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♭Ⅰ イントロ開始
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「ねぇ君、なにしてるの?」
四月一日の正午を過ぎたくらいだったはず。御倉(ごくら)高校で始業式の準備が終わったあと、阿賀野 愛夜は旧音楽室でピアノを弾いていた。ここは新しい音楽室が新棟に出来てから使われていない教室で、誰も近寄らず静かな場所で大好きだ。愛夜は去年の夏からお昼と放課後ここにいる。そんな平和な日々を毎日繰り返してきた。あの日までは…。
「おーい、聞いてるー?」
手を止めて声のするほうを見ると、見慣れないブレザーを着た茶髪の男の子が入口にいた。
「俺今日初めてこの高校にきてさ、迷っちゃったんだけど、職員室ってどこかな?」
ピアノの椅子から立ち、彼をましまじと見た。確かに見たことの無い制服で、言葉が全くなまっていない。
「なんで迷うとね。職員室は来客玄関から右に行けばあるやっか。」
と、愛夜は言ったが彼の頭の上にはハテナが並んでいる。
「あー、通じんと?職員室はここから来た道を戻って、来客玄関を通り過ぎた先にありますよ?」
と、愛夜は言い直した。長崎の人間ではないから訛りがわからなかったのだろう。
「あー、逆に歩いてきちゃったのか。ありがとう、教えてくれて。えーっと…。」
「私の名は阿賀野です。」
と、愛夜は答えた。名前を聞かれているような気がしたからだ。
「へぇー、阿賀野さん…。」
男の子は私の名を繰り返すと、笑ったような気がした。
「阿賀野さん助かったよ。いつもここに居るの?」
「あなたには関係ありません。早く行ったらどうですか?」
私は、そういった後彼を強く睨んだ。
「おぉー、こわっ笑 でも、改めてありがとう。また。」
と、彼は言い、旧音楽室を出て行った。
◆
次の日、登校して自分の教室に向かう途中、担任の花坂先生とすれ違った。
「あ!!阿賀野さん!!」
振り返ると、先生が頼みたいことがあると言わんばかりの顔をしていた。
「なんでしょうか。」
と、私は聞き返した。
「今日A組に転校生が来るんだけど、昼休みに校内を案内してもらえないかしら。昨日手続きで来てたんだけど、迷っちゃったみたいだし…。お願い…。」
先生は私の頭より低い姿勢になり手を合わせてこちらを見た。
先生の願いを断る訳にもいかないしなぁ…。
「分かりました。」
あやがそう言った時、先生は顔を上げた。その表情はぱぁっと明るく、
「ありがとう!」
と言って職員室に入って行った。
(また変な仕事受け持っちゃった…。)
教室に入るといつもの朝だ。昨日のバラエティの話をしている男子や、アイドルの話をしている女子。逆に端で固まってただおしゃべりしている子もいる。愛夜はというと、自分の席に座り本を開けた。今日は冒険物の本だ。
♪キーンコーンカーンコーン♪
「はーい!みんな席に着いてー!」
ある程度読み進み、ちょうどチャイムも鳴った。出席を取り終わり、今日一日の連絡が終わったあと、先生がお知らせがあるという。
「実は今日からA組に転校生が加わります!入ってきてー。」
教室がザワつく。珍しいのだろう。
「じゃあ自己紹介してくれる?」
「小川 拓音です。東京から来ました。よろしくお願いします。」
教室中に拍手が響く。前の女子がなにやら嬉しそうな顔をしていた。
「はーーい!静かに!じゃあ小川君、空いてる席に座ってくれる?」
「はい。」
小川は教卓から降りてこちらに歩いてきた。愛夜は驚いた。
「よろしくね。阿賀野さん。」
小川はそう言うと愛夜の横に座った。
◆
小川の紹介が終わり、1限目が始まった。のだけれど…。
「先生。俺まだ教科書揃ってないんですが、どうすればいいでしょうか?」
と、挨拶後に小川が尋ねた。
「あー、そうか。まだ全部届いとらんとか。阿賀野、席をつけて小川に見せてやってくれー。」
「え…。あ、はい。分かりました。」
私は席をつけて教科書を真ん中に置いた。
「昨日ぶりだね。いつもあそこにいるの?」
小川は肘をつきこちらを見た。やっぱり話しかけてきた。
「教室で私に話しかけんで。あそこにももう近寄らんで。」
小川は眉を寄せた。
しかし、愛夜は黒板を見つめノートを取り続ける。
小川は諦めたのか、話しかけてこなくなった。
四限目まで終わり、お昼休みになった。お弁当を持って旧音楽室に行こうしたが、先生に朝言われたことを思い出した。
「小川く…」
小川を呼ぼうとしたが、小川の席の周りにクラスの女子達が取り囲んだ。
「ねぇねぇ、小川君東京から来たとよね?!東京ってやっぱ凄かと?」
「前の学校どんなとこやったと?てかなんでこんな田舎な高校に転校してきたの?」
一斉に質問が飛び交う。中にはA組じゃない子もいた。
