Silens&Silentia シレンス・シレンティア

宮本葵

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第一章「Silensとの出会い」

ep.10 “入隊試験編Ⅳ”

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 警報音が鳴り響いたホールの中で、全員が立ち尽くした。赤いライトが点滅し、巨大な影が天井や床に揺れ続けている。

『やあ、訓練生のみんな。ちょっとした“実戦訓練”を始めようか』

 モニター越しの影はそう言うと、まるでこちらの反応を楽しむように笑った。

「実戦……?」

 優斗が呟いた直後だった。「ドガァンッ!!」天井の一部が爆発し、破片が雨のように降ってきた。同時に、黒い煙の中から何かが落下する。

「伏せろ!!」

 片浜指揮官の怒号。全員が一斉に身をかがめた。破片がバラバラと地面に散らばる。だんだんと、煙がうすれた瞬間、そこに立っていたのは――

 黒いパーカーの人物。だが、顔はマスクで完全に隠され、性別も年齢も判別できない。

「……こんにちは、未来の“能力者”たち」
「うちの団体になんの用だ?くそっ、全員戦闘準備!」

 黒パーカーの男を抑止しつつ、片浜指揮官が叫ぶ。

「昨日の訓練で使った非殺傷銃だ!氷・電撃・風・衝撃・光…種類は違うが、基本は同じだ。狙うのは動きを止めるだけでいい!」

 指揮官が近くに置いていた、銃の訓練の時にも置いてあったケースを開く。中には二十丁の“訓練用の光弾銃”が並んでいた。
 だが――丁だけ、異質な輝きを放っていた。黒をベースに、赤い模様が回路のように走っている。

「ん、これ…あったかい?」

 思わず手を伸ばした僕に、その銃が“呼吸をするように”反応した。

「蒼、それ…」

 優斗が眉をひそめる。しかし指揮官は気づかず、次々と銃を配っている。

「よし、全員持ったな!?追い込むぞ──!」

 その瞬間、頭上の配管が破裂し、金属片が雨のように落ちた。暗闇の奥から、黒いフードの影がこちらへ銃のような装置を向けてくる。

「さて、反応速度を見せてもらおうか」
「来るぞ!!」

 バシュッッ!!鋭い青白い光が、僕らの足元を裂いた。床材が一瞬にして焦げる。そして、残った銃弾に嫌な予感を覚える。

「危ない!!」

 桐生先輩が叫ぶと同時に、その銃弾が四方に弾け飛ぶ。

「くっ——!」

 桐生先輩が一歩前に飛び、俺たち全員の前に立ちふさがる。銃弾と一緒に放たれた見えない弾を、手刀で払うように弾き返した。

「蒼、後ろに!!」

 優斗が俺の腕を引っ張り、遮蔽物の後ろへと滑り込む。

「なんだよこれ……何が飛んできてるんだ!」
「わからないわ。少なくとも軍用兵器みたいだけど…」

 中村さんがそう呟く。強敵が襲ってきたと言うことは少なくとも間違いではないだろう。

「蒼、伏せろ!!」

 優斗が叫んでハッと前を見た瞬間、銃弾がすぐ目の前まで来ていた。優斗に体を引き倒されながら、僕は反射的に銃を構えて、銃弾が飛んできた方角、黒いパーカーの男へ狙いを定める。
 その瞬間──銃の赤いラインが一気に輝き、手が勝手に動いた。

「えっ……!?」

 パンッ!!無意識に引き金を引いていた。赤黒い光弾が放たれ、犯人の足元で爆ぜ、床を抉る。

「今の反応速度、何だ…?」
「蒼、早すぎる…!」

 僕自身も、何が起こったのか理解できなかった。視界が妙にスローに見え、相手が動く前の“気配”がわかってしまう。

 その隙を狙った桐生先輩が、爆風を切り裂くように踏み込み、黒影へと迫る。しかし――

「早いね。だが、君はちょっとあの子よりも遅いよ」

 影の人物が手首をひねるだけで、――先輩の足元で何かが破裂した。爆音と煙。先輩の姿が一瞬かき消える。

「桐生先輩!!」

 岩城さんが叫ぶ。煙の奥で、先輩は膝をついていた。

「ごほっ……! まさか、こんなにも……っ」

 指揮官がすぐさま飛び出す。

「お前らは下がってろ!!」

 いつもの軽薄さはカケラもない。息を呑むほど鋭い殺気をまとっていた。

「貴様、何が目的だ」
「答えるわけないだろ?それよりも、さっき俺を撃ったその子供を前に出せ」
「……応じなかったら?」
「今すぐ全滅させてもいいが?」
「……よし、蒼、前に出ろ」

 指揮官が僕に指示を出す。

「指揮官……いいんですか?」
「武器は持っておけ、だが、冷静にだ。いいな?」

 そう言って、背中を叩いてくる。冷静に。相手を興奮させないようにする。簡単な事だ。

「君の名前は?」
「僕は宮本蒼。あなたは?」
「……識別番号109番としか言えないな。語呂合わせ的に“あおき”とでも呼んでくれ」
「……分かった、あおきさん。で、僕に何の用ですか?」

 ただ銃を当てただけなのに、なぜ指名されたのだろうか。

「……血銃《けつじゅう》。まさか、まだ残ってたとはな」
「け、血銃…?僕の持っている銃のことですか?」
「ああ。半世紀以上前に作られた、先祖代々から繋がっている一家の血統でしか使えない、そう言う武器だ」
「じゃあ、僕もその一家なんですか…?」
「合っていると言えば合っている。正確には俺が本来の使い手。まあ、使うことを放棄したがな」

