現場となった山岳地帯は異様な光景だった。岩肌がえぐれ、木々がなぎ倒されている中心で暴れまわっていたのは、全長五メートルほどの巨大な天使だった。 上位個体(アークエンジェル)の残骸か、片翼は折れ、鎧もボロボロだが、手にした大剣を滅茶苦茶に振り回している。
「グルルル……排除……排除……」
壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す姿は、神々しさなど微塵もなく、ただ哀れで不気味だ。
「へっ、随分と錆びついた神様だな」
グレンが背中の大剣を抜く。スキル【金剛皮】はないため、ただの鍛え上げられた肉体と、鋼鉄の大剣があるだけだ。
「油断するなよ。腐っても天使だ。一発もらえば即死だぞ」
「わかってるよ。……行くぜ!」
グレンが飛び出すと天使が反応し、大剣を振り下ろしてくる。以前なら【金剛皮】で受け止めていただろうが、今のグレンはそれを紙一重で回避した。
「遅ぇ!」
回避と同時に踏み込み、カウンターの一撃を叩き込むと、天使の脇腹に重い一撃が入り、巨体がよろめいた。
「拙者も続く!」
カエデが疾走する。彼女もまた、スキルによる加速はないが、その足運びは流水の如く滑らかだ。天使の死角に回り込み、ヒヒイロカネの刀を一閃させる。
「ヤマト一刀流――『断ち風』!」
ザシュッという音と共に天使の腕の関節が切断され、大剣が地面に落ちる。スキルに頼らない、純粋な剣技の冴えだ。
「今だ、リリ!」
俺の合図で、リリが動く。【AGI:SSS】の超加速はないが、彼女が積み重ねてきた経験とヴォルグ製武器の性能は本物だ。瓦礫を足場に高く跳躍し、天使の頭上を取る。
「はぁぁぁぁッ!!」
双剣が交差する。落下の勢いを乗せた斬撃が、天使の仮面を砕き、その奥にある動力炉(魔石)を貫いた。
プスン、と音を立てて天使の動きが停止する。巨体が音を立てて崩れ落ち、やがて光の粒子となって消滅していった。
「ふぅ……。なんとかなりましたね」
リリが着地し、汗を拭う。以前のような圧倒的な速さはなく息も切れているが、その顔には充実感があった。
「ああ。俺たちの力だけで勝ったんだ」
俺は倒れ伏した天使の残骸を見下ろした。確率操作も運命固定もない、読み合い、連携し、技でねじ伏せる戦い。それがこれからの俺たちの戦い方だ。
「ま、楽勝だったな!」
「貴殿、最後の一撃を避ける時、顔が引きつっていたぞ」
「うっせ! 避けたんだからいいだろ!」
グレンとカエデが言い合いをし、ティアは「怪我はありませんか~?」とポーションを持って走り回り、ヴォルグは「天使の装甲板ゲットォ!」と残骸を回収している。 足元ではラクが「みゅう(おつかれ)」と俺の足を叩く。
変わらない光景だが、確かに何かが変わった世界。
「帰るか。ミライに報告して、一杯やろうぜ」
俺たちは夕焼けに染まる山道を、ゆっくりと歩き出した。 世界中に散らばる「残された脅威」はまだ多いが、この仲間たちがいればどんな問題も解決できるだろう。 そんな確信と共に、俺はリリの手を握った。
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