7 / 142
7.三年間
しおりを挟む「つまりね、オレは今やってるプロジェクトに集中したい。余計なことに邪魔されたくない。いろいろ申し込まれるのは困るから、結婚するのが良いと思うけど、それも出来ない。だから――三年間、結婚の契約をして、オレの番になってくれる人が居たらいいけど、そんなの居ないよな……と思って歩いてたら、君が、怪しげな店の前でウロウロしてたんだよね。運命っぽくない?」
「――はは」
笑ってしまう。そんなタイミングで、オレを見たんだ。
Ω専用の怪しい店の出入り口で進んだり戻ったりしてたもんな、オレ。
おそらくお金が欲しくて、怪しい店に入るか悩んでるΩ。
確かに、北條さんが、あ、って思うのも、なんか分かってしまうかも。
「少し話して、変な人だったらもちろん、この話はしなかったんだけど――」
「――変な人じゃなかったですか? オレ」
面白くて聞いてみたら、北條さんはクスクス笑って頷いた。
「うん。医者になりたくて、頑張ってる人、でしょ。オレ、それも応援したいし」
「――」
「あ。ちょっと気になるのは――どうして、父親を嫌いなのか、簡単に話せる? 話せる範囲でいいけど」
「別に隠すほどのことじゃないので……えーと、ですね」
何で嫌いか、ちょっと考えてみる。
「Ωの母は、αの父の愛人で……母が亡くなったら、オレの面倒はみるって言って、住まいとお金はくれました。父は母に、オレがαだったら引き取ったのに、とか言ってたことがあって……あ、オレは父には、βって言ってあります。Ωだったら、多分へんなとこに嫁がされそうなので。――父には他にも愛人がいて……まあ、いろいろスペックは高い人なんでしょうけど。オレの嫌いなαの典型みたいな人です」
なんだかめっちゃすらすら嫌いな理由が出てきてしまった。
言葉に出したの初めて。だけど、そうか、そういうのが、やっぱり、オレはすごく嫌なんだ。
自分でもなんだか妙に納得していると。
「――ん、分かった。ありがとね」
黙って、じっと聞いてくれていた北條さんは、静かに頷いて、そう言うと、少し黙った。
「――オレも、そういうαは、嫌いだから。よく分かったよ」
「――」
「Ωの君に契約結婚とか持ち出してて、それもとんでもないやつって思うかもしれないけど……多分、話聞いてると、利害が一致しそうだから、話してる。最後まで聞いて、断ってくれてもいいからね?」
「はい」
不思議と、とんでもないとは、思っていない。
――父とは、全然違う人種な気がする。
「で、オレとしては、今、とにかく結婚をしてしまえば、色々なことに邪魔されなくてすむ。三年間、必死で取り組める状況が欲しい。――それで……君の、メリット、なんだけど」
「はい」
「デメリットは、戸籍のことが一番だと思うけど……まず、契約してくれたら、新居として、オレの部屋の隣に、めちゃくちゃ良い部屋をあげる。オレの部屋とは別ね。貸すんじゃなくて君のものにする。期間が終わっていらなかったら、オレに売ってくれたらいいよ。言い値で買い取るから。君は、父親の名義の家に住みたくないんでしょ?」
「はい。ていうか、そんなのいいんですか……?」
「結婚してるのに一緒に住んでないとおかしいから、そこに住んでほしい。これはオレのお願いだから――最上階を買い取ってるから、その階に住んでくれれば、他人にはバレないから」
「なるほど……」
なんか話のスケールが大きすぎて、くらくらする。
「あれですか、その階に住んでる人しかとまらないエレベーターとかですか?」
「そうだよ。そのために買い取ってる」
「……なるほど」
ただ頷く。しかできない。
「凛太くんが働かずに、勉強を続けられるのに余裕な額を、報酬として渡す。言い値でいいよ。ただ、たまにあるパーティーは、仕事だと思って、付き合って。それはまたボーナス支給する」
「――ていうか、ほんとにいいんですか」
「あのね、オレ、遺産もついで、自分でも稼いでるし、CEOになっちゃったし――掃いて捨てても困らない位、お金は持ってるんだけど……それを、オレが今一番求めてることを得るために使うだけ」
「北條さんがほしいのって」
「見合いや結婚を迫られない、告白されない、そういう目で見られない、環境。独身でいる限り、無理みたいだから」
何だか疲れたように、ため息をついてる。
――うん。分かるなあ。
トリプルSのαで、ただならぬお金持ちで、肩書きもあって、こんな感じの、いい意味でαっぽくない、やわらかい感じの人。で、若くて、独身でカッコいい。モテないわけないよな。わー。
「ていうか、オレ、恨まれないですか……??」
「ん?」
「……北條さんを好きな人に」
「大丈夫だよ。オレが大事にしてるって言ったら、そこに害をなす奴なんか、居ない。パーティーに出る時だけ着飾ってもらって、普段は今みたいに普通の感じで居て貰えば、分かんないと思うし――とりあえず、君が困ることのないよう、そのつど、最大限で援助するつもり」
「――なるほど……」
そうか。日本で有名なグループ会社のCEOだし、偉いおじいちゃんのお気に入りとか言ってたし……逆らう人、居ないのか。ふむふむ。
「だからね、凛太くん」
「はい」
「良かったら、オレと、三年間の、契約結婚をしてもらえませんか?」
まっすぐに、にっこり微笑んで、そう言われて。
ふ、と笑ってしまった。
1,898
あなたにおすすめの小説
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる