11 / 35
第11話:切れない接続
しおりを挟む
週末のカフェテラス。
汎用AI《ハルシオン》が「カップルのための最適解」として推奨する、陽光と緑に囲まれた特等席。そこで、相葉 蓮(あいば れん)は、腕時計の秒針を見つめていた。
(……到着まで、あと12秒)
蓮がここに来た理由は、愛ではない。「処理」だ。
あの日、ユミからの連絡を無視し、着信拒否に設定したにも関わらず、彼女は別の回線を使って執拗に連絡を寄越した。通知が鳴るたびに、蓮の思考(フロー)は0.5秒ほど中断される。
その累積損失を計算した結果、無視し続けて彼女が自宅に押しかけてくるリスクを負うよりも、わずか数分の面会時間を割いて「関係の終了」を通告する方が、トータルコストが安いと判断したのだ。
これはデートではない。不要なバックグラウンドアプリの「強制終了」プロセスだ。
「……ごめんね、待った?」
息を切らして現れたユミを見て、蓮は無表情に秒針を確認した。
「いや。予定時刻ちょうどだ」
目の前の席で、ユミが不安そうに尋ねてくる。彼女の瞳は潤み、小首を傾げる角度まで、AIが推奨する「庇護欲をそそるポーズ」そのものだった。
以前なら、その仕草を愛おしいと感じたかもしれない。だが今の蓮には、それが高度にプログラムされたNPCの動作(スクリプト)にしか見えなかった。
いや、それ以下だ。
蓮の拡張された視覚野において、ユミの輪郭は不安定に明滅していた。
肌のテクスチャが時折剥がれ落ち、その下に無機質なワイヤーフレームが見え隠れする。過剰な美肌補正と、定型化された表情筋の動きが、蓮の脳内で処理しきれずに「バグ」を起こしているのだ。彼女が笑うたびに、目と口のパーツが微妙にズレる。まるで、出来の悪い福笑いだ。
「……あのね、蓮くん。私、何か悪いことしたかな? 連絡、ずっと取れなかったし……」
「悪いこと?」
蓮は顔を上げず、冷淡に答えた。
「いや。君の行動はハルシオンの基準に照らせば常に満点だ。模範的な適合者だよ」
「じゃあ、どうして……。先週の相性診断だって98点だったし、AIも『結婚の好機』だって……」
「俺の基準が変わったんだ」
蓮は、ようやくユミを見た。彼女の顔の上に、無数のパラメータが表示されている。心拍数、体温、発汗量、そして会話の予測パターン。
彼女が次に何を言うか、どの単語を選び、どのタイミングで涙を流すか。全てが予測可能だった。あまりにも、退屈すぎる。
「単刀直入に言おう。別れてほしい」
ユミの表情が凍りついた。予測通り、3.2秒後に瞳から水分が溢れる。
「ど、どうして……? 先週の相性診断だって98点だったし、AIも『結婚の好機』だって……」
「……」
蓮は眉をひそめた。彼女は今、まったく同じセリフを繰り返した。
文脈を理解していないのか、それともパニックで思考ループに陥っているのか。まるで壊れたレコードだ。彼女は「蓮の言葉」を聞いているのではない。「AIの診断結果」と「現実」のズレに混乱しているだけだ。
「だからだ」
蓮は苛立ちを隠さずに言った。
「AIのスコアなんてどうでもいい。問題なのは『生産性』だ。君と過ごす時間は、俺にとって知的刺激が皆無だ。会話は定型文の応酬、デートコースは予定調和の繰り返し。……君との関係を維持するために割くリソース(時間と感情)に対し、得られるリターン(成長や発見)がマイナスなんだよ」
「……え?」
ユミは口を開けたまま固まった。蓮の言葉の意味が理解できないのだろう。恋愛を「生産性」で語る人間など、この80点の世界には存在しないからだ。
