「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

星井 悠里

文字の大きさ
50 / 142

50.オレの世界に

しおりを挟む

 楠さんも食べるか聞いたけど、まだ仕事が色々あるから、と帰っていった。
 瑛士さんにはしばらく仕事をしていてもらって、オレは夕飯作り。仕上げの時だけ少し手伝ってもらった。

 テーブルで向かい合わせで、一緒にごはん。
 瑛士さんは、いつもめちゃくちゃ美味しいって言ってくれるので、本当、うれしいかも。

「凛太、総菜屋さんとか出したら、売れると思うなぁ。その時は、出資するからね」

 楽しそうにそんな風に言ってくる。「あれ、オレ、医者……?」と笑いながら聞くと。

「医者と総菜屋のオーナー兼業とか。――凛太が指導だけして店は誰かに任せるとか」
「本気ですか?」
「そうしたいくらい」

 そんな風に言って、おいしそうに食べてくれる瑛士さんを見つめる。

 子供の頃、ちゃんと座ってなくておばあちゃんに怒られてたとか言うけど――姿勢も良いし、お箸の持ち方も綺麗。指がとっても綺麗だから、お茶碗を持つ手とかも、綺麗。大きくて、男っぽくて、カッコいい。この人、細部まで、とっても綺麗だな。
 いいなあ。見てて嬉しくなるくらい、おいしそうに食べてくれる。

「きんぴら、おいしい」
「オレも好きなんです。適当に作ったらちょっと味ちがってて、これは、もう一回レシピ確認して覚えたものなので」
「そのレシピ、本になってたりするのかな?」
「どうなんでしようね、教室はプリントでやってたみたいで。しかも、手書きなんですよ、野菜とかの切り方とかも、手書きで。可愛いんです。だから母さんも、オレに引き継いでくれたと思うんですけど」
「いつか、凛太、そこら辺改良して、レシピまとめて、本にするなら――出版、全力で後押ししてあげるね」
「どうしてもオレを料理の方に進めようとしてますか?」
「――それだけおいしいなーってこと。あとあれだよね」
「?」

「凛太が楽しそうに作ってるのが、可愛いから、余計おいしい気がする」
「――」

 口に入ってたものを、とりあえず飲み込んでから、オレは、瑛士さんを見つめた。

「瑛士さん、あの」
「ん?」
「……可愛いって、言ってくれるのは嬉しい……ような気はするんですけど……」
「ような気はする……」

 そこだけ繰り返して、クスクス笑う瑛士さん。

「瑛士さんは言いなれてるのかもですけど、オレは、可愛いって言われること自体あんまり記憶にないくらいなので――」
「うん?」
「言われるたび、少し、動揺するんです。あと、撫でてくれるのも――おんなじ感じです」
「動揺……」

 瑛士さんは、ん、と少し考えて。

「でも、可愛いって言った時も、撫でる時も――凛太、ふわふわした顔するから」
「……ふわふわってなんですか??」
「ん……嬉しそうな顔?」
「……嬉しいっていうか、多分、どっちかというと、どうしていいかわからない顔です」

 そうなの? と瑛士さんは、オレを見つめ返して、ちょっと笑う。

「あと、人前で可愛いとか言われると……なんかその人、可愛いねって返さなきゃいけない感じになっちゃいますし……」
「――」

「ちょっとご迷惑かなって……」

 言いなれてると思う人に、わざわざこんなことを言うのも、なんかほんとに、そこまで思って言ってないよ、みたいな感じに思われるかもしれなくて、ほんと、自意識過剰みたいな感じがして恥ずかしいけど。瑛士さんと出会ってからの日々。何度も同じことを思ってきたので、頑張って伝えてみた。

