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12.神様からのプレゼント
しおりを挟む「凛太くんって――君さ、こいつが言ってる意味、分かってる?」
有村さんがオレをまっすぐに見て、一番にそう聞いた。
「――はい。分かってるつもりです」
「……分かってること、言ってみて?」
おお。なんか、試されてる感が――。ちょっと緊張。
「……えっと。瑛士さんは三年間で、頑張りたいことがあって、今みたいに、お見合いとか色々申し込まれる環境を、脱したい。……それで、僕は……訳があって、αの父には頼りたくなくて――母が亡くなってから住まわせてもらってる家と……あと、貰ったお金を、なるべく使いたくなくて。でも、医学部はお金がかかるし、勉強するためにはあまり働いてる時間がないので――さっき、実は、ちょっと怪しげなΩ用のお店に話を聞きに行ってみようかって、ウロウロしてたとこを、瑛士さんにスカウトされ……」
「スカウトって……凛太、言い方、面白すぎるね」
クスクス笑う瑛士さん。
……楠さんも、有村さんも笑ってないけど。瑛士さんは、余裕だ。
「デメリットは、オレの戸籍に、三年後くらいにバツがつくこと。メリットとしては……瑛士さんの番として立って、瑛士さんのマンションに住めば、オレは父のマンションに住まなくていいし、あと、勉強している間、報酬として、困らない分を、言い値でくれる、て言ってました。あと、そのマンションを、オレに譲ってくれるとか言ってましたけど、それは、まだちゃんと話してません。オレは、とりあえず、医大を卒業して、自分で稼げるようになるまでの間、父のお金に頼らなくて済むなら、それで十分なので……そんな、感じ、ですか?」
オレが言い終えて、瑛士さんを見ると。
「マンションはあげるって言ってるし。契約が終わった時、出たかったら、オレに売ってくれたらいいよ。言い値で買い取るし。そしたら、まとまったお金を、あげられる――それくらい、この三年間は、煩わしいことに囚われたくない。うん。凛太、ちゃんと分かってくれてる」
ふ、と瑛士さんが優しく微笑む。
あとの二人は。楠さんは、考え深げに、口元を押さえて、まだ固まってる。でもさっきよりは、驚いたまま、という顔じゃない。なんか、色々考えてるみたいな表情。
有村さんは、唇を少し引き結んで、こちらもすごく色々頭を巡らせている感じ。
「凛太くんさ。バツイチになるのは、本当にいいのか? ――戸籍に、離婚、が表示されるんだよ。いつか、番になりたい人が出来た時、そのせいで、うまくいかないことだって、あり得ると思うが、ちゃんと考えた?」
多分、心配してくれている。
オレは、色々考えうることを、思い浮かべてみたけれど。
「オレ、あんまりそういう気持ちが浮かばなくて。結婚願望とか、全然ないので……今まで好きになったり、付き合ったりも無いですし、あったとしても――事情を話して通じない相手とは、結婚することはないと思うので、大丈夫です」
はっきりそう言って、伝わったかな、と見つめていると。
「……なるほど。君は、結構賢いな。すまない。少し、なめてた」
有村さんは、少しだけ唇の端をあげて笑うと「まあ悪いのは、こいつの説明の仕方だな」と言って、瑛士さんに視線を流した。瑛士さんは、楽しそうにクスクス笑ってる。
「いい子でしょ」
「――オレは、そういう契約結婚とかは、認めたくないが」
「職業柄?」
「まあ、そうだな。――それに、そういうことをしようという気持ちが、気にくわない」
有村さんの言葉に「そうだよね」と、瑛士さんは苦笑。
「でも、ほら。政略結婚とかさ。見合いで望まぬ相手と、とかさ。そう言うのでも、結婚はするじゃん。オレと凛太は、お互い自分のしたいことを頑張るために、協力する――運命共同体、だから。結婚の形が一番メリットがある訳だし。三年間だけ、許してくんない? 長い人生の三年間。それに、オレと凛太にとっては、結構大事な期間だと思う」
それを聞いてると、ほんとに確かにそうだな、と思った。
……契約結婚というのに、否定的な、弁護士の有村さんに認めさせたくて言っているんだとしても。でも、確かに。
「オレも――この三年間。父に世話にならないということだけで、ストレスなく過ごせますし。変な店で働くこともなく、勉強に集中できるので、すごくありがたいです。将来絶対作りたい薬があるので。勉強に集中できる環境を貰えるの――神様からのプレゼントかなって思うくらい、です。普段見ない紙にバツがつくとか、本当に、オレには関係ないので……」
そう言うと、瑛士さんが席から立ち上がって、オレの隣に歩いてきた。
「――はは。かわい。何、神様からのプレゼントって」
「わ……」
くしゃくしゃ頭を撫でられて、ちょっと両手で髪を直している間に、瑛士さんが、オレの肩を抱いて、言うことに。
「もう決めたから。その為の手続きと。発表の準備、頼む」
はっきり言ったその言葉に。
二人は、それぞれ、なんだかやたら長い息を吐いてる。
「飲んじゃいましょうか」
ふ、と苦笑して楠さんが言うと、有村さんも頷いて、コーヒーに口を付けた。
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