【恋なんかじゃない】～恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

◇同居までのetc

「キスの代わり」＊優月

　何だかちょっと不思議な感じで会話が進む。
　気になってるみたいだけど、さっきの玲央の言い方で終わった話を、それ以上はっきり聞けないみたいな……。

「優月はさぁ」
「うん？」
「玲央に気に入られてどうしたの？　怖くない？　こんなイケメンに気に入ったとか言われても」

　なんとなく雰囲気的に、勇気ある質問だったみたいな感じで、おおよく聞いた、みたいな向こう側の人達の顔が、なんだかすごく面白くて、オレは思わず笑ってしまう。

「怖くなかったよ。玲央、優しかったから」

　これくらいは良いかなあと思って、そう言ってみた。だけど。

「んー？？　優しい……？」
「つか、クールだよな、玲央は」
「慣れればあれだけど、初対面の玲央見て、優しいとか言えるのすげーな」

　なんだかほんと、面白い。
　勇紀も、オレを見て、何て答えるのかなーと楽しそうになってるし。

「でも玲央が気に入ってくれたより、オレの方がそうだったから。怖くなんてなかったかな……」

　うん、絶対こわいとかなかったなぁ。優しかったし。最初から。
　……キスされたのは、びっくりしたけど。

　そんなことを考えて、思わずクスッと笑ってしまうと。
　少し返事が無くて。
　ん？　とそちらの皆に視線を戻したら。

「あーなんか……」
「分かった、ような気が」
「うん」

　何だか主語とか細かいもののないセリフで頷きながらやりとりした後。
　ははは、と笑い出したりして、なんだか楽し気な雰囲気。

　なんとなく納得してくれたような気がする。
　玲央が怖くなくて、優しかったてっ分かってくれたみたいなので、オレも良かった良かったと頷いてると。

「……ほんとさあ」
　勇紀が隣で、ぽそ、と呟いた。
「ん？」
「なんかねオレ、思うんだけど。普通はもっと難しいと思うんだけどねぇ」
「ん……何が？」
「んー、いや、いいのいいの」

　あは、と勇紀は笑って、オレの肩をぽんぽん、と叩く。

「なー、稔？」

　勇紀がクスクス笑いながら、稔に問いかけると。

「んーまあな……なんか特殊すぎて、なんも言うこと浮かばんし」
「稔が言うことがないって、相当だよなー」

　ぷぷ、と勇紀が笑って、稔に言ってる。
　いまいちよく分かんない会話だけど、皆、楽しそう。いいのって言われちゃったけど、聞いた方がいいかな？　でも聞かなくてもいいかな、とか思っていると、玲央がオレに視線を向けたのが分かって、見つめ返すと。
　
「優月、コーヒー買いに行きたい」

　玲央に言われて、うん、と立ち上がる。

「優月もコーヒー飲むだろ？」
「紅茶がいいな」
「ん。いこ」

　玲央と一緒に並んで歩き出す。
　少し離れてから、玲央がちらっと後ろを振り返るので、オレもなんとなく同じように、今居た所を振り返ったら。
　なんだかすごくわーわー楽しそうになってるような？　なんだろか。

　席の間は通らずに、すぐ通路の方に出て、皆が見えなくなったので、すぐ玲央の方に視線を戻した。

「なあ、優月さ」
「あ、うん？」
「優月の周りも大体バレてそうだし」
「う……うん。……大体、ではないかなぁ……近くはバレてる、かもだけど」

　苦笑いで、玲央を見上げると、玲央はクスクス笑いながら、オレの頭を、ぽふぽふと優しく叩いた。

「多分、オレといると、オレの周りにもすぐバレると思ってて」
「――――……」

「それでいいよな？」

　ふ、と笑われて。

「うん。玲央がいいなら。……でもはっきり言うのは、希生さんのところにいってから、がいいかなぁ」
「じーちゃんね……」

　玲央は、んー、と考えてから、ははっと笑う。

「じーちゃんは良いって、百パー言うと思うけどな」
「そうだといいけど……」

「ちなみにさ、優月」
「ん？」
「じーちゃんに反対されたら、オレとは離れんの？」
「え。え。ううん、離れたく、ないよ」
「そっか」

　ふ、と優しく見つめられて、じゃあいいけど、と玲央が笑う。

「希生さんが、皆には言わないで秘密にしなさいって言うなら、絶対バレないようにする。って、そういう意味だよ。玲央のお家的に、隠した方がいいならって……」
「一応じーちゃんには聞くけど。……あぁ、優月は？」
「ん？」
「先生とか言ってたよな？」
「んー。そう、だね……」

　自販機の前にたどり着いて、足を止めて、玲央を見上げる。

「まだ先生になるかも決めてないけど。今って多様化を認めようって感じだからね。……まあでも、オレの進路が、先生でも先生じゃなくても考えることは色々あるとは思うけど……」
「まぁ、そうだな……」
「もし、玲央とのことで、なれないってことがあるなら、なれるとこを探すし、また別な道も探す」
「――――……」
「でも玲央はさ、たくさんの人の前で、別の道がないこと、するのかもしれないし……。それに少しでも邪魔になるなら、隠そ？　何にしても、オレ、玲央と楽しく居られたらそれでいいし」

　そう言ったら、何だか少しの間、黙ってた玲央は、ふ、と笑い出した。

「OK」

　言いながら、頬に、ちょこん、と触れられた。
　ん？　と見上げると。

「キスしたいから、かわり」

　こそ、と囁かれて。　こんな優しい触れ方が、キスの代わりとか言われると。　
　またすこし、顔が、熱くなる。




(2023/8/7)　8/9改稿