「――んー……」

 箸を置いた瑛士さんが、オレが言い終わるまで、じっと聞いていてくれたのだけれど。

「あのさ」
「――?」

「オレ、そんなに、可愛いは言いなれてないよ」
「――」

「凛太、なんか勘違いしてる」

 え。……言いなれてない?? いや、そんなはずは。

「だって、瑛士さん、オレにすら、流れるように言うから、もう口癖なんじゃないかと……」

 え、という顔でじっと見られるから、少し声のトーンを落として、「そう思って……」と続けた。

「だって可愛いから」

 瑛士さんは、なんだか、けろっとした顔でそう言い放ち、オレを見つめた。

「オレ、こういったらなんなんだけど……ほんとただでさえモテるのに、可愛いなんて言ったらもう、口説いてると思われて、最悪な訳。――だから、意識して言わないようにしてきた」
「――そう……なんですか?」

 ――んん? じゃあなんで、オレにはあんなに言うんだろう。
 楠さんだって、何回言うんだって、言ってたし。

「それに、凛太に思うほど、他の人に可愛いなんて思ってないし」
「――」

「オレが、他の人にも可愛い言いなれてるから、口癖みたいに言ってると思ってたの?」

 心外すぎるんだけど、と、腕を組んで、オレをちょっと睨んでくる。


 ――言いなれてないなら。
 何でオレには言うのかな。

 ……口説いてると思われて最悪って言ってるのに。
 あ。オレは契約結婚相手だし。 ――だから、口説くわけないっていうのが前提にあるから、言っちゃうのかな?
 瑛士さんにも口説いてるつもりがまったくないから、年下の大学生、可愛い、みたいな。ふむふむ、なるほど。そっか。


「凛太が困るなら、他の人に同意求めるのはちょっと減らそうかな……」
「減らすんですか? なくすんじゃなくて?」
「いや、自然に言っちゃいそうだから……」

 ――なんか……もうこの人ってば。 

 他の人のことも、無意識で口説いてるんじゃないのかな。だから、仕事に影響が出るくらい、モテちゃうんじゃ。
 絶対そうだな。もう。

「瑛士さんは、神様の贈り物みたいに綺麗な人なんだから、あんまり、優しい顔、しちゃだめですよ。もう、立ってるだけでも、絶対モテると思いますし」
「――」

「優しい声とか、出さない方がいいですよ。優しく笑うのも。自然としちゃってるんですよ、瑛士さん。だから、契約結婚なんかしようって考えるくらい、お見合いの話とかもきちゃうんですよ」

 自然と眉を寄せながらそう言ったのに。
 瑛士さんは、ぷっと笑った。

「神様の贈り物みたいに綺麗、とか。殺し文句? オレ、他の奴には、優しくしない方が良い? って――嫉妬だったりする?」

 楽しそうに笑いながら、そんな風に言ってくる。

「もー違います。からかわないでください」

 むむむ、と膨らんで、箸を持ち直して、食事の続き。
 瑛士さんもクスクス笑いながら、また食べ始めた。

 しばらく二人とも無言で、食べてたけど。瑛士さんが、ふ、と笑った。

「――契約結婚、さ」
「……?」

「もっと契約的で――何の関係もなく過ごして、みたいにするつもりだったんだけど――」
「――」

「……普通に、人として――凛太、好きだからさ。絡んでもいい?」
「――それは……オレも、瑛士さん……大好きですよ?」

 そう言ったら。瑛士さん、ふは、と笑い出して。

「――ここで、大好きとか、言ってくれるとこだよ」
「――あ。つい」

 なんか、嬉しかったから、つい。

「そういうとこ。ほんと、可愛いと思う」

 ――あ。また言った。


「オレ、本当に、そんなに可愛いなんて、人に言ってきてないよ」
「……別に……言ってても、いいんですけど」
「言ってないってば」

 ふ、と笑う瑛士さん。

 なんだろ。この。
 ――またちょっと、体の奥が、疼くみたいに、痛いのは。

 
「食べたらもう少し仕事する。凛太も?」
「あ、はい。後二冊。ざっと読みたいです」
「ん。じゃあ食べて、片付けよ」
「はい」


 なんか。瑛士さんは本当に。

 キラキラで、綺麗で、言葉が優しくて、手も、指も、優しくて。でもって、なんかでっかくて、すっぽり包まれるサイズ。うーん。
 なんか本当に。――オレの世界には居なかった人だ。




しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

処理中です...