「君は悪くない。ただ、俺の速度についてこれないだけだ。……今までありがとう。慰謝料が必要なら、ハルシオンの規定額の倍を振り込む」
蓮は席を立った。これ以上、ここにいる意味はない。滞在時間は予定通り4分30秒。これなら午後のタスクに支障は出ない。
「待って! 蓮くん、おかしいよ!」
ユミが蓮の袖を掴んだ。その手は温かかったが、蓮にはその温もりさえも「不快な熱伝導」としか感じられなかった。
「仕事のしすぎだよ……! 顔色だって真っ青だし、変な汗かいてるし……。お願い、一度ハルシオン・センターで診てもらおう? 元の優しい蓮くんに戻ってよ!」
悲痛な叫び。だが、蓮の目には、彼女の涙が「不自然な粘度を持った灰色の液体」に見えていた。ただの生理的な排出現象。そこに魂の重みなどない。
蓮は無表情でその手を振り払った。
「『元の俺』? ……あれは、思考停止していた抜け殻だ。今の俺こそが、本当の俺なんだよ」
蓮は、冷たい瞳でユミを見下ろした。そこには、かつて恋人に向けられていた情熱など欠片もなかった。あるのは、バグを起こした旧型機を見るような、無機質な観察眼だけ。
「邪魔しないでくれ。俺は、忙しいんだ」
蓮は踵を返し、一度も振り返らずに歩き出した。背後でユミが泣き崩れる気配がしたが、蓮はすぐに『OS』の聴覚フィルタを調整し、その泣き声を「環境音(ノイズ)」としてカットした。
世界が静かになる。これでいい。これでまた、思考に集中できる。
***
自宅に戻った蓮は、シャワーも浴びずにデスクに向かった。
プロジェクト『ニューロン・グリッド』の最終工程。都市の全インフラを制御する中枢アルゴリズムの構築。それは、蓮の脳髄そのものを都市に拡張するような作業だった。
タタタタタ……ッ。
打鍵音が響く。思考は澄み渡り、指先から神の摂理(コード)が紡ぎ出されていく。
だが、肉体の限界は近づいていた。視界が明滅し、激しい耳鳴りがする。首元の『OS』は、冷却スプレーの霜で真っ白になりながらも、触れられないほどの高熱を発している。意識が飛びそうになる。強烈な睡魔。
「……チッ、落ちるか」
蓮は舌打ちをした。これ以上は、物理的に脳が焼ける。一度クールダウンが必要だ。
蓮は震える手で、うなじの接続プラグに手を伸ばした。これを抜けば、OSの負荷から解放される。熱も、痛みも、奔流のような情報の濁流も、すべて止まる。
カチリ。ロックを外す音がした。あとは、引き抜くだけだ。
だが。蓮の指が、凍りついたように止まった。
「……ッ、はあ、はあ……」
呼吸が荒くなる。脂汗が噴き出す。抜けない。指に力が入らないのではない。本能が、全力で拒絶しているのだ。
(抜くな。抜いたら、終わる)
脳内で警報が鳴り響く。もし今、この接続を切ったら?
その瞬間に訪れるのは、「休息」ではない。汎用AIハルシオンが支配する、あの緩慢で、退屈で、何も考えなくていい「80点の世界」だ。
判断のない静寂。責任のない安寧。かつてはあれほど心地よかったその温もりが、今の蓮には「死」そのものに思えた。自分という個が、巨大なシステムの中に溶けて消えてしまう恐怖。
「嫌だ……戻りたくない……ッ!」
蓮は、ガタガタと震えながらプラグから手を離した。
恐怖。圧倒的な恐怖だった。思考のスピードが落ちることが怖い。凡人に戻ることが怖い。あの「何も見えない、何も聞こえない」幸福な盲目状態に戻るくらいなら、脳が焼き切れる痛みの方がマシだ。
「……起こせ」
蓮は、うなじの『OS』に向けてコマンドを打ち込んだ。『覚醒プログラム(Stimulant Mode):最大出力』。本来は緊急蘇生に使われる、脳への直接電気刺激。
バチッ!!
