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◇同居までのetc
「悟りを」*玲央
しおりを挟む少し黙った優月が、ふと、「なんかね出会いも不思議だけど」と話し出した。
「やっぱり、玲央のおじいちゃんの家に行くっていうのも、不思議」
「だよな」
ふ、と見つめ合って笑ってしまう。
「でも玲央がオレの家に居たのも、双子たちと話してたのも、もう不思議を通り越してたけど」
「そう?」
「なんか夢だったのかなーと思っちゃうくらい」
あは、と笑って、オレを見つめる。
「玲央が居る空間じゃない気がしたから。もしかして、明日、オレが希生さんの家に入ったら、玲央もそういう感じに思うかな?」
「どうだろうな。……まあでも確かに、優月や蒼さんが居る空間じゃないかも」
「だよね」
「オレは、じいちゃんちにしょっちゅう入り浸ってたからなー」
「うん。ふふ、そうなんだ。……楽しみだなぁ」
優月がオレを見て、微笑んでしみじみ言う。
「屋敷にはさ、色んな大人がたくさん来て、色々世話されたり教わったりしてたけどな。なんか育児、みたいなのをしてたのはじいちゃんな気がする」
「そっか」
「親、不在が多かったから」
うんうん、と優月が頷く。
「――――優月んちみたいに、家族でどうのこうの、っていうのはあんまり記憶無いし」
「ん」
「……そう考えると、オレんちとお前の家は、大分違うよな」
多分、雰囲気自体が全然違うと思う。
……ってオレは何を話したいんだか、と思わず首を傾げた時。
「前、お母さん、打ち上げ行きたいとか言ってたよね」
「ああ、ライブの時?」
「うん」
「たまに構いたくなるんだろうなって感じかも」
苦笑いで言うと、優月は、ふふ、と笑った。
「まだ玲央のお父さんやお母さんのことは分かんないけど……オレ、希生さん、好きだよ」
「ん?」
「まだ少ししか話してないけど、オレ達のこと、少しも否定もしなくて。玲央のことが大事なのも分かった」
「――――……」
「優しいよね」
「……口喧嘩、多いけどな」
「喧嘩っていっても、嫌いでしてるのじゃないよね。仲良さそう」
優月はクスクス笑う。
「希生さんも優しいし。玲央も優しい」
「……オレ、優しくできてる?」
「もちろん」
ふふ、と笑ってうんうん頷いている。
「玲央より優しい人、居ないと思ってるくらい、優しい」
「――――……」
それはないだろうけど、と思いながらも、嬉しそうに笑う優月の顔に、自然と口元が綻ぶ。
「オレが優月を好きだから、かもな?」
そう言うと、優月はオレをまっすぐに見つめた。
「――――……んーでもさ。好きな人に優しくするのだって難しいことだって思うよ? 玲央は、オレにも優しいけど、双子にも優しかったし、お店とかで会う店員さんとかにも、優しいし。友達といる時はまたちょっと違うけど、でも、皆玲央のこと大好きなの分かるし」
「――――……」
「だから、玲央は、別にオレを好きだから優しいんじゃなくて、元から優しいのだと思う……って前も言ったかな? オレ、いつもそう思ってるよ」
ふふー、とにっこり笑って、むぎゅ、と抱き付いてくる。
「……ほんと大好き」
すり、と頬に優月の髪の毛。
なんかほんと。愛しいんだよな。こういうとこ。
そんな大した奴じゃないけど。
優月の大好き、が今のままずっとあってほしいと思うと。
自然と、優月の好きなオレで居られたらいいなと思う。
でもなんか。
優月は、オレが無理しなくても。
……そのまんまで居たら、好きって言ってくれそうな気もして。
「……オレ、優月が、オレと居てくれるなら、仏になれそう」
「え」
きょとんとした顔でオレを見て。
優月は、ぷぷ、と笑い出した。「笑うなよ」と言うと。「だって」とケタケタ笑ってる。
ふ、とまた微笑んでしまう。
「悟り開くの?」
笑いながら聞かれるので、もう、「ん」と頷くと、またクスクス笑う。
「じゃあオレも修行しよ」
優月は楽しそうに笑いながら、そう言った。
なにこの会話。
意味分かんね。と思いながらも。
なんか、ほっこり穏やかすぎて、笑える。
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