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◇「恋人」
「いつか」*優月
しおりを挟む「あ」
咄嗟に声のした方を振り返ると。甲斐と颯也の2人はオレを見て、固まる。
「……何泣いてんの?」
「ほんと良く泣くな、優月」
苦笑いで颯也と甲斐に言われて、手の甲で滲んだ涙を拭いた。
「もう返せ」
少し勇紀から離れたオレは、玲央に腕を引かれる。
「何で泣くかな……」
クスクス笑いながら、玲央の指が目尻に触れる。
「はいはい、入り口でいちゃつくなー」
甲斐が笑って、声を押さえながらオレ達に言う。
「席とった?」
颯也の言葉に、「まだ取ってない」と勇紀。
「鞄置いてくる」
颯也が言って歩き出した時。甲斐がオレを見て、ふ、と微笑んだ。
「あ。優月、聞いた。良かったな」
その言葉に、頷くと、くくっ、と笑って。
「玲央が何かしたら言えよ?」
とふざけた口調で言われて、ん、と笑うと。
「しねーから」
玲央が後ろですぐそう言って、甲斐が苦笑いしてる。
「近々祝う会するって勇紀が言ってるから、そん時な」
微笑む颯也に、うん、と頷くと。
「じゃー席取ってくる」
と、3人は行ってしまった。
玲央に引かれて、メニューの前から、少し離れた。
「食べ終わったら連絡入れろよ。早めに行こうぜ」
「うん」
「部室に絵の道具置いてるから、寄るけどいい?」
「うん。その後、コンビニ行っていい?」
「ん、クロのエサだろ? 行くと思ってた」
玲央を見上げて頷くと、ふ、と笑んで、ぽんぽん、と頭を撫でてくれる。
「――――……」
なんか。もう。このままくっついてしまいたいんだけど。
――――……できる訳ないしな。
勇紀とは、別に抱き合っていられるのに。
……玲央と出来ないのは……… それに、意味があるから、だよね。
何の意味もないと、抱き合えるけど。
大好きで抱き付くのは、やっぱり人前じゃ恥ずかしい。
仕方なく、玲央と離れようとした瞬間。
「……部室で、抱き締めさせて」
こそ、と囁かれてびっくり。
…………考えてた事、バレてたのかな。
かあっと熱くなる。
クスクス笑われて、またクシャクシャと髪を撫でられる。
「食べたらな」
「うん」
オレは玲央と別れて、そのままご飯を買いに行って、皆が座ってる所に戻った。
「おー優月、おかえり」
「うん」
座って、鞄を椅子に引っ掛けて、「いただきまーす」と食べ始める。
「優月がさっき話してた奴って、有名な奴だよな?」
「抱き付いてきた奴もだよな?」
「結構有名なバンドの奴らだろ?」
「あ、うん。そう……」
頷きながら、もぐもぐ食べ進める。
「最初に喋ってた派手な奴、名前何だっけ」
「ん。玲央だよ」
「ああ、神月玲央か」
すぐフルネームで出てくるとか。
――――……ほんと、玲央、有名人だなあ。
ってまぁ。オレも知ってた人だし。
――――……オレの耳に入ってくるって、よっぽどだからなあ……。
オレがいくつか知ってた玲央の噂は、もう学校の人は皆が知ってるんじゃないだろうか、と、思ってしまう。
他人の噂とかにまったく興味が無くて、聞こえても、ふーん位でスルーで、いつもなら記憶に残らないのに。あんまり何回か耳に入るから、覚えてしまったんだよな……。
「優月、仲いいの?」
「……うん。仲いいよ」
「何か接点あんの?」
「接点……まあ、勇紀……あの、抱き付いてきた人は、具合悪かったのを助けたのがきっかけで……」
「神月は?」
「――――……玲央は……たまたま会ったんだけど」
答えてる内に歯切れが悪くなってしまう。
これ以上突っ込まないで。とちょっと焦りながら、ご飯を食べ続ける。
「外見派手だけど、中身も派手なんだろ?」
「噂結構すごいけどどーなの?」
……んーまあ、少し前なら……オレが聞いてた噂は大体合ってた気がするけど……。でも、玲央変わった、思うし……。
「オレ噂は全部は知らないけど……玲央のバンド、皆良い人達だよ」
言えないまでも、最低限の所は、言ってみた。
皆、ふーん、と頷いてる。
「バンド4人で固まってると、すごく見た目が派手なのは、そうだと思う」
4人を思い浮かべて、本当に相当派手な様に、ふふ、と笑ってしまうと。
「まあ優月と仲良しなんだもんなー、悪い奴とはお前つるまなそうだしな」
そんな風に言われて。
ふと、笑んで、「皆優しいよ」と伝えてみた。
……多分玲央は噂なんか気にしない人だと思うけど。
オレがこうして皆と話してる内に、噂が少しずつでもなくなって、変な偏見が消えて。……とりあえずオレの周りだけでも、玲央の事を少しずつ、分かってくれたらいいなあ。
それから。
……いつか、玲央が相手だって。
言えたら、いいな。 すぐじゃなくていいんだけど。
もっとずっとずっと玲央と一緒に居れて、もっともっと大事になってった頃、とかでもいいから。
大好きなのが玲央だって、言えたらいいな。
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