歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第134話:深淵の軍師の憂鬱

『幸福の白亜邸』での生活は快適だ。 リリの手料理、フカフカのベッド、そしてラクという最高の抱き枕。 戦いの日々を終えた俺にとって、ここはまさに楽園――のはずだった。

「……で、また客か?」

 リビングのソファで寛いでいた俺は、げんなりとした顔でミライを見た。 彼女は申し訳なさそうに、けれど容赦なくスケジュール帳を開いている。

「はい。本日は隣国の外交官と、王都の商工会長、それから魔導アカデミーの学長が面会を求めています」 

「俺は隠居したと言ってるだろうが」 

「世間がそれを許してくれませんよ。『神を殺した深淵の軍師』の知恵を借りたいという依頼が殺到しているんですから」

 天理が消滅し、ステータスという絶対的な指標が失われた今、人々は「確かな指針」を求めていた。 その矛先が、世界を救った英雄(の頭脳役)である俺に向くのは、ある意味で必然だった。

「断れ。今日はリリと昼寝をする予定だ」 

「そう仰ると思って、リリ様には既に『ジン様の名声を高める重要なお仕事です』と伝えてあります」

 ミライが視線を向ける先。 キッチンでは、リリが張り切ってお茶菓子の準備をしていた。

「ジン様! お客様のために特製クッキーを焼きました! これでジン様の株も上がりますね!」

 キラキラした笑顔。 ……断れない。完全に外堀を埋められている。

「……わかったよ。さっさと通せ」

 俺は諦めて、軍師モード(不機嫌な顔)に切り替えた。

       ◇

 最初に来たのは、恰幅の良い商工会長だった。 彼は脂汗を流しながら、深刻な悩みを打ち明けた。

「実は、新しい交易ルートの開拓で行き詰まっておりまして……。南の街道は魔物が出ますし、北の峠は山賊が多い。どちらを通すべきか、軍師様の『予知』に近い先読みで決めていただきたいのです!」

 そんな能力はない。 俺の【確率操作】はもう消えている。今の俺はただの一般人だ。 だが、期待に満ちた目で見つめられると無下にもできない。 俺は適当に地図を眺め、あくびを噛み殺しながら指差した。

「……川を使えばいいだろ」

 ただの思いつきだ。 陸路がダメなら水路。子供でも思いつく発想。 だが、会長は雷に打たれたような顔をした。

「か、川……!? そうか! 今まで陸路に固執していましたが、川を使えば大量の物資を一度に、しかも安全に運べる! 魔物は水を嫌う種が多いし、山賊も船は襲えない!」

 会長が震えだす。

「盲点でした……! 既存の常識に囚われていた私に、天啓にも等しい新たな視点を与えてくださるとは! 流石は深淵の軍師、視野の広さが違う!」

「あ、ああ。わかればいい」

 勝手に納得して帰っていった。 ……チョロいな。

 次に来たのは、隣国の外交官だ。 彼は自国の領土問題について、長々と愚痴をこぼした。

「我が国と隣国との国境線にある『迷いの森』の帰属権で揉めておりまして……。武力で解決すべきか、対話で解決すべきか……」

 面倒くさい。 俺はラクの毛並みを撫でながら、ぼそりと言った。

「燃やせば?」

 邪魔な森なら無くせばいい。ヴォルグ的発想だ。 だが、外交官は戦慄した。

「も、燃やす……!? つまり、焦土作戦による威嚇……いや、緩衝地帯を物理的に消滅させることで、国境の定義そのものを書き換えるというのですか!?」

 彼は青ざめ、ガタガタと震えだした。

「恐ろしい……。神をも殺した男は、国一つ焼くことなど何とも思っていないというのか……! 逆らえば我が国が火の海になるという警告ですね!? 承知しました、直ちに和平交渉を進めます!」

 外交官は逃げるように去っていった。 ……俺はただ、焚き火の燃料にすればいいと思っただけなんだが。

       ◇

 そんな調子で、数人の面会を終える頃には日が傾いていた。 俺は適当なことを言っただけだが、なぜか全員が「素晴らしい助言を頂いた!」「一生ついていきます!」と感動して帰っていく。 過大評価もいいところだ。

「お疲れ様です、ジン様」

 リリが新しいお茶を淹れてくれる。

「皆様、晴れやかなお顔で帰られましたね。やはりジン様は凄いです」 

「……俺は何もしてないぞ。あいつらが勝手に深読みしただけだ」 

「ふふっ。人を動かすのも、軍師の才覚ですよ」

 リリは俺の肩を揉みながら微笑む。 まあ、彼女が機嫌よく過ごせるなら、これくらいの茶番(仕事)も悪くないか。

「みゅう(つかれたな)」 膝の上で、接客(愛想を振りまく係)をしていたラクもぐったりしている。

「明日は休みだ。……絶対にだぞ、ミライ」 

「善処します。……ですが、明日は教会から『聖女ティア様がまたやらかした』という苦情処理の依頼が……」

 俺は耳を塞いだ。 英雄の隠居生活は、まだまだ遠そうだった。
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