上 下
76 / 293
第一章 初心者の躍動

第七十四話 初の武器制作‼ (後編)

しおりを挟む
 落ち込んでいるナギを見たゴド爺さんは最初は戸惑っていたが、とりあえず持っていた水の入っていたコップをナギの方へと置いて座った。

「ほら、何に落ち込んでいるのか知らんが、とりあえずはこれを飲んで元気だせい」

「え、あぁ…ありがとうございます…」

 ゴド爺さんが励ましながらコップを差し出すとナギは考え事に夢中になっていたようで、少し戸惑っていたがとりあえずお礼を口にして水を受け取った。
 そのナギの様子を見てゴド爺さんは安心したように頷いて小さく笑みを浮かべて話し出す。

「さて、それじゃぁ落ち着いて来たところで改めて聞くが、何を落ち込んでいるんだナギ坊?」

 落ち着いたタイミングを見計らってゴド爺さんは改めてナギを心配したように確認した。
 話しかけられたナギは少しなんて答えたらいいのか少し考えていた。

「いや、ちょっとですね…。改めて自分の作ったこれと、ゴド爺さんの作ったこれを見比べて、その出来の差にちょっと落ち込んでいただけです……」

「そんな事で落ち込んでたのか?そりゃ~当たり前だ。年季が違うぜ‼」

 ナギの落ち込んでいた理由にゴド爺さんは心底呆れたようにうなだれていたが、小さく溜息を漏らすとゆっくりと顔を上げる。

「はぁ~まったく、そんな当たり前の事を気にしている暇があるなら、さっさと次の製作に取り掛かれ。その方が有意義ってもんだ」

 ゴド爺さんが疲れたようにそう話すとナギは、その内容に言い返す言葉が思い浮かばなかったようでバツが悪そうに顔を逸らした。
 しかしナギは黙っても仕方ないと何か諦めたように渋々と言った様子で話し出す。

「…すみませんでした。どうしても勝ちたくなってしまう性分でして…」

「ハハハハハッ!そう言う事だったら仕方ないな‼なにより職人は誰でも、負けず嫌いだ!ある意味才能あるぞ?」

 言い難そうに話すにナギにゴド爺さんは心底嬉しそうに笑ってそう言った。
 その反応にナギは一瞬呆然としていたが、すぐに安心したように小さく笑みを浮かべる。

「そう言ってもらえると、少しは自信を持てます!」

「別に気にするな。何せ本当の事しか言っていないしな。ワシだって他の職人達に負けたくない!もっと良い物を作りたい!そう言う負けん気で努力した結果、何時の間にか一流と言われるようになっとったわ‼ガハハハハハッ!」

 そう言うとゴド爺さんは死ぬほど愉快そう大声で笑い出し、ナギもつられるようにして小さく笑みを浮かべていた。

(まったく…リアルの師匠もあれだが、こっちの師匠もあれだな~…。まぁこれはこれで楽しいからいいけどな!)

 ナギはどこかスッキリした笑みを浮かべるとゆっくりと話し出す。

「確かにその理屈だと、俺は向いているかもしれませんね。それで早速聞きたいんですが、何処を直せばもっとうまくなりますかね?」

 いきなり真剣な様子で話を始めたナギにゴド爺さんは、少し考えてあごひげを撫でながら答えた。

「そうだな。…うむ、まずは最初のインゴットを取り出すタイミングだな。ナギ坊は完全に赤くなるのを待っていたが、本来ならもう少し早めに取り出した方がいい。叩くときも、完全に冷めてしまうまでではなく少し熱が残っている間に戻せ。後は、叩くときの力は凹凸が余程はっきりとない時は、出来る限り一定の力とリズムでやる事だな…」

「おぉ…思ったよりダメダメだった…」

 ゴド爺さんの説明を聞いたナギは思った以上に多いダメ出しに、露骨に落ち込んでしまっていた。
 しかしすぐにシャキッ!とした表情になると、真剣に何かを考え始めた。

(う~ん、さて…どうするかな?窯とインゴットの扱いは何となくわかるが、問題は鍛錬の時の叩き方だな…。リズムだけだったらなんとか…問題は一定の力だな…)

 ナギは真剣に悩んでいたがそれも仕方のない事だった。何故ならナギは数年続けた武術の修行の結果、大けがをさせない程度の手加減は出来るようになったが代わりに制御が甘く、軽くやったつもりでも相手に怪我を負わせてしまう事も珍しくなかったのだ。
 そのため一定の力で叩くと言う細かな力の制御が必要な作業内容に、ナギは盛大に頭を悩ませていた。

 そしてナギが悩んでいる横で指摘したゴド爺さんは、真剣に考えているナギを見て満足そうに大きく頷く。
 しかし数分経っても考え続けて話し出す様子のないナギにしびれを切らしたのかゴド爺さんは、小さく息を吐き出して話しかけた。

「はぁ~まったく、お~い!ナギ坊‼おまえ、いいかげんその考えすぎる癖直せ。いちいち待つのが大変だ…」

「え?あ…はい、すみませんでした…」

 いきなりの説教にナギは戸惑っていたが一瞬で冷静に戻ると、自分が悪いという自覚があるからか気まずそうに顔を逸らして謝った。

「まぁ理解してくれたならそれでいい。何よりもワシの指摘について、ちゃんと理解できたな?」

 ナギの謝罪を聞いたゴド爺さんは満足そうに一度頷くと、一応と言ったように先ほどの指摘を理解できたか確認した。
 それに対してナギもすぐに真剣な表情を浮かべるとすぐに答える。

「もちろんですよ。その事について考えていたんですから…。ただなんと言うか、俺って昔から力の加減がどうも苦手で…」

 少し気まずそうにナギが答えるとゴド爺さんは納得したと言ったように頷いていた。

「あぁ…そう言う事か、なんとなく納得だ。ワシらドワーフ族も、力が強い分制御が難しくてな…苦労した」

「へぇ~そうだったんで…?はっ⁉ゴド爺さんってドワーフだったんですか⁉」

「うん?そう言えば言ってなかったか…、とは言ってもワシの姿見れば何となく理解できただろ?」

 そう言われてナギは改めてゴド爺さんの姿をすると、約150㎝程の身長にズングリした体形。更に筋骨隆々の体格の良さと、モジャモジャに生えた髭。
 改めてそれを確認したナギは口元を押さえて小さく頷いた。

「…確かに、言われてみればどっから見てもドワーフですね。何で今まで気づかなかったんだろ…」

 今さら気が付いたことにナギは落ち込んだようだったが、どれを見たゴド爺さんは心底愉快そうに大声で笑い出した。

「ハハハハハッ!ワシも説明していなかったからな!しかたないと言えば、仕方ないだろうさ。それよりも力の調性についてだが、下手に気にしすぎずに最初に叩いた時の力から変えずに叩く事に集中すればいい。最初はそれで品質・良くらいは作れるようになる」

 楽しそうに話していたゴド爺さんだったがすぐに本題を思い出したようで、真面目な表情で先ほどのナギの悩みの解決策を提案した。

「本当ですか!そんな簡単な事で良かったんですか…。いや、簡単でもないのか?力を変えないって言うのも地味に…」

 ゴド爺さんの説明を聞いたナギはまた難しい表情で考え込み始めたが、それにいち早く気が付いたゴド爺さんは妨害するように話し出した。

「おい!また自分の世界に入りかけてるぞ?」

「っ‼注意ありがとうございます。どうもこの癖が直んないんですよね…。はぁ…、よし!今はそれよりも鍛冶授業の方が大事なので、それ以外の事を考えない事にします‼」

「おう、考えるにしても修行の後にしろ。もう時間もないぞ?」

 そう言ってゴド爺さんが外を振り返ると空が薄っすらと暗くなり始めていた。
 ナギもその事に気が付いたようで本気で慌てだした。

「本当だ⁉やばい…後少しで戻らないと、急いで再開します‼あと二回程でたぶん時間になっちゃうんで、アドバイスお願いします‼」

「おうよ‼任せとけ。そう言う事だったら厳しく行くぞ!」

「よろしくお願いします!」

 ナギとゴド爺さんの2人は元気よくそう言うと目の前の水を一気に飲み干して、勢いよく立ち上がって窯の方へと向かって行くのだった。
しおりを挟む

処理中です...