「が、あアアアッ!!!」
青白い火花と共に、蓮の身体がのけぞった。脊髄を雷が走り抜ける。白目を剥き、全身が痙攣する。肉が焦げる臭い。だが、そのショックで強制的に脳のニューロンが発火し、睡魔が吹き飛んだ。
「ハハ……ハハハ……」
蓮は、口端から涎を垂らしながら笑った。痛みで涙が出ているが、意識はかつてないほど鮮明だ。
「まだだ……まだやれる」
蓮は再びキーボードに手を置いた。接続は切らない。この熱(ペイン)だけが、俺を「個」として繋ぎ止めている。このケーブルは、もはやデバイスではない。俺の生命維持装置だ。
ふと、サブモニターの隅で、通知ランプが点滅しているのに気づいた。
『Blocked Messages(ブロック済み)』フォルダに溜まった、受信ログ。送信者はすべて『四ツ谷 海』。件数は『99+』。
『蓮、頼む』 『戻れなくなるぞ』 『会ってくれ』
海からの必死のメッセージ。だが、覚醒した蓮の目には、それらは無意味な文字列の羅列にしか見えなかった。過去からのノイズ。足を引っ張る重力。
蓮は、表情一つ変えずに操作した。
『全件削除』 『ゴミ箱を空にする』
一瞬でログが消え、画面がクリアになる。蓮は満足げに頷き、メインモニターに向き直った。
「……よし、最終フェーズだ」
都市の制御権限を、全てこの『ニューロン・グリッド』へ移行する。蓮の指が、エンターキーを叩いた。
モニターの中で、複雑怪奇なフローチャートが動き出す。美しい。完璧だ。
だが、蓮は気づいていなかった。その輝く光の奔流の隅で、小さな赤い警告灯が明滅し始めていることに。
『Warning: Bio-Feedback Critical.』 『Mental Stability: Unstable.』
部屋の隅で、脱ぎ捨てられた『アルシオーネ』が、虚しく明滅していた。そこには、AIからの最後の「休息推奨」が表示されていたが、蓮が見ることは二度となかった。
汎用AI《ハルシオン》が「カップルのための最適解」として推奨する、陽光と緑に囲まれた特等席。そこで、相葉 蓮(あいば れん)は、腕時計の秒針を見つめていた。
(……到着まで、あと12秒)
蓮がここに来た理由は、愛ではない。「処理」だ。
あの日、ユミからの連絡を無視し、着信拒否に設定したにも関わらず、彼女は別の回線を使って執拗に連絡を寄越した。通知が鳴るたびに、蓮の思考(フロー)は0.5秒ほど中断される。
その累積損失を計算した結果、無視し続けて彼女が自宅に押しかけてくるリスクを負うよりも、わずか数分の面会時間を割いて「関係の終了」を通告する方が、トータルコストが安いと判断したのだ。
これはデートではない。不要なバックグラウンドアプリの「強制終了」プロセスだ。
「……ごめんね、待った?」
息を切らして現れたユミを見て、蓮は無表情に秒針を確認した。
「いや。予定時刻ちょうどだ」
目の前の席で、ユミが不安そうに尋ねてくる。彼女の瞳は潤み、小首を傾げる角度まで、AIが推奨する「庇護欲をそそるポーズ」そのものだった。
以前なら、その仕草を愛おしいと感じたかもしれない。だが今の蓮には、それが高度にプログラムされたNPCの動作(スクリプト)にしか見えなかった。
いや、それ以下だ。
蓮の拡張された視覚野において、ユミの輪郭は不安定に明滅していた。
肌のテクスチャが時折剥がれ落ち、その下に無機質なワイヤーフレームが見え隠れする。過剰な美肌補正と、定型化された表情筋の動きが、蓮の脳内で処理しきれずに「バグ」を起こしているのだ。彼女が笑うたびに、目と口のパーツが微妙にズレる。まるで、出来の悪い福笑いだ。
「……あのね、蓮くん。私、何か悪いことしたかな? 連絡、ずっと取れなかったし……」
「悪いこと?」
蓮は顔を上げず、冷淡に答えた。
「いや。君の行動はハルシオンの基準に照らせば常に満点だ。模範的な適合者だよ」
「じゃあ、どうして……。先週の相性診断だって98点だったし、AIも『結婚の好機』だって……」
「俺の基準が変わったんだ」
蓮は、ようやくユミを見た。彼女の顔の上に、無数のパラメータが表示されている。心拍数、体温、発汗量、そして会話の予測パターン。
彼女が次に何を言うか、どの単語を選び、どのタイミングで涙を流すか。全てが予測可能だった。あまりにも、退屈すぎる。
「単刀直入に言おう。別れてほしい」
ユミの表情が凍りついた。予測通り、3.2秒後に瞳から水分が溢れる。
「ど、どうして……? 先週の相性診断だって98点だったし、AIも『結婚の好機』だって……」
「……」
蓮は眉をひそめた。彼女は今、まったく同じセリフを繰り返した。
文脈を理解していないのか、それともパニックで思考ループに陥っているのか。まるで壊れたレコードだ。彼女は「蓮の言葉」を聞いているのではない。「AIの診断結果」と「現実」のズレに混乱しているだけだ。
「だからだ」
蓮は苛立ちを隠さずに言った。
「AIのスコアなんてどうでもいい。問題なのは『生産性』だ。君と過ごす時間は、俺にとって知的刺激が皆無だ。会話は定型文の応酬、デートコースは予定調和の繰り返し。……君との関係を維持するために割くリソース(時間と感情)に対し、得られるリターン(成長や発見)がマイナスなんだよ」
「……え?」
ユミは口を開けたまま固まった。蓮の言葉の意味が理解できないのだろう。恋愛を「生産性」で語る人間など、この80点の世界には存在しないからだ。
「君は悪くない。ただ、俺の速度についてこれないだけだ。……今までありがとう。慰謝料が必要なら、ハルシオンの規定額の倍を振り込む」
蓮は席を立った。これ以上、ここにいる意味はない。滞在時間は予定通り4分30秒。これなら午後のタスクに支障は出ない。
「待って! 蓮くん、おかしいよ!」
ユミが蓮の袖を掴んだ。その手は温かかったが、蓮にはその温もりさえも「不快な熱伝導」としか感じられなかった。
「仕事のしすぎだよ……! 顔色だって真っ青だし、変な汗かいてるし……。お願い、一度ハルシオン・センターで診てもらおう? 元の優しい蓮くんに戻ってよ!」
悲痛な叫び。だが、蓮の目には、彼女の涙が「不自然な粘度を持った灰色の液体」に見えていた。ただの生理的な排出現象。そこに魂の重みなどない。
蓮は無表情でその手を振り払った。
「『元の俺』? ……あれは、思考停止していた抜け殻だ。今の俺こそが、本当の俺なんだよ」
蓮は、冷たい瞳でユミを見下ろした。そこには、かつて恋人に向けられていた情熱など欠片もなかった。あるのは、バグを起こした旧型機を見るような、無機質な観察眼だけ。
「邪魔しないでくれ。俺は、忙しいんだ」
蓮は踵を返し、一度も振り返らずに歩き出した。背後でユミが泣き崩れる気配がしたが、蓮はすぐに『OS』の聴覚フィルタを調整し、その泣き声を「環境音(ノイズ)」としてカットした。
世界が静かになる。これでいい。これでまた、思考に集中できる。
***
自宅に戻った蓮は、シャワーも浴びずにデスクに向かった。
プロジェクト『ニューロン・グリッド』の最終工程。都市の全インフラを制御する中枢アルゴリズムの構築。それは、蓮の脳髄そのものを都市に拡張するような作業だった。
タタタタタ……ッ。
打鍵音が響く。思考は澄み渡り、指先から神の摂理(コード)が紡ぎ出されていく。
だが、肉体の限界は近づいていた。視界が明滅し、激しい耳鳴りがする。首元の『OS』は、冷却スプレーの霜で真っ白になりながらも、触れられないほどの高熱を発している。意識が飛びそうになる。強烈な睡魔。
「……チッ、落ちるか」
蓮は舌打ちをした。これ以上は、物理的に脳が焼ける。一度クールダウンが必要だ。
蓮は震える手で、うなじの接続プラグに手を伸ばした。これを抜けば、OSの負荷から解放される。熱も、痛みも、奔流のような情報の濁流も、すべて止まる。
カチリ。ロックを外す音がした。あとは、引き抜くだけだ。
だが。蓮の指が、凍りついたように止まった。
「……ッ、はあ、はあ……」
呼吸が荒くなる。脂汗が噴き出す。抜けない。指に力が入らないのではない。本能が、全力で拒絶しているのだ。
(抜くな。抜いたら、終わる)
脳内で警報が鳴り響く。もし今、この接続を切ったら?
その瞬間に訪れるのは、「休息」ではない。汎用AIハルシオンが支配する、あの緩慢で、退屈で、何も考えなくていい「80点の世界」だ。
判断のない静寂。責任のない安寧。かつてはあれほど心地よかったその温もりが、今の蓮には「死」そのものに思えた。自分という個が、巨大なシステムの中に溶けて消えてしまう恐怖。
「嫌だ……戻りたくない……ッ!」
蓮は、ガタガタと震えながらプラグから手を離した。
恐怖。圧倒的な恐怖だった。思考のスピードが落ちることが怖い。凡人に戻ることが怖い。あの「何も見えない、何も聞こえない」幸福な盲目状態に戻るくらいなら、脳が焼き切れる痛みの方がマシだ。
「……起こせ」
蓮は、うなじの『OS』に向けてコマンドを打ち込んだ。『覚醒プログラム(Stimulant Mode):最大出力』。本来は緊急蘇生に使われる、脳への直接電気刺激。
バチッ!!
「が、あアアアッ!!!」
青白い火花と共に、蓮の身体がのけぞった。脊髄を雷が走り抜ける。白目を剥き、全身が痙攣する。肉が焦げる臭い。だが、そのショックで強制的に脳のニューロンが発火し、睡魔が吹き飛んだ。
「ハハ……ハハハ……」
蓮は、口端から涎を垂らしながら笑った。痛みで涙が出ているが、意識はかつてないほど鮮明だ。
「まだだ……まだやれる」
蓮は再びキーボードに手を置いた。接続は切らない。この熱(ペイン)だけが、俺を「個」として繋ぎ止めている。このケーブルは、もはやデバイスではない。俺の生命維持装置だ。
ふと、サブモニターの隅で、通知ランプが点滅しているのに気づいた。
『Blocked Messages(ブロック済み)』フォルダに溜まった、受信ログ。送信者はすべて『四ツ谷 海』。件数は『99+』。
『蓮、頼む』 『戻れなくなるぞ』 『会ってくれ』
海からの必死のメッセージ。だが、覚醒した蓮の目には、それらは無意味な文字列の羅列にしか見えなかった。過去からのノイズ。足を引っ張る重力。
蓮は、表情一つ変えずに操作した。
『全件削除』 『ゴミ箱を空にする』
一瞬でログが消え、画面がクリアになる。蓮は満足げに頷き、メインモニターに向き直った。
「……よし、最終フェーズだ」
都市の制御権限を、全てこの『ニューロン・グリッド』へ移行する。蓮の指が、エンターキーを叩いた。
モニターの中で、複雑怪奇なフローチャートが動き出す。美しい。完璧だ。
だが、蓮は気づいていなかった。その輝く光の奔流の隅で、小さな赤い警告灯が明滅し始めていることに。
『Warning: Bio-Feedback Critical.』 『Mental Stability: Unstable.』
部屋の隅で、脱ぎ捨てられた『アルシオーネ』が、虚しく明滅していた。そこには、AIからの最後の「休息推奨」が表示されていたが、蓮が見ることは二度となかった。
0
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる