84 / 142
84.どうしてだろう
しおりを挟むそう思った瞬間。
ふっ、と瑛士さんが笑った気配。
「どうしたの。凛太。ものすごい険しいんだけど、顔」
ふわ、と両頬包まれて、顔を上げさせられて、めちゃくちゃ至近距離で。
ふんわりした優しく緩む瞳で見つめられて、微笑まれる。
きゅ、と心臓が、縮む。
「何考えてたの?」
クスクス笑われて、思わず、ふい、と顔を背けてしまうと。
瑛士さんは、可笑しそうに笑う。
「嬉しそうに笑ってたのに、どうしてそんな顔?」
「えっと……いや。全然……大したことじゃなくて」
「そうなの?」
ふ、と笑う瑛士さん。
「……オレ、そんなに険しい顔、してました……?」
一目で瑛士さんに分かっちゃうくらい? と思いながら聞くと。
「んー。……まあ、いいや。今はイルカ、楽しも」
そう言って瑛士さんが笑ったところで、トレーナーのお姉さんが「最前列中央のお客様、ショーが始まりますので、どうぞレインコートのフードをかぶってください。多分想像されている以上に水が飛びますので、ショーの間、気を抜かないでくださいね」と言った。観客の人達が笑ってる。
「ほらほら。凛太、かぶって」
瑛士さんも笑いながら、オレの首の後ろに手を回して、よいしょ、とオレの頭にフードをかぶせてくれる。
「ふ。なんか、可愛いな、凛太」
「……可愛くないですよ」
苦笑して言うと、可愛いから、と言って笑いながら、瑛士さんもフードをかぶった。
「あ。瑛士さんもなんだか可愛いですよ」
なるほど、可愛いってそういう意味か。
ポンチョ型のレインコート、フードまでかぶると、確かにちょっと可愛く見えるかも。あ。言わないけど、雅彦さんもちょっと可愛い。
顔を見合って笑ってる間に、お姉さんがもう一度。
「フードのご協力ありがとうございます。気を付けていてもびしょ濡れになることもありますので、席を移動するなら今の内です」
そんな風に言うので、またどっと笑う観客席。
ちょっと見回してみたけど、ど真ん中に座ってる人達、笑ってるだけで誰も移動しない。
そうだよね、座る前にも注意されたし、こんなのも着させられてるし、覚悟の上だよね、とちょっと楽しくなってくる。
ショーが始まると、イルカは、上手に輪っかをくぐってジャンプしたり、お姉さんを乗せたままうまく泳いだり。やっぱりすごい。
――――わくわくする感じは、子供の時の気持ちのままかも。
多少の水しぶきは飛んでくるものの、思ったほどではなかった。
すごく近くで見れるので、ものすごく気分があがる。
輪っかが、今までよりも高いところに上がっていくのを見ていたら――――えっ、あれ飛ぶの?? あんなに高く? と思ったら。もう。うう。スマホ出したい。
ずっと我慢していたのいだけれど、うずうずしてきてしまった。
「瑛士さん瑛士さん」
「ん?」
「オレ、写真、ていうか、動画撮りたいんですけど、スマホ出してもいいですか?」
「んー、いいんじゃない? いざとなればレインコートの中に、スマホ庇えば」
そう言ってくれたので、足元のビニールを開いて、鞄からスマホだけ出して、よし、と顔を上げた瞬間。
「あ」
瑛士さんの声がして。え、と思った瞬間。
瑛士さんが、オレの前に立って――――……??
「え」
すごい水の音がして、周りの人達から、ぎゃー! みたいな声と、笑い声が響く。
「え。えいじ……さん??」
……オレの前に居る瑛士さんがちょっとだけ固まってるので、後ろからドキドキしながら、声をかけると。
振り返った瑛士さんが、ぷは、と笑った。
……うわ。
「すっげー濡れた」
せっかくレインコートも着てたのに、変に動いたからか。なんだか瑛士さんがびしょ濡れにーーー!!
「ひゃーすみません……!!」
オレなんかの前に立ったばかりにー!!
瑛士さんの後ろで、「大丈夫ですか~」みたいな、スタッフさんたちの声が聞こえる。濡れたーとか騒いでる人達も居るけど。絶対瑛士さんが一番濡れてるんじゃー! わー!!
あは、と笑いながら、瑛士さんは隣の席に座って、前髪を掻き上げた。
「凛太、スマホ濡れなかった?」
「一応防水なので濡れても良かったのに……ほとにすみません」
「全然へーき」
雅彦さんが面白そうに笑いながら、ほら、とタオルを差し出してくれてる。
「まー、上の方だけで良かった。乾くよ、すぐに」
「すみません……」
「いいから。イルカ見よ。ほら、動画、撮りな?」
クスクス笑って前を向いた瑛士さんに、なんだかもうこんなに庇ってくれたからには、録画しないと申し訳ないような気がして、スマホを向けた。
綺麗に飛ぶイルカは、めちゃくちゃカッコよくて感動。
――――隣で、楽しそうに笑ってる、濡れた髪でもキラキラな、瑛士さんが目に入ると。
なんでだか、また、胸が。胃? が……。
……痛いのか。違うかな……動悸?? 動悸なら胸か。なんて最後だけ冷静になりながら。
どうしてこの人は、こんなに――――こんな、感じなんだろ。
笑顔が。…………ほんとなんか、眩しい、みたいな。
2,055
あなたにおすすめの小説
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる