46 / 142
46.部屋の真ん中で
しおりを挟む
豆をミルで挽いてから、コーヒーメーカーにセットする。読みたい本など諸々を持ってきて、ローテーブルの上に置いた。
スマホを出して、SNS。昨日夜は全く見なかったから、連絡がちょっとたまってた。手早く返していく。
こんなに規模が大きくなるなんて最初は思わなかった。
でも、だんだん人が増えてって、鍵垢を作って、そっちも増えてきた頃には、このアカウントは、オレが将来、薬を作る時とかにも、使えるかもしれないと、ちょっと思っていた。
だって、Ωって、なかなか表には出ようとしない人が多い。薬を作るうえで、困ってる色々などを聞くのも大変だし、いざ治験となる時も、募集も、大変なのを聞くし、考えただけだって、容易に大変さの想像がつく。
Ωはとくに、信用してない人の治験には参加したくないと感じると思う。
Ωのヒートに関わる、そんな、治験。――性被害だって、ただでさえ多いのに。ほんと、ヒートとか発情とか。理性の利かないものは、厄介だ。
オレは、年齢や素性はまったく明かしてはいないけれど、ずっと前から交流して活動してるってこと。ずっと見てる人達がいる。それでも、実際、なにかするってなった時に、信じてもらうのは、まあ色々大変だとは思うけど。
それでも、いろいろ重ねていけば。きっと、何かの役にはたつ。困ってる人の話を聞き合うだけだって、絶対、役に立ってる。と思って。
途中からは覚悟を決めて、忙しい中、ずっと続けてきた。
医大に入ってからは、相談を受けることもあった。
まだ医者の卵だし、そんなことをしていいのかって思ったけれど、いくつかルールを決めた。
本当にやばいものは医者とか専門の機関に行ってもらう。
仲良しの友達にするような雑談みたいな相談なら、個人じゃなくて何人か居る、相談ルーム。「これについて相談したい」と言われたら、詳しい人や同じように困ってる人を募ったりして、コメントしあう。まあ今のところは、あくまで、雑談レベルに、敢えてしている。でもそれでもきっと、一人で抱えてる人には、助けになってる。だからこその、フォロワー数。やり取りが多いのも、その証だと、思って――。
「凛太―!」
「え。はーい」
なんか大きな声で呼ばれたので、急いで玄関に向かうと、瑛士さんが、なんだかものすごくでっかい、クッション? ふとん? を持ってきた。
「なんですか?」
寝るつもりなのかな? と笑いながら、差し出されたそれを受け取る。
「これ、座り心地いいから。下に座るなら使おう。お尻、痛くないから」
「そうなんですか」
「運んでおいて」
でっかすぎて、手に余るクッションを抱えて、オレはリビングへ。瑛士さんはまた出て行った。
ローテーブルの横に置いたら、ちょっと確かめたくなって、座ってみる。
「うわー何これ」
肌ざわりしっとりしてて、座ったり触ったりすると、動くのだけれど、ちゃんと体を包んで支えてくれるような。
「ひゃーきもちいい……」
くるんとひっくりかえって、むぎゅ、と抱き着いてみる。
気持ちよすぎる。
全然眠くなかったのに、眠たくなってきそうな気が……。
「きもちー……」
うわぁぁ、と心のなかでちょっと叫んでる気がする。完全に埋まってたところに、瑛士さんが戻ってきて、オレを見て笑う。
「それ気持ちいいでしょ」
「これだめですね……勉強できないです」
「まあまあ。寄りかかって、本読んだら?」
「んー……」
むぎゅ、と抱き着いていると、瑛士さんは、オレの横にしゃがんで、クスクス笑いながら、オレの頭を撫でた。
「――ほんと可愛い」
その言葉に、オレは瑛士さんをちらっと見つめた。
「瑛士さん、あの……」
「ん?」
「……可愛いって――口癖ですか?」
「え?」