 使うことを放棄…?元はもしかして……。

「……桜雲学園のSilensに所属していたんですか?」
「半分は正解。所属と言うよりは、見ちゃって、記憶消えなくて入ったな。まあ、指令とかの仕事ばっかだったけどな……。その銃はたまたま俺が持った時に動いて、使うことになったが……、何やら嫌気がさして、自分の団体に銃撃戦吹っかけて、自分の情報は全部潰して、今はこの状況」
「何が……」
「何が合ったかは教えない。ただ、君もその血統になってしまった、選ばれてしまった。だから、残念だけど――」

 男は急に銃を構え、僕を撃つ。だけど、どれもスローに見える。パシュ、パシュ。二発とも避けて、僕は咄嗟に撃ち返す。パシュ、パシュ。こちらも避けられる。

「蒼!こっちへ――危険すぎる!」

 指揮官が走ってきた瞬間、再び犯人の攻撃が飛んだ。バシュウッ!青いビームがこちらに迫る。なのに、僕の体は勝手に横へ飛んで避けていた。

「蒼!それ、人間の反応じゃないぞ!」
「わかんない……勝手に体が動くんだよ!」

 指揮官は他の試験生たちに指示を飛ばす。

「全員、蒼の援護に回れ!氷班は足場を凍らせろ!雷班は牽制しろ!」

 十数人の光弾が一斉に飛び、廊下が色とりどりの光で染まった。氷弾が床を凍らせ、風弾が空気を乱し、電撃が走る。
 だが犯人は軽々とそれを避けていく。

「無駄だ。属性銃じゃ俺は落とせねえ」

 その時、僕の銃が低く唸り始めた。まるで“撃て”と急かしているように。

「蒼、来るぞ――!」

 犯人が跳躍し、僕めがけて突っ込んできた。僕も飛ぶ。

(来る……!)

 時間がゆっくりになる。風が止む。すれ違いになるように、障害物を避けて、“あおき”と自称するその黒パーカーの男と一緒に飛んでいる。両者、銃を互いに狙いを定め、一斉に銃弾が撃たれる。バシュッッ!!!
 狙いは外れたが、出入りできるような隙間が遠くで塞がる。

「残念。今日はここまでか」

 “あおき”が指を鳴らした瞬間。天井の非常口が自動的に開いた。そこに格子状のワイヤーが降りてくる。

「逃がすな!!」

 指揮官が跳ぶ。しかし、影の人物はワイヤーにしがみつき、上へと急上昇する。

「くそっ!!」

 指揮官の手があと数センチというところで、ワイヤーが勢いよく引かれ、影は闇の奥へ消えていった。

「岩城、中村、神山!お前らとも戦いたかったが、今日のところはこれで終わりだ。……またどこかで会おう――宮本蒼!」
「っ……!」

 背中を冷たい汗が流れた。胸が、嫌な形で掴まれる。

「蒼……今、あいつ……!」
「……聞こえた」

 “あおき”の声は、確かにA組を名指しした。何故だ?どうして僕以外の名前を知っている。どうして僕たちなんだ。疑問が胸の中で渦巻き、息がうまく吸えなかった。

~~~~~~~~~~~~

 影が完全に消え、天井が閉まると、警報音も止んだ。

 静寂が戻る。

「桐生先輩、大丈夫ですか!」
「平気……よ。少し、やられただけ」
「少しじゃなかったですよ!」

 女子たちが先輩の元へ駆け寄る。男子のほとんどは腰を抜かして座り込んでいた。指揮官だけは拳を強く握っていた。

「……全員、怪我は軽傷だな。応急処置班、連れていけ」

 怒鳴り声ではない。低い声。完全に“怒っている”時の声だ。俺の前に立つと、指揮官は短く言った。

「宮本、お前は、多分、これからも標的になってしまうかもしれない……」
「……はい」

 指揮官はしばらく黙ったあと、

「正直に言う。今回の侵入者、俺でも追いきれなかった」
「……!」
「桐生ですら太刀打ちできなかった。つまり、あれは――Silensの範囲を超えた相手だ」

 その言葉に、僕はぞっとした。訓練して、強くなって、みんなで協力して——それでも届かない相手。そんなの、どう戦えと言うんだ。僕は怖さで少し震える。

「だが戦えた。宮本、お前はこのSilensの戦力になってくれた」
「だけど、僕なんかで……」

 そう、僕が言った時、優斗が後ろから肩をつかんだ。

「お前、逃げる気はないんだろ?」
「…………」

 震えていたのは、恐怖だけじゃない。悔しさと、怒りと、わからない熱。

「——うん。逃げたくない」

 ちゃんと言葉にすると、胸の奥が少しだけ軽くなった。指揮官が深く頷く。

「よし。ならお前は、今日から“特別監視対象”だ」
「……特別、ですか」
「ああ。だが安心しろ。俺と桐生がつく。部屋には神山もいるし、絶対に一人にはしない」
「はい」
「ただし——」

 指揮官は全員に向き直った。

「犯人は逃げた。今もどこかで潜伏している。隙を狙ってくるかもしれない。油断するな」

 その言葉に、応急処置をされていた全員の顔が引き締まった。こうして、俺たちの“模擬戦”は、突然の“本物の襲撃事件”に姿を変え、そのまま未解決のまま終わった。
 だが、これが終わりではない。俺の名前を呼んだあいつは、必ずまた来る。その時までに、必ず強くならなければいけない。――そう、強く心に刻んだ。
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