「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

悠里

文字の大きさ
上 下
96 / 99

95.ロマンチック②

しおりを挟む
「前少し話したけどさ」
 穏やかな、優しい声を聞きながら、はい、と頷く。

「こういうとこでしたい? ファーストキス」
「――……あ、オレがですか?」

 急に入ってきた、ファーストキスという単語に、数秒ぼけっとしてしまい、気を取り直して瑛士さんに視線をむける。オレが呆けてたからか、瑛士さんは苦笑を浮かべた。
 
「ほら。素敵なとこで、してほしいなーて、話したでしょ」
「瑛士さん、言ってましたね」
「凛太は、そういうの、ほんとに少しも思わない?」

 そう聞かれて、んー……と考えながら、また視線を夕日に戻す。

「オレ、本当に、そういうのあんまり考えなくて――ていうか、それより、瑛士さんはこういうとこ、本当に、似合いますね」
「……そう?」
「こういうとこって言うか、素敵なとこ、どこに居ても似合うと思いますけど」

 ふふ、と笑いながら言うと、瑛士さんは「そんなことはないと思うけど」と苦笑した。

「まあ、こういうところでファーストキス、とかすごくロマンチックなんだろうとは思いますけど……」
「……凛太には、そういうのはしないで生きてくかも、て言われたけど」
「言いましたね」

 そうだ。そんなこと言ったなぁ。瑛士さんの困ったみたいな顔に、苦笑してしまう。でも、今までそういうことしたいと思ったことも無いってなると、やっぱりオレには関係ない話な気がする。

 だって、ここから大学の間は勉強忙しいし、もし医者になれても、絶対死ぬほど忙しいし。働くところによっては時間なんかもうまったく余裕のない日々になる中で、恋愛しようなんて、オレ、思わないだろうし。そんな中でも、恋する人は、そこに癒しを求めるんだろうけど、オレは、絶対違うと思う……。

 多分、瑛士さんにとっては、恋するって当たり前なんだろうな。モテただろうし。学生時代、どのクラスにもモテる人って何人かは居た気がするけど……きっとこの人は、ダントツ、だったんだろうなと、詳しく聞かなくても分かるし。

 そんな人からすると、キスすらしたこと無くて、それどころか、そういうの、しないで生きてくとか言っちゃうオレのことは、もしかして、とっても心配な存在なのかもなぁ。

「――恋って、楽しいですか?」

 ちら、と瑛士さんを見ながらそう言うと、瑛士さんは、少しの間、考え深げに黙ってオレを見つめた。

「うん……まあ。楽しいだけじゃないこともあるけど。でも、楽しいこともたくさんあるし。恋愛でしか持たない感情とかもあるし」
「どんなのですか?」
「んー……ドキドキしたり。可愛いなーとか……大切に思ったりとか……」
「……それは確かに、友達には思わないかもですね」

 なるほど、ドキドキか。
 ――ん? ドキドキ、とか。可愛い、とか??
 ……あれ、それって。最近オレ……?

「だからさ。やっぱり、オレは、凛太に、ちゃんと誰かと恋して幸せに――」

 頭の中で、ん? と固まってたオレは、瑛士さんの言葉が途中で止まったのに気付いて、少し遅れて瑛士さんを見つめた。

 瑛士さんは、んー、と眉を寄せて、口元に軽く握った手をあてて、何かを考えているっぽい様子。

「瑛士さん?」
「……あ、ごめん。なんでもない」
「……? そうですか?」

 なんでもないって感じじゃなかったけど……でも、今は自分の中のことが気になる。瑛士さんから目を逸らして、ますます暮れていく、金色みたいに見える夕日を、見つめる。

 ドキドキしたり可愛いとか思ったり。瑛士さんには、そうなっちゃうけど。
 でもなぁ。すっごい心臓とか、体の奥が痛くなったりもするしな。ちょっと違う気もする。

 それに、可愛いって、そういうことじゃないか。ていうか、そもそもオレが瑛士さんを可愛い、とか。おかしいし。
 それとこれとは、別問題か。

 ……恋のそれと、瑛士さんへのそれは、どこで区別したらいいんだろ?? 違いがよく分かんないや。


 しばらくの間、瑛士さんもオレも黙ったまま、
 ただただ、綺麗な夕焼けを目に映す。








(2025/4/25)

次のページをとりあえず目指してここまで書いてきました(´∀`*)ウフフ
楽しんで頂けるといいなぁ…✨ by悠里
しおりを挟む
お読みいただき、ありがとうございます♡

楽しんで頂けましたら、ブクマ&感想などよろしくお願いします♡
(好き♡とか短くても嬉しいです♡)

匿名メッセージ送信サービス・マシュマロは【こちら】です🩵
よろしかったら感想、聞かせてください🩷

感想 63

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...