「すごくよく言われてる気がするのですけど」
「――そう、だっけ? ああ、まあ……言ってるかな」
顎に手を当てて、考えてから、瑛士さんは再び、オレを撫でた。
「だって、なんか、すごく可愛いから」
「――口癖ですよね、きっと」
色んな人に言ってるんだろうな……。だとしたら言わないでっていうのも自意識過剰かな……。うーん。
と思った瞬間。コーヒーメーカーが鳴った。あ、と起き上がって、コーヒーを淹れに行く。なんとなく一緒にきた瑛士さんが、ふと、オレのスマホの画面が目に入ったみたいで。
「SNSやってるの?」
「――あ、はい」
「情報収集?」
「んー……Ωの情報収集というか。集まるとこ、というか」
「ああ、そうなんだ……少し、聞いてもいい?」
マグカップを出してくれながら、瑛士さんがオレを見つめる。
「はい?」
「そういうΩが集まるSNSって、たくさんあるのかな」
「……どう、でしょう。わかんないですね。オレは、オレのとこにしか居ないので……」
「ああ、そっか。んー」
「何でですか?」
「いや。知らないならいいよ。ありがと」
「いえ……すみません、知らなくて」
言いながらオレが、牛乳を片方に入れる。瑛士さんは「軽く聞いただけだから」と笑いながら、コーヒーをテーブルの方に持っていってくれた。
「どっちに座りたい? 凛太はテーブル使う?」
「はっ。オレ、読書なので、そのクッションの上に乗りたいです……!」
「めちゃくちゃ乗りたいんだね」
食い気味で言うと、瑛士さんは、ぷ、と笑った。
「じゃあオレ、この端座って、テーブル使うね」
「はーい」
こうして。でっかいクッションにオレは埋まって読書。瑛士さんはその端に座って、パソコンでお仕事。
めっちゃくちゃ広い部屋なのに、なんだか真ん中でひっついて座ってて、変だなぁ、と思うのだけど。どうしても、顔が勝手に綻んだ。
スマホを出して、SNS。昨日夜は全く見なかったから、連絡がちょっとたまってた。手早く返していく。
こんなに規模が大きくなるなんて最初は思わなかった。
でも、だんだん人が増えてって、鍵垢を作って、そっちも増えてきた頃には、このアカウントは、オレが将来、薬を作る時とかにも、使えるかもしれないと、ちょっと思っていた。
だって、Ωって、なかなか表には出ようとしない人が多い。薬を作るうえで、困ってる色々などを聞くのも大変だし、いざ治験となる時も、募集も、大変なのを聞くし、考えただけだって、容易に大変さの想像がつく。
Ωはとくに、信用してない人の治験には参加したくないと感じると思う。
Ωのヒートに関わる、そんな、治験。――性被害だって、ただでさえ多いのに。ほんと、ヒートとか発情とか。理性の利かないものは、厄介だ。
オレは、年齢や素性はまったく明かしてはいないけれど、ずっと前から交流して活動してるってこと。ずっと見てる人達がいる。それでも、実際、なにかするってなった時に、信じてもらうのは、まあ色々大変だとは思うけど。
それでも、いろいろ重ねていけば。きっと、何かの役にはたつ。困ってる人の話を聞き合うだけだって、絶対、役に立ってる。と思って。
途中からは覚悟を決めて、忙しい中、ずっと続けてきた。
医大に入ってからは、相談を受けることもあった。
まだ医者の卵だし、そんなことをしていいのかって思ったけれど、いくつかルールを決めた。
本当にやばいものは医者とか専門の機関に行ってもらう。
仲良しの友達にするような雑談みたいな相談なら、個人じゃなくて何人か居る、相談ルーム。「これについて相談したい」と言われたら、詳しい人や同じように困ってる人を募ったりして、コメントしあう。まあ今のところは、あくまで、雑談レベルに、敢えてしている。でもそれでもきっと、一人で抱えてる人には、助けになってる。だからこその、フォロワー数。やり取りが多いのも、その証だと、思って――。