(今は無理か…。放課後案内しよう。)
愛夜はお弁当を持ってその場を離れた。
四月一日の正午を過ぎたくらいだったはず。御倉(ごくら)高校で始業式の準備が終わったあと、阿賀野 愛夜は旧音楽室でピアノを弾いていた。ここは新しい音楽室が新棟に出来てから使われていない教室で、誰も近寄らず静かな場所で大好きだ。愛夜は去年の夏からお昼と放課後ここにいる。そんな平和な日々を毎日繰り返してきた。あの日までは…。
「おーい、聞いてるー?」
手を止めて声のするほうを見ると、見慣れないブレザーを着た茶髪の男の子が入口にいた。
「俺今日初めてこの高校にきてさ、迷っちゃったんだけど、職員室ってどこかな?」
ピアノの椅子から立ち、彼をましまじと見た。確かに見たことの無い制服で、言葉が全くなまっていない。
「なんで迷うとね。職員室は来客玄関から右に行けばあるやっか。」
と、愛夜は言ったが彼の頭の上にはハテナが並んでいる。
「あー、通じんと?職員室はここから来た道を戻って、来客玄関を通り過ぎた先にありますよ?」
と、愛夜は言い直した。長崎の人間ではないから訛りがわからなかったのだろう。
「あー、逆に歩いてきちゃったのか。ありがとう、教えてくれて。えーっと…。」
「私の名は阿賀野です。」
と、愛夜は答えた。名前を聞かれているような気がしたからだ。
「へぇー、阿賀野さん…。」
男の子は私の名を繰り返すと、笑ったような気がした。
「阿賀野さん助かったよ。いつもここに居るの?」
「あなたには関係ありません。早く行ったらどうですか?」
私は、そういった後彼を強く睨んだ。
「おぉー、こわっ笑 でも、改めてありがとう。また。」
と、彼は言い、旧音楽室を出て行った。
◆
次の日、登校して自分の教室に向かう途中、担任の花坂先生とすれ違った。
「あ!!阿賀野さん!!」
振り返ると、先生が頼みたいことがあると言わんばかりの顔をしていた。
「なんでしょうか。」
と、私は聞き返した。
「今日A組に転校生が来るんだけど、昼休みに校内を案内してもらえないかしら。昨日手続きで来てたんだけど、迷っちゃったみたいだし…。お願い…。」
先生は私の頭より低い姿勢になり手を合わせてこちらを見た。
先生の願いを断る訳にもいかないしなぁ…。
「分かりました。」
あやがそう言った時、先生は顔を上げた。その表情はぱぁっと明るく、
「ありがとう!」
と言って職員室に入って行った。
(また変な仕事受け持っちゃった…。)
教室に入るといつもの朝だ。昨日のバラエティの話をしている男子や、アイドルの話をしている女子。逆に端で固まってただおしゃべりしている子もいる。愛夜はというと、自分の席に座り本を開けた。今日は冒険物の本だ。
♪キーンコーンカーンコーン♪
「はーい!みんな席に着いてー!」
ある程度読み進み、ちょうどチャイムも鳴った。出席を取り終わり、今日一日の連絡が終わったあと、先生がお知らせがあるという。
「実は今日からA組に転校生が加わります!入ってきてー。」
教室がザワつく。珍しいのだろう。
「じゃあ自己紹介してくれる?」
「小川 拓音です。東京から来ました。よろしくお願いします。」
教室中に拍手が響く。前の女子がなにやら嬉しそうな顔をしていた。
「はーーい!静かに!じゃあ小川君、空いてる席に座ってくれる?」
「はい。」
小川は教卓から降りてこちらに歩いてきた。愛夜は驚いた。
「よろしくね。阿賀野さん。」
小川はそう言うと愛夜の横に座った。
◆
小川の紹介が終わり、1限目が始まった。のだけれど…。
「先生。俺まだ教科書揃ってないんですが、どうすればいいでしょうか?」
と、挨拶後に小川が尋ねた。
「あー、そうか。まだ全部届いとらんとか。阿賀野、席をつけて小川に見せてやってくれー。」
「え…。あ、はい。分かりました。」
私は席をつけて教科書を真ん中に置いた。
「昨日ぶりだね。いつもあそこにいるの?」
小川は肘をつきこちらを見た。やっぱり話しかけてきた。
「教室で私に話しかけんで。あそこにももう近寄らんで。」
小川は眉を寄せた。
しかし、愛夜は黒板を見つめノートを取り続ける。
小川は諦めたのか、話しかけてこなくなった。
四限目まで終わり、お昼休みになった。お弁当を持って旧音楽室に行こうしたが、先生に朝言われたことを思い出した。
「小川く…」
小川を呼ぼうとしたが、小川の席の周りにクラスの女子達が取り囲んだ。
「ねぇねぇ、小川君東京から来たとよね?!東京ってやっぱ凄かと?」
「前の学校どんなとこやったと?てかなんでこんな田舎な高校に転校してきたの?」
一斉に質問が飛び交う。中にはA組じゃない子もいた。
(今は無理か…。放課後案内しよう。)
愛夜はお弁当を持ってその場を離れた。
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