「凛太―!」
「え。はーい」
なんか大きな声で呼ばれたので、急いで玄関に向かうと、瑛士さんが、なんだかものすごくでっかい、クッション? ふとん? を持ってきた。
「なんですか?」
寝るつもりなのかな? と笑いながら、差し出されたそれを受け取る。
「これ、座り心地いいから。下に座るなら使おう。お尻、痛くないから」
「そうなんですか」
「運んでおいて」
でっかすぎて、手に余るクッションを抱えて、オレはリビングへ。瑛士さんはまた出て行った。
ローテーブルの横に置いたら、ちょっと確かめたくなって、座ってみる。
「うわー何これ」
肌ざわりしっとりしてて、座ったり触ったりすると、動くのだけれど、ちゃんと体を包んで支えてくれるような。
「ひゃーきもちいい……」
くるんとひっくりかえって、むぎゅ、と抱き着いてみる。
気持ちよすぎる。
全然眠くなかったのに、眠たくなってきそうな気が……。
「きもちー……」
うわぁぁ、と心のなかでちょっと叫んでる気がする。完全に埋まってたところに、瑛士さんが戻ってきて、オレを見て笑う。
「それ気持ちいいでしょ」
「これだめですね……勉強できないです」
「まあまあ。寄りかかって、本読んだら?」
「んー……」
むぎゅ、と抱き着いていると、瑛士さんは、オレの横にしゃがんで、クスクス笑いながら、オレの頭を撫でた。
「――ほんと可愛い」
その言葉に、オレは瑛士さんをちらっと見つめた。
「瑛士さん、あの……」
「ん?」
「……可愛いって――口癖ですか?」
「え?」
「すごくよく言われてる気がするのですけど」
「――そう、だっけ? ああ、まあ……言ってるかな」
顎に手を当てて、考えてから、瑛士さんは再び、オレを撫でた。
「だって、なんか、すごく可愛いから」
「――口癖ですよね、きっと」
色んな人に言ってるんだろうな……。だとしたら言わないでっていうのも自意識過剰かな……。うーん。
と思った瞬間。コーヒーメーカーが鳴った。あ、と起き上がって、コーヒーを淹れに行く。なんとなく一緒にきた瑛士さんが、ふと、オレのスマホの画面が目に入ったみたいで。
「SNSやってるの?」
「――あ、はい」
「情報収集?」
「んー……Ωの情報収集というか。集まるとこ、というか」
「ああ、そうなんだ……少し、聞いてもいい?」
マグカップを出してくれながら、瑛士さんがオレを見つめる。
「はい?」
「そういうΩが集まるSNSって、たくさんあるのかな」
「……どう、でしょう。わかんないですね。オレは、オレのとこにしか居ないので……」
「ああ、そっか。んー」
「何でですか?」
「いや。知らないならいいよ。ありがと」
「いえ……すみません、知らなくて」
言いながらオレが、牛乳を片方に入れる。瑛士さんは「軽く聞いただけだから」と笑いながら、コーヒーをテーブルの方に持っていってくれた。
「どっちに座りたい? 凛太はテーブル使う?」
「はっ。オレ、読書なので、そのクッションの上に乗りたいです……!」
「めちゃくちゃ乗りたいんだね」
食い気味で言うと、瑛士さんは、ぷ、と笑った。
「じゃあオレ、この端座って、テーブル使うね」
「はーい」
こうして。でっかいクッションにオレは埋まって読書。瑛士さんはその端に座って、パソコンでお仕事。
めっちゃくちゃ広い部屋なのに、なんだか真ん中でひっついて座ってて、変だなぁ、と思うのだけど。どうしても、顔が勝手に綻んだ。
2,526
あなたにおすすめの